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今ごろになって異世界に転生した話  作者: 大沙かんな
#2-4 イナーカの町を見物しよう

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53.突然の交渉

 ヤマブキの方も俺たちの姿を見つけたのか、すごい勢いで市場の雑踏を掻き分けて、こちらの方に向かってくる。


 その手には、暴れ回る少年を掴んで持ち上げたままだ。この人、細身の割にはパワーがあるな。


「おっす、ヤマブキ。昨日ぶり!」

「なによ、自由にさせてくれるって話じゃなかったの? で、私に何をさせたいのよ。」

「ん? ただ市場で偶然見かけただけで、用事なんて何もないよ?」

「何よ、それ! 人をからかうのも大概にしなさいよね。」


 なぜかヤマブキに引きずられて、市場から外に出た俺たちは、大通りから少し離れて、ほとんど人通りのない路地にやって来ていた。


 ヤマブキは何だかプリプリ怒っているが、近づいてきたのはヤマブキの方だったし、ここに無理やり引っ張って来たのもヤマブキだ。まったく俺のせいじゃないんだから、そんなことを言われても困ってしまう。


 でもそれを言い出すと、多分もっと怒られそうなので、黙っておいた方が良さそうだ。



 俺は地雷を避けるため、話題を変えることにした。


「そういえば、市場で食料を買ってたみたいだけど、どっか遠くに行くの?」

「ああ、もう! 内緒にしようと思ってたのに! 例の地下遺跡で貴方たちの会話を盗み聞きしたんだけど、古代の帝都オーエドがあのトンネルの先にあるって言ってたでしょ? もし見つけたら財宝の山だからね、ちょっと探しに行ってみようと思ったのよ。」


 何もそこまで全部喋らなくても……って、ああ、そうか。ヤマブキは俺が尋ねたら、隠し事なく答えなきゃいけない体なんだった。すっかり忘れてたわ。


 地雷を避けたつもりが、思いっきり地雷を踏んでしまったようだ。


 地雷云々は別にして、あのトンネルの向こうって言うと、もしかしたら俺が最初にこの世界にやって来た場所の近くかな? だとするとかなり強い怪物がいっぱいいると思うけど、ヤマブキは大丈夫なんだろうか。


《私たちはその怪物は見てないので何とも言えませんが~、あの地下トンネルの方向は、確かに主様が現れた方向と重なりそうですね~。》

(へえ、やっぱりそうか。俺が見た神殿の廃墟みたいな奴は、その遺跡と関係あるかも知れないね。)


 これはちょっと教えてあげた方が良いかも知れない。ヤマブキは俺の眷属になっているとは言っても、ただ形だけのことで、仲間というわけではないんだけど、協力できそうなことなら、協力しておいた方が、人間関係的にも良いだろう。


「あのさ、そのトンネルの方向なんだけど……」


 俺が説明を始めようと思ったら、それはグロリアの警告で中断された。


〈主様、囲まれているわよ?〉

《十人以上いますね~。蹴散らせそうですけど~。》


「……って、それより、囲まれてるみたいだね。」

「そのようね。このガキの仲間かしら。」


 ヤマブキは掴んだ少年の体をブンブンと振り回す。ほんとこいつ、とんでもない怪力だな。


〈彼女、魔力で身体強化しているわよ。〉


 ああ、つまりこれも魔術師の魔法ってわけか。ちょっと納得だ。



 俺たちが気づいたことがわかったのか、物陰から姿を現したのは、三十手前ぐらいの胡散臭(うさんくさ)いオッサンと、俺と同じくらいの年齢の数人の若者だった。まだ他にも隠れている者たちがいるが、そいつらはまだ顔を出していない。


 子供だけの集団だと思っていたら、構成員の上の方は大人ってことか。いったいどんな集団なんだろうね。


 今回は俺がスられたわけでもないし、スリを捕まえたわけでもない。スリの現場も目撃していない。ただ居合わせたというか、後から合流しただけの完全な部外者だ。まったく何の責任もないので、とても気楽だ。


 どういう展開になるか、ちょっとワクワクしながら、ヤマブキがどういう対応をするのか興味深く眺めていたら、胡散臭いオッサンはなぜか俺の方に向き直り、ドスの利いた声を掛けて来た。


「どうやらうちのガキンチョが迷惑かけたようだな。ちっちゃいガキがイタズラでしでかしたことだ。ちゃんと謝らせるから、そう目くじら立てずに穏便に許してやってくれよな。」


 謝っているのか、謝っていないのか、よくわからない。胡散臭い見た目通りの、胡散臭い言葉だ。


 まともな謝罪だったとしても、俺に謝られてもなあ。ちゃんと関係者同士で話をしないと駄目だと思うぞ。


 そう思ってヤマブキの方をちらっと見てみると、なぜかお(うかが)いを立てるような目で俺の方を見返して来る。


「そうだなあ、話を聞くぐらいなら出来なくはないけど……。」


 本当に話を聞くだけで、他にできることは何もないんだけどねぇ。


「ああ、そう言ってくれると思ってたぜ、兄弟。こいつらはちょっと可哀そうな身の上なんだよ。親に死なれたり、捨てられたり、そんな中でも頑張って生きてるんだ。」


 なんだかよく分からない、とても胡散臭い子供たちの身の上話みたいなものが始まった。これを聞き続けないといけないのだろうか。これはちょっとどころか、かなり辛い。



 そもそも俺には、そんな話よりもちょっと気になることがある。


 この世界では、俺が想像していたよりもずっと広範囲に、魔法の袋が普及していることが、市場の人々を見ていてわかった。市場で買い物をする時にも、お金は魔法の袋でもってきて、買った物は魔法の袋に入れて持ち帰る人々がほとんどなのだ。


 中には荷物を抱えている人もいるので、全員が全員、魔法の袋を持っているってわけじゃないようだけど、それでも大多数の人が魔法の袋の利用者なのは間違いない。


 こうなってくると、スリをするのは大変難しい。お金を奪おうにも、それは魔法の袋の中に入っている。うまく魔法の袋ごと奪い取ることに成功しても、魔法の袋は持ち主か、持ち主に許可された人にしか中身が取り出せない仕掛けなのだ。


 つまり命を賭けて魔法の袋を盗んだとしても、それはただのゴミにしかならない。普通に考えれば、スリが狙うとすれば、支払いのために魔法の袋から財布を取り出した瞬間、その時しかないことになる。


 それなのにスリが多い。これはどういうことなのか。相手を殺すなどして奪うのはわかる。殺せば袋ごと自分の物になるからね。でもスリは違う。自分の物にならないのに、奪ってどうするんだろうか。


《そんなの決まってるじゃないですか~。魔法の袋の保護機能を解除できるような、怪しい道具があるってことですよ~。》

〈そんな道具の持ち主が、子供たちを使ってスリをやらせているのよ。〉


 ああ、そういうことか、それなら納得だ。鍵を閉める技術が発達すれば、鍵を開ける技術も同時に発達するってわけだ。目の前にいるこの胡散臭い男は、そんな元締めに仕えている現場監督みたいな者ってことだな。



 胡散臭い男の話は、丁度いい具合に終わったらしい。何を言ってたのかは聞いていなかったのでわからない。というか、分かったところで何も出来ない。


「まあ、そういうわけだから、今回の所は見逃してくれや、な?」

「そんなこと言われても困るなあ。」


 ほんとはそんなことより、ずっと今でもスリの少年を持ち上げ続けている、ヤマブキのパワーの源の方が気になるんだよね。


 魔法で身体強化、だっけ? 俺じゃ身に着けるのは無理かな。魔法なんて使えないし、魔力は少しづつ増えているだろうけど、そんな大したことないだろうし。


 魔法や身体強化は考えれば考えるほど難問だ。難しい顔をして考え込んでいる俺の表情を見て、さらに激しく胡散臭い男が言葉を投げかけてくるが、俺の耳には全く届かない。


 そんな俺の様子についにしびれをきらしたのか、胡散臭い男は大きな声で俺を脅すように声を荒げた。


「いい加減に、許すって言やあそれでいいんだよ!」

「そんなこと言われても無理だって。」

「何が無理だって言うんだ。ああ?」

「だって、俺、ただの通りすがりだし。」

「こ、このガキ、舐めてんのかっ!」


 胡散臭いオッサンが顔を真っ赤にして起こっているが、そんなに怒らないで欲しい。


 だって俺、最初から、話を聞くぐらいしかできないって言ってるじゃん。何で俺を睨むんだよ。俺、当事者だなんて一言も言ってないのに。


「許してやれよ! お前には血も涙もないのかっ!」

「だから俺には許せない、そう言ってるの。ちょっとは話を聞きなよ。」


 まったく関係ないのに、俺が許したり、許さなかったり、そんな勝手なことできるわけがないでしょうが。胡散臭いだけじゃなく、話のわからないオッサンだ。


 かなりの時間を費やして問答を繰り返したが、当然のことながら意味のある結論なんて出るわけがなかった。


「ハァハァ……。お前の言い分は分かった。だがガキの命がかかってるんだ、こちらだって引けねえ。お前にはうちの親分のところに来てもらうぜ。」

「えええ~。親分とやらに会っても、何も変わらないと思うんだけど。」

「ここまで突っ張ったんだ、嫌とは言わせねえぞ!」


 だから、俺、何も関係ないってば!



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