42.初戦の反省会
さて、回収と解体も無事終わったので、俺たちは休憩も兼ねた反省会を行っている。
妖獣シバーを十四匹、それと探索者崩れの盗賊を十人狩っているので、一応これで実地研修のノルマを果たした状態だ。これでもう町に帰っても実地研修は無事に終了できるんだけど、みんな続行する気でいっぱいのようだった。
「いやあ、後から良く考えたら、俺ら二人めちゃくちゃ釣られて前に出てたわ。」
「戦ってる時は、なんか興奮しすぎて全然わかってなかったよな。」
「そんなに強くないはずなのに、あいつらすばしっこくて剣が当たらないし。」
「妖獣シバーは背が低いから、しっかり腰を落とさないと斬りにくかったでしょう?」
「それも事前に聞いてたよな、やってみるまでわかってなかったけど、賢者の言ってた通りだったぜ。」
「腰を落とすと、もう一匹にたかられるからなあ、思った以上に難しかったよな」
前衛組は前衛組だけで反省会を開いているようだ。ハヤトやダイキも、戦闘中や終了直後にはあんなに頑なだったのに、時間が経てば色々なことがわかってきて、自然と反省しているみたいだね。
初心者だと戦いの最中は周囲が見えなくなるんだよね。そして終わってから冷静に戻ると、いろいろ思い出して恥ずかしくなっちゃう。そういうのも今だけの話だ。みんなが経験を積むにつれて減っていくんだろう。
なんだか知らないけど、ホムラも少し元気が出てきたようだ。戦ったら元気になるとか、どんな戦闘民族だと思わないでもないけど、
後衛組も後衛組だけで反省会をしている。
「最後の方、サキが興奮しすぎちゃって、止めるのが大変だったよ。」
「ああ、ほんと面目ないというか、ごめん……。」
「おかげで私なんか、シロちゃんに良いとこ全部取られちゃったんだよ?」
「経験は大切。」
たしかにサキの暴走は後衛組最大の問題点だったけど、マヤ、それだと何が言いたいのか全然わからないぞ?
そして俺はと言えば、シロを膝に乗せてステーキを焼いていた。
いや、戦闘中に調子に乗って『肉』って口走っちゃったから、シロが食べる気満々になっちゃってたんだよね。まだお昼だからご飯は後だって言ったら拗ねちゃったんで、仕方なくご褒美を用意しているのだ。
反省会なんだし、俺もこうやってしっかり反省しないとね。
実は反省会とは名ばかりで、シロのご機嫌取りの時間を貰っただけっていうのは、ここだけの秘密だ。
そろそろ出発と言う時間になって、シロの頭を撫でている俺の所に、前衛組が連れ立てやって来た。
「なあ賢者、あれ、やっぱりやめた方がいいわ、俺が間違ってた。」
「あれって? なんのことだろう、肉無し芋煮のこと?」
「いや、確かに肉無し芋煮はやめた方がいいけど、そうじゃなくて、『異常なし』ってやつ。反省会でさ、あれはテンパってると勘違いするって話に落ち着いた。」
「あ、やっぱそうだった? じゃあみんなにも伝えて、やめることにしよう。」
俺は前衛組だけでなく後衛組も呼んで、ルールの変更を伝える。
「そうよね、実際やってみて、私もそう思ったわ。」
「ちょっと癪だけど、タカシの言う通りだったわね。」
「ああ、俺たちはちょっとだけ魔獣シバー狩りの経験があったからね。」
あんなものは経験があればすぐわかる。前後左右どころか上下も含めて、どこから魔獣が襲い掛かってくるのかわからない、その緊張感っていうのはちょっと半端じゃないのだ。
そんないつどこから襲われるかわからない中で、「異常なし」なんて言葉が聞こえてきたら、その言葉に縋りたくなるに決まっている。
「そういえば、賢者は何かこう、グループとしての反省点みたいなものはないの?」
「グループの? そうだな、あると言えばあるな。」
チヅルに聞かれて俺は少し考えると、それに答えた。
「俺たちはみんな、なんだかんだいって、まだ初心者だよね。もちろん俺も含めて。一人一人がこう、ちょっとづつでいいから、強くなれればいいかなって思った。」
例えば二人で三匹の妖獣シバーを足止めする腕があるなら、さらに鍛えて一人で二匹の足止めを出来れば、もう一人は一対一でシバーを倒すことが出来るようになる。それなら二人で三匹のシバーを倒すのも余裕になるはずだ。
そうやってみんなが少しづつ、個人技で今よりも強くなれば、グループとしてかなり強くなれるんじゃないかな。
「それはそうだな、俺もハヤトも、それにサキもだが、賢者よりは剣技の腕は上だと思うのに、結局一匹も妖獣を仕留められていないからな。」
「それで突っ走ったって結論だったろ? 自分で仕留めるより仲間に頼れ、って話に落ち着いたじゃないか。」
「いや、でもなあ、やっぱり自分で仕留めたいじゃないか。」
「それもそうなんだよな……。」
もしも自分で仕留めたいのならば、か。まあそうだよね。
「やっぱり腕を上げるしかないかな。」
「ああ、やっぱりそこかぁ。」
「特訓だ! 特訓するぞ!」
「賢者は何か良い特訓方法を考えてね?」
「『カシコ』に続く、『ツヨイ』みたいな奴ね!」
いや、無茶ぶりはやめて……。
そうして反省会で気合を入れた俺たちだったが、午後はなかなか妖獣に出会うことができないでいた。
「見つからないわね。タカシ、本当にこの辺りなの?」
「ああ、精霊さんはそう言ってるんだけど、確かに妖獣の影も形も見当たらないね。」
「とっくに移動したんじゃねえの? いや、まて、これなんだ?」
「なんだ、ハヤト、どうした?」
ハヤトが見つけたのは焦げ茶色になった血の跡だった。
「……妖獣の血かな、これ。」
嗅いで見ると、少し鉄の匂いがする。間違いなく血の跡だ。どうやらここで妖獣が大怪我を負ったらしい。
「うわ、こっちにもあるぞ。」
「これって、血抜きした跡じゃない? まだ濡れてるし。」
気を付けてよく見ると、辺り一面に血の跡が散らばっている。それに下草を踏み荒らした跡のようなものも見つかった。つまり少し前に、ここで妖獣の群れとの戦闘があったのだ。
「あ~あ、これって先に取られちゃったってことよね。」
「順番だから仕方ないけど、なんか残念だよな。」
(この辺りって、まだまだたくさん探索者のグループがいるのかな?)
《一日ぐらいの距離で先行しているのは、五組ほどいますね~。それ以上だともっと多いですよ~。》
(方向を変えたら空いてるなんてことはないよね?)
〈無いわね。どちらに行っても同じような感じね。〉
《これでもできるだけ空いている方を選んで進んでいるんですよ~。》
そっか。他の探索者の姿は目に見えなくなったし、午前中に妖獣の群れと戦えたのでわからなかったけど、見えないだけで周囲にはまだ探索者がいるわけだ。
言われてみれば、その通りだね。この森では一週間から二週間は狩りを続けるのが普通なのだ。森に入ってまだ二日しか経っていないのだから、グループとグループの間隔が開いただけで、まだまだ周囲には人が多いのだ。
「精霊さんに聞いてみたら、俺たちより先行している探索者が五組ほどいるそうだよ。」
「うわ~、まだ結構いるんだな。」
「そうなるとかなり厳しいか。」
普段だと、狩りをする探索者と、戻って休暇をとる探索者が半々ぐらいなのだけど、今は草原の火事の影響で、ほとんどの探索者が狩りをしていると思われる。
つまり通常の倍ほどの探索者が森で活動しているわけだ。しかもそのほとんどが、火事の影響の少ないところに集中して獲物を取り合っているのだ。そりゃ獲物にありつけないのも当然のことだった。
「まだ、もうちょっと頑張ってみるだろ?」
あと数日はこの状況が続きそうだけど、みんなはどうしたいか、聞いてみることにした。こういうのって、しっかり意思を統一しておかないと、あとで揉め事になりそうだし。
「当然だな! 雪辱戦をしないと気が済まないからな。」
「おうよ! 次はしっかりグループを守って見せるぜ。」
ハヤトとダイキはやる気に満ちているようだ。
「芋は増えたけど、まだ家へのお土産にするお肉が足りないのよ。」
「魔法の袋が貰えたので、売り上げは充分だけどね~。」
サキとチヅルは、まだ稼ぎ足りないようだね。
「目的は達成してますけど、一週間ぐらいは粘りたいですね。」
「調味料はまだ十分あるよ。」
ホムラとマヤも余裕がありそうだし、大丈夫かな。
シロは……俺に肩車されてご機嫌だ。お前、肩車気に入りすぎだろ。




