34.シロと実地研修
全員揃って受付に行くと、そこには支部長のオッサンがイカつい顔で座っていた。
探索者たちはミハルお姉さんや他の受付のお姉さんの所に行列を作っているが、当然のことながら、オッサンの前には誰一人として並んでいない。
「丁度いいや、空いてる所に行こうか。」
「おい、あれって支部長だろ? 下手したら、殺されるんじゃないのか?」
ハヤトが不安そうにしているが、それは心配しすぎだろう。あのオッサンはあのオッサンで、仕事をするためにあそこに座っているはずだ。
それにたとえ他の受付のお姉さんに了承されても、絶対にあのオッサンは後から文句を言ってくるに決まっている。どうせそうなるなら最初からオッサンに突撃した方が話が早くていい。
「おい、オッサン。偉く暇そうだな? 仕事を持って来てやったぞ。」
「おう、誰かと思えば賢者じゃないか。」
ちょっと待て、なんで支部長のオッサンまで賢者のことを知ってるんだよ……あ、そうか。確かこいつ、初心者講習の講師やってたな。
「あのカシコの法則って奴、かなり良いから支部の標語に決めたぞ。これからはカシコで賢い探索者を目指すってな。なかなかいいだろ?」
馬鹿だ、ここに馬鹿がいる……。
「これで盗賊落ちする奴を減らして、治安を向上させるって寸法だ。これ以上探索者殺しに餌をやるわけにはいかないからな。がはははは。」
しまったなぁ、盗賊が減るかも知れないのか。これは新しい煽り方を考えないと駄目かも知れない。
「別にいくらでも使って貰って構わないけど、今日はちょっと頼みがあってきたんだ。」
「なんだ? 言ってみろ。」
「見習合格者が増えたんで、実地研修の同行者が足りないらしいじゃないか。そこでスザクにハヤトたちへの同行を頼みたいんだが、そういうのってアリなのか?」
「ふむ、そうだな、結論から言えばアリだ。今は協会が仕切っているが、そもそも実地研修は見習本人が自分で同行者を見つけて、頼み込んで行うものだからな。」
おお、アリなのか、それは良かった。
「ただし一つだけ条件がある。賢者タカシ、お前たち三人もその実地研修に参加しろ。」
「えええ? 俺たちは実地研修なしってことに決まったと思うんだけど?」
「実地研修無しで良いとは言ったが、実地研修しちゃいけないと言った覚えはないぞ? まあ、こういうのは縁の物だ、受けられるなら受けとけ。それに同行はスザクだろ? それなら和解したって周りに示すことになるだろうが。」
なんだかよく分からない理論だが、俺がこれを受けなければハヤトたちの実地研修もダメになるってことだ。
周りを見ると、「まさか、断らないよな?」という無言の圧力がすごい。
「いや、断りたくは無いんだけど、シロをどうするのかって問題があって……。」
「そりゃ、どこかに預けるか、それが無理なら連れていくしかないだろうが。心配しなくても、協会支部長の俺が直々に預かってやるぜ? 魂を込めてな!」
そんな支部長のオッサンに気押されてか、シロが涙目になって俺にしがみついてくる。このオッサンにだけは預けたくないな、何をされるかわかったもんじゃない。
なかなかの無茶ぶりだけど、どうせ近い内にシロをどうするか、はっきりさせる必要がある。それに俺の心はもう決まっている。あと必要なのは一つだけだ。
「シロ、この悪徳ジジイのせいで、俺はしばらく出かけることになった。ちょっと危ない場所だ。お前は一人で留守番するか、それとも一緒に来るか、どっちがいい?」
「タカシ、そんな小さい子に何を無理なことを……」
「いや、いくら子供だからって、ここに本人がいるのに、俺たちが勝手に決めるのは違うだろ?」
「いや、それはそうだけどさ……」
子供の意思を尊重する、そして俺たちはそのために最善を尽くす。それでいいのだ。
「シロ、どっちがいい?」
俺はもう一度、シロに訪ねた。
「ぬし~、一緒に行く~。置いてかないで~。」
よし、決まりだ。泣きながらしがみついてくるシロを撫でながら、俺は裏でシルビアとグロリアにシロの安全を頼みこむことも忘れない。
(いつもありがとうございます! 今回も宜しくお願いします!)
《しょうがないですね~。まあ良いですよ~。》
〈私たちでちゃんと守ってあげるわ。〉
(ありがとう、助かるよ。)
いくら格好いいことを言ったとしても、すべては精霊二人の力でごり押しするだけだ。そしてそれが俺の生き方だ!
「連れていくことに決めたけど、シロを泣かせた責任を取って、シロを探索者見習に登録しろ。」
無茶振りには無茶振りで返す、これもまた俺の生き方だ!
「お前、そんな小さな子供を登録しろなんて、何て無茶な……」
「先に無茶を言ってきたのはそっちだ。絶対に嫌とは言わせんぞ?」
自分でもまったく理屈になっていないと思うが、さきほどのオッサンを見てもわかるように、こういう物は勢いが大切なのだ。
「お、おう。わかった。そうしておこう。」
よし、勝った! 俺たちの絆の勝利だ。
シロを妖獣狩りに連れていくことは、俺の中ではもう決定事項だったし、別にシロの登録なんかどちらでも良かったんだけどね。でも一人だけ仲間外れにするのは、やっぱり可哀そうだと思うだろ?
これが探索者協会イナーカ支部に、史上最年少探索者が爆誕した瞬間だった。
受ける依頼は常設の薬草採集、出発は三日の早朝とその場で決まった。
探索者見習の木札を貰ってニコニコしているシロを抱きあげ、俺たちは元の訓練場に戻る。
「それにしても、賢者、本当にその子が一緒で大丈夫なの?」
「ああ、こう見えてシロは強いからな。な? シロ。」
「な? ぬし~。」
見ているとただキャッキャとはしゃいでいる幼児にしか見えないが、シロは運動能力抜群で身のこなしがとても軽いのだ。鬼ごっこをしても俺だけでなく、ホムラやマヤもシロを捕まえることはできないぐらいだ。
《なんだか出会った時よりも、シロの神気が増えてきてる気がしますよ~。》
〈私たちのように、主様の神気を取り込んでいるのかも知れないわね。〉
(だけどシロは精霊じゃないだろ? 神気を取り込むって、そんなこと出来るの?)
〈わからないけれど……もしかしたら神の眷属なのかも知れないわ。〉
《そういえば出会った時から主様に懐いていましたよね~。主様の神気を感じ取っているんじゃないでしょうか~。》
神の眷属っていうのがよく分からないが、女神様の子供ってことかな? だとすると女神様って若いように見えて、実はかなりの年齢……ただの若作りってことなのかも知れないな。
痛いっ!
突然、腰に刺されたような痛みが走った。あ、これ、なんだか覚えがあるぞ?
痛っ!
わかりましたって、女神様、ここは年が離れた弟ってことにしておき……
痛っ! 痛いっ!
後で確認すると、やっぱりタワシが少し大きくなっていた。
「ホムラとマヤはいないけど、せっかくみんなが揃っているし、少し連携の確認をしておかない?」
「そうだな、軽く手合わせもして、お互いの実力を確認して置こうぜ!」
サヤの提案にハヤトも同意する。ダイキとチヅルも賛成のようだし、俺にも別に反対する理由は無い。
「そう言えば、賢者って何が得意なんだ?」
「俺か? 少し魔法が使えるけど、剣士志望だな。」
「魔法が使えるのに剣士志望なの? やっぱり賢者って少し変わってるのね。」
「良く分からないけど、つまりここには剣士志望が四人いるってことだろ? それなら充実した手合わせが出来るな!」
あれ? シロと遊んでようと思ったのに、俺も手合わせの方に参加することになってる?
俺たち四人が相手を入れ替えながら手合わせをする間、シロはチヅルと二人で楽しく鬼ごっこをするようだ。楽しいところを独り占めなんて、それってなんかズルいと思うんだ。
まあ、ズルいかどうかは別として、剣術の手合わせは、俺の全敗で幕を閉じた。俺以外の三人はどっこいどっこいの成績だ。
「おい、賢者、ちょっと弱すぎじゃないのか?」
「いや、なんというか……剣はしっかい振れてるように思うけど、相手の攻撃を一切避けようとしないというか、それじゃあ勝てないというか……。」
「確か、盗賊を何人か斬り殺したって話だったと思うんだけど、その腕でいったいどうやったのよ?」
別にどうやったも何も無いんだけど……。
「俺は打たれ強いから、今まで避けた事って無いんだよね……。あと実際の殺し合いだと、気合で勝った方が勝つんで。」
まあ、勝ちはするだろうけど、防具や服はボロボロになるし、シルビアやグロリアに怒られるから、引き分けみたいなものになってしまうけどな。
ちなみに、シロはチヅルの鬼ごっこは、シロの全勝で幕を閉じたらしい。
そして俺は、なぜか頭脳担当ということで、グループ内の話は落ち着いた。




