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今ごろになって異世界に転生した話  作者: 大沙かんな
#2-3 古代遺跡を探索しよう

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48.怪物・逃走・猛追

 看板を調べるのに時間をかけ過ぎたこともあり、女親分は見つからないままに時間はどんどん過ぎていった。


 ここは地下なので良く分からないが、表ではそろそろ陽が沈む時間帯になっているだろう。そろそろ休憩して、食事を摂ったほうが良さそうだ。どうやら他のみんなもそう思っていたらしく、休憩を提案したらすぐに賛同が得られた。


 暗い中なので、魔法ランプの灯りを頼りに、俺たちは食事の準備を始めた。


「そういえば、こんな地下で料理しても大丈夫かな?」

「ん? 何か問題でもあるの?」

「いや、狭いところで焚火をしたら息苦しくなるとか、そんな話があったと思うんだけど。」

「ああ、確かにあるな。俺たちは焚火じゃなくて魔法コンロを使うから、何も問題ないと思うぞ。」


 ハヤトが手早くステーキを焼きながら、俺の質問に答えてくれた。


 やはり異世界でも、狭いところで火を使ってはいけないらしい。魔法コンロが大丈夫なのは、魔法の力で熱くなっているだけで、火を燃やしているわけではないということなのだろう。


 普段、森の中で野営する時は、ほとんどの場合が陽が沈む前に食事を終えて、火が沈んだら後は寝るだけだったので、こうして魔力ランプのお世話になることはほとんどなかった。


 今いる場所が地下の遺跡ということもあるかも知れないが、こうして魔力ランプに照らされて食事を摂っていると、なんだか非日常的というか、どこか幻想的な雰囲気が感じられる。


 明るさの違いだけでなく、普段とは違って光源の位置が地面に近いので、それがいつもと違う雰囲気を感じさせる原因なのかも知れない。



 汚い話だけど、食べたら当然、出る物が出る。


 今はこのすぐ近くに敵が潜んでいて危険だ。そんな場合ではあるけれど、人間ならばどうしても避けては通れないことだってあるのだ。


「ぬし~、うんちゃん~。」

「うんちゃんかあ、向こうに行ってしようか。」


 俺はシロを抱き上げて、ホームの片隅に移動した。


 森の中の場合は、少し離れたところに行って穴を掘り、終わったら上から土をかけて埋めておくのだけれど、ここは地面が固められているので、穴を掘ることが出来ない。


 もしもみんながそこら中で出してしまうと、狭い空間に匂いが充満して、地獄のような世界になってしまう。だから探索を始める時に、みんな出来るだけ同じ場所で済ませて、後からまとめて魔法で浄化することに決めたのだ。


 決められた場所はホームの片隅。入ってきた方とは向かい側のホームから、線路に対してお尻を向ける感じだ。まずはシロを抱き上げてさせた後、俺自身も下を脱いで、ホームの上から線路に向けて済ませてしまう。


 みんなも俺やシロと同じ状況なので、同じ場所で入れ代わり立ち代わり、順番に済ませていくことになった。


 スザクやマミコもいれて全部で十人が同じ場所で済ませるわけだから、ちょっと凄まじい匂いが漂ってくることになるけど、全員が終わったら浄化で綺麗さっぱりするわけだから、今だけの我慢だ。


 最後の一人になったマミコも済ませたので、浄化魔法をお願いしようとしたその時、事件は起こった。


「アンタたち、一体なにすんのよ!」


 俺たちが便所にしていたその場所から、汚物にまみれた女が突然姿を現して、叫び声をあげたのだった。



 なんだ、このとんでもない臭気をまき散らす化け物は!


「なんだ! 古代の妖怪か!」

「まさか、例の女親分?」

「確かに女親分は金髪だったけど、正体は金糞の怪物だったとは……」

「誰が金糞の怪物よ! こんなことになったのは、全部アンタたちのせいじゃない!」


 金糞の怪物が襲い掛かってくるが、こんな化け物と戦う勇気ある者は、俺たちのグループには一人もいない。


「アンタたちも、私と同じ目に会わせてあげるわ!」

「いや、待て! 落ち着け! 大丈夫、ある意味、似合ってるって!」

「うがぁぁぁぁっ! 殺す!」


 こうして金糞の怪物との壮絶な鬼ごっこが、ここに開幕したのである。


「や、やめろ、来るな!」

「いやぁっ! あっち行って!」


 走り回る怪物から大量の金糞が飛び散り、ホームは(またた)く間に汚物まみれに変わっていく。俺たちはそれから逃れるのに必死で、誰も怪物を止められない。いや、止めたいんだけど、止めに行きたくない。


 シルビアとグロリアも大笑いしているだけだし、誰もこの地獄を止められないのだろうか。


 いや、いた。その時、我らのヒーローが颯爽と、金糞魔人の前に姿を現したのだ。シロだ。


「ぬし~、うんこマン来た! うんこマン!」

「うるさいわ、ガキが!」

「あ~ん、たすけて! うんこマン来るぅ!」

「がおおおっ! 全員地獄に落ちろぉぉぉおおおっ!」


 シロがキャーキャー嬌声をあげながら逃げ回っている。小さい子ってほんと、こういうの好きだよね。でもばっちいからやめなさい。


 しばらくして、シロは追いかけっこを堪能したらしく、俺の所に戻ってきた。


 戻ってくるのは良いけど、けっこう飛沫を浴びてるから、今は顔に体こすりつけるのはやめようか。


(あのぉ、そろそろ笑ってないで止めて下さい。)


 その恐怖の体験は、笑い転げていたシルビアとグロリアが、金糞の怪物を魔法で拘束するまで続いたのだった。


 鬼ごっこが終わった時、ホームの上は座る場所などどこにもないほど、そこら中が汚物まみれになっていた。充満している匂いも大概で、くらくらして気を失いそうになるレベルだ。


(そろそろ笑うのはやめて、全部浄化して貰えないかな?)

〈仕方ないわね、ほい!〉

(ありがとう、死ぬかと思ったよ。)


 ふう、やっとこれで、鼻で息ができるようになったぞ。


 後で落ち着いてから、これはタワシの貴重な出番だったのではないか、そう思ったのだけど、おそらくタワシも一緒になって逃げるような気がしたので、それ以上は考えないことにした。



 非常に激しい追走劇だったが、盗賊の女親分の手足は既に魔法でしっかり拘束されているので、もう逃げ出すことはできない。さっきまでは金糞まみれだったその体も、今では元通りの金髪美女に戻っている。


「しかし女親分の正体がうんこマンだったとは。本当に驚いたよ。」

「誰がうんこマンよ! いいからこの拘束を今すぐ解きなさい!」

「心配しなくても、ちゃんと後で解いてやるって。しっかり首を切ってからだけど。」


 こいつは俺たちに襲い掛かってきた盗賊たちの女親分なのだ。もちろん首を切った後、装備や荷物を剥ぎ取ることになる。どちらもさっきまで汚物まみれだったから、浄化して綺麗になっているとはいえ、心理的にはちょっと抵抗があるけどね。


「タカシ、ちょっと待ってくれるかな? こいつに少し聞きたいことがあるのよ。」

「いいぞ、サキ。」


 どうやらサキが女親分に何か質問があるらしい。俺は彼女に場所を(ゆず)ることにして、後ろに下がった。


「誰がアンタたちの質問なんかに答えてやるもんか!」


 金糞美女の女親分は中々に威勢が良い事を口にしながら、俺たちを睨みまわしてくる。


「答えたくないなら構わないけど……。貴女、なんで私たちの便所に隠れ潜んでいたの? そういう趣味なら仕方ないけど、できればもっと別の趣味を見つけた方が良いと思うわ。」

「趣味だとぉぉぉおおおおおおっ! アンタたちのせいで! アンタたちがっ! 丁度いいくらいの横穴があったから隠れてたら、勝手に人の居場所を便所にしたんじゃないのぉぉぉおおおおっ!」


 どうやら趣味では無かったらしい。それにしては、わざわざ全員が済むまで隠れ続けていたけど。早くとっとと出てこなかったのは、いったい何故なんだろうか。


 女親分の言葉を聞いて、サキが肩をすくめて首を振りながら、こちらに下がってきた。


「もう質問はいいの?」

「ええ、趣味ならともかく、性癖だと多分治らないでしょうから。」

「誰が性癖だぁぁああ! 殺す! コロス! ゴロォォォ! グアァァァァァアっ!」


 顔を真っ赤にして叫んでいた女親分だったが、そのうちに大口を開けたまま苦しみだした。


 ちょっと様子がおかしい。


「グガガガガ~~っ!」


 なんだ? 口の中から何か赤い物が出て来るぞ?


 赤い物は少しづつ女親分の口から出てくる。それは粘液のようなものに包まれているようで、ぬらぬらと光っている。


 俺たちが見つめている中で、まるで蛇が獲物を飲み込むところを逆回しで再生しているように、赤い物はどんどん口から出てきて、そのうちスポッと全身を現した。


「……小人?」


 彼女の口から出てきたのは、つばの無い赤い三角帽子をかぶり、白いひげを蓄えた子供くらいの大きさの小人だった。



 小人の服装はまるでサンタクロースのようだ。そしてその顔には、邪悪としか言いようがない笑みを浮かべている。


「なんだ、お前は!」


 その邪悪極まりない姿を前に、ハヤトとダイキが剣の柄に手をかける。


「クケケケケ。宿主を殺されては困ってしまうからのぅ。ワシはこれで失礼するかのぅ。」

「に、逃がすかっ!」


 赤い小人に向かって、まるで火のような二人の斬撃が走ったが、小人は大きく後ろに跳んでそれを()け、そのままトンネルの壁に貼りついた。


「クケケ、それではのぅ、またどこかで会えるじゃろうのぅ。」


(シルビア! 結界強化してっ、逃げられる!)

《ごめんなさ~い、もう逃げられてしまいました~。》

(いや、まだあそこの壁に貼りついて……)

〈主様、あれは抜け殻みたいよ?〉


「抜け殻だって?」

「何? 賢者、どういうことだ?」


 壁に貼りついた小人を斬ろうと、線路に降りていたダイキたちがこちらに振り返った。


 抜け殻、それがどういう意味なのか、その答えはすぐに明らかになった。


 トンネルの壁に貼りついていた赤い小人の体は、まるで風船のように急激にしぼんでいき、最後には黒いタールのようになって、ただの壁の汚れに変わってしまった。


(あれは一体なんなんだ?)

〈そんなことより早く逃げる準備をしなさい。〉

《ここは崩壊しますよ~。》


「みんな逃げる準備をして! ここは崩れるらしい!」

「な、なんですって!」

「えええ? この遺跡、どうするのよ。まだほとんど何も調べてないのに!」


「サキ、わかるけど、今は逃げよ?」

「サキも遺跡の話は後にして、みんな撤退準備だ!」

「賢者、あとで説明しろよ!」


 全員が急いで地面に置いてあった背負い袋などを身に付けていく。


 みんなには逃げるように言ったものの、俺はどうすればいいのか、少し迷っていた。逃げるのは問題ない。しかし逃げるにしても、目の前の女親分をどうしよう? かついていくのか?


〈主様、早くしなさい、何をしているの!〉

(いや、ほら、女親分をどうしようかと……)

《とっとと魔法の袋にいれちゃいなさ~い。》


 え? 人間って魔法の袋に入れてもいいの?


 上からミシミシという音が響き、壁や地面から振動が伝わってくる。どうやら考えている場合じゃなさそうだ。


 俺はシルビアの助言に従って女親分を丸ごと魔法の袋に詰め込むと、シロを急いで(かつ)ぎ上げ、入ってきた方のトンネルへと向かった。


「十人全員揃ってるよね? それじゃ急いで退却だ!」


 遠くの方からガラガラと崩れる音が地下トンネルに反響して聞こえてくる。これは本当に余裕がないみたいだぞ。



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