50.狩りの報告と報酬
町に到着した翌日、俺たちは探索者協会に集合して、一階の受付に向かった。狩りの獲物や採取した薬草などを納品し、盗賊討伐の報告を行うためだ。
盗賊に関しては、ヤマブキのことは黙っている事、そして大穴を空けたのは赤い三角帽のせいにする事、この二点については予め決めてある。
遺跡については喋っても構わないけど、誰も確認しようがないから多分報奨金は貰えない。まあ、支部長あたりには言っても良いかもしれないね。タワシについても喋っていいんだけど、どうせ誰も信じないだろう。
一階のオーバさんの受付で納品や盗賊の報告を済ませると、予想通りに二階へ行くようにと指示された。どんだけ盗賊を狩るんだと嫌味を言われたが、それは俺ではなく、襲ってくる人たちに言って欲しい。
そして二階では、これまた予想通り、美人受付嬢のミハルさんに支部長室に連行されることになった。
「まったく、どんだけ盗賊を狩れば気が済むんだい、あんたらは……。」
だからそれは盗賊の方に言ってくださいって。
かなり詳細な状況説明の結果、俺たちの盗賊討伐はしっかり認められ、報奨金や貢献ポイントが得られることになった。しかしそれ以外の件については、いくつか問題があるようだ。
「まず遺跡な。一応中央には報告はあげとくが、誰も信用しないだろうな。信用されたとしても学者共の調査が終わらんと、報奨金は出ない。潰れて地下深くに埋まったとなると、まず調査は行われないだろうし、報奨金は諦めてくれ。」
これは俺たちも最初から予想していたことなので、問題なく了承する。
「次、盗賊の狩った獲物や薬草の納品な。これは何も問題ない。報酬も貢献ポイントもそのまま全額支給だ。盗賊の荷物の買い取りも問題ない。協会で売るより商店に買い取ってもらったほうが高値がつくが、これで良いんだな?」
これも予想通りだ。今回のグループは臨時ということもあって、後からもう一度集まって分配する手間を考えると、手早く換金したほうが都合が良い。だから協会でまとめて換金をお願いしたのだ。
妖獣シバーの肉は草原火事の影響で高値になっているので、買い取り金額はかなり期待できる。
「最後に、森の異変についてだ。赤い三角帽の小人が大穴を空けて危険地帯が生まれたって話だが、どこまで本当かわからん。目撃者がいるわけでもないし、証明しようがない。ただ森に火柱があがったのは町からも見えた。確認のために中級探索者のグループを送ってあるから、追って報告があるだろう。報奨金はそれからの判断だな。」
問題があると言われたので少し緊張していたが、どれもそれほど問題ではないのでほっとした。
最後にミハルさんから、それぞれの金額の内訳を教えてもらう。妖獣シバーの納品は数もかなり多かったので、たしかに非常に満足のいく金額になっていた。
十日ほどの狩りでこれだけの収入があれば、大満足というより他はない。ここにさらに薬草や盗賊所持品の売却益が加わるんだから万々歳だ。
「いや、ちょっと待って! この盗賊討伐の報奨金、ちょっと桁がおかしくない?」
「金額はそこに書かれた通りです。何も間違っていませんよ。」
その金額は今まで狩ってきた盗賊たちと比べて、桁が一つ二つ違っている。
「盗賊十八人、特にそのうちの八人は中級探索者で、貯金も非常に多額になっています。」
貯金の一割が協会手数料、残りの九割が討伐報酬になる、それが原因か。
「その上、盗賊が狩ったと思われる探索者たちが三十七名、その貯金の二割が報酬になります。一割が協会手数料、残りの七割は遺族の物ですが、もしも受取人が現れない場合は、みなさんのものになりますね。」
その金額も……ちょっとびっくりする額になっている。それで合計するとこうなるわけか。
その金額を見て、仲間たちはあまりの驚きに顔面が蒼白になっている。
「あの、盗賊の討伐報酬は辞退っていうか、賢者の取り分にできないですか?」
「え? 何言ってんの? 報酬は頭割りが規則だろ?」
「だってそうだろ、盗賊はほとんどタカシが倒したわけだし、俺たちは何もしていないぞ。」
「そうね、納品した妖獣シバーも薬草も、ほとんど盗賊の所持品だったわけだし、それだけでも貰いすぎなぐらいなのに、これはちょっと貰えないわよ。」
「いや、それこそ俺が倒すことになっただけで、みんなの努力の結果だろ? それに規則を守るのは重要だぞ。」
俺は報酬を独り占めするつもりはないのだ。こいつらに嫉妬されても厄介というのもあるが、それだけではない。周囲から嫉妬されるのは間違いないわけで、こいつらもまとめておいた方が、嫉妬の対象が分散されて楽ができるからな。
「賢者、それは違うぞ。貰いすぎると働きが悪かったことになる。たしか働きが悪かった奴とは次はグループを組まない、そういうことだったはずだ。次もグループを組むには貰いすぎるわけにはいかん。」
またダイキの人格が入れ変わったようだ。こっちの人格のダイキの言葉には、やけに説得力があるんだよなぁ。ちょっと困ったぞ。
「なんだ、そんなこと、悩むまでもないだろうが。ハヤト、それにダイキ、お前ら二人とも、自分の討伐報酬をタカシに寄付しろ。それで解決だ。自分の報酬をどう使おうが自由だからな。」
「おおう、それは良いな。タカシに寄付するぞ。」
「俺も賢者に寄付するぜ!」
「私も寄付ね~。」
「あ、私も!」
再講習組の四人だけでなく、なんとホムラとマヤまで討伐報酬を俺に寄付しやがった。君ら二人はしっかり溜めれば、自分を買い戻すことだってできるのに、何をやってるんだか。
このオッサン、ほんと余計なことを言いやがって。討伐した奴らの家族にでも恨まれたら、こいつらにも責任を押し付けてやろうと思ってたのに。
これで全部済んだと思い、探索者協会の建物を出ようとしたところで、サキが突然声をあげた。
「あ! お土産のお肉を確保するの忘れてた!」
「まだ間に合うかも知れないし、受付のオーバさんに頼んでみたら?」
そう提案してみると、なぜか俺も一緒に受付に引っ張っていかれ、俺が説明する係になり、オーバさんには「そういうことは先に言え」と俺だけがメチャクチャ怒られて、何度も頭を下げて頼み込むことになった。
まったく俺のせいじゃないのに。サキは一匹分の肉を抱えてニコニコして帰っていったので、まあそれはそれで良かったんだけどね。
協会での報告が終わったので、軽く腹ごしらえでもしようかと思い、屋台が立ち並んでいる通りに行ってみたのだけれど、以前と比べて少し閑散としている感じだ。見ると屋台の数も少なくて、あの香ばしいような匂いもあまり感じられない。
「これも火事の影響なのかな。」
「お肉の屋台がない……。」
どうやらたくさんあった焼き肉や串焼き系の屋台は全滅していて、例の焼き鳥風の屋台も休んでいるようだ。
あるのはパンやら芋焼きやら、そんな屋台ばかり。ホムラが絶賛していた焼き肉を挟んだピザみたいなやつも、焼き肉なしのピザみたいなパンだけになっている。
焼きトウモロコシみたいな奴は健在だったのでそれを買い、あとはご祝儀を兼ねてピザみたいなパンを一人一枚づつ買ってみた。
ピザパンの主人によると、やはり肉の値段が上がっていることと、そもそも肉が品薄で仕入れが難しいことが、この惨状の原因だということだ。
かなりの数の探索者が狩りに出ているんだけどね。まともに狩りが出来る場所に行くのに二日もかかるし、そんな探索者を狩るような盗賊も多いので、なかなか肉がここまで回って来ないのだろう。
「草原が戻って、またウサギが取れるようにならないことには、どうにもなりそうにないねぇ。」
「昨日森から帰ってくる時に見たけど、たしかにまだ焼け野原だね。でも少しは草の芽が出始めていたよ。」
「そうかぁ、元に戻るには、まだまだ先は長そうだけど、それまではこの芋パンで頑張るしかなさそうだねぇ。」
自然災害だけは、本当にどうしようもない。
肉の屋台が減って、それ目当ての客も減っていたが、スリの少年たちは反対に増えていた。獲物がかなり減ったので、おそらく生活が厳しいんだろう。
これだけ人が減ると、人ごみに紛れることも出来ないし、それでいて人数は増えているから、もう目立って仕方がない。
これだけ盗賊が湧いている世界なので、スリぐらい可愛い物なのかも知れないけど、捕まったらゴミのように殺されることは盗賊と変わりない。ハイリスク・ローリターンの典型だ。
あのスリの少年たちと、シロとの間には、何も違いはない。違ったのは運だけ。俺もこうしてここで暮らしていけるのは、ただ運が良かっただけのことだし、運が悪ければ彼らと同じように盗賊になって狩られていただろう。
だからってあの少年たちにお金を恵んでやろうとか、助けてあげようとか、そんな気持ちは俺にはまったく無い。彼らは彼ら自身の手で、幸運を掴み取るしかないのだ。
まったく、嫌になるね。




