28.得られた物は……
俺たちが空から降りた場所は、どうやら妖獣の溜まり場だったらしい。
それからも妖獣たちの襲撃は何度か続き、俺たちは辛くもそれらをすべて退けることに成功した。残すは倒した妖獣たちの解体と後片付けだけだ。
妖獣クマーやヘビー、シバーなどは肉も美味しく、また皮にも需要があるので、しっかり血抜きをして解体する必要があるのだ。
「妖獣ハチーって食べられないよね? 素材にもならないし、このまま穴掘って埋めちゃう?」
「だめ。討伐依頼がある。頭だけ残して?」
討伐したことを証明するため、妖獣ハチーも頭だけは持って帰らないといけないようだ。
妖獣ハチーは海老のような味がするらしいのだが、体の中には毒を蓄えた袋、毒嚢があり、倒すとそれがつぶれてしまって体中に毒が広がってしまう。だからよっぽど上手く倒さないと食べられないのだ。
俺たちが倒した妖獣ハチーはと言うと……。うん、どれもこれも完全につぶれているね。これじゃあ確かに食べるのは無理だな。
妖獣ハチーは残念だったが、それはそれ。解体も終わったし、残骸もしっかり穴を掘って埋めた。これで妖獣狩りも一段落ついたわけだ。
最後の方はマヤも怯えて震えているだけではなく、しっかり攻撃に参加していたし、しっかり障壁で守られた初心者モードだったとはいえ、少しは練習になったように思う。
「そう言えば講習で、妖獣ハチーの巣には妖獣ハチーの子がいっぱいいて、食べると美味しいって言ってましたよね。」
「それと蜂蜜。甘くて美味しい……らしいね。」
うん、確かにそんな話はあった気がする。
「ちょっと探してみようか。」
(というわけで、グロリア様、シルビア様、お願いします!)
〈主様……貴方はまた、本当に人使いが荒いわね。〉
《そうですね~、まあ良いんじゃないですか~? このまま十時の方向、まっすぐ進んでくださいね~。》
「このまま十時の方向に進むらしいよ。っていうと、こっちかな?」
「はい、行ってみましょう。」
「愉しみ!」
俺たちは妖獣を狩りまくった場所から離れ、シルビアたちが教えてくれた方向に向かって、森の中の道なき道を進み始めた。途中で倒木などで通れない場所もあったが、うまく迂回して目的地を目指す。
「主様、ほら、多分あれですよ!」
「いっぱい飛んでる……。」
妖獣ハチーの巣は、それから少し進んだ先で見つかった。かなり大きな巣のようで、その周りには巣を守るように妖獣ハチーが飛び回っている。俺たちが倒した群れと同じくらい、いやそれよりも多いだろうか。
「あれをもう一回倒すのかぁ……。」
「そういうことになりますね。それじゃあ、行きましょうか。」
「すっごく愉しみ!」
ねえ、愉しみって、俺を剣でゲシゲシ殴ることじゃないよね?
あ、ちょっと待って!
俺はホムラとマヤに両手を掴まれ、そのまま引きずられるようにして妖獣ハチーの巣へと向かっていった。
……ふう。死ぬかと思ったぜ。
最初の群れの時と同じく、俺に集ってくる妖獣ハチーをホムラとマヤで叩き潰す作戦を実行し、時間はかかったものの、俺たちは妖獣ハチーの殲滅をやり遂げた。
うん、俺は頑張った!
「あんなに刺されてもなんともないなんて、やっぱり主様は変態ですね。」
「気持ち悪い。」
俺、めちゃくちゃ頑張ったんだから、少しは褒めてくれても良いんだよ?
「それで、妖獣ハチーの子ってどうやって捕まえるんだ?」
「講習でやったじゃないですか。そのまま魔法の袋に入れれば良いんですよ。そうすれば休眠状態になって、腐らずにかなり長持ちするみたいですね。」
「ああ、そう言えば確かにそんな話だった。」
俺たちはホムラの言葉にしたがって、巣からハチーの子を引っ張り出しては、魔法の袋に詰め込んでいく。妖獣ハチーの子は妖獣ハチーより小さく、だいたいバレーボールより一回り小さいぐらいだったが、毒針は持っていないので、捕まえては袋に入れていくのはとても簡単だった。
蜂蜜には弱い毒があるらしいので、グロリアに浄化の魔法を使って貰い、べとべとしていて俺たちでは取り出しにくいので、それも魔法の力でかなり大きめの器に取り出して貰った。
蜂蜜はあまりにも大量だったので、すぐに器が足りなくなり、急遽そこら辺に生えている大木を輪切りにして大きな器を作って貰い、そこに入れることになった。
正確な容量は分からないが、二リットル入りのペットボトルが六本入った段ボール箱、それが十個分くらいありそうなので、百二十リットルぐらいにはなるだろう。
「折角だし、ちょっと食べてみようか。」
俺は魔法の袋から小皿を三枚出して、採集したばかりの蜂蜜をそこに少しづつ入れて、ホムラとマヤに味見をしてみるように渡した。
「甘い! 美味しい!」
「こんなに美味しいとは思わなかったわ……。」
うん、甘くて美味しいね、これは顔が自然と笑顔になるような味だ。ゲヘヘヘヘ。
《主様の笑顔は、なんでこんなに気持ち悪いんでしょうかね~。》
〈おそらくだけど、心から気持ち悪い人だからじゃないかしら?〉
俺の笑顔は置いておくとして、マヤだけでなく、ホムラまで、お皿ごと舐めるぐらいには美味しかったようだ。
二人で揃って目をうるうるさせながら見つめて来るので、大盛りでお替りを出したのだが、それでも足りなくて、さらにもう一度、お替りを出すことになってしまった。
まあ、確かに美味しかった。俺も皿は舐めたしね!
(妖獣ハチーの巣は確実に見つけていきたいね。)
町では砂糖のような物は見当たらないし、果物などもあまり売られてはいない。この世界では甘味はとても珍しく、貴重なものなのだろう。
もしも蜂蜜が定常的に手に入るようになれば、こんな風にケチケチしなくても済むのである。ちょっと本気で探しても良さそうなくらいだ。
〈私たちも気を付けてみるわね。〉
《甘い物は正義ですね~。》
俺が食べた物の味は、彼女たち精霊にも伝わる。どうやら彼女たちの協力が得られそうだな。
あとは俺が妖獣ハチーに刺されるのを我慢すればなんとかなりそうだ。刺されるのは本当に痛いけど、この甘さのためなら頑張ってみようと思う。
今回は倒した妖獣ハチーの中に潰れていないものもあったので、それもしっかりと回収しておく。どんな味がするのか今から楽しみだ。
妖獣ハチーの巣から少し離れたところに移動して、俺たちは昼休憩を取る事にした。昼食は先ほど倒した妖獣たち、クマー、ヘビー、シバー、それとハチーの食べ比べだ。
ハチーは頭と腹、それに羽を取って、胴体と足を焼いて食べてみることにした。クマーやヘビー、それにシバーの三種類は、普通に肉を削いで塩を振ってステーキだ。ついでに昨日のウサギ肉も焼いてみよう。
「まずは妖獣ハチーからね。」
「ちょっと変わった味ですね、初めて食べる感じかな。これはこれで美味しいかも。」
「殻ばっかり、食べにくい……。」
妖獣ハチーは海老のような味と聞いていたけれど、どちらかというと蟹の方が似ている気がする。特に足の中をほじくり出して食べる感覚は、海老よりも蟹に近い。
確かにかなり食べにくいので、これは煮たり、ダシやタレにしてしまっても良いのかも知れない。
妖獣ハチーの次には、妖獣三種とウサギを焼いて順番に食べてみた。
「クマーは濃厚、ヘビーはあっさり、それとシバーは普通って感じかなぁ。」
「そうですね、クマーは味わい深くて美味しい、ヘビーはちょっとあっさりしすぎかな? シバーはいつも食べてる感じの味ね。」
「クマーは美味しい、ヘビーは味がしない……。」
普通な感じがするということは、簡単に言えば、俺たちの魔法の袋に大量に入っているのは、妖獣シバーの肉ってことだ。
そしてちょっと楽しみにしていたウサギは、残念ながら味はシバーと同じく普通で、若干シバーより味わいが劣る感じだった。
「ヘビーとシバー、それとウサギの肉は、町に戻ったら売っちゃおうか?」
「ですね、それに賛成です。」
「ウサギ……愉しみだったのに……。」
どうやら俺たちは、もう二度とウサギ狩りをすることは無さそうだ。
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ハチミツ大好きという方、ハチミツよりもメープルシロップ派の方、甘いのは苦手な方、いやハチミツとかよりも、むしろハチに刺されるのが大好きな方、よろしければ、感想や評価をお願いいたします。




