41.ヒーロー登場
俺の見たところ、サキとチヅルの後衛二人は、ハヤトやダイキと比べれば、よっぽど落ち着いているようだ。
後衛の二人に妖獣シバーが向かってきたが、釣られて前に出過ぎることもなく、しっかりとその場に留まりながら、うまく妖獣の攻撃をいなすことが出来ている。
それも偏に、開幕から勝手に突っ走っていったハヤトたちのお陰かも知れない。彼女たちにはおそらく自覚は無いだろうが、彼らのあまりの馬鹿さ加減が、逆にサキとチヅルを落ち着かせることに役立っているのだ。
でも彼女たちにとっても、これが初めての実戦であることには変わりない。何かのバランスが変われば、いきなりパニックになる可能性が無きにしもあらずってとこだ。
俺はサキの横から走り込み、彼女が牽制し続けている妖獣シバーに剣の一撃をぶち込んだ。そして返す刀でもう一匹にも一撃、一瞬にして二匹を葬り去る。
チヅルと戦っていた一匹は、その様子に動揺したのか逃げ出そうとしたが、その判断は随分と遅かったようだ。さらに走り込んで放った俺の袈裟斬りが、見事にその首を切り落としていた。
これで後衛を襲った妖獣シバーは倒したが、もちろんそれで終わりではない。引きずり出された前衛の三人に合流しなければならないのだ。こりゃけっこう大変かもしれないなぁ。
前衛の様子は良く見えないが、かなりの数の妖獣シバーと戦っていることだけはわかる。早く合流して救出しなければ危険だ。
しかしこういうときには、押っ取り刀で駆けつけるよりも先に、絶対にやらねばならない事がある。それは安全の確認だ。
何を悠長なことをと思われるかも知れないが、狡猾なシバーのことだ。さらにもう一段、何か仕掛けをしていないとも限らない。それに別口の妖獣が来援する可能性もゼロではないのだ。
急がば回れ、なんて言葉もある。安全が確認できてこそ、落ち着いて最速での救援が可能なのである。
「俺が前、マヤが中央、二人はそのまま後ろね。この隊列で周囲を警戒しながら前衛を追いかけるよ。何があっても慌てずに、落ち着いて周りを良く見てね。」
「うん、主様。」
「わかったわ、急ぎましょう。」
シロは俺の肩にまたがったまま、キャッキャとはしゃいでいる。楽しむのはいいけど、剣が振りにくいんだよね。それと俺の髪の毛を手綱のように掴むのはやめてほしい、いや、目を塞ぐのはやめて! 前が見えないってば!
警戒はしていたが、特に追加の襲撃も何もなく、俺たち後衛組は前衛の戦場へとたどり着いた。状況はかなり厳しい。ハヤトとダイキが三匹のシバーに牽制されて動けない状況の中、ホムラが大群に襲われているのだ。
「主様、早く! これ以上、もう持たない!」
ホムラの叫び声が聞こえてきた、もう一刻の猶予も無いぞ。
「ああ、ホムラが!」
あ、これ、よくわかんないけど、なんかやばい!
その状況を見て、サキが焦りのあまり前へ出ようとするのを、俺はなんとか止めた。
「ちょっと落ち着けって!」
「だって、ホムラが!」
やっぱり感情的になってる……。あまりに感情的になってると、前へ出ても釣られるだけだ。サキは少し落ち着くまで前に出せないな。
「チヅルは左右、サキは後方を警戒。俺とマヤで出るぞ。」
「うん、わかった。」
「私も出るわ!」
「サキ、お前は後方警戒が担当だっただろ? ここで駄々をこねてる時間も、説得する時間もないよ。大丈夫だから、ここは自分の仕事を優先して。チヅルはサキを止めててね。」
こうして落ち着いていられるのも、俺がタワシでそう簡単には死なないからなんだよね。それにホムラやマヤ、シロにはシルビアとグロリアの障壁があるし。
突っ込んだ馬鹿二人には障壁はないけど、本当に命が危なくなったら魔法で助けて貰えることになってるし。
それが無ければ俺だって焦りまくってるだろう。ズルをしているって自覚はある。
ホムラを襲っていた妖獣の内から二匹が飛び出してきて、前に出た俺を牽制しようと襲い掛かってきた。サキに無駄な時間を取られすぎて、絶好の機会を逃してしまったみたいだ。うん、失敗。
「マヤ、このまま突っ込むよ。」
「うん。」
この二匹は無視だ、放っておいても問題ない。もしもこいつらが後ろに襲い掛かったとしても、チヅルがどうとでもするだろう。
俺とマヤがホムラの応援に入ったんだけど、それは残念なことに決定打にはならなかった。ホムラを仕留めにかかっていた妖獣シバーがそれをやめて、俺たち二人のことも牽制する動きに切り替えたのだ。こうなると戦場は膠着してしまう。
前回の狩りでは、こういう時はマヤの障壁で妖獣の動きを止めて狩り取っていた。しかし今は初期のころと比べると、マヤの障壁はかなり小さく抑えられている。これだと障壁で妖獣を留めようとしても逃げられてしまうのだ。
俺はと言うと、飛び出してきた二匹のうちの一匹に左足に噛みつかれている。痛みはどうでもいいけれど、シバーを引きずりながらの戦いなので、どうしても踏み込みが甘くなって逃げられてしまう。左足のシバーを片付けるにも、牽制されてしまってそれもうまくいかない。
さて、どうしよう。これはもう一枚、駒が必要な状況だ。チヅルを呼ぼうか? 後衛の二人をちらっと見ると、何やら二人で揉めているようだ。サキがこっちに加勢しようとするのをチヅルが止めているのかな。
まったく周囲の警戒もしないで何をやってるんだか。いっそのことサキを呼ぶか? いや、それは駄目だ。頭に血が上った奴が入ってきたら、何が起こるかわからない。下手すると全滅だってあり得るからな。
ここはもうグロリアにお願いして、敵を一掃してもらっちゃおうかな~。でもそれって、なんだか負けた気がするんだよね。
シロは相変わらず、肩車されながら俺の頭をペシペシと叩いている。なんともご機嫌だ。
あ、待てよ、その手があったか。
「シロ、周りのワンコどもを狩っちゃおうか。」
「え? いいの~?」
「いいぞ~。お肉いっぱい取れるぞ~。」
「お肉! やる~!」
シロが俺の肩の上から跳んだ。
一度動き出したシロの動きはまさに圧巻という他は無かった。
シロは俺の肩の上から跳ぶと、俺を牽制していた妖獣シバーの上に着地、それと同時に妖獣の首に短剣を突き立てた。そしてすぐにもう一度跳躍すると、今度はマヤを牽制していたシバーを瞬殺、さらにもう一匹の首を切って再度跳躍する。
次に着地したのはホムラを牽制していた妖獣シバーの上だ。もちろんそのシバーは一瞬にしてシロに首を切られて息耐えている。その斜め前にいた妖獣シバーもそのあとすぐに絶命させられていた。
まさに一瞬にして、シロは五匹の妖獣シバーの命を刈り取っていた。なんだよこれ、忍者かよ……。
牽制してくるシバーがいなくなったので、俺も左足に噛みついていた妖獣を上から剣で突き殺して、ホムラのところに駆け寄ろうとした。しかしその時にはもう、残っていた二匹の妖獣シバーは、ホムラと、そしてマヤに始末された後だった。
完全に自由になったホムラが、さらに引き離されていた前衛二人のところに素早く駆け寄る。しかしシロの方が早い。
ハヤトとダイキが手こずっていた三匹のシバーのうちの二匹が、一瞬にしてシロの手に寄って命を絶たれた。そして最後の一匹は、遅れて駆け付けたホムラの手によって、あっさりと首を切断されて命を落としていた。
終わってみれば、かなり危ない場面はあったものの、死者どころか大怪我をする者もおらず、俺たちの圧勝で戦闘は幕を閉じたのであった
「後衛がノロノロしてて、いつまでも来ないから疲れたよ。」
「まったくだな、何やってたんだか。」
「はいはい、そういうのは後ね、あと。まずは獲物を回収して解体しようか。」
「なんだよ、俺たちも解体やるのか? 後ろでサボってたお前らと違って、こっちは疲れてるんだぞ。」
二人ともまだ頭に血が昇ってるみたいだ。疲れているのは本当だろうから、休んでてもいいけど、回収は早く済ませてしまいたい。
今回の狩りはかなり広い範囲になってしまったので、まずは獲物を魔法の袋で回収して一ヶ所に集めてから解体することになった。
前衛二人の所の三匹、そしてホムラのところの八匹を魔法の袋に詰めると、次は後方の三匹を回収するために後方に移動することになる。
「おい、みんな、どこいくんだよ?」
「ちょっと待てよって、おい!」
疲れてへたり込んでる二人を置いて俺たちが後方に移動しようとすると、二人はあわてて立ち上がって追いかけて来る。
「何だよ、賢者、何を怒ってるんだよ。休憩は当然の権利だろ?」
「別に怒ってないって。ただの獲物の回収だってば。疲れてるんだから、そこで座って休んでて良いよ?」
俺は本当に何も怒っていないので、笑ってそう答えた。
「獲物の回収って、おい、どこまで行くんだよ!」
後衛が戦っていたところまでは、かなりの距離がある。それはそのまま、前衛が釣られてしまった距離になるのだ。
戦闘が終わって少し冷静に戻った今なら、自分たちがどれだけ勝手に突っ込んで、後衛からどれだけ離れてしまったのかを理解できるんじゃないかな。
今回の戦闘で狩った妖獣シバーの数は十四匹。
足止め部門では、ホムラが圧巻の八匹、前衛二人が三匹、後衛二人が三匹で並んでいるけど、チヅルは頭に血が上ったサキも止めているから二位だね。
途中でホムラから俺が二匹半、マヤが二匹引き受けたけど、それは数えなくてもいいように思う。
討伐部門では、シロが七匹でぶっちぎりの一位、俺が四匹、ホムラが二匹、それにマヤが一匹という結果だ。
別に数をこなした奴が偉いとは思わない。役割分担もあるしね。それにやっぱり、初めての実戦っていうのは、実力を出し切れないものなのだ。




