23.初めての狩り・出発編
その後、四人組は全力土下座してみたものの、時すでに遅し、彼らの実地研修依頼は失敗として正式処理されることに決まった。
ごちゃごちゃといつまでも騒いでいる四人を後にして、関係のない俺たちは受付のお姉さんと一緒に部屋を出ることになった。支部長の話にあった通り、新しい探索者証を作って貰うのと、報奨金の受け取りのためだ。
事務処理に少々時間がかかるということで、俺たちは先にどんな依頼があるのかを確認することにした。
「目ぼしい依頼がほとんど残っていませんね。」
「あるのは常時依頼の薬草や食肉の採集、あとは森の奥に入って妖獣の討伐ぐらいかな、厳しいなぁ。」
「妖獣は怖いな。」
依頼が貼りだされている掲示板を眺めてみたが、目ぼしい依頼は何もなく、目につくのは常時依頼ばかりだ。俺たちが揉めごとに時間を取られている間に、良い依頼は他の探索者たちに掻っ攫われたらしい。
「無い物は仕方ないよね。この妖獣シバーの討伐で行こうか。」
(戦闘はお任せして良いかな?)
〈わかったわ、任せて貰って大丈夫よ。〉
(ありがとう、お願いするね。)
《それでは私は、お昼寝を担当します~。》
〈シルビア、貴女も戦闘するの。サボるのは許しませんからね。〉
《ええ~~、鬼です~、鬼女です~。》
グロリアだけでなく、どうやらシルビアも助けてくれそうだ。
俺が選んだのは、妖獣シバーの討伐だ。妖獣シバーというのは、犬型の妖獣で、普通の犬よりは大きくて強いが、妖獣としてはそれほど強い部類ではない。
シバーは肉質も良いので、その肉の納品は常時依頼なのだが、どうやら最近数が増えすぎているようで、その間引きが必要だという注釈がついていた。
妖獣シバーと剣で戦うのは、実を言うと俺たちには少し厳しい。ホムラなら問題ないだろうが、俺だと少し危なく、マヤではかなり難しいだろう、そのぐらいの強さの敵になる。
「マヤ、大丈夫だよ。グロリアたちが助けるって言ってくれてるから。」
妖獣討伐と聞いてマヤが涙目になっているので、俺はその頭を軽く撫でておく。
この子は探索者には向いてないんだろうけど、しばらくはこのまま続けて貰うしかないんだよね。ちょっと可哀そうだけど、今は他にどうしようもないのだ。
そのまま受付前のロビーで待っていると、受付のお姉さんから呼び出された。どうやら処理が終わったらしい。
「こちらがタカシさんたちの新しい探索者証です。古い木札は返却してくださいね。」
俺たちは見習の木札を返却し、真新しい銅製の探索者証を手に取った。これで一人前の初級探索者だ。
「それとこれは、みなさんの貯金の残高です。確認をお願いします。」
手渡された紙には、三人の貯金額と、貢献ポイントが記されていた。盗賊狩りの報酬は三分割して、各々の名前で協会に預けることにしたのだ。
ホムラとマヤは奴隷なので、彼女たちには個人財産はない。というか、彼女たちの財産は俺の物でもある。だがこうして分割して預けておけば、彼女たちのお小遣いにもなるし、もしも将来奴隷から解放されたとしたら、その時には彼女たち個人の持ち物になるのだ。
それにしても、思っていたよりも金額が大きいな。やはり盗賊狩りは美味しい仕事のようだ。
「それで何か依頼は受けていかれますか?」
「いや、目ぼしい物が残ってなかったので、適当に常設の妖獣狩りか、薬草の採集でもしようかと。」
「そうですか、それでは気を付けて頑張ってくださいね。」
「お姉さんも、実地研修失敗の事務処理、頑張ってください。」
お姉さんは、「もう終わりました」と、笑顔で答えてくれた。
やはりデキる女は仕事が早いようだ。
受付のお姉さんに別れを告げて探索者協会の建物を出ると、いつもの屋台のいい匂いが漂ってきた。
「ねえ、この後は森に向かうんでしょ? 草原の真ん中でお昼は食べるより、まだ早いけど屋台で何か食べていかない?」
俺たちが向かう森は草原を越えた先にあり、今から向かうと到着は夕方ごろになる。途中で昼食を取るのもいいが、草原のど真ん中で火を焚くのは、色々と不都合があるだろう。
「それもそうか。それじゃ、まだ昼食にはかなり早いけど、何か食べてから行こうか。」
もうすでに、例の串焼きや、焼き肉サンド、そして謎トウモロコシ焼きは完全に俺たちの定番になっている。屋台のオッサンたちともすっかり顔なじみだ。
まだ時間が早すぎたのだろう。残念なことに焼き肉サンドの屋台だけはまだ開いていなかったので、他の屋台でいくつか買い込んでから、俺たちは町の城門を目指して歩き始めた。
楽しく食べ歩きしながら城門に到着すると、そこには『不滅の壁』の四人がイライラしながら待っていた。
なんでこいつらがいるんだよ……。もしかして、お礼参りとかいうやつだろうか。
あのまま会議室でグダグダし続ければ良いものを。せっかく美味しい物を食べて楽しかったのに、まったく台無しな気分だ。
「二人とも、あっちは見ちゃ駄目だよ? 目が腐るからね。」
俺が注意する前に運悪く目に入ってしまったのだろう、ホムラとマヤの二人もかなり嫌な顔をしている。
「おう、お前ら、お仕事にお出かけか?」
「ちょっと顔貸せや、なあ?」
何か話しかけてきているみたいだが、無視だ無視。俺たち三人は彼らから顔を背けながら、城門をくぐり始める。
「おい、ちょっと止まれ、お前ら! 話ぐらい聞けよ、こら!」
「クソガキども、待ちやがれ! 止まらんと、ぶち殺すぞ!」
俺たちはそれでも顔をそむけたままだ。途中で門番さんの方を見ると、顎で、早く行け、と合図を送ってくれていたので、俺たちは軽く頭を下げて、そのまま足早に町の外へと抜けだした。
「止まれよ! ぶち殺されたいのか、ガキども!」
さすがに城門でそんなことを叫べば、門番さんたちが黙ってはいなかった。
「おいおいおい、町の城門で偉く物騒だな、貴様ら。ちょっと話を聞くから、こっちに来てもらえるか?」
「いや、ちょっと待って。あいつらが……。」
「いいから、四人とも、黙ってこっちに来い。」
「えええ! 私たちは何も乱暴なことはしてないよ?」
「ごちゃごちゃ言ってないで来い!」
「おい、逃げるな! 捕まえろ!」
「逃がすな! 応援を呼べ!」
なんだか大騒ぎになっているようだが、俺たちはそれでも振り返らず、逃げるようにして町から離れた。
《あ~あ、四人とも捕まっちゃいましたよ~。》
〈縄をかけられたようね。もう完全に罪人扱いね。〉
《暴れてましたから~。あの分だと、牢屋行きかも知れませんね~。》
それはいいね、このままずっと牢屋の中で暮らしていただきたい。
「まさか城門で待ち伏せとは、迷惑な人たちよね、まったく。」
「うん、かなり怖かった。」
「門番さんたちに捕まったみたいだから、しばらくは追いかけて来られないと思うよ。」
俺が精霊の二人からの情報を伝えると、ホムラとマヤも少し安心したようだ。あんなものに纏わりつかれたら、とてもじゃないが安心して仕事なんかできないからねぇ。
しばらく進んだ後、俺たちは森に行くために街道を離れ、草原へと足を踏み入れた。遠くまで見渡せる広い草原だ。もちろんはるか先には、狩りの目的地である森が見えている。
草原には人影がまばらにあるようだ。俺たちと同じく森に向かっているか、それとも草原で何か動物を狩っているのかも知れない。
〈かなりたくさんウサギがいるわよ、あの串焼きでも使ってる肉ね。狩っとく?〉
(タレはまだ無理だけど、肉を試すのは良いかもね、よし、狩ろうか。)
索敵などはシルビアとグロリアが魔法で担当してくれている。俺の仕事はそれを聞いて、ホムラとマヤに合図を送るぐらいしかない。情けない話だが、それが今の俺の本当の実力なのだ。
「この草原、ウサギがいるみたいだよ。近くで音を立てると逃げられちゃうから、ちょっと合図を決めておこう。」
腕を横に伸ばして、手のひらを後ろに見せたら、止まれの合図、その後で指をさしたら、そっちの方向に音を立てないようにしてゆっくり進む合図、この二つを決めて二人に説明しておく。
簡単な合図なので、二人ともすぐに覚えたようだ。ちょっとだけ練習をしてから、俺たちは再び草原を歩き始めた。




