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今ごろになって異世界に転生した話  作者: 大沙かんな
#2-3 古代遺跡を探索しよう

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51.ヤマブキの復活

 協会の訓練場に行くというホムラとマヤの二人と別れて、俺はシロを抱いて宿屋に戻ってきていた。


 シロのことは二人に任せても良かったのだけど、たぶんシロは嫌がるだろうし、ホムラたちはどうやらマミコに剣の修行を付けてもらうようなので、その邪魔になるのも良くない。


 マミコはああ見えて、剣技の腕は非常に高いので、二人にとっては良い目標になるのだろう。ホムラもマヤも、最初はマミコを気味悪がって近づかなかったのだが、実地研修である程度一緒に行動したことで、少しは慣れたというのもあるようだ。



 俺が二人と別れて宿屋に戻ったのには、実は他に理由がある。魔法の袋に入っているヤマブキを使った人体実験を行うためだ。


 人体実験と言うとかなり聞こえが悪いが、闇妖精(トムテ)が抜けた後に仮死状態になっているヤマブキを蘇生するための魔法実験である。人助け的な意味合いが無いでもないが、あくまでシルビアとグロリアの魔法的興味のための純粋な実験である。


 失敗すればヤマブキはそれで完全に終わってしまうが、何もしなくても終わっているようなものだ。成功すればそれなりに何とかなるわけだから、甘んじて実験台になって欲しい。まあ今は返事も出来ない状態だけどね。


(それじゃあ、ヤマブキを出すから、部屋に結界をよろしくね。)

〈わかったわ、ほい!〉


 こんなところに昏倒した金髪美女がいることが誰かにバレたら、いろいろとヤバいので、まずは誰にも見えないように結界を張ってもらい、その上でヤマブキを魔法の袋から取り出して、ベッドの上に寝かせた。


 今のヤマブキは何も身に着けていない、完全に生まれたままの姿だ。これは別に俺の趣味というわけじゃない。どうやら魔法実験のためには、衣服は身に着けていない方が良いらしいので、そうしているまでのことだ。


 本当だよ? だって胸はかなり残念だし、うんこマンだし。



(これ、本当に生きてるの? かなり青白いし、体も冷たいんだけど。)

〈冬眠状態みたいなものね。心臓も時々しか動いていないわ。〉

(逆に言えば、時々は動いているってことか。)


 見た目では全然わからないな。もしもシルビアやグロリアがいなければ、死体として処理していたに違いない。


 精霊の二人によれば、無理やり寄生していた闇妖精(トムテ)が強引に抜け出したことで、彼女の精神が壊れてしまい、まともに動けなくなった可能性が高いのだそうだ。


 つまり壊れた精神を魔法で完全に修復できれば、元通りになる可能性が高い。修復できなければ、どうなるかはわからない。完全に廃人になるか、化け物になるか、それとも死んじゃうか、まあ碌なことにはならないだろう。


《それじゃあ、いきますよ~。え~い!》

〈あら、残念、失敗ね。〉


 早っ!


 それに軽っ!


 すごい実験だっていうから、何か儀式とか呪文とか、そういう物があると思ったのに、何もないとは。


(もっとこう、勿体ぶった感じでやった方が、頑張った感があって良いと思うんだけど!)

〈頑張っても、頑張らなくても、失敗は失敗なのよ?〉

《精神の欠片がちょっと足りないみたいですよ~。どこかから引っこ抜いてくるか、何かで水増ししないと、修復は無理ですね~。》

(足りないって、何がどれくらい足りないの?)

〈タワシで例えると、毛が三本ぐらいね。〉


 タワシか……毛が三本、それくらいなら協力してもらえるんじゃなかろうか。


 そう思い、次元収納の中に手を伸ばしてみたが、奥に引っ込んでしまって、イヤイヤするばかりで出て来ようとはしない。う~ん、人間とは違って抜いたら生えてこないだろうし、無理強いは良くないかな。


(タワシは嫌がってるみたいだから、駄目だよ。)

《そうですね~、それ以外だと……、タワシ的に考えるて、主様の精力でも大丈夫なのでは~?》

〈そうね、主様の精力なら、いくらでも湧いてくるから最適ね。〉


 そうだな、精力ならいつも二人に吸われているし、もしも痛くないなら、ちょっとぐらい構わないだろう。



 俺の精力で足りない欠片の穴埋めをすることになったが、次の問題はどうやって精力を渡すかだ。いつも二人に精力を吸われているけれど、俺の方から渡したことは一度もないし、やり方なんかもちろん知らない。


(それで、どうやったら精力を渡せるの?)

〈こう、ブチュッと?〉

《そうですね~、ズコッと?》


 いや、それじゃあ良くわからないんですが……。


精神(こころ)の問題なので、まずは相手の胸に手を当ててくださいね~。》


 おお、それならわかるぞ!


 女性相手なので普通だと遠慮しがちかも知れないけど、今回の場合は鉄壁で絶壁な胸壁だ。俺はなんの躊躇もなく、その薄い胸に手を当てた。


 げしっ!


 痛っ! 鼻を殴られた? いったい誰に?


 目の前で死んだようになっているヤマブキに殴られるはずがないし、それに殴られなければならないようなことをした覚えはないんだけど。


 鼻血が出たので鼻の穴にティッシュを詰めてから、もう一度、胸に手を当てる。


(次はどうすればいい?)

《モミモミするか、ペロペロするか、どちらかですかね~。他にも手はありますけど~。》

(はさ)むって手もあるわね。〉


 いや、ちょっと待って! ペロペロはともかく、モミモミするほど無いし、挟むっていっても挟めそうな場所なんどこにもてないんだけど!


 げしっ!


 痛っ! また鼻を殴られた! 本当にいったい誰なんだ?


 ティッシュを詰めてない方の鼻の穴からも鼻血が出てきたので、そちらにもティッシュを詰めておく。よし、これで大丈夫だ。ふがふが。


 改めてもう一度、彼女の胸に手を当てたものの、やっぱりそこからどうすれば良いのかわからない。


(もっとこう、初心者向きの簡単な方法ってないの?)

〈こう、うりゃっ!ってしてみて。〉


 良く分からないけど、言われた通りやってみよう。


「うりゃっ!」


〈それだと、とりゃっ!って感じでしょ。そうじゃなくて、うりゃっ!って。〉


 やっぱりわからないけど、少し違う感じでやってみるか。


「うりゃっ!」


《それだと、おりゃ~!って感じですよ~。》


「うりゃっ! うりゃっ! うりゃっ!」


〈こりゃ!そりゃ!どりゃ!って感じね。もっとこう、うりゃっ!って感じでないと駄目よ。〉


 ありゃ~、これは難解やっても駄目っぽいぞ。


《主様はセンスが無さすぎますね~。好感度も無いですけど~。》


 好感度はたぶん、おそらく、きっと関係ないと思うんだ。それはそれとして、これはどうやら別の方法を考えた方が良さそうだ。



(他に誰でも出来そうな方法はないの? センスとかなくても出来る奴。)

《そうですね~、かなり原始的な方法ならありますけど~。》

〈ああ、あれね。あれはあまりお勧めできないわ。〉

(えっと、お勧めじゃないのは分かったから、方法を教えて貰えない?)

〈……主様の血を渡すのよ。〉


 う~ん、血かぁ。大丈夫だとは思うけど、そもそも俺はタワシなので、切っても刺しても血が流れないから、その方法は無理かもしれない。


 あ、待てよ? 俺って今、鼻血が出てるじゃないか。これこそ天の配剤っていうものじゃなかろうか。


(今ちょうど鼻血が出てるから、これでやっちゃえばいいんじゃない?)

《お勧めはしませんけど、どうしてもってことなら、そのまま相手の鼻の中に突っ込んじゃってください~。》


 よし、それじゃやってみよう。


 俺は鼻に詰めたティッシュを二つとも抜き取ると、そのまま仮死状態のヤマブキの鼻にズコッと突っ込んだ。ティッシュにはちょっと別の物ついている気がしたけど、それはもう仕方ない。


〈あっ!〉

《ああ……、あ~あ……。》


 うわ、何その反応。もしかして、そんなにマズいことだったのか?


《やっちゃったものは仕方ないので、これで精神の修復をやってみますよ~。え~い!》

〈あら、修復は上手くいったみたいね。〉


 ちょっと引っかかる点はあるが、魔法による精神の修復は成功したようだ。


 ヤマブキの手足ガピクピクと震え、青白かった肌がみるみるうちに赤味をさしていく。そして鼻息荒く、鼻に詰められた二枚のティッシュを吹き飛ばすと、上体をがばっと起こした。


「おお! 生き返ったぞ!」


 俺たちはどうやらヤマブキの蘇生に成功したようだ。



 起き上がってからしばらくの間、ヤマブキは自分の手や足を眺めながら、手を結んだり開いたりして、その動きを確認しているようだった。ある程度のところで納得したらしく、すっと立ち上がると、俺の方をキッと睨みつけて来た。


「アンタねえ、女性を何だと思ってるのよ! こんな何もかも丸出しで、布をかけるとかそういう気づかいは無いの?」

「いや、魔法で治すのに布は邪魔だったんだよ。それに胸も何も無かったし、別に問題ないでしょ。」


 げしっ!


 殴られた。痛い。


 なんか怒ってるけど、今だって何も隠そうとしてない。見せたいのか、見せたくないのか、良く分からないぞ。まあ、見たところで何にもないんだけど。


 げしっ!


 また殴られた。痛い。


 しかし今ので一つだけわかったことがある。その切れ味かして、さっきのパンチの主はこいつだ。間違いない。


「いい加減に服ぐらい着たら?」


 俺が彼女から()いだ装備一式のところを指さすと、こちらに背を向けて、何やらブツブツ言いながら身に着け始める。


「着ても良いなら、そう早く言えばいいのに。」


 それはちょっと、怒る所が違うんじゃない?



 服を着て装備を身に着けたヤマブキは、俺たちを襲った盗賊の女親分そのものの姿に戻った。


「あ! うんこマンだ!」


 装備をつけたその姿を見て、シロが嬉しそうに駆け寄ってくる。また遊んでくれると思っているに違いない。


「うがあっ! 誰がうんこマンよ!」


 ヤマブキもそれに応えて、シロを追いかけ始めるが、この狭い部屋の中で暴れられると困ってしまう。


「ああ、遊んでくれるのは良いけど、今は静かにしてくれない?」


 俺が頼むとヤマブキはピタっと動きを止め、直立姿勢になって俺の方に振り返った。


「いや、そんな恰好しなくても、ただ走り回らないでくれれば、それでいいんだけど。」

「何を言ってるのよ! あんたのせいで……。あんたのせいで、こうなってるのに!」


 おれのせい? それってつまり、どういうことなの?


《あ~あ、やっぱりこうなっちゃいましたか~。》

〈主様との血の契約で、眷属になっているわね。〉

(えっと、眷属ってつまり、どういうこと?)

〈主様の言葉はヤマブキには絶対命令になるってことよ。〉

《ヤマブキはもう、絶対に主様には逆らえませんよ~。でも眷属は奴隷と違って心は縛れませんから注意してくださいね~。》


 あちゃ~。ヤマブキの様子がおかしいのって、つまり俺の鼻血のせいか。



 眷属にしてしまったのはもうどうしようもないので、それを利用させてもらい、ヤマブキにはいろいろ根掘り葉掘り、何があったかを語ってもらうことにした。


 俺たちの予想通り、彼女は赤い三角帽に取りつかれて操られ、他の探索者を魔法で支配して、盗賊行為をさせられていたらしい。


 赤い三角帽に操られていた間のことも、赤い三角帽が逃げ出した後に魔法の袋に詰められたことも、そしてその後のことも、仮死状態だったので動くことは出来なかっただけで、全部覚えているみたいだ。


「つまり、あの赤帽に無理やり盗賊させられていたってことで、盗賊じゃなかったってこと?」

「当たり前でしょ! なんで上級探索者にもなって、盗賊なんてやらなきゃならないのよ。そんなことしなくても、今までの稼ぎで一生裕福に暮らせるわ。」


 今、彼女は自分の背負い袋や魔法の袋の中身を、元々自分の物だったものだけを残して、盗賊にされて押し付けられた分をどんどん外に放り出している。金貨なんかもかなりの量があるみたいだ。


「盗賊させられてた時の物は、全部ここに置いていきますからね。討伐した人の物になる分には、何も問題ないでしょうし。」


 無理やり盗賊をさせられたことも気に入らないが、そうして手に入れた物をずっと持ち歩くのは、もっと気に入らないようだ。きっちりしすぎているとは思うけど、その気持ちは分からなくもない。


「それじゃ、何かあったら『お願い』することになるけれど、それ以外の時間は自由にしていいよ。ああ、でも俺の眷属になってるってことは、あんまり言わない方が良いと思う。」

「わかったわよ。どうせ逆らえないし。その『お願い』とやらが無いことを祈ってるわ。」

「うん、そうだね。そういえばお願いなんだけど……。」

「何よ、もうお願いがあるっていうの!」


 いや、そんな大したことじゃないってば。


「あの赤い三角帽のこと、もしも何かわかったら、協会経由で教えてもらえると助かる。あれはこのまま放置しとけないからね。」

「ああ、そのことね。了解したわ。私もあれを許すつもりはないからね。」


 ヤマブキとは、赤い三角帽について共闘することだけを決めて、それ以外のことは完全自由で別れることになった。


 もしも他に何か生まれたら、また『お願い』することになるかも知れないけどね。今はこれで充分かな。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

感謝感激です!


鼻血の時にティッシュを詰めるのは、危険らしいので止めましょう。鼻水の時も駄目みたいですね、やってますが。


俺は危険でもティッシュ詰めるよって方、いやティッシュより良い方法を知ってるよって方、よろしければ、感想や評価をお願いいたします。

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