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今ごろになって異世界に転生した話  作者: 大沙かんな
#2-4 イナーカの町を見物しよう

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52.早い再会

 夕方になって、宿に戻ってきたホムラやスザクたちと、食堂で夕食を取りながらお互いの情報を共有することになった。


 スザクの定宿だったことから、そのまま便乗して泊ることになったこの『青がえる亭』だけど、それなりの値段はするものの、客層が『筋肉ダルマ亭』よりも落ち着いているので、かなり過ごしやすい。


 その上、朝夕の食事つきで、その質もかなり良いので、確かにスザクお勧めの宿屋というのもわかる気がする。


 彼女たちからは剣術の進捗状況などを聞き、俺の方からはヤマブキの治療に成功したこと、そして彼女とは赤い三角帽に関する情報を共有することになったことなどを話しておく。


「そうですか、もう立ち去ってしまわれましたか。魔術について色々とご教示いただきたかったのですが。」

「ああ、それはまたの機会だな。」


 スザクが会えなかったことを残念そうにしていたが、それはもう巡り合わせの問題としか言えないよね。


 引き留めておくこともちょっと考えたんだけど、ヤマブキはヤマブキで、赤い三角帽に操られていた間の始末をつける必要があるだろうし、今はそんなに時間の余裕がないみたいだったのだ。


 それにヤマブキは運悪く俺の眷属になってしまっただけで、俺たちの仲間ってわけじゃない。それを言い出すと、スザクやマミコ、それにホムラやマヤも、俺の仲間なのかどうか怪しいけど、まあそれはそれだ。


 純粋な俺の仲間ってシロだけだよな。特に意味はないけど、膝の上でお肉を頬ばっているシロを撫でておく。


 痛いっ!


 ああ、わかった、わかった。タワシ、お前も仲間だっていうんだな。



 俺たちは数日休みを取ってから、ハヤトやサキと組んでもう一度森に狩りに行く予定だが、スザクとマミコはどうするのか、話していて少し気になった。


「それで、スザクたちはこの後どういう予定なの?」

「別の見習グループとまた実地研修をするように、協会から指名されていますよ。」

「なんだか協会に上手いように使われてしまっているなぁ。嫌なら断ってもいいんだぞ?」


 俺が始めたようなものとはいえ、マミコの実地研修を含めれば、これで三回連続ってことになる。実地研修の同伴には日割りで報酬が出るのだが、狩り報酬がまったくないので、あまり儲からない依頼なのだ。そんな依頼ばかり受けていると、生活がジリ貧になってもおかしくない。


「そうですね。その別グループとは明日の朝に顔合わせをして、そこで依頼を受けるかどうかを決める予定にしています。面倒な相手ならもちろん断りますよ。」


 たしか『不滅の壁』だったか。全く俺のせいでは無いけれど、誰に同行するのか分からないうちに依頼を受けたりするから、面倒なことになったわけだしね。


 マミコは中身はアレだが見た目は女性だし、スザクと合わせて女性二人だと思って()めてかかってくる奴らも多いだろう。こんな盗賊ばかりの世界なんだから、もしも見習がそんな奴らだったら、とっととシメるか、断るぐらいが丁度いいのだ。



 食事が終わって部屋に戻ると、そこではシロと二人っきりだ。昼間もヤマブキがいない間は二人っきりだったけど、こうして二人だけで夜を過ごすのは、もしかしたら初めてかも知れない。


 俺がベッドに横になると、シロは当然のように俺の横に潜り込んでくる。その様子はまるでここが自分の居場所だと、誰かに主張しているかのようだ。


 『筋肉ダルマ亭』ではダブルベッドが二つの四人部屋だったので、特に狭苦しいと感じたことはなかったけど、この『青がえる亭』ではシングル二つの二人部屋だ。


 かなり大きめのシングルベッドだけど、これだと結構狭いというか、シロの激しい寝相に対応しきれないというか……。ああ、もう! こいつ絶対ベッドから落ちるぞ、これ。


 ガタガタすると他の部屋の迷惑になるので、シルビアたちに頼んで魔法を使ってもらって、もう一つのベッドを静かに動かしてこちらのベッドの横に並べる。宿を出る時にでも戻しておけば別に構わないだろう。


 シロの母親は未だに現れない。掲示板にもそれらしいものは貼られていないし、連絡先にしておいた探索者協会にも、特に何も知らせは入っていないらしい。


 出会った時は別にして、シロは母親を恋しがって泣いたりはしないし、いつも元気だ。まだ出会ってそれほど経っていないのに、なぜかずっと一緒に暮らしているような気さえしてくる。


 荒唐無稽な話かもしれないが、実は母親の元から巣立った時にたまたま草原が火事になって、そしてたまたま俺の所にやって来た、そんな馬鹿なことを感じる時すらあるのだ。


 まあ、本当のことは分からない。寂しくなるだろうけど、出来れば早く母親が出てきてくれればいいとも思っている。それはもちろんのことだ。


 そうして何か色々、とりとめもないことを考えているうちに、俺はいつの間にか眠りに落ちていた。



 翌朝も日の出とともに目が覚めた。この世界に来てからは、こうして早朝に起きるのが完全に日課になっている。早朝に起きて、軽い鍛錬をして、そして朝食を摂る。それが一日の始まりだ。


 次の狩りに行くまでの数日間は、休暇と言うことにしてある。しかし預かっていたヤマブキのことも片付いてしまったので、探索者協会の訓練場に行くぐらいしか、俺には本当にやることがない。


 他の探索者は休暇には何をしているのか聞いてみたら、ほとんどの場合が酒を飲んでクダを巻いて過ごしているそうだ。


 ハヤトやサキにも聞いてみたが、嫌そうな顔をしながら、強制的に家の芋畑の世話をさせられていると言っていた。宿の庭に勝手に芋を植えるわけにもいかないし、これはちょっと参考になりそうにないな。


 そういえば、この町に来てからというもの、俺は宿屋と協会支部くらいにしか行ったことがない。どうせ何もやることが無いのなら、適当に町をぶらぶらしながら探検してみるのも悪くは無い。


「俺は町をブラブラしに行くけど、みんなはどうする? 一緒にいく?」

「ぬし~、行く~!」


 別にそんなに楽しいことをしに行くわけじゃないんだが、シロは嬉しそうに返事をすると、いつものように俺の背中をよじ登ってきた。


「私は訓練場に行くのでご遠慮します。」

「うん、行かない。」


 ホムラやマヤは一緒には行かないか。うん、そうなると思ってた。


 まだまだ色々と精神的に不安定な部分を感じるけれど、それでも二人は自分のやりたいことを優先するようになってきている。


 盗賊ばかりのこの世界なので、若い女性二人だけで行動するのは危険だけど、今は精霊さんたちの障壁で守ってもらっているので、問題はないと思う。


「それじゃ、また食事の時にね。」


 俺は二人に一時の別れを告げ、シロを背中に背負ったまま町の中に繰り出していった。



 まだ朝食を摂ったばっかりというのもあるし、芋ばかりの屋台は見て回ってもつまらない。そこで俺はハヤトに聞いていた、露店や市場のある方向に向かってみることにする。


 この町が特別なのか、それともこの異世界では一般的にそうなのか、そこまでは良く分からないが、この辺りでは町中でも街道でも、あまり荷馬車というのは見かけない。魔法の袋が普及しているので、荷物運びのためだけに馬車を使う必要がないのだろう。


 といっても馬車がほとんどいないということでは無い。人を乗せた馬車を見かけることはたまにあるのだ。しかしそれは町中での移動のためではなく、隣の町へ行くためのものが大半だった。


 つまり、この世界に来て最初に出会った奴隷商人みたいに、あまり旅慣れていない者たちを連れている時に馬車を利用するってわけだ。舗装もされていない悪路を行くわけだし、旅慣れている者であれば、徒歩だって馬車とあまり速度は変わらないからね。たしかに疲れるけど。


 あとは貴族みたいな人が使う場合だろうか。道は舗装されていない土のままなので、土埃(つちぼこり)もすごいし、雨が降ったら水たまりや泥濘(ぬかるみ)で、歩くと泥だらけになってしまう。


 まあ、この町では貴族らしい人を見かけたことはない。いないのかも知れないし、いるけど住んでる場所が離れているだけかも知れない。そもそも狩りをしに森に行ってる時間の方が長いので、町の中のことはほとんど知らないのだ。


 馬車の数は少ないのだけど、町の主要な通りは馬車が何台もすれ違えるぐらいの広さがあって、まるで日本の歩行者天国のような様相になっている。今は屋台の数が減って少し閑散としているけど、そのうちまた以前のような活気を取り戻すだろう。



 市場に近づくにつれて、人の数がどんどん増えてきた。シロが何も言わずに俺の背中から肩に移動して、いつもの特等席に座る。


「よし、シロ隊員に任務を与える。周囲を良く見張るんだぞ。」

「はーい、ぬし~。」


 シロを見張り役に任命して、市場の人ごみの中に突入だ。


 これは思っていたよりも凄い賑わいだぞ。


 人の数もすごいが、店の数もすごい。そして何より熱気がすごい。あちこちから客引きの声が聞こえ、そこら中から漂ってくる食材の匂いが混じりあう。お祭りともまた違う、市場独特の嵐のような雰囲気だ。


 あまりにすごい人出なので、これはちょっと観光には向かないかも知れないぞ。慣れていないと、欲しい物を買うどころか、欲しい物の店に辿り着けない。いや、俺なんかだと、欲しい物の店がどこにあるのかすらわからない。


 人の流れがまるで濁流のようで、自由に動き回る事は出来そうにない。これは一度どこかに退避して、態勢を整えなければ。


「あ! うんこマン見つけた!」


 俺が大混雑であたふたしている中、シロが突然、指さした先には、スリと(おぼ)しき薄汚れた少年の襟首をがっちり掴んだ、うんこマンこと、ヤマブキの姿があった。


 あのお、ヤマブキさん、そんなとこで何してるんですか……。



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