21.講習修了と実地研修
それからの毎日は、かなり忙しく過ごすことになった。
朝練の素振りや午後の実技の授業では、少しづつ形が出来ていく感じと、精力を吸われることに慣れて、体のだるさが和らいできた感覚とで、動きにキレが出てきたように思う。
午前中の座学では、この近辺の地理、妖獣の生態や分布、解体の方法など、探索者として活動するための広範囲な知識を詰め込まれた。毎日の試験は相変わらずな内容で、俺たち三人を除いては、全問正解することが難しいようだ。
お昼の屋台巡りでは、串焼き、焼き肉サンド、焼きトウモロコシもどきの三つがずっと首位を固めていたし、宿の料理は美味しかったけれど、難癖をつけられては喧嘩になるのは恒例になってしまっていた。
そうして十日を過ごした後、俺たちは初心者講習を修了し、無事に探索者見習になることが出来たのであった。
探索者見習の木札を貰って喜んでいた俺たちに、ハヤトとサキが文句を言ってきた。
「お前らだけずるいぞ!」
「そうよ、なんで私たちが不合格で、タカシたちだけが合格なのよ!」
「そう言われても、私たちが決めたことじゃないし……。」
「ん~、実力?」
そう、ハヤトとサキの二人は不合格になってしまったのだ。どうやら実技の方は問題なかったのだけど、試験の成績が悪すぎて合格できなかったらしい。
俺たちの方はと言えば、試験は大丈夫だったが、マヤの実技がヤバかったみたいだ。ただ俺たちの場合は三人一組だし、これからもしっかり鍛錬を続けるということで、お情けで合格にして貰っている。
実はと言えば、合格したのは俺とホムラ、マヤの三人だけだ。残りはみんな試験で不合格になってしまったのだ。なんでみんなして、修了試験で「殺してから考える」に丸を付けるんだよ……。
不合格になると、またお金を払って講習を受け直すことになるらしい。後から聞いた話だと、実は今回の講習では、俺たちとハヤト、サキの五人だけが講習一回目、残りは全員、何回目かの再講習だったそうだ。
本当に大丈夫なのか、異世界……。
探索者見習は、実はと言えば読んで字のごとく、ただの見習に過ぎず、まだ一人前の探索者ではない。一人前になるためには、中級以上の探索者に付いてもらって、実地研修が必要になる。
言ってみれば、探索者見習は仮免許みたいなもので、この実地研修が終わって初めて、銅の札を貰って初級探索者になれるのだ。
実地研修では、実際の仕事を見習だけでこなしていくことになる。ベテランの中級探索者に帯同して貰うことになってはいるが、彼らに手伝って貰うことはできない。
帯同してくれる中級探索者は、よほど危険なことでも無い限り、手出しをしてくれることはない。見習の方から求めた時に限って、要所でアドバイスしてくれるだけということになっているのだ。
研修の期間はその時の状況や、依頼内容などによって変動するが、だいたいの場合、一週間から一ヶ月ほどかかるのが普通なのだそうだ。
中級探索者にとって新人の実地研修の相手をするのは、探索者の依頼の中でもかなり面倒な部類の仕事だ。その上、依頼料はほとんど出ないので、ほとんどタダ働きのようなものだ。
ただし、この仕事は協会への貢献ポイントが非常に大きいので、上級探索者を目指す者たちには、是非とも受けたい人気の仕事になっていた。
翌朝、筋肉ダルマ亭を引き払い、研修のために探索者協会に向かうと、ハヤトとサキの二人と顔を合わせることになった。
「おはよう、ハヤト、サキ。どうした? 景気が悪そうな顔をして。」
「ああ、タカシか、おはよう。再講習になって、親父にかなりドヤされたからな。」
「私なんて、しばらくお小遣い無しだよ……諸行無常だよ。」
サキは何だか頭が良さそうな言葉を使っているが、こいつも終了試験で「殺してから考える」に丸を付けているからな。
しかし二人とも、本当に元気が無いなあ。講習の初日で出会った時とは、まったく別人のようだ。なんとか励ましてやりたいと思うのだが、どうすればいいだろうか。
「そうだな、二人とも実技はかなりの腕だし、問題はあの試験だと思うんだ。」
「ああ、俺もそう思う。あの試験が難しすぎるんだ。」
「そこで、だ。俺の見た限り、あの試験には必勝法がある。」
「おい、本当か! 教えろ! いや、教えてください!」
嘘じゃないぞ。それに適当なことを言っているわけでもない。これは本当の話だ。
「いいか、大切なのは言葉の順番だ、考える、シバく、殺す、この順番が入れ替わっているのは、不正解ってことだ。」
「ん? どういう意味だ?」
「私にも分からないわね、もう少し詳しく教えてくれない?」
二人の疑問に対して俺は一つ頷くと、話を続けた。
「つまり、考えてからシバく、考えてから殺す、これは順番に合っているから正解。でも順番が入れ替わって、シバいてから考える、殺してから考える、こうなると不正解だ。」
「おお? 順番ってことはつまり、シバいて殺す、これは正解だな。殺してシバく、うん、それは無理だし、不正解なのはわかるぜ。」
「細かい話をすると他にもあるけど、基本はこの順番だ。覚えにくいからな、頭文字を取って、カ・シ・コだ。」
丁寧に説明してもどうせ伝わらない。それならこの必勝法の方が正答率が上がるだろう。出来れば二人には早く探索者になってもらって、一緒に依頼を受けたりしたいしな。
この俺が編み出したカシコの法則、数年後には探索者の基本知識となるのだが、今の俺たちはまだそれを知らない。
ハヤトたちと話をしていたため、俺たちが少し遅れて指定されていた小部屋に入ると、そこには受付のお姉さんと、男女二人づつ、四人の探索者風の人たちが待っていた。
「おい、ガキども、遅いぞ。俺たちを待たせるとは良い度胸……んん? お前らは……!」
その探索者風の四人、どこかで見覚えがある奴らだ。そして向こうも俺たちのことを知っているらしい。いったいどこだったか。
「ああ! あの時の盗賊!」
俺は忘れていたが、ホムラはしっかり覚えていたようだ。言われてみれば確かに、この町への道中で、意味なく俺たちを追いかけ、難癖をつけてきた盗賊たちだった。
「なんだ、盗賊ども。捕まってここに連れてこられたのか?」
「阿呆か! 盗賊違うわ! 俺たちは『不滅の壁』っていう中級冒険者のグループだ! 実地研修の依頼を受けたら、まさか相手がこいつらだとは。」
それはこっちの台詞だっていうの。こういう時に言う言葉は一つしかないな。
「チェンジで。」
「この阿呆! 見習が同行者を選べるわけがないだろうが! そもそもこっちの方からお断りだ!」
「阿呆はお前だ、ミチオ。俺たちは依頼を受けてここにいるんだぞ。ここで断ったら違約金が発生するし、それにポイントだって減点されるんだ。ちょっとは考えろ。」
ほらみろ。考えてからシバく、つまりカシコが正解なのだ。
「あの、みなさん、お知り合いなんですか? ちょっと聞き捨てならない言葉も混じっていましたが。」
受付のお姉さんの顔がちょっと恐いことになっているので、俺は状況を丁寧に説明することにした。
「俺たち三人がこの町に向かってた時、盗賊に襲われたんです、あ、その盗賊はこいつらじゃないですよ? 別の盗賊です。で、その盗賊は皆殺しにして身ぐるみを剥いだんですが、そしたらこいつらが叫び声をあげながら襲い掛かって来たんですよ。」
「おい、お前、いい加減なことを……」
「ミチオさんは黙っていて下さいね。タカシさんでしたね、続けてください。」
お姉さんに促されるまま、俺は続きを語る。
「最初は逃げたんですが、執拗に追いかけられまして。ちょっと逃げ切れそうになかったんで足を止めて、それ以上来るようなら盗賊として討伐するって警告しました。そしたらそいつら、尻尾まいて逃げていった、とまあ、そんなとこです。」
「あれは本当に怖かったわよね。」
「殺されると思った。」
俺が勝手に適当なことを言っているわけではない。ホムラとマヤの二人も、本当に怯えていたのだ。
「タカシさんの言い分は分かりました。それでマサキさん、貴方の言い分を教えて貰えますか?」
マサキと呼ばれた男は、あの時ごちゃごちゃと俺たちを宥めるようなことを言っていた奴だ。確かこいつらのリーダーだとか言っていた気がする。
「ええっと、素行の悪い探索者のグループが、こいつらを囲んで脅しているのが見えたんで、止めろって叫んで駆けつけようとしたんだわ。そしたら間に合わなくて、そいつらの首が斬り飛ばされたんだんだよね。」
「タカシさんたちが盗賊に襲われたっていうのは、そのことですね。」
「まあ、そうだ。で、こいつらに詳しい話を聞こうと思ったんだが、逃げるんで追いかけた。別に襲っちゃいない。その後、これ以上追いかけてきたら盗賊扱いすると言われたんで、謝罪して手を引いた。謝罪を受け入れてもらったはずだったんだがなぁ。」
こいつの言い分は、ちょっと自分に都合がいいように改変しすぎじゃないだろうか。
「そこのブタオとかいう奴が、ぶちのめすとか叫びながら剣を抜いて追いかけてきたけど? あれで襲っていないって、お前何言ってんの? それと見逃しただけで、謝罪を受け入れてなんかいないぞ? やっぱり盗賊として、ここで始末したほうがいいのか?」
嘘つけボケって話だ。
「このガキどもシメる!とは言ったが、ぶちのめす!までは言ってねえ!」
「いや、確かに言ってたわよ?」
「剣も抜いてたわね。私たちで納めさせたけど。」
「お前ら、どっちの味方だよ!」
「この子の言ってることには、かなり悪意がある気はしますけど、でも嘘は一言も言ってないんですよね……。」
「そりゃ、あの時のミチオを見たら、盗賊扱いされても仕方ないわよ。」
こいつらが盗賊だろうが、そうでなかろうが、正直どうでもいいんだけど、俺たちの実地研修はどうなってしまうんだろうか。




