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今ごろになって異世界に転生した話  作者: 大沙かんな
#1-5 狩りをしてみよう

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27.初めての狩り・怒涛編

 俺が武器を木刀から普通の剣に持ち替えてからは、割とサクサク簡単に妖獣を倒すことに成功した。剣ってものすごく強いんだな。


「主様は変態だから、木刀で妖獣を倒す技があるのかと思いましたよ。」


 いやだなぁ、ホムラ。そんな技があるわけないじゃないか。


〈ああ、面白かった!〉

《笑わないように我慢するのが大変でしたよ~。》

〈本当にね、息が出来なくて死ぬかと思ったわ。〉


 気づいていたなら教えてくれればいいのに。それより君たち、息なんてしなくても大丈夫なんじゃないの?


《防具と服がボロボロじゃないですか~。直すの大変なんですよ~?》

〈どうせ壊れるんだから、最初から脱いじゃいなさい。〉


 そして俺は裸で戦う事に決まった。



 その後、なんとかお願いしてパンツだけは許して貰えた。鎧も服も靴も、すべて魔法の袋にしまって背負い袋の中だ。つまりパンツ一丁に腰の剣、それに背負い袋を背負った野蛮人コーデだ。


 ちなみに、俺の好感度はもう、息をしてない……。


《あら~、また妖獣が近くまで来ましたよ~。》


「妖獣が近いみたいだ、どこだ? 駄目だ、わからん。」

「私にもわからないわ、マヤはどう?」

「見つからない……。」


 本当に妖獣の気配なんか察知できるようになるのだろうか。どこからも音なんて聞こえないし、草が揺れるなんてこともない。妖獣の息づかいなんて、そんなものわかるはずがないじゃないか。


 それでも俺は辺りを何度も見まわしたのだが、どこにも妖獣の姿は見えない。


〈上よ? 来るわ!〉


「上だって? うわっ!」


 グロリアの指摘とほぼ同時に、俺の上から太くて長い胴体を持つ大蛇が降りかかってきた。


 その大蛇は俺を押しつぶすように圧し掛かってくると、さらには巻きついて締めあげようとする。俺は抵抗しようと暴れたが、蛇の体はまったく掴みどころがなく、どうにも逃れようがない。


 俺は抵抗もむなしく、あっけなく巻きつかれてしまった。そして大蛇の強烈な締め付けが俺に襲い掛かった。



「ぐわぁっ! 痛いっ! これは痛いっ!」


 タワシの魂は切ったり刺したりする攻撃には滅法(めっぽう)強い。そのことは何度も経験して明らかになっているが、締め上げる攻撃はまだあまり体験したことがない。これはかなり厳しいかも知れないぞ。


「これは、妖獣ヘビーでしょうか?」

「小さ目?」

「そうですね、これだと普通の大蛇よりちょっと大きいぐらいですね。」


 二人は妖獣ヘビーに攻撃すること後回しにして、妖獣を観察することに集中しはじめた。


「ホムラ、マヤ、観察してないで、いいから俺ごと斬れ!」

「はい、喜んで!」

「わーい!」


 俺の言葉がトリガーとなって、ホムラとマヤのやる気に満ちた攻撃で、妖獣ヘビーはあっという間に斬り刻まれて死体になってしまった。


「痛いっ! 二人とも、攻撃はやめて! 妖獣は死んでるから! もう死んでるから! 痛いっ!」


 妖獣ヘビーを倒してからも、二人の攻撃はしばらく止まらなかった。


「ふう、少し焦ってしまって。攻撃の止め時がわかりませんでした。」

「……仕留めそこなった。」


 ……マヤ、君は何を仕留めようと思ってたんだ? まさか……俺じゃないよね?


 今の戦いで剣を吊るしていた帯がズタズタになってしまい、シルビアにめちゃくちゃ怒られた。今のは俺が悪いわけじゃ……いや、俺のせいです。ごめんなさい。



《なんとまあ~、また妖獣が来てますよ~。》


「また妖獣が来たみたいだ。今度はどっちだ? 上? ……じゃなさそうだな。」

「周囲の草むらが揺れてます。一匹じゃないみたい。」

「囲まれてる?」


 俺にはまったくわからんが、どうやら二人は妖獣の気配が掴めたらしい。とても優秀だな。俺も主人として鼻が高いぞ。


〈来るわ、全方向!〉


「来るぞ!」


 おお、素晴らしい。二人とも大正解だったみたいだ。


 まだ俺には妖獣の気配は読み取れていないが、周囲はすっかり取り囲まれているはずだ。もういつ戦闘が始まってもおかしくない。それに備えて俺も剣を抜いて構える。


 そんな俺たちの目の前で何かが動いた。


 大きな犬、これは妖獣シバーだ! 正面から来るぞ!



 真正面から飛び掛かってくる妖獣シバーに向かって、俺は素直に剣戟を放った。俺だって毎朝素振りを続けているのだ。この程度の敵を外したりはしない。まだたった二週間ほどだし、今朝はサボったけどな!


 しかし俺の剣は妖獣シバーには当たらなかった。外したわけではない。途中で止められたのだ。


 妖獣シバーは一匹ではなかった。正面とほぼ同時に左右からも飛び掛かって、俺の両腕に噛みついてきていたのだ。激しい痛みもそうだが、俺には妖獣を両腕にぶら下げながら剣を振り回すようなパワーは無かった。


 正面からの妖獣はなんとか追い払うことが出来たが、両腕の妖獣は俺に噛みついたままだ。さらに追加の妖獣シバーが森から飛び出てきて、俺の両足に噛みついてくる。


「な、何をする、お前ら~!」


 どんどん追加で襲い掛かってくる妖獣シバーの群れに、俺は動きを封じられ、引きずり倒されてしまった。



 大量の妖獣シバーに押さえつけられて身動きは取れないし、噛みつかれている場所は痛い。


 でも大口の怪物に噛み噛みされた時に比べれば、全く大したことは無い。俺はこの程度のことでは冷静さを失うことは無いのだ。もちろん、ただ冷静なだけで何も出来ないけどな!


 こうなったら仲間に助けて貰うしかない。ホムラの方を見ると、噛みつかれてはいないものの、どうやら妖獣シバーに囲まれて苦戦しているようだ。ここはマヤに頼るしかないか。


 そう考えてマヤの方を見ると、バッチリと眼が合った。彼女は軽く(うなづ)くと、妖獣シバーに(たか)られている俺の方に向かって、小走りで駆け寄ってくる。


 眼が合った時、俺にははっきりと理解できた。今の彼女の瞳には、戦う者の覚悟の炎が燃えているはずだ。ただ怯えるだけの彼女は、もうどこにも存在しないのだ。



 マヤは俺の側に近づくと、剣を構えて妖獣シバーにゲシゲシと切りつけ始めた。マヤだって俺たちと一緒に毎朝素振りをしている。まだまだとはいえ、それなりに剣を振れるのだ。


 マヤに張られた障壁は、妖獣を寄せ付けない効果がある。そしてどうやら、マヤの方から妖獣に近寄った場合には、妖獣を捕らえて逃がさない効果があるようだ。俺の胴体に噛みついていた妖獣シバーは、障壁に捕らえられて逃げだすことができず、マヤの攻撃であっさりとこの世に別れを告げた。


 もちろんマヤの攻撃はそれだけでは止まらない。妖獣シバーを一匹倒した後も、彼女はなお剣を振り続ける。


 げしっ! げしっ! げしっ!


「マヤ、ちょっと待って、それ妖獣違う! 俺の胴体だから!」


 げしっ! げしっ! げしっ!


 呼びかけてみたが、それでもマヤの攻撃は止まらない。痛い! 痛いからやめて!


 なぜか俺への攻撃を止めようとしないマヤの方をよく見ると、彼女の目はギュッと固く閉じられていた……。おい、覚悟の瞳、どこいった……。


 どうやらただの勘違いだったようだ。



 これは(まず)い。マヤは何も見てないし、おそらく何も聞いていない。俺は何とか体をねじって、右腕に噛みついている妖獣シバーを、マヤの剣のところに持って行く。


 げしっ! げしっ! げしっ!


 その妖獣はマヤの剣によって倒された。よし、上手くいったぞ。


 右手が自由になった俺は、次は左腕、首と、次々に妖獣をマヤの剣のところに持って行って倒してもらう。


 そうして、かなり苦労したものの、俺に取りついていた妖獣シバーは全てマヤの剣によって倒されて、俺の体は完全に自由になったのであった。


 そうなると後は簡単だ。俺は苦戦を続けるホムラの元に、いまだにゲシゲシ剣を振り続けているマヤを連れて行って、障壁のせいで動けなくなった妖獣シバーを順番に倒していくだけだ。


 マヤ、もうそろそろ剣を振るのは止めてもいいよ?


 こうして俺たちは、マヤの大活躍によって、妖獣シバーの群れの撃退に成功したのであった。



「ふう、かなり大変だったけど、何とかなりましたね。」

「頑張った!」

「…………そうだね、すごく頑張ったね。」


 ホムラはほっと安心した表情を浮かべている。マヤは満面の笑みだ。


 しかし俺は、何か不気味な感じがして、安心する気にはなれなかった。


 どこからともなく聞こえてくる、ブーンという低い音。もしかして耳鳴りかな? 二人にも確認してみよう。


「なんか、ブーンっていう低い音が聞こえてくるんだけど。」

「言われてみれば、何か聞こえて来るわね。」


 あたりを見回してみても、特に変化は見られない。音が低いうえに、周りには木々がたくさん生えているので、どこから聞こえてくるのかまったくわからない。


「あ、あれ……虫?」


 マヤが指さした方向には、まるで蚊柱のような虫の大群が、こちらに向けて急速に近づいてくるのが見えた。


「な、なんだこれ!」

「妖獣よ。妖獣ハチーの群れだわ!」


 蚊柱のように見えたもの、ブーンという低い音の正体、それは巨大な蜂。妖獣ハチーの群れだ。それが真っすぐに俺たちに向かって飛んでくる。



 妖獣ハチー、その一匹一匹は、バレーボールよりも大きいぐらいだ。大きいのは確かだが、俺たち人間と比べればそこまで大きな妖獣ではない。一対一ならそれほど強敵ではないだろう。


 しかし群れとなったら話は別だ。俺とホムラが妖獣ハチーの群れを目掛けて剣を振りまわしたが、全く当たらない。当たったとしても、軽くて丈夫な妖獣ハチーは吹き飛ぶだけで、全く切れない。


「だめだ、斬るのは無理か。」

「講習で習ったとおり、どこかに止まった時に叩き潰すしかなさそうね。」


 ホムラが俺のことをしっかり直視しながら結論づけた。


 どこかに……はい、そうですね、俺の事ですね……。



 痛っ! 痛いぃぃっ! こいつら、めちゃくちゃ痛いっ!


 俺は今、妖獣ハチーに(たか)られて、針で刺されまくっている。


 こいつらの毒針で刺される痛みは、妖獣シバーの牙なんか全く比べ物にならない。噛まれたり刺されたり、切られたりすることには慣れた俺でも、今までで一、二を争うほどの痛みだ。


 しかもそんな妖獣ハチーを、ホムラが俺ごと剣で攻撃してくるのだ。これはもう、二倍の痛さだ。いや、マヤも攻撃してくるので三倍だ。あまりの痛みに体が赤く腫れあがり、角が生えてきそうだ。


 そうして何とか片付いた後、俺は自分の体が赤くなっておらず、角も生えていなかったことに、ほっと一安心した。



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