27.初めての狩り・怒涛編
俺が武器を木刀から普通の剣に持ち替えてからは、割とサクサク簡単に妖獣を倒すことに成功した。剣ってものすごく強いんだな。
「主様は変態だから、木刀で妖獣を倒す技があるのかと思いましたよ。」
いやだなぁ、ホムラ。そんな技があるわけないじゃないか。
〈ああ、面白かった!〉
《笑わないように我慢するのが大変でしたよ~。》
〈本当にね、息が出来なくて死ぬかと思ったわ。〉
気づいていたなら教えてくれればいいのに。それより君たち、息なんてしなくても大丈夫なんじゃないの?
《防具と服がボロボロじゃないですか~。直すの大変なんですよ~?》
〈どうせ壊れるんだから、最初から脱いじゃいなさい。〉
そして俺は裸で戦う事に決まった。
その後、なんとかお願いしてパンツだけは許して貰えた。鎧も服も靴も、すべて魔法の袋にしまって背負い袋の中だ。つまりパンツ一丁に腰の剣、それに背負い袋を背負った野蛮人コーデだ。
ちなみに、俺の好感度はもう、息をしてない……。
《あら~、また妖獣が近くまで来ましたよ~。》
「妖獣が近いみたいだ、どこだ? 駄目だ、わからん。」
「私にもわからないわ、マヤはどう?」
「見つからない……。」
本当に妖獣の気配なんか察知できるようになるのだろうか。どこからも音なんて聞こえないし、草が揺れるなんてこともない。妖獣の息づかいなんて、そんなものわかるはずがないじゃないか。
それでも俺は辺りを何度も見まわしたのだが、どこにも妖獣の姿は見えない。
〈上よ? 来るわ!〉
「上だって? うわっ!」
グロリアの指摘とほぼ同時に、俺の上から太くて長い胴体を持つ大蛇が降りかかってきた。
その大蛇は俺を押しつぶすように圧し掛かってくると、さらには巻きついて締めあげようとする。俺は抵抗しようと暴れたが、蛇の体はまったく掴みどころがなく、どうにも逃れようがない。
俺は抵抗もむなしく、あっけなく巻きつかれてしまった。そして大蛇の強烈な締め付けが俺に襲い掛かった。
「ぐわぁっ! 痛いっ! これは痛いっ!」
タワシの魂は切ったり刺したりする攻撃には滅法強い。そのことは何度も経験して明らかになっているが、締め上げる攻撃はまだあまり体験したことがない。これはかなり厳しいかも知れないぞ。
「これは、妖獣ヘビーでしょうか?」
「小さ目?」
「そうですね、これだと普通の大蛇よりちょっと大きいぐらいですね。」
二人は妖獣ヘビーに攻撃すること後回しにして、妖獣を観察することに集中しはじめた。
「ホムラ、マヤ、観察してないで、いいから俺ごと斬れ!」
「はい、喜んで!」
「わーい!」
俺の言葉がトリガーとなって、ホムラとマヤのやる気に満ちた攻撃で、妖獣ヘビーはあっという間に斬り刻まれて死体になってしまった。
「痛いっ! 二人とも、攻撃はやめて! 妖獣は死んでるから! もう死んでるから! 痛いっ!」
妖獣ヘビーを倒してからも、二人の攻撃はしばらく止まらなかった。
「ふう、少し焦ってしまって。攻撃の止め時がわかりませんでした。」
「……仕留めそこなった。」
……マヤ、君は何を仕留めようと思ってたんだ? まさか……俺じゃないよね?
今の戦いで剣を吊るしていた帯がズタズタになってしまい、シルビアにめちゃくちゃ怒られた。今のは俺が悪いわけじゃ……いや、俺のせいです。ごめんなさい。
《なんとまあ~、また妖獣が来てますよ~。》
「また妖獣が来たみたいだ。今度はどっちだ? 上? ……じゃなさそうだな。」
「周囲の草むらが揺れてます。一匹じゃないみたい。」
「囲まれてる?」
俺にはまったくわからんが、どうやら二人は妖獣の気配が掴めたらしい。とても優秀だな。俺も主人として鼻が高いぞ。
〈来るわ、全方向!〉
「来るぞ!」
おお、素晴らしい。二人とも大正解だったみたいだ。
まだ俺には妖獣の気配は読み取れていないが、周囲はすっかり取り囲まれているはずだ。もういつ戦闘が始まってもおかしくない。それに備えて俺も剣を抜いて構える。
そんな俺たちの目の前で何かが動いた。
大きな犬、これは妖獣シバーだ! 正面から来るぞ!
真正面から飛び掛かってくる妖獣シバーに向かって、俺は素直に剣戟を放った。俺だって毎朝素振りを続けているのだ。この程度の敵を外したりはしない。まだたった二週間ほどだし、今朝はサボったけどな!
しかし俺の剣は妖獣シバーには当たらなかった。外したわけではない。途中で止められたのだ。
妖獣シバーは一匹ではなかった。正面とほぼ同時に左右からも飛び掛かって、俺の両腕に噛みついてきていたのだ。激しい痛みもそうだが、俺には妖獣を両腕にぶら下げながら剣を振り回すようなパワーは無かった。
正面からの妖獣はなんとか追い払うことが出来たが、両腕の妖獣は俺に噛みついたままだ。さらに追加の妖獣シバーが森から飛び出てきて、俺の両足に噛みついてくる。
「な、何をする、お前ら~!」
どんどん追加で襲い掛かってくる妖獣シバーの群れに、俺は動きを封じられ、引きずり倒されてしまった。
大量の妖獣シバーに押さえつけられて身動きは取れないし、噛みつかれている場所は痛い。
でも大口の怪物に噛み噛みされた時に比べれば、全く大したことは無い。俺はこの程度のことでは冷静さを失うことは無いのだ。もちろん、ただ冷静なだけで何も出来ないけどな!
こうなったら仲間に助けて貰うしかない。ホムラの方を見ると、噛みつかれてはいないものの、どうやら妖獣シバーに囲まれて苦戦しているようだ。ここはマヤに頼るしかないか。
そう考えてマヤの方を見ると、バッチリと眼が合った。彼女は軽く頷くと、妖獣シバーに集られている俺の方に向かって、小走りで駆け寄ってくる。
眼が合った時、俺にははっきりと理解できた。今の彼女の瞳には、戦う者の覚悟の炎が燃えているはずだ。ただ怯えるだけの彼女は、もうどこにも存在しないのだ。
マヤは俺の側に近づくと、剣を構えて妖獣シバーにゲシゲシと切りつけ始めた。マヤだって俺たちと一緒に毎朝素振りをしている。まだまだとはいえ、それなりに剣を振れるのだ。
マヤに張られた障壁は、妖獣を寄せ付けない効果がある。そしてどうやら、マヤの方から妖獣に近寄った場合には、妖獣を捕らえて逃がさない効果があるようだ。俺の胴体に噛みついていた妖獣シバーは、障壁に捕らえられて逃げだすことができず、マヤの攻撃であっさりとこの世に別れを告げた。
もちろんマヤの攻撃はそれだけでは止まらない。妖獣シバーを一匹倒した後も、彼女はなお剣を振り続ける。
げしっ! げしっ! げしっ!
「マヤ、ちょっと待って、それ妖獣違う! 俺の胴体だから!」
げしっ! げしっ! げしっ!
呼びかけてみたが、それでもマヤの攻撃は止まらない。痛い! 痛いからやめて!
なぜか俺への攻撃を止めようとしないマヤの方をよく見ると、彼女の目はギュッと固く閉じられていた……。おい、覚悟の瞳、どこいった……。
どうやらただの勘違いだったようだ。
これは拙い。マヤは何も見てないし、おそらく何も聞いていない。俺は何とか体をねじって、右腕に噛みついている妖獣シバーを、マヤの剣のところに持って行く。
げしっ! げしっ! げしっ!
その妖獣はマヤの剣によって倒された。よし、上手くいったぞ。
右手が自由になった俺は、次は左腕、首と、次々に妖獣をマヤの剣のところに持って行って倒してもらう。
そうして、かなり苦労したものの、俺に取りついていた妖獣シバーは全てマヤの剣によって倒されて、俺の体は完全に自由になったのであった。
そうなると後は簡単だ。俺は苦戦を続けるホムラの元に、いまだにゲシゲシ剣を振り続けているマヤを連れて行って、障壁のせいで動けなくなった妖獣シバーを順番に倒していくだけだ。
マヤ、もうそろそろ剣を振るのは止めてもいいよ?
こうして俺たちは、マヤの大活躍によって、妖獣シバーの群れの撃退に成功したのであった。
「ふう、かなり大変だったけど、何とかなりましたね。」
「頑張った!」
「…………そうだね、すごく頑張ったね。」
ホムラはほっと安心した表情を浮かべている。マヤは満面の笑みだ。
しかし俺は、何か不気味な感じがして、安心する気にはなれなかった。
どこからともなく聞こえてくる、ブーンという低い音。もしかして耳鳴りかな? 二人にも確認してみよう。
「なんか、ブーンっていう低い音が聞こえてくるんだけど。」
「言われてみれば、何か聞こえて来るわね。」
あたりを見回してみても、特に変化は見られない。音が低いうえに、周りには木々がたくさん生えているので、どこから聞こえてくるのかまったくわからない。
「あ、あれ……虫?」
マヤが指さした方向には、まるで蚊柱のような虫の大群が、こちらに向けて急速に近づいてくるのが見えた。
「な、なんだこれ!」
「妖獣よ。妖獣ハチーの群れだわ!」
蚊柱のように見えたもの、ブーンという低い音の正体、それは巨大な蜂。妖獣ハチーの群れだ。それが真っすぐに俺たちに向かって飛んでくる。
妖獣ハチー、その一匹一匹は、バレーボールよりも大きいぐらいだ。大きいのは確かだが、俺たち人間と比べればそこまで大きな妖獣ではない。一対一ならそれほど強敵ではないだろう。
しかし群れとなったら話は別だ。俺とホムラが妖獣ハチーの群れを目掛けて剣を振りまわしたが、全く当たらない。当たったとしても、軽くて丈夫な妖獣ハチーは吹き飛ぶだけで、全く切れない。
「だめだ、斬るのは無理か。」
「講習で習ったとおり、どこかに止まった時に叩き潰すしかなさそうね。」
ホムラが俺のことをしっかり直視しながら結論づけた。
どこかに……はい、そうですね、俺の事ですね……。
痛っ! 痛いぃぃっ! こいつら、めちゃくちゃ痛いっ!
俺は今、妖獣ハチーに集られて、針で刺されまくっている。
こいつらの毒針で刺される痛みは、妖獣シバーの牙なんか全く比べ物にならない。噛まれたり刺されたり、切られたりすることには慣れた俺でも、今までで一、二を争うほどの痛みだ。
しかもそんな妖獣ハチーを、ホムラが俺ごと剣で攻撃してくるのだ。これはもう、二倍の痛さだ。いや、マヤも攻撃してくるので三倍だ。あまりの痛みに体が赤く腫れあがり、角が生えてきそうだ。
そうして何とか片付いた後、俺は自分の体が赤くなっておらず、角も生えていなかったことに、ほっと一安心した。




