37.精霊さんと十人の盗賊
その晩、寝ている間に盗賊が十匹も処理されていた。
残念なことに銅札ばかりで銀札はおらず、所持金も持ち物もかなりショボかった。おそらくだけど、人が多すぎてまともな狩りができず、焦りやら何やらいろいろと溜まった結果、盗賊に落ちてしまったのだろう。
(盗賊の処理、ありがとう!)
《いえいえ~、盗賊は十人組でしたよ~。一人一殺で行けると思ったみたいですね~。》
〈これはもう、完全に罠ね。〉
こちらも十人で同じ人数とはいえ、全員が寝ているし、女ばかりなうえに幼児までいるしね。確かにもうこれは、罠だとしか思えない。
夜中に寝ているうちに盗賊に襲われて、知らない間に全滅させているというのは、俺やホムラ、マヤにとっては日常茶飯事で、特に驚くようなことではない。
スザクなんかは実際に撃退された側で体験しているので、少し苦笑いを浮かべながらも、この程度のことは当然だと、なぜか得意そうにしている。
しかし再講習組にとっては、状況はまるで違っており、とんでもなくびっくりするような話だったみたいだ。まさに寝耳に水という奴だ。
「おい、タカシ、盗賊に襲われたってどういうことだ? 結界か何かがあるんじゃなかったのか?」
「盗賊十人って……まったく気づかなかったわよ。いったいどうなってるの?」
「俺も完全に寝ていたぞ……。俺たちを起こさずに、どうやって盗賊を撃退したんだよ。かなりの騒動になったはずだぞ?」
「襲ってきたのはいったい何人なの? 逃げた奴がまた襲ってくるんじゃないの? ていうか、本当に盗賊だったの?」
ああ、もうこれはちゃんと説明しないと収拾がつかないかな。
「ちょっと、ちょっと! ちゃんと説明するから、ちょっとみんな落ち着いてよ?」
みんなが少し落ち着くのを待ってから、俺は説明を始めた。
「襲ってきた盗賊は全部で十人、全員倒してるんで逃げた奴はいないよ。魔法の結界は盗賊を近づけないんじゃなくて、襲ってきた奴に反撃して、確実に仕留めるようなものなんだ。今回の奴らは短剣を抜いて殺そうとしてきたんで、そこで仕留めたみたいだね。」
まあ、かなり適当な説明だとは思うけど、嘘は言ってない。
「おい、なんだよ、その魔法は! そんな魔法があるわけないだろ!」
「そんな便利な魔法なんて、聞いたことないわよ!」
「あるんだから仕方ないじゃないか。それに今まで聞いたことが無かったかも知れないけど、今こうして聞いているじゃないか。何事にも初めてっていうのはあるものだよ?」
「そんないい加減な説明があるかよ! ちゃんと全部吐け!」
精霊さんたちのことは秘密ってほどのものじゃないんだけど、なんだか面倒くさいことになりそうだから、わざわざ自分からは言いたくないんだよね。
今はもう面倒くさいことになっているし、このまま黙っている方が面倒くさいから、別に喋ってしまっても良いだろう。
俺は出来る限り嘘はないように、精霊さんと魔法について説明を始めた。
「魔法について説明してもいいんだけど、俺はかなり遠いところから来たから、この辺りで使われている魔法のことには詳しくないんだよね。だから変に思ったり、隠し事をしていたりするように感じるかも知れないけど、そういうことじゃないのは理解して欲しいんだ。」
「私は魔術師です。魔法の話であれば私もお聞かせいただきたいのですが、よろしいですか?」
「ああ、スザク、歓迎するよ。」
スザクは俺の忠実な僕だし、彼女が話に入ってくれるのであれば、どう転んでも悪いようにはならないだろう。
「初めに断っておくけど、結界の魔法がどんなものなのか、どうやっているのかなんてことは、俺はまったく知らない。」
「おい、ちょっと待て! 説明するんじゃないのかよ!」
「ちゃんと全部説明するから、まずは聞けって。」
また混乱しそうになったので、落ち着くまで少し待ってから、俺は話を続ける。
「知らないのには理由があって、魔法は俺自身が使ってるわけじゃなくて、精霊さんに頼んで使って貰ってるからなんだ。」
「精霊魔法……ですかね。このあたりではもう失われたと言われている魔法ですが、まだしっかり残っている地域があるのですね。世界は広いです。」
スザク、なんかそれっぽい解説ありがとう。
「この魔法って精霊魔法って言うんだね。俺が精霊さんにお願いをして、それを精霊さんが受け入れてくれたら、精霊さんがそんな魔法を使ってくれる、そういう仕組みになってるんだ。もちろん精霊さんにも都合があるから、受けてくれる時もあれば、受けてくれない時もあるよ。特に複雑なお願いだと、面倒臭がって受けてくれないことが多いかな。自分でやれとか言われるよ。」
みんなを見ると、信じられない、というか、信じきれない、というような顔をしている。そりゃそうだろう。俺だって自分のことじゃなければ、こんな与太話を信じたりしないし。
「精霊さんって俺たちみたいに眠る必要がないんだよね。だから夜中にもずっと起きていて見守ってくれているんだ。それが俺の言ってた『魔法の結界』の正体ってわけ。で、近づいてくるぐらいならいいけど、もしも襲ってきたら倒すようにもお願いしておいたんだ。
人間ならああする、妖獣ならこうするって色々細かい指定をしてもいいけど、面倒臭くなるから受けてくれない可能性が高いし、そんなお願いばっかりしてると精霊さんに嫌われて、二度とお願いを聞いてもらえなくなるかも知れないから、やりたくないかな。」
俺はほぼ全部の説明を終えたが、それでもまだみんな、信じられない、というか、信じきれない、という顔のままだ。これ以上は説明することなんて無いんだけど、どうしたらいいのかな。
「本当はまだ信じられないけど、無理やり信じるとして、その精霊っていうのは突然暴走っていうか、暴れ出すっていうか、いきなり俺たちに襲い掛かってきたりする危険はないのか?」
「う~ん、精霊さんの暴走なんて考えたこともないよ。俺が住んでた所では、精霊さんが勝手に暴れたなんて話は、全く見た事はなかったし、聞いたこともなかったよ。」
そりゃそうだ。日本では精霊魔法なんてものは無いからな。
危険かどうか、安全かどうか、そんな話は勝手にやってくれ。どんなことにだって絶対安全なんてものは存在しないし、存在していないものを証明することはできないんだから。
「あの……奴隷の私の言葉に意味など無いかも知れませんが、私とマヤは奴隷商のところで精霊様にお会いしたことがあります。とても優しくて頼りになる、心の清らかなお方でした。精霊様が暴れ回るようなことなど絶対にございません。」
「……精霊様は助けてくれるし、悪いことはしないよ。」
「まあ、俺たちはその、精霊様とやらには会ったことはないからなぁ。」
「もしも精霊さんっていうのがここにいるのなら、私は会ってみたいかな。」
(出てくるっていうのは駄目だよね?)
〈もちろん駄目よ。わかってるなら聞かないで欲しいわ。〉
《精霊は見世物じゃないですよ~。ホムラとマヤの時は私たちにも責任があったというか、本当に特別だったんですよ~?》
「聞いてみたけど、顔を見せるのは駄目だって。ホムラとマヤの時は本当に特別対応だったって言ってるよ。見世物にしようとするなって、ちょっと怒ってる。」
何か理由があるのかは知らないけど、この二人って極度な引きこもり体質なんだよね。
「魔法の専門家としての意見になりますが、精霊様というのは、制御できない不思議な力というのではなくて、タカシさん個人のお仲間、というかお友達、ということですね。タカシさんと精霊様とはお友達同士なので、いろいろなお願いをしたりされたりする間柄、ということです。そしてどうしても必要とあれば、我々に顔をお見せ下さることもあり得る。どこにも不思議はないし、何も問題は無いのでは?」
「えええ? でも精霊ですよ?」
「精霊なんて見えないし、信じろと言われても……。」
「何も問題は無いのでは?」
「でも精霊……」
「何も問題は無いのでは?」
「しかし……」
「何も問題は無いのでは?」
うわ、この人、なんかうまく説明してくれると期待してたのに、力尽くで黙らせに来たよ……。




