39.謎の物体と連帯責任
俺の目の前の物体は、どう考えても料理とは思えなかった。
勇気を出して一口食べてみたが、あまりの味に気を失いそうになってしまった。シロは一目見るだけでガン泣きするし、もうこれ、どうするんだよ……。
「ねえ、言いたくないんだけど、これ、どうするつもりなの?」
「おかしいな、ちゃんと指示に従ったはずなんだけど……。」
サキ、最初から指示に従ってなかったよ! 一度も従ってないよ!
「いやあ、ちゃんと美味しく出来上がる予定だったんだよ!」
チヅル、どうやったらこれが美味しくなるんだよ!
「大丈夫、食べられるよ!」
……マミコ、お前はある意味、偉いぞ。
「お前ら三人、この鍋の中身を食べ終わるまでは肉抜きね。」
「えええ~、そんなあ、それは横暴だよ!」
「そうよ、そうよ、そんなのおかしいよ! グループは共同責任だよ!」
「大丈夫、美味しいよ!」
……マミコ、やっぱりお前はある意味、偉いと思う。
向こうの鍋の方を見ると、マヤが俺たちの惨状を見て半泣きになっていた。せっかく準備していたのにこんな滅茶苦茶にされれば、それは泣きたくもなるというものだ。
「そうだ、一つ言っとくけど、向こうの鍋を食べに行くなよ? もし行ったらこの狩りの期間中ずっと肉抜きだからな。どうしても何か食べたくなったら芋を食え。あと三人とも、マヤにちゃんと謝っとけよ?」
それだけ言うと、俺は三人のところから離れた。いつまでもこの三人に関わっていられない。今だに泣き続けているシロをあやさねばならないのだ。
可哀そうに、シロはまだ泣いている。美味しい物が食べられると思ってワクワクしていたら、あんなものを出されるなんて。そりゃ泣くよね。俺だって泣きたいぐらいだ。
「シロ、ほら、草原で捕ってきたウサギがあっただろ、あれ焼いてあげるから泣き止めって、ほら。」
「あうう……。ウサギ?」
「そう、ウサギ。食べるだろ?」
「食べるっ!」
ウサギ肉を焼いてあげると、やっとシロはしっかり泣き止んで、ウサギの焼き肉をおいしそうに頬張り始めた。サキとチヅルは、そんなシロを羨ましそうに見ながら、俺に文句を言ってくる。
「シロちゃんだけ特別扱いなんて贔屓よ!」
「そうだよ、みんな平等にしないと駄目だよ? 私たちも焼き肉を食べる権利があるよ!」
「馬鹿か、お前ら、シロにアレを食べさせたいのか? そんなもん虐待だろうが。」
「だって自分たちだけお肉なんてずるい!」
「そうだ、ずるい!」
「阿呆か! 俺だって芋なんだよ! お前らがあれを食べ終わるまでな。」
サキとチヅルは俺のこの一言でさすがに諦めたようだ。
シロはウサギを食べ終わって満足したようなので、俺は魔法の袋から芋を取り出し、適当に剥いて塩茹でして食べ始めた。うん、不味いっていうか、あんまり味がしないなぁ。
サキとチヅルの方を見ると、俺にならって芋を茹で始めていた。それを見て、これなら大丈夫そうだと思って放っておいたのは悪かったと思う。気づいた時には、彼女たちは再び、茶色い変な物を作り出してしまっていた。
これはもう、マミコに頑張って早く完食してもらうしかないな。
朝からちょっとした騒ぎになったが、その日も移動だけで他には何もなく、無事に一日が終わろうとしていた。
移動を続けるうちに、人影はさらにまばらになったのだが、採取対象の薬草は見つからず、妖獣の影も見当たらない。シルビアとグロリアにも聞いてみたが、この辺りではまだ難しいという判断だった。
夕飯はステーキ祭だったが、シロを除く朝食第二班のメンバーは全員、当然ステーキは無しだ。
サキとチヅルの二人は肉どころか、朝から何も食べていない。ちなみに今回の狩りでは昼食はなしだ。どうもこの界隈では昼食を摂らないか、軽く食べるだけか、どちらかが普通らしいので、今回は俺たちもそれに倣うことにしたのだ。
二人がお腹を空かせている姿を見ると、ちょっと可哀そうな気がしてくる。シロの食事が終わったあとにでも芋煮を作ってやるか、そう思っていたのだが、二人はやらかした。やらかしてしまった。
ハヤトやダイキが食べていたステーキ肉に横から齧りついたのだ。
「おい、何すんだよ、俺の肉だぞ!」
「良いでしょ、ちょっとぐらい。」
「いや、お前ら今、肉禁止だろうが。」
「良いのよ、ちょっとぐらい。」
こうして二人の肉禁止は、マミコが鍋を食べ終わるまでではなく、今回の狩りが終了するまでに延長されることが決まった。つまりこの二人はずっと芋だ。もう自業自得としか言いようがない。
その時マミコはどうしていたかというと、例の謎の鍋をおいしそうに食べていた。やっぱりこいつは只者じゃないな。
「おーい、サキ、チヅル! 芋煮作るけど、お前らも食べるか?」
二人を呼んだんだけれど、不貞腐れてしまっているのか返事もしない。
「そうか~いらないのか~、それじゃ残念だけど、お前らの分は無しだな。仕方ないよな、これは仕方ない。」
「何よ! 食べるわよ! 食べればいいんでしょ、食べれば!」
「これってイジメだよね。酷い話だよね。」
いや、別にいらないなら、いらないでも良いんだけど。
「ハヤト、ダイキ、二人もちょっと来てくれ。」
「ん? なんだ?」
「どうした? 何かあるのか?」
「ハヤト、ダイキ、二人はこいつらの分の芋の皮を剥いてくれ。俺は自分の分もあるからちょっと忙しい。」
「おい、なんで俺たちがそんなことを……」
「まあ諦めてくれ。これもグループの連帯責任ってやつだ。別にやらなくてもいいけど、その時はお前らにもこいつらの作った料理を食わせるぞ?」
「くっ、タカシ、それは卑怯だぞ……」
なんとでも言ってくれ。お前らには肉は食わせてやってるだろうが。俺なんて芋だけなんだぞ。
その時、元気な声が俺たちの間に響き渡った。
「ごちそうさま!」
おいおい、マミコ、もう完食かよ……。
翌朝、マミコがあの物体を完食しているので、俺とマミコは肉解禁だ。サキとチヅルは可哀そうだけど、ずっと芋だけだ。
ステーキと肉入り芋煮でみんなの朝食が終わったあと、昨夜と同じように、シロの世話でまだ何も食べてない俺と、肉抜きの刑を受けているサキとチヅル、手伝いのハヤトとダイキが集まって、肉抜き芋煮を作り始めた。
「おい、賢者、お前はもう肉ありでいいんだろ? なんで自分の分まで芋を剥いてるんだ?」
「ああ、そうだけど、グループはやっぱり連帯責任だろ? こいつら二人に肉抜きの罰を与えておいて、自分だけ肉を食うってのは、ちょっと違うと思ってな。」
「そうか、連帯責任か。それはそうなのかもな。」
連帯責任と言っても、何日間か肉を食えないだけのことだ、そんなに大したことじゃない。それよりも、この期に及んでまだ文句を言っているこの二人には、もうちょっと反省して欲しいところだ。
シルビアとグロリアによれば、今日は昨日と違って、ところどころに薬草や妖獣の影が見え隠れしているらしい。ただ、俺たちはまだそれにありつけていなかった。
(今日はこのまま行くとして、何も戦果が無いようなら、明日からは少し手伝ってもらってもいいかな?)
《いいですよ~。索敵でしょうか~?》
(そうだね。敵のいる方向に誘導してもらう感じで。)
《明日からですね~、了解ですよ~。》
結局、夕方になるまで俺たちは獲物にありつくことは出来なかった。
夕食は朝と同じくステーキと芋煮、の予定だったのだが、ハヤトとダイキがなぜかステーキを拒否した。
「なんだ、お前ら、体の調子でも悪いのか?」
「いや、ほら、朝に連帯責任って話、あっただろ? そう言われたら俺も連帯責任じゃないかって思ってな。」
「俺はステーキ食いたいんだぜ? 食いたいんだけどな、そうなると俺だけ食っても旨くない気がするんだよな。」
こいつらの気持ちはわからんでもない。というか、俺が連帯責任を選んだのも似たような理由なんだろう。
「よーし、なら連帯責任、行っとくか!」
「おうよ!」
ただ話はそれだけでは終わらなかった。
「私とマヤも連帯責任ですね。」
「責任は感じる。」
なぜかホムラとマヤまで連帯責任だと言い出したのだ。
「私はただ運が良かっただけで、そっちの班だったら同じことをしてたかもしれないし。」
「料理隊長だから。」
さらにそこにスザクまでが顔を突っ込んできた。スザクはマミコを引きずってきている。
「そういうことなら、私たちも肉抜きですね。」
「ええ? 私はお肉が!」
「私たちは同行者ですよ? 実地研修のみなさんが肉抜きなのに、私たちがそれを食べてどうするつもりなんですか。処しますよ?」
てことは、お肉を食べるのはシロだけってことか。
「ううう、お肉ぅ……。」
「いや、シロは我慢しなくて良いんだって。」
「でも、でも、うわ~ん。」
泣いてしまった。
幼児が美味しい物を我慢するっていうのは、ものすごく辛い、魂を削られるほどの事なのだ。
こうなったらもう、決断するしかない。
「よーし、それじゃ全員で連帯責任だ!」
泣いているシロの頭を撫でながら、俺は宣言した。
「連帯責任として、サキとチヅルも含めて、全員ステーキは一人一枚づつ。あとは芋煮。マヤはホムラの、ハヤトはサキの、ダイキはチヅルの、そしてスザクはマミコのステーキを焼くのと、芋の皮剥きを手伝う事。俺はシロを手伝う。以上、一切反論は許さん!」
シロが泣いちゃったし、これはもう、こうでもするしかないよね。
その後、サキ、チヅル、マミコの三人は、速攻で芋の皮剥き担当から外された。
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