03.絶対にチートスキルを手に入れるしか!
ふう……。
気が付いたら、俺の目の前では女神様とお姉さまの二人が、白い大理石のテーブルについていて、優雅にお茶を飲んでいるところだった。
「あら、やっと目が覚めたようですね~。」
「貴方、下界から来た転生者だったのね。まさか今時、まだ転生者がいるなんて思わないから、どこぞの下級神が紛れ込んでいたのかと勘違いしたわ。」
「ああ、はい、俺は大宅タカシ、高校生です……、いや、でした?」
状況が良くわからないので、とりあえず名乗っておく。
「貴方はお姉さまに直接触られて、パァンってなっちゃいました~。」
ちょっと待って! パァンってなったら、魂が消えて無くなって、もう転生できないってことだったのでは。だとしたら、俺はなぜここにいるんだろうか。
「うん、つい手が出ちゃったのは失敗だったわね。仕方ないから、貴方の持っていたタワシに色々盛りつけて、魂っぽく修理というか作り直したのよ。どうやら違和感も無いようだし成功のようね。」
「ええええ~、それってつまり、俺、タワシになっちゃったんですか?」
「そうね。貴方の魂はタワシね。でも安心して。タワシ二個分だから、二倍の威力よ?」
二倍の威力ってことは、頑固な汚れでも二倍の速さで綺麗になるとか、そういうことなのだろうか。
「あと、今回のことは、貴方の破廉恥行為のせいだけれど、私が原因みたいな所も無いわけじゃないから、特別に超絶スキルセットを最大三つまでつけてあげるわ。」
「なんだかどこかで聞いたような話ですね。」
「そう? それじゃあルーレットを出すから、その三本のダーツを投げてね。ダーツが刺さったところのスキルが貴方の物よ。」
「やっぱり、どこかで聞いたような話ですね……。」
そして女神のお姉さまが超高速でルーレットを回し、その威力で嵐が吹き荒れ、俺の投げたダーツの矢は一度は刺さったものの、ルーレットを止めた時の勢いで吹き飛んでしまい、予想通り俺はタワシを一個手に入れた。
「あら、残念。ダーツは吸盤じゃないと駄目みたい。」
「なんだか、次の展開もだいたいわかる気がします……。」
もちろん予想通り、吸盤のついた矢は回転するルーレットに当たって貼りついたものの、止めた時の勢いでルーレットの一部をもぎ取りながら吹き飛んでしまい、俺はタワシをもう一個手に入れることになった。
「…………貴方、タワシが大好きなの?」
「いや、別に好きってことは無いんですが……。」
こうなったらもう、大宅タカシから、大宅タワシに改名してしまおうか。
このまま三つ目の矢を投げると、また女神様のたわわに当たってしまう気がする。いや、間違いなく当たるだろう。それだけは何としても避けて、ちゃんとしたスキルを手に入れたいところだ。
「すみません女神様、ルーレットから少し離れていただけませんか?」
「そうね~。また私に当たったりしたら困っちゃうものね~。」
女神様はあっさりと頷いて、ルーレットから大きく離れ、俺の後ろに移動してくれた。よし、これなら女神様に当たることはないだろう。
俺は良く狙いをつけて、ゆっくり回転しているルーレット目掛けて、思いっきりダーツの矢を投げつけた。
「とうっ!」
へろへろへろ~~~ん ぽよんっ!
ダーツの矢は、一度ルーレットに当たったものの、うまく貼りつかずに跳ね返ってしまった。
ぴたんっ!
「いやんっ!」
そして跳ね返ったダーツの矢は、俺の後ろに立っていた女神様の、空いていたほうの胸の先っぽにぴったりと貼りついてしまった。
「もう、駄目ですよ、こんなイタズラしたら~。ぷんすかです~。」
女神様が少し体を動かすたびに、双丘に貼りついた二本のダーツの矢がぷるんぷるんと揺れている。
「服を渡そうにもこれ一着しかないし、困ってしまいましたね~。」
「そうですか、それは困りましたね……。」
神様には神様のルールがあるらしく、言ったことは取り消しが出来ないのだそうだ。ダーツの矢がくっついたものをあげると言ってしまった以上、それを実行しないと神格を失ってしまうのだ。
俺と女神様が二人で困っていると、お姉さまが裏技的な解決方法を提案してくれた。
「それなら、貴女がダーツを二本投げて、当たったところのスキルを彼にあげたらいいんじゃないの?」
「ああ、その手がありました。さすがはお姉さまです~。」
お姉さまが言うには、当たったところ、つまりプルンプルンにはスキルが書いてないため、スキルがあげられない。だからこれは緊急回避として許される、そういう理屈になるんだとか。
俺には全く意味がわからないけど、そういうものなんだろう。
「それじゃあ、私が投げますね~。」
女神様は双丘の先にぶら下がっていたダーツの矢を、すっぽんすっぽんと取り外した。
「えええ~~、それって神器だから、一週間ぐらいは外れないって設定だったんじゃ……」
「私は女神ですから~。」
それもそうか。それに一週間もの間、ずっと胸の先でぷらんぷらんさせている訳にもいかないだろう。
「じゃあ、回すのは私ね。」
お姉さまがルーレットを力いっぱい回す。
グワオオオオオオオオオオオ~~~~~~ッ!
その回転の力で竜巻がいくつも発生し、巻き込まれて飛ばされそうになるが、俺はなんとか頑張って耐えた。
「投げま~す、え~~いっ!」
ドゴオオオオオ~~~~ンッ!
さすがは女神パワー、ふわっと投げたように見えたのにその威力は絶大で、ルーレットは跡形も無く吹き飛んでしまった。もちろんダーツの矢もどこにいったのか、欠片一つ残っていない。
「残念、ハズレです~。残念賞のタワシをプレゼント~。でもルーレットが壊れてしまいましたね。あと矢が一本残っているんですが、どうしましょう~?」
「貴女のルーレットは壊れてしまったけど、代わりに私が持ってきたルーレットがあるから、何も問題ないわ。」
そしてお姉さまはまた、強烈な威力でルーレットを回転させた。やはりものすごい回転力で嵐が吹き荒れることになったが、俺はなんとか気合で耐え忍ぶ。
「それじゃあ、投げますよ~、え~いっ!」
ズバンッ!
おお、今度はルーレットが壊れることはなく、しっかり形を保っている! お姉さまのルーレットはかなり頑丈な作りのようだ。
「じゃあ、止めるわね。」
ギュギュギュギュッ ガガガガガガーーッ!
急ブレーキのせいで煙が盛大に上がり、視界が真っ白に遮られた。濃い煙の向こうに、なんだか赤いものがチラチラと動いているように見える。さらにパチパチという何かが弾けるような音も響いてきた。
「えっと、良く見えないんですが、どうなったんですか?」
パチパチと弾ける音はだんだん大きくなり、白かった煙もだんだん黒く変色し、チラチラしていた赤いものも大きくなって、ゴウゴウと音を立て始めた。
「え? 燃えてる? ルーレットが燃えちゃう! 早く火を消さないと!」
とても焦ったが、俺には火を消す手段が何もない。このままではルーレットが燃え尽きてしまい、どこに当たったのかわからなくなってしまう。
「そんなに焦らなくても良いわよ? ほら。」
お姉さまが指をパチンと鳴らすと、燃え盛り始めていた炎はピタっと消えて、後には焼け焦げたルーレットが残っていた。
「ほらね? ちゃんと燃えずに残っているから大丈夫よ。」
「ああ、お姉さま、ありがとうございます!」
これで何とか、タワシ以外のちゃんとしたチートスキルを貰うことが出来そうだ。
完全に止まっているルーレットを見てみると、女神様の投げた矢はしっかりとルーレットに突き刺さり、完全にめり込んでいた。先っぽは吸盤だったはずなんだけど……まあ、それはどうでもいいか。ちゃんと刺さっていることが大事なのだ。
ルーレット本体はというと、かなり焼け焦げてはいるものの、それは矢の刺さっているのと反対側ばかりで、矢の周辺は綺麗に燃え残っている。
「これなら問題なく読み取れますね……えっと、どれどれ? スカ! 残念~、貴方にはタワシをプレゼントで~す!」
「ええええ~~~! なんでスカがあるんですか! ハズレなしだったはずなのに!」
「あら、私はそんなことを言った覚えは無いわよ?」
「ハズレ無しは私のルーレットですね~。お姉さまのルーレットとは違いますよ~。」
なんてことだ、完全に騙された!
こうして俺の手元には、四つのタワシが残されることに決まったのだった。




