35.再講習組と森へ
実地研修の当日の早朝、俺たちは各自で朝食を摂った後、城門の外で集合した。
俺のグループが四人、ハルトたち再講習組が四人、そして中級探索者グループのスザクとマミコの二人という、けっこうな大所帯だ。
みんなしっかりと防具を装備し、武器を携行している。もちろんシロも同じだ。
俺たちとお揃いになったのが嬉しいのか、シロはそこら中を走り回りたがっているが、今日はハルトたちなど別のグループとの合同なので、残念ながらあまり我がままを許してあげられない。そのため今は俺がシロを抱き抱える状態になっていた。
俺たちが向かう方面の草原はかなり燃え残っていて、遠くまでしっかり緑色に見えている。しかし、少し別の方向に目を向けると、真っ黒な大地が広がっているという、少々不思議な風景が広がっていた。
今日は森に入ることを最優先に、途中での妖獣狩りなどは出来る限り避けるという方針で、俺たちは出発した。
「こうしてみると、かなり広い範囲が燃えたのが分かるな。」
「緑のところに人が集中しているような感じよね。」
「ウサギ狩りなんでしょうけど、これだとウサギより人の方が多いかもね。」
まったく彼らの言う通りで、あまりの混雑ぶりに獲物の取り合いが厳しくて、所々で喧嘩にまで発展しているようだ。
こんな様子だと、とてもじゃないがウサギなんて狩れないだろうな。あいつら結構、周囲の音や気配に敏感だったし、あの人ごみじゃ全く近づいても来ないだろうね。
これだけ草原が混んでいるとすれば、草原からすぐの森の中はどういうことになっているのか。それはちょっと考えれば想像がつく。
「こりゃあ混み過ぎて、採集どころじゃないかもな。今からでも空いてる方に移動したほうが良いんじゃね?」
「ハヤト、その通りかも知れないけどさぁ、やっぱり行ってみなきゃわかんないんじゃない?」
「う~ん、ちょっと走って見て来るっていうには、まだ森は遠すぎるよね。」
「俺は考えるのは苦手だから、賢者の判断に任せるぜ!」
「そうね、斥候失格かもだけど、ここからじゃ状況がわからないし、私も賢者に任せるわ。」
「そうだな、考えることはタカシに任せるのが正解だな。」
「異議なーし!」
四人が期待を込めたような目で、俺の方を見つめてくる。
「え? 俺が決めるの?」
「え? だって賢者がこのグループのリーダーだろ? 頭脳担当だし。」
「え? 俺がリーダーなの?」
「え? だってタカシがこのグループ作ったんだろ?」
なんてことだ、知らない間に俺がグループのリーダーになっていた。
「それで、リーダー。この後はどうするの?」
「え~っと、それじゃあ、このまま進むってことで!」
「「「了解!」」」
理由も何も説明してないのに、俺の適当な一声で、この後の方針があっさりと決まった。
「何も説明してないけど、みんなそれで大丈夫なの?」
「ああ、賢者が言うなら、深い考えがあってのことだろ?」
「タカシのことだから、説明が必要ならしてくれるでしょ? しないならしないで、それにも理由があるってことよね。」
みんながそれにウンウンと頷いている。なんだかこいつら、俺への評価がおかしくないか?
まあ、困ったらシルビアとグロリアに助けて貰うから良いけどね!
〈また私たちをこき使おうと考えてるわね?〉
《駄目ですよ~、自分のことは自分でしないと~?》
この二人、いつも俺をすごく助けてくれるんだけど、助けてくれるか、それとも助けてくれないかの評価基準が良く分からないんだよね。
俺の方も同じように、二人に助けを求めるか、求めないかの基準が自分でも良くわからない。その時の気分次第で対応が変わる、人なんてそんなものだろうし、精霊だって同じなんだろう。
あ、方針を適当に決めたのは本当だけど、まったく考えなしってことじゃないよ。混んでいれば薬草は取り尽くされ、妖獣だって狩り尽くされているだろうけど、それは安全だってことでもあるのだ。
いきなり空いてる所にいけば、薬草も妖獣も狩り放題だろうけど、それは大量の妖獣と戦わなければならないという危険と裏腹なのだ。
それに誰もいないところに入るには、深い藪を切り開かないといけないからね。俺たちの魔法の袋には、準備の時に仕入れておいた長柄の鎌や手持ちの鎌などが入っているけど、できれば使わずに終わった方がいい。
《それはそうと、シロが遠くに行っちゃって迷子ですよ?》
ああ、もう! ちょっと目を離すとこれだから。俺は軽く周囲に言付けると、迷子になっているシロの方に走っていった。
そうして、時にはシロを連れ戻し、時にはシロを追いかけ、そして時には疲れて寝ているシロを抱っこして草原を進み、俺たちは森に辿り着いた。
町から近いところを目指していたのもあって、まだまだ陽は高く、野営の準備を始めるような時間じゃない。
ちなみにシロはここまでの道のりで、ウサギを四羽も捕まえている。かなりの人がいる中でのこの戦果だ。下手したら今日この草原でウサギを狩った人たちの中で、一番の戦果かも知れないぐらいだぞ。この子ってもしかしたら狩りの天才なのかも知れないな。
「それじゃあ、森に入ろうか。」
「やっぱりかなり混んでるわね。」
「これだと、薬草も妖獣も期待できないな。」
「それでもシロなら楽勝なのかも知れないけどね。」
「まさかシロがここまでやるとはなぁ。」
一緒に鬼ごっこしまくったチヅルを筆頭に、シロは再講習組の面々にはそれなりに懐いているようだ。みんなの周りを走り回っては、構って貰ったり、頭を撫でて貰ったりして遊んでいる。
でも何故かわからないけど、ホムラやマヤにはあまり寄り付かないんだよね。マヤはともかく、ホムラはシロには優しく接していると思うんだけどなぁ。
シロは何にでも突撃していくし、俺たちと少し離れたところにいるスザクやマミコの所にまで出張して遊びにいくぐらいだというのに、それだけは本当に謎だった。
「よし、この辺りで右に曲がろう。」
「ん? 何かあったの?」
「いや、何もないけど、あんまり森に深く入ると、出てくる妖獣が強くなるから。」
「ああ、言われてみればそうだな。人が多いからまったく気づかなかったぜ。」
「さすが賢者ね、やっぱりリーダーだけのことはあるわね。」
「俺たちの頭脳担当だからな!」
俺、すぐに調子に乗るんで、頼むからそんなに持ち上げないでね。
俺たちと同じような考えの人も多いのだろう。右に曲がったからと言って、一気に人が減るようなことはない。
それでも密集していた入り口付近から比べると、少しづつ広がっているのだろう。進むにつれて少しづつだが着実に、人の数は減っているようだ。
さらに進んでいると、少しだけ開けたような場所に出た。薄暗い森の中なのでわかりにくいが、もうかなり遅い時間じゃないだろうか。
「少し早いかも知れないけど、ここで大休憩、というか野営にしない?」
「いや、俺はまだまだ歩けるぞ?」
「私たちは森歩きなんかも慣れてないし、明日以降もあるんだから、早目に休憩にした方がいいんじゃないかな?」
「俺は賢者に従うぜ!」
「私も~。ちょっと疲れたし、休憩に賛成!」
「ああ、みんながそう言うなら、俺も賛成だ。別に無理して進みたいってわけじゃないからな。」
チヅルなんかは特に、道中でシロと一緒になって走り回っていたからね。実際にかなり疲れているのだろう。
マヤなんかも疲れているだろうに、今日は何も言って来ないなぁ。というか、マヤだけなくホムラもだけど、今日はほとんど話をしていない気がするぞ。
何か問題を抱えているのかも知れないけど、こっちはただでさえシロの面倒もあって忙しいのだ。自分で解決できないなら、黙ってないでちゃんと言って貰わないと困るんだけどなあ。
少し開けた場所とはいえ、草がそれなりに茂っている。そのままでは火を焚くこともできないので、俺は鎌を取り出して草刈りを始めた。ホムラとマヤも黙って俺に従って草を刈り始めたようだ。
「賢者、鎌まで用意してるのか、さすがだな!」
「ああ、俺たちは森に狩りに来るのはこれが二回目だから。前回は持ってこなかったから、ちょっと苦労したんだよね。」
「そうか、そうだよな。俺たちも次の時には用意しとかないと駄目かな。」
「こういう所だけじゃなくて、藪みたいな場所もあるから、短い鎌だけじゃなくて、長柄の鎌なんかも用意しといた方が良いぞ。」
「そうなってくると、魔法の袋の容量が厳しいわね。」
さすがに鎌は俺たちの分しか持って来ていない。再講習組は俺たちが刈った草を脇の方に運んだりしているが、ちょっと手持ち無沙汰気味だ。
「ハヤト、俺たちは草刈りの間に薪を集めに行こうぜ。」
「おお、そうだな。そうしようか?」
え? 薪? 君たち、焚火なんかするつもりなの?
「料理は魔法コンロだろ? 夜中でも暖かいし、焚火は必要ないんじゃない?」
「えええ? 焚火は基本じゃないのか? 魔法コンロなんて高価な物、持って来てないぞ?」
聞いてみると、再講習組は誰も魔法コンロなんて持っていなかった。俺たちは盗賊狩りで大量に在庫があるんだけどね。
魔法コンロの在庫だが、お店で聞いてみたところ、魔法コンロは中古でも、店で買うと金貨五枚か六枚ぐらいの値段になるのだが、売ると金貨一枚も貰えない。
それが分かった時、あまりの価格差に売るのが馬鹿らしくなって、そのまま魔法の袋のこやしにしてあるのだ。今のところは別に、お金に困ってないからね。
「余ってる魔法コンロを貸してやるから、薪は拾わなくてもいいぞ。」
「なんだよ、賢者、ブルジョワかよ!」
「借りるだけってのも悪い気がするよな、草刈りは交替でやろうぜ!」
「おお、俺もだ、俺にやらせろ!」
俺とホムラの使っていた鎌は、あっという間にハヤトとダイキに奪われ、草刈りの速度が一気に向上した。
それでもマヤ一人が刈る速度に比べたら、勝負になってなかったんだけどね。さすがは元農家、プロの仕事は一味違うぜ。




