43.思惑と思惑
気合を入れて森の探索を続けることに決めた俺たちだったが、その日の午後だけでなく、次の日も、そしてその次の日も、まともに妖獣と戦うことはなく終わってしまった。
途中で一応、狩り残しのような妖獣シバーを何匹か狩ったり、薬草の群落が見つかったりもしたので、まったくの空振りではなかったけれど、八人グループだと考えると、期待したような収入にはならないだろう。
まあ、最初から盗賊十人と妖獣シバーにぶつかって、その儲けが大きすぎたからね。期待の方が大きくなりすぎたんだろう。
同行者のスザクからは、この程度のことは日常茶飯事、酷い時は一週間何もないこともあると言われて、そういうこともあるのかと、みんなが納得していた。
「先行しているグループが五組いたんだけど、今は三組に減ったみたいだ。少しは機会が増えるはずだよ。」
「まだまだ日程には余裕があるし、今日もしっかり肉を食って、英気を養おうぜ!」
「そうね。後半、頑張りましょう!」
スマホもインターネットもない世界なので、食事の後はもう寝るだけだ。
ハヤトたち再講習組は例の反省会の後、少し考えを改めたらしく、交替で見張りを始めたようだ。特にダイキとチヅルはこの実地研修の後は別のグループに入ることになるので、その練習という意味もあるらしい。
シロはもちろん、俺もそれに付き合ったりしないでグースカ寝てるけどね。ホムラとマヤには、自分の好きなようにするようにと言ってある。俺は熟睡してるので、彼女たちがどうしているのかは分からない。
《主様~起きて下さ~い。》
(ん? 何? 盗賊?)
そうして熟睡していたら、シルビアに起こされてしまった。こうして起こされるのって前にもあった気がするな、いつだっけ。
〈まだ盗賊ではなくて偵察ね。昨日の夜も来てたわよ。〉
《二人いますよ~。昨夜と同じ人たちですね~。先行している探索者グループから、一人づつ来てるようですよ~。》
つまり、先行する三組のうちの二組か。
(先行してたもう一組はどうなった? まだいる?)
〈もういないわ。先行しているのはその二組だけよ。〉
(そのグループって、見張りを送ってくるぐらいには、すぐ近くにいるってことだね。石でも投げたら届くかな?)
《そこまで近くはないですよ~。》
(こっちから手をだすわけにもいかないよね。もしも襲ってきたら、いつものように皆殺しかな。)
《そうですね~、そうしましょうか~。》
待てよ、どっちかが襲ってきたら、どっちかに見られるってことか。
完全に別口なら見られても別に良いけれど、付き合いのある仲間となると、ちょっと面倒なことになるかも知れないな。
襲ってくるなら問答無用で殺してしまえばいいけど、どっちかがイチャモンをつけてきて、どっちかが仲裁と称して金をゆすり取るとか、そういう使い古されたような汚い手を使ってくる可能性もあるってことか。
(あ、そのグループ同士にやり取りがあるかどうか、見張ってて貰えない? やり取りがあるなら仲間ってことだし、やる時は一緒に始末しないと駄目だし。)
〈ちょっと面倒だけど、わかったわ。〉
なんだかキナ臭い話だけど、グロリアがしっかり見張っていてくれるみたいだし、これでぐっすり眠れそうだ。
次の日も大きな狩りはなく、ちょっとした薬草採取だけで一日が終わった。
まったくの手ぶらということではない。おそらく狩り残しなのだろう、妖獣シバーが一日一匹や二匹は捕れているし、薬草もちょっとは摘んでいる。とはいえ、この不猟が三日連続ともなると、少しだれてくるのも人情っていうものだ。
「明日はどうなんだ? やっぱり後追いで、厳しい感じか?」
「それなんだけどさ、朝にも言ったけど、先行してるグループは二つ。その二つから、目的は良く分からないんだけど、深夜に偵察が来ているみたいだ。かなり近くにいるってことだから、気を付けないとね。」
「偵察って何の用かしら? 盗賊だと嬉しいわね。」
「盗賊は儲かるもんね! 今だと獲物もたくさん詰まってるだろうし、二倍にお得だね!」
サキとチヅルは俺と同じ思想に染まり始めたみたいだな。あの盗賊十人がよっぽど美味しかったんだろう。こんな盗賊の溢れる素敵な世界だもの、狩れる時には狩っとかなきゃ損だよね。
でも確実に狩りたいなら、ちゃんとしっかりと隙を見せて、呼び込まないと駄目だぞ。
そしてその夜にも、昨夜と同様に先行グループから偵察が来たようだ。偵察同士で情報のやり取りをしていたそうなので、こいつらは仲間と見て間違いない。一体何を仕掛けてくるつもりだろうか。
なんだかちょっとワクワクするよね。こんな前振りしておきながら何も仕掛けてこなかったら、ちょっと苦情を入れたくなるぞ。
日が昇って、いつものように素振り、そして森に来てから始めた柔軟体操で体をほぐしてから、俺たちは朝食を摂った。シロはいつものようにステーキを食べて上機嫌だ。
シロの食事の後、俺は自分のステーキを焼きながら、みんなに情報の共有と注意喚起をしておくことにする。
「先行している二グループなんだけど、結託しているようだ。昨夜も偵察に来ていたし動きがかなり怪しい。何か仕掛けてくると思うんで、こちらからは手出ししない、絶対に助けを求めない、助けにも行かない、そんな感じで頼むね。」
「よくわからんけど悪い奴らなんだろ? 見つけ次第、とっとと殺せば楽なんじゃないか?」
「ハヤトそれじゃ、『殺してから考える』になっちゃうよ?」
「ああ、これも駄目なのか、実際だと試験と違って難しいな。」
おお、サキが成長している! そしてハヤト、……お前は頑張ってくれ。
「そうね、うまく罠に嵌めて先に攻撃させるのが、賢者の戦術だもんね。」
「別に罠に嵌めてるわけじゃないよ。でもこっちからは手出ししない。イチャモンをつけられたら警告する。警告を無視されたら盗賊として始末する。こんな感じで頼むね。」
相手が何を企んでいるのか知らないが、こちらも準備は完了だ。準備と言ってもシルビアとグロリアにお願いするだけなんだけどね!
あちらさんがどう動くのかはわからないけれど、こちらの行動はいつも通り、妖獣のいる方向に移動して出会ったら戦う、それだけである。ただし、シルビアにお願いして、先行する二グループの情報を逐一教えてもらうことになっている。
《少し離れていきますね~。これだとこちらの側に来るには数時間かかりそうですよ~。》
(う~ん、襲ってくるかもっていうのは考え過ぎだったのかな? もうちょっと様子を見た方がいいか。)
人を襲って奪うのが当然のような、そんな世の中だ。誰かが近づいてきたら、まず盗賊だと疑って警戒する必要がある、ここはそんな世界なのだ。
別のグループが野営しているのがわかれば、それを監視したいと考えても、何もおかしなことではない。それが丁度俺たちのグループだったってことなのかも知れない。
ただ何日も連続してとなると、何か別の思惑があるようにしか思えないんだよね。二つのグループで打ち合わせをしていたというのも、そこに何か企みがあるように勘ぐってしまう。
それがはっきりするのは、俺たちが妖獣シバーの群れと遭遇した後の事になる。
そして、妖獣の群れとの遭遇は、思っていたよりも早かった。
俺たちはいつもの隊列、ハヤト、ダイキ、ホムラを前衛に、俺とマヤを中間、そしてサキとチヅルを後衛にして森の中を進んでいた。
森の中はいつもと違うところはない。仲間たちも自然体で、特に緊張していたり、硬くなっているような素振りは見えない。
シロは肩車に少し飽きたのか、俺の肩の上で立ち上がったり、頭の上に座ったり、そのまま逆立ちしたりと、市全体と言うよりも、もう完全に好き放題だ。
そんな時、妖獣発見の報告が、ホムラとマヤからほぼ同時に飛んだ。
「妖獣がいるわ、数も方向もわからないけど、注意して!」
「いっぱい。囲まれてる……。」
俺はその報告を聞くと、妖獣の確認よりも先に、二つの怪しいグループの位置を精霊たちに確認した。
(怪しいグループはどう? 近寄って来てる?)
〈いえ、まだ遠く離れたままね。〉
まだ来てない? 妖獣と合わせて襲ってくるかと思っていたけど、違うのだろうか?
ホムラとマヤが感じ取っているのだから、妖獣たちは近くに潜んでいるのだろう。だけど、俺にはどこにいるのかまったく見当もつかない。
ホムラとマヤの索敵感度は、かなり上がっているようだ。これで距離や方向、数などがわかれば最高なのだけど、無い物ねだりしてもしょうがない。いまは周囲全体に、そして自分の担当する方向に、神経を集中するしかないのだ。
「少し歩く速度を落とそう。いつ襲ってくるかわからないよ? バラバラにならないように。全員、気をつけてね。」
「了解だ、任せろ!」
まだ敵の姿は見えないが、おそらく妖獣シバーだろう。すでに俺たちの包囲を完成させて、襲い掛かる時を待っているのだ。
みんなから緊張感が伝わってくる。この中でまったく緊張していないのは、いまだに楽しそうに俺の上で遊んでいるシロぐらいのものだ。
「近づいてる。全方位、二十匹ほど。」
マヤの続報が入るとほぼ同時に、俺たちの周囲の森が揺れた。
来るぞ!




