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今ごろになって異世界に転生した話  作者: 大沙かんな
#2-1 実地研修に行こう

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38.山分けと料理隊長

 スザクの言論封殺(せつめい)の後も、しきりに色々としつこく聞かれたのだけど、それも盗賊からの剥ぎ取り品の山分けを始めるまでの話だった。


「盗賊の持ち物は討ち取った人の物になるよ。ざっと見たところ現金は少ないね。魔法の袋と剣と短剣が十個づつ、あと魔法ランプが二つってとこだな。それ以外は持って帰っても売れないだろう。これとは別に、協会で討伐報酬も貰えるはずだけど、それは八人で頭割りだね。それじゃ、必要な物、使いたい物を山分けしようか。」


 規則では全員で分けることになっている。お金ならそれも簡単だ。しかし物は全員では分けられない。


 全部売り払って全員で分割してもいいのだけど、売値と買値の差が大きいので、もしも持っていない物や必要な物があるなら、売らずにその人が持って行った方がいい。


 つまり山分けだ。


「山分けだって? どういうことだ?」

「売ってお金にして分けるより、それが欲しい、使いたいって人で分けてから、残った分をお金にして分配した方が良いだろ?」

「ああ、そういうことか。」

「そうね、乗ったわ。」


 というわけで、欲しい物の取り合いの開始だ。


 ルールは簡単。儲かるから欲しい、っていうのは一切無し。あくまで使う物、必要な物に限られる。もちろん予備に一つ二つ欲しいというのは有りだが、それ以上持っている場合は無しだ。


 もう一つ、取り合いに参加できるのは実地研修組だけだ。スザクとマミコは同行者なので、取り分が一切無い。可哀そうだけどそれが実地研修の決まりなのだ。



 俺たち四人はどれも余っているのでパス、魔法の袋は再講習組が一人あたり二枚づつ取った。魔法ランプを持っていなかったサキとダイキがランプを取り、残りの二人がその代わりに追加の魔法の袋をもらっていた。


 剣と短剣は四人が一本づつ取ったので六本づつ余っていたが、スザクとマミコが売って欲しいというので、全員の了解のもとで一本づつタダで渡すことにした。いくらそれが決まりだとはいえ、何もないというのはさすがに可哀そうすぎるからね。


 残りの剣と短剣は町に戻って売ってからお金を分配だ。鎧など、それ以外の物は普通なら捨てていくのだけど、俺の場合は綺麗に浄化して素材にできるので、タダでもらえることになった。


 鎧や服、靴などは、綺麗にすれば売れないこともないが、サイズの問題もあるので売れるまでに時間がかかるし、売れたとしてもあまり値段はつかないのだ。


 魔法の袋二枚以上とか、みんな精霊魔法のお陰でかなり儲かったので、精霊さんのことでグチャグチャ言う奴が一人もいなくなった。みんなの表情が笑顔で溢れているし、わかってくれたようで俺も嬉しいよ。


 ちなみに魔法の袋の中身は、ほとんどが芋だった。



 山分けの後は、誰が言うともなしに素振りや柔軟体操などが始まった。このあたりのことは探索者にとっては、いちいち言われなくてもわかって当然の基本の『キ』だ。


 ただ、やってる内容は個人ごとに少しづつ違う。同じ素振りにしても、振り下ろししかしていなかったり、俺たちと同じように切上げや横薙ぎまで入れていたりと色々だ。


「俺は素振りぐらいしかやってないけど、みんなは色々やってるんだな。」

「ああ、俺とサキは、早朝は素振りと柔軟、あと町中にいる時は、軽く走り込みだな。」

「走り込みは私もやってるわよ。長距離走る途中で、何本か短距離ダッシュを入れてるわね。」

「俺は町でも素振りと柔軟くらいだ。やっぱり走り込みはやった方が良いのか?」

「わかんないけど、走って逃げる時に役立つって聞いたんだよ。」

「ああ、そういうことか。逃げる時に途中でバテたら死ぬからな。俺も戻ったら浅のメニューに走り込みを入れるわ。」


 戻ったら俺たちも、走り込みを入れようかな。


「賢者んとこの、向かい合っての素振りはいいな。相手の良いところも悪いところも全部見えるしな。やはりこれも賢者の知恵なのか?」

「ああ、それな。俺たちの場合はホムラを見本にしてたのが、そのまま続いてるだけっていうか……。」

「なんだよそれ、俺の感動を返せよ……。」


 いや、ほんと、すまん……。


「そんなことより、シロちゃんもしっかり素振りをしてるのが偉いわね。」


 褒められて嬉しいのか、シロがご機嫌のニコニコ顔になる。


 シロは俺と同じことをするのが楽しいのか、毎朝ちゃんと一緒に素振りをしている。専用の木刀も作って持たせてあるのだ。


 木刀はチャンバラごっこにも使うので、叩かれても痛くないように、フワフワの素材が巻いてあるけどね。



 軽い運動のあとは朝食だ。俺たちだけならステーキ祭を開催するところだけど、今回は他にも人がいるしどうしようか。


 そう思っていたら、チヅルが声をかけてきた。


「食事なんだけどさ、魔法の袋のお陰でちょっと芋が増えすぎたし、肉を貰うばっかりじゃ悪いんで、朝は芋煮にしてもいいかな?」


 他の再講習組も似たような思いは持っていたようで、特に反対ではない雰囲気だ。肉を食べたい思いとの間で板挟みになって、自分では言い出しにくい感じなのかな。


 でもね、俺は良いんだけどね、ホムラとマヤが死にそうな顔をしているので、芋煮だけにするのはやめないか?


 シロは何のことかわかってないみたいで、俺の体を上り下りして遊んでいる。楽しそうだから良いんだけど、俺の目に指を突っ込むのはやめてほしい。


「どうせなら肉も多めに入れたりして、おいしい芋煮にしたいな。マヤ、挑戦してみない?」


 よし、ここは久々に料理隊長の出番だ。


 ホムラとマヤはここしばらく元気がなかったけど、これでマヤには少しは元気を取り戻して欲しいところだ。ホムラについては……また何か考えよう。


「うん、やってみたい。」


 十人もいるから鍋一つじゃ足りないし、芋の皮を剥くのにだって人手が必要だ。マヤには隊長になってもらい、俺たち隊員を指導してもらおう。


 あ、そういや、ホムラは皮剥き苦手だったような……まあ仕方ない、ホムラについてはまた何か考えよう。



「よし、みんな聞いてくれ。朝食だけど、マヤに料理隊長になってもらって、みんなで芋と肉の煮物を作ることになった。十人分を一度に作れるほどの大鍋はないから、二つの組に分かれるよ。みんなはマヤの指示をよく聞いて、それに従って欲しい。」

「おお? なんか面白そうだな。」

「連携の練習? みたいな感じ?」

「そうだな、戦闘じゃないけど、これも連携だ。勝手なことをして不味い料理を作ると、全滅だってあり得るぞ。絶対にマヤの指示通りにする、これも訓練だと思ってしっかり頼む。」


 俺は適当な草を摘んでくじを作り、みんなに引いてもらう。


 仲の良い者同士が組んでも面白くないので、スザクとマミコ、ハヤトとサキ、そしてダイキとチヅルは別の組だ。


 俺たち四人も二つに分かれることになる。シロの面倒を他の誰かに見てもらうわけにもいかないので、俺とシロは最初からペアだ。つまりマヤとホムラも最初からペアってことだな。


 そして厳正なるくじ引きの結果、第一班は、マヤ、ホムラ、ハヤト、ダイキ、スザク。そして第二班が、俺、シロ、サキ、チヅル、マミコ、と決まった。


 目の前には芋や肉、各調味料が最初から分量通り並べられている。料理の失敗っていうのは、だいたいの場合、隠し味とか言って勝手に変な物を追加したり、決められた分量通りにしなかったりするのが原因だ。


 今回は最初から決められた分量しか用意されていないので、焦がしたりして失敗することはあっても、食べられないほど不味いものにはならないだろう。


 向こうにはマヤがいるし、スザクだっている。ホムラは不器用だしステーキだってたまに焦がしているけど、勝手なことはしないはずだ。あとはハヤトとダイキ、この二人が暴走さえしなければ、なんとかなるだろう。


 こっちの場合、マミコはまったく信用できないが、サキとチヅルがいる。俺がシロの世話で手を取られても、きっとなんとかなるはずだ。


「みんな、ちゃんとマヤの指示に従ってね。」

「心配しすぎだって。タカシはシロちゃんの世話で忙しいだろうから、料理の方は任せてよね。」

「そうね、賢者には私たちの女子力を見せつけてあげるわ。」

「私は大丈夫。何でも食べられるから!」


 う~ん、マミコ……、本当に大丈夫だろうか。



「それじゃ、最初にお芋と野菜の皮を剥いて、大きめのサイコロぐらいに切ります。お肉も同じくらいの大きさに切ってください。」


 皮剥きからか。ホムラの方を見てみると、おっかなびっくりではあるし、かなりゆっくりではあるものの、ちゃんと芋の皮は剥けているようだ。ちょっと心配し過ぎだったかな。


 しかし問題はホムラではなかった。


 俺の目の前では、何かとてつもないことが起き始めていたのだ。


 サキ、それ芋の皮と違う! お前が剥いてるのは、ほとんど実だよ実!

 チヅル! なんで魔法コンロに火をつけるんだ、火はまだだ、いったん消せ!

 それとマミコ! 肉を手で引きちぎるな! ちゃんとナイフを使え!


 俺は声を上げて三人を止めようとしたが、丁度その時、俺の体をよじ登って遊んでいたシロが、俺の顔に抱きついて視界を完全に(ふさ)いできた。


「し、シロ、もがもがもが~!」


 ヤバい、鼻と口が塞がって、息が出来ない!


 俺はシロをどけようともがいたが、シロはそれが遊びだと思っているのか、キャッキャと笑いながら余計に強くしがみついて離れようとしない。


 そんな俺の鼻に、なんだか肉が焦げるような匂いが漂ってきた。


「なんで、もが! 肉を、もがもがもが!」


 肉を焼くなら先に脂を引け! いや、その前にまだ肉を焼く指示は出てないだろ!


「芋も一緒に焼いちゃおうか。」

「そうね、野菜も焼いちゃいましょう。」

「この良く分からない粉も入れちゃおう!」

「あ、魔法の袋に入ってたハーブも入れちゃお! きっとおいしくなるよ。」


 なんで良く分からない物を入れようとするんだ、それに勝手に変な物を追加するな!


 何とかシロの拘束から脱出出来た時には、俺たちの鍋の中には、なんだか茶色い変な物体が大量に入っていたのだった。



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