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今ごろになって異世界に転生した話  作者: 大沙かんな
#1-1 異世界に転生しよう

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04.そして異世界へ

 どうやら俺は、タワシを四つ持っただけで異世界に行かねばならないらしい。


 まあ、今の俺の魂はタワシ二つ分だしな。タワシ四つなら、換算すれば魂二つ分の計算になる。つまり俺は魂を合わせて三つ持っているようなものなのだ。


 そう、まだ悲観的になる必要はないはずだ。これがラノベならば、駄目スキルだったはずが超優良スキルだったり、成長したらチート級になったりするのが定番だ。このタワシだって使い方次第では大化けして、最強になる可能性は捨てきれない。


「スキル無しで転生なんて、貴方、終わったわね。大気や生物の組成が地球とは異なっているから、三日も生きてはいられないわ。」


 な、なんということだ! それでも、タワシなら! タワシなら何とかできるはず!


「大丈夫ですよ~。今ならタワシ三つと基本スキルセットを交換できま~す。」

「ああ、忘れていたわ、それがあったわね。」


 おお、さすがタワシ! それに交換してもタワシは一個手元に残るわけだ。何という親切設計だ。



 俺は迷うことなく、すぐにタワシを三つ女神様に差し出した。


「お願いします、女神様、交換してください。」

「ええ、わかりました~。それじゃあ、基本スキルセットを(さず)けますね~?」


 女神様の言葉に合わせて、俺の体が淡い光に包まれたかと思ったら、俺の中に何かが生まれてきたのを感じた。


「おお、これが基本スキルセット……」

「いえいえ~、それはただの演出ですよ~。スキルを渡すのはこれからです~。」


 ありがとう、女神様。演出とかどうでもいいから、早くスキル下さい。



 俺が貰うことになった基本スキルセットには、異世界共通語、異世界生命適応、異世界魔力適応の三つの基本スキルが漏れなく入っているそうだ。またそれ以外に二つ、ランダムでそれなりに有用なスキルも入っているらしい。


 基本の三つは全部、名前通りの効果なのだが、一応説明しておくと、異世界共通語は異世界の人間や亜人たちが使っている共通語の会話や読み書きができるようになるスキルだ。これがないと現地の人たちとコミュニケーションを取る事が出来ないので、早い段階で詰んでしまうだろう。


 異世界生命適応は異世界の大気や生体物質に適応して、普通に呼吸したり食事などがとれるようになったりするスキルである。女神様たちが説明してくれたように、異世界では大気などの組成が異なるので、これが無ければ三日と生きていけないらしい。もちろん必須スキルだ。


 異世界魔力適応、こんなスキルがあることからわかるように、これから行く異世界には魔力とか魔法とかがあるらしい。魔力なんて無い世界から魔力のある世界に行くと、最悪の場合パァンってなってしまうらしいので、このスキルも必須なのだ。


 また異世界魔力適応があると、魔法が使えるようになるそうだ。ただし、どれだけ強力な魔法が使えるようになるかは、俺の努力と才能によるみたいだ。魔法の話を聞いてしまうと、大魔法使いセットとかを手に入れられなかったことが悔やまれるね。



 ランダムスキルには、鑑定やアイテムボックスみたいな、超級レアなチートスキルが入っていることもあるらしい。ということはつまり、俺にもまだチャンスが残っているということか。


 ちょっとわくわくしてきたぞ。


「貴方のランダムスキルは、一つ目は健康ね~。」


 健康? 確かに悪くないかも知れない。変な病気になりにくいとか、異世界のばい菌に感染しにくいとか、そういうのは重要なことだ。でも何というか……、地味だな。


 よし、次だ、次いってみよう!


「もう一つのランダムスキルは……、あれ? また健康ね。残念~、同じスキルが被っちゃったわね~。」

「あの……、二つが合体して超健康にグレードアップしたりとかは……」

「そういうのは無いわよ?」

「もう一度選び直したりとかは……」

「本当に残念だけど、ありませ~ん。」

「そんなぁ……」


 痴漢と間違われた挙句にこれでは、あんまりにもあんまりだ。


 俺の抗議を受けて、さすがに女神様たちも考え直してくれたらしい。


「仕方ないから特別にスキルを入れ替えてあげるわ。」

「本当に特別だからね~。もう取り消しとか、やっぱりやめとか、そういうのは出来ないわよ~?」

「はい、わかりました。お願いします!」


 俺は即決で入れ替えて貰うと決めて、女神様にお願いした。あんまり役に立たないスキルになるかも知れないけれど、それでも同じスキルが二つあるよりはマシだ。



「それじゃあ、入れ替えるスキルを決めるわね~。」


 女神様はどこからともなく巨大なサイコロを取り出すと、それを床に転がした。


 ころころっ、ころっ、ころっ、ころっ……、ぽて。


「えっと、何が出たかな? おめでとう~、次元収納特別版、大当たり~。」


 次元収納っていうと、なんでもかんでもいっぱい入るアイテムボックスみたいな奴かな。それも特別版! 容量が無限とか、時間が止まるとか、すっごい奴に違いないぞ。


「この次元収納は特別版だから、入れられるのは一個だけ、それも特定のアイテム専用になってるわね~。」


 残念。特別って、そっちの特別だったか。


「それで、特定のアイテムっていうのは何ですか?」

「えっと、ちょっと待ってね。タワシ、って書いてあるわ~。」


 俺の次元収納には、タワシ一個しか入らないようだ。



 スキルも貰ったことだし、そろそろ異世界に行く準備を始めよう。


 まあ準備と言っても、次元収納にタワシを入れるだけの簡単なお仕事だ。一応だけど、入れるだけじゃなく、出す方も確認しておく。向こうに行ってから困ったことになっても、女神様は助けてくれないだろうからね。


「そろそろ準備は良いかしら~?」

「はい、もうばっちりですよ。」

「それじゃあ、行ってらっしゃ~い。」


 女神様の掛け声とともに、俺の体は淡い光に包まれた。



 ここまでは女神様に出会ってスキルを貰うという、ラノベに良くあるテンプレ的な展開だった。ちょっと微妙に違いがあった気はするけれど、ちゃんと次元収納だって貰ったしね。


 ということは、この後は王女様に出会って、「勇者様、魔王を退治して我が国をお救い下さい!」とかってお願いされるパターンだろうか。


 ……………………。


 …………。


 俺を包んでいた淡い光が消えると、周囲の世界は一変していた。どうやら異世界に到着したらしい。


「これは王女様には出会えないかも知れないなぁ。」


 そう、俺が着いた場所は王城とか神殿とか、そういう場所ではなかった。いや、もしかしたらひと昔前まではそうだったかも知れない。でも今ではただの廃墟のようだ。


 壁や床、石畳の道の跡がところどころに残されているが、今ではほとんどが崩れ落ちている。そして苔や草だけでなく、太い木々までが茂っていて、人の営みの跡を覆い隠していた。


 どうやら滅びたのは昨日や今日の話ではない。数年どころか数十年、あるいはそれ以上前の話だろう。


 俺が今いる場所は神殿の広間か何かだったように見える。そこら中に草が生えているが、石の床だったものが所々に残っていて、石の祭壇のようなものまであった。ほとんど崩れかけているけどね。


 そして祭壇の後ろには、石でできた人の足のようなものが数本だけ残されていた。もしかしたらこれは、女神像が立っていた跡なのかも知れない。


 状況が良く分からないけど、とっくの昔に異世界転生ブームは終了していて、俺は潰れた遊園地の跡地のような、(すた)れた世界に転生しちゃったのかも。



 それにしても俺の異世界生活が、まさか廃墟スタートになるとは思わなかった。王女様に出会えないのは我慢できるけれど、魔王に滅ぼされた世界とかは勘弁してほしいかな。


 状況から考えると、食べ物や水の確保が当面の目標になるだろう。それに異世界共通語なんてスキルがあるんだから、どこかに人が暮らしている町や村があるはずだ。


 まずはこの広間の中に何か役に立つものがないかを、適当に探してみる。


 うん、何もない。


 錆びた短剣とかが落ちていて、実はそれが遥か古代の神剣だったりする展開ではなさそうだ。もしかしたら全てが朽ち果てた後なのか、錆びた短剣どころか、人間の道具っぽいものは何も見つからなかった。


 ただ埋もれているだけで、掘り返してみれば何かあるのかも知れないが、シャベルのような道具は持っていない。あるのはタワシだけだ。おそらくここでは役に立ちそうな物は何も手に入らないだろうな。



 ずっとここに居ても仕方がない。まずはこの滅びた神殿のような広間を出て、周囲を探索するべきだ。


 と、その前に! さっきの祭壇みたいなところで、女神様のことを拝んでおこう。神様がちゃんと実在しているんだから、拝んでおけば何か良い事があるかも知れない。


 俺は祭壇だったと思われる石の前に立って、パンッパンッと二回手を叩いて女神様を拝んだ。


「素敵な彼女が出来ますように。」


 いや、違う、そうじゃない。いや違わないが、それは今じゃない。


「お手柔らかにお願いします。」


 今ここでお願いするのは、こんなもので良いかな。



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