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今ごろになって異世界に転生した話  作者: 大沙かんな
#2-1 実地研修に行こう

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39.謎の物体と連帯責任

 俺の目の前の物体は、どう考えても料理とは思えなかった。


 勇気を出して一口食べてみたが、あまりの味に気を失いそうになってしまった。シロは一目見るだけでガン泣きするし、もうこれ、どうするんだよ……。


「ねえ、言いたくないんだけど、これ、どうするつもりなの?」

「おかしいな、ちゃんと指示に従ったはずなんだけど……。」


 サキ、最初から指示に従ってなかったよ! 一度も従ってないよ!


「いやあ、ちゃんと美味しく出来上がる予定だったんだよ!」


 チヅル、どうやったらこれが美味しくなるんだよ!


「大丈夫、食べられるよ!」


 ……マミコ、お前はある意味、偉いぞ。


「お前ら三人、この鍋の中身を食べ終わるまでは肉抜きね。」

「えええ~、そんなあ、それは横暴だよ!」

「そうよ、そうよ、そんなのおかしいよ! グループは共同責任だよ!」

「大丈夫、美味しいよ!」


 ……マミコ、やっぱりお前はある意味、偉いと思う。



 向こうの鍋の方を見ると、マヤが俺たちの惨状を見て半泣きになっていた。せっかく準備していたのにこんな滅茶苦茶にされれば、それは泣きたくもなるというものだ。


「そうだ、一つ言っとくけど、向こうの鍋を食べに行くなよ? もし行ったらこの狩りの期間中ずっと肉抜きだからな。どうしても何か食べたくなったら芋を食え。あと三人とも、マヤにちゃんと謝っとけよ?」


 それだけ言うと、俺は三人のところから離れた。いつまでもこの三人に関わっていられない。今だに泣き続けているシロをあやさねばならないのだ。



 可哀そうに、シロはまだ泣いている。美味しい物が食べられると思ってワクワクしていたら、あんなものを出されるなんて。そりゃ泣くよね。俺だって泣きたいぐらいだ。


「シロ、ほら、草原で捕ってきたウサギがあっただろ、あれ焼いてあげるから泣き止めって、ほら。」

「あうう……。ウサギ?」

「そう、ウサギ。食べるだろ?」

「食べるっ!」


 ウサギ肉を焼いてあげると、やっとシロはしっかり泣き止んで、ウサギの焼き肉をおいしそうに頬張り始めた。サキとチヅルは、そんなシロを(うらや)ましそうに見ながら、俺に文句を言ってくる。


「シロちゃんだけ特別扱いなんて贔屓(ひいき)よ!」

「そうだよ、みんな平等にしないと駄目だよ? 私たちも焼き肉を食べる権利があるよ!」

「馬鹿か、お前ら、シロにアレを食べさせたいのか? そんなもん虐待(ぎゃくたい)だろうが。」

「だって自分たちだけお肉なんてずるい!」

「そうだ、ずるい!」

「阿呆か! 俺だって芋なんだよ! お前らがあれを食べ終わるまでな。」


 サキとチヅルは俺のこの一言でさすがに諦めたようだ。


 シロはウサギを食べ終わって満足したようなので、俺は魔法の袋から芋を取り出し、適当に剥いて塩()でして食べ始めた。うん、不味いっていうか、あんまり味がしないなぁ。


 サキとチヅルの方を見ると、俺にならって芋を茹で始めていた。それを見て、これなら大丈夫そうだと思って放っておいたのは悪かったと思う。気づいた時には、彼女たちは再び、茶色い変な物を作り出してしまっていた。


 これはもう、マミコに頑張って早く完食してもらうしかないな。



 朝からちょっとした騒ぎになったが、その日も移動だけで他には何もなく、無事に一日が終わろうとしていた。


 移動を続けるうちに、人影はさらにまばらになったのだが、採取対象の薬草は見つからず、妖獣の影も見当たらない。シルビアとグロリアにも聞いてみたが、この辺りではまだ難しいという判断だった。


 夕飯はステーキ祭だったが、シロを除く朝食第二班のメンバーは全員、当然ステーキは無しだ。


 サキとチヅルの二人は肉どころか、朝から何も食べていない。ちなみに今回の狩りでは昼食はなしだ。どうもこの界隈では昼食を摂らないか、軽く食べるだけか、どちらかが普通らしいので、今回は俺たちもそれに(なら)うことにしたのだ。


 二人がお腹を空かせている姿を見ると、ちょっと可哀そうな気がしてくる。シロの食事が終わったあとにでも芋煮を作ってやるか、そう思っていたのだが、二人はやらかした。やらかしてしまった。


 ハヤトやダイキが食べていたステーキ肉に横から(かじ)りついたのだ。


「おい、何すんだよ、俺の肉だぞ!」

「良いでしょ、ちょっとぐらい。」

「いや、お前ら今、肉禁止だろうが。」

「良いのよ、ちょっとぐらい。」


 こうして二人の肉禁止は、マミコが鍋を食べ終わるまでではなく、今回の狩りが終了するまでに延長されることが決まった。つまりこの二人はずっと芋だ。もう自業自得としか言いようがない。


 その時マミコはどうしていたかというと、例の謎の鍋をおいしそうに食べていた。やっぱりこいつは只者(ただもの)じゃないな。



「おーい、サキ、チヅル! 芋煮作るけど、お前らも食べるか?」


 二人を呼んだんだけれど、不貞腐れてしまっているのか返事もしない。


「そうか~いらないのか~、それじゃ残念だけど、お前らの分は無しだな。仕方ないよな、これは仕方ない。」

「何よ! 食べるわよ! 食べればいいんでしょ、食べれば!」

「これってイジメだよね。酷い話だよね。」


 いや、別にいらないなら、いらないでも良いんだけど。


「ハヤト、ダイキ、二人もちょっと来てくれ。」

「ん? なんだ?」

「どうした? 何かあるのか?」

「ハヤト、ダイキ、二人はこいつらの分の芋の皮を剥いてくれ。俺は自分の分もあるからちょっと忙しい。」

「おい、なんで俺たちがそんなことを……」

「まあ諦めてくれ。これもグループの連帯責任ってやつだ。別にやらなくてもいいけど、その時はお前らにもこいつらの作った料理を食わせるぞ?」

「くっ、タカシ、それは卑怯だぞ……」


 なんとでも言ってくれ。お前らには肉は食わせてやってるだろうが。俺なんて芋だけなんだぞ。


 その時、元気な声が俺たちの間に響き渡った。


「ごちそうさま!」


 おいおい、マミコ、もう完食かよ……。



 翌朝、マミコがあの物体を完食しているので、俺とマミコは肉解禁だ。サキとチヅルは可哀そうだけど、ずっと芋だけだ。


 ステーキと肉入り芋煮でみんなの朝食が終わったあと、昨夜と同じように、シロの世話でまだ何も食べてない俺と、肉抜きの刑を受けているサキとチヅル、手伝いのハヤトとダイキが集まって、肉抜き芋煮を作り始めた。


「おい、賢者、お前はもう肉ありでいいんだろ? なんで自分の分まで芋を剥いてるんだ?」

「ああ、そうだけど、グループはやっぱり連帯責任だろ? こいつら二人に肉抜きの罰を与えておいて、自分だけ肉を食うってのは、ちょっと違うと思ってな。」

「そうか、連帯責任か。それはそうなのかもな。」


 連帯責任と言っても、何日間か肉を食えないだけのことだ、そんなに大したことじゃない。それよりも、この期に及んでまだ文句を言っているこの二人には、もうちょっと反省して欲しいところだ。



 シルビアとグロリアによれば、今日は昨日と違って、ところどころに薬草や妖獣の影が見え隠れしているらしい。ただ、俺たちはまだそれにありつけていなかった。


(今日はこのまま行くとして、何も戦果が無いようなら、明日からは少し手伝ってもらってもいいかな?)

《いいですよ~。索敵でしょうか~?》

(そうだね。敵のいる方向に誘導してもらう感じで。)

《明日からですね~、了解ですよ~。》


 結局、夕方になるまで俺たちは獲物にありつくことは出来なかった。



 夕食は朝と同じくステーキと芋煮、の予定だったのだが、ハヤトとダイキがなぜかステーキを拒否した。


「なんだ、お前ら、体の調子でも悪いのか?」

「いや、ほら、朝に連帯責任って話、あっただろ? そう言われたら俺も連帯責任じゃないかって思ってな。」

「俺はステーキ食いたいんだぜ? 食いたいんだけどな、そうなると俺だけ食っても旨くない気がするんだよな。」


 こいつらの気持ちはわからんでもない。というか、俺が連帯責任を選んだのも似たような理由なんだろう。


「よーし、なら連帯責任、行っとくか!」

「おうよ!」


 ただ話はそれだけでは終わらなかった。


「私とマヤも連帯責任ですね。」

「責任は感じる。」


 なぜかホムラとマヤまで連帯責任だと言い出したのだ。


「私はただ運が良かっただけで、そっちの班だったら同じことをしてたかもしれないし。」

「料理隊長だから。」


 さらにそこにスザクまでが顔を突っ込んできた。スザクはマミコを引きずってきている。


「そういうことなら、私たちも肉抜きですね。」

「ええ? 私はお肉が!」

「私たちは同行者ですよ? 実地研修のみなさんが肉抜きなのに、私たちがそれを食べてどうするつもりなんですか。(しょ)しますよ?」


 てことは、お肉を食べるのはシロだけってことか。


「ううう、お肉ぅ……。」

「いや、シロは我慢しなくて良いんだって。」

「でも、でも、うわ~ん。」


 泣いてしまった。



 幼児が美味しい物を我慢するっていうのは、ものすごく辛い、魂を削られるほどの事なのだ。


 こうなったらもう、決断するしかない。


「よーし、それじゃ全員で連帯責任だ!」


 泣いているシロの頭を撫でながら、俺は宣言した。


「連帯責任として、サキとチヅルも含めて、全員ステーキは一人一枚づつ。あとは芋煮。マヤはホムラの、ハヤトはサキの、ダイキはチヅルの、そしてスザクはマミコのステーキを焼くのと、芋の皮剥きを手伝う事。俺はシロを手伝う。以上、一切反論は許さん!」


 シロが泣いちゃったし、これはもう、こうでもするしかないよね。


 その後、サキ、チヅル、マミコの三人は、速攻で芋の皮剥き担当から外された。



ここまでお読みいただきありがとうございます。

感謝感激です!


料理といえばカップラーメン作るぐらいの方、謎の物体が食べてみたいという奇特な方、よろしければ、感想や評価をお願いいたします。そして料理得意な方、よろしければ、彼らと作者に料理のなんたるかを教えていただければ幸いです。

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