19.初心者講習会
初心者講習会は探索者協会の三階にある会議室で行われるようだ。時間通りに行ってみるとそこにはもう、俺たちと同じくこれから探索者になろうという若者たちが、二十人以上は集まっていた。
男もいれば女もいるが、どうやら全員が宿屋の食堂で見かけた顔だ。宿のオッサンが言っていた通り、あの宿はここに集まってくるような、今から探索者になろうという鼻っ柱の強いヤツを集めて締める場所なのだろう。
俺たちが最後かも知れないな、そう思いながら空いている席を見つけてそこに座ると、会議室の扉が開いて二人の若い男女が息を切らせながら入ってきた。どうやら遅れそうになって走って来たらしい。
宿屋では見なかった顔だな。そう思って二人を眺めていると、その二人はニコニコと笑いながら俺たちの方に近づき、隣の席に座った。
「俺はハヤト、こいつはサキ。初心者同士だ、これからよろしくな!」
「おう、おはよう。俺はタカシだ。そんでもってこっちの二人がホムラとマヤな。こちらこそ、よろしく!」
「男女のグループがいてくれて助かったぜ、男だけとか女だけの所とは、いきなりだと絡みにくいからな。」
ああ、それで入ってきてすぐに俺たちの所に来たのか。それにしても、なかなか気さくで人懐っこいやつだな。
「ハヤトたちは同じ宿では見かけなかったけど、どこか別のところに泊っているのか?」
「宿? ああ、俺たちはこの町で生まれ育ったからな。自分の家からの通いだよ。タカシはどこから来たんだ?」
「かなり遠くだ。この町には昨日着いたばっかりだけど、なんにもない野原のような場所にドでかい立派な町があったから、ちょっと驚いたよ。」
「あははは、確かにそうかも。中もデカいから、知らないと結構迷うぜ?」
「そうなの? まだ門をくぐってから、ここと宿にしか行ってないからなぁ。」
「休みの時にでも、町の中を案内してやるよ。その代わり、外の話を聞かせてくれ。」
「おう、それは有り難い。外の話っていっても、そんなに大したもんじゃ無いけどなぁ。まあ、それで良ければいくらでも話すよ。」
ホムラとマヤの方に目を向けてみれば、彼女たちもサキとの会話が弾んでいるようで何よりだ。
そうして暫く無駄話に興じていると、会議室の扉が開き、イカついオッサンが入ってきた。受付の時のオッサンだ。
「よし、お前ら静かにして聞けよ? 俺はここの支部長をしているゲンコツという者だ。まずは探索者の規則の説明をするから、しっかり理解しろ。そして死にたくなければ、ちゃんと守れ。」
守らないと死ぬような規則って、いったいどんな恐ろしいものなのかと思ったが、聞いてみたらそんなに難しい話ではない。人を殺すなとか、盗むなとか、喧嘩をするときは剣を抜くなとか、そういった当たり前の話ばかりだ。
中には盗賊は殺してよいが、できれば殺す前に警告しろ、という話もあった。いくつかの例を交えて説明されたが、俺のやっていたことは過激だったかもしれないが、別に間違いではないとわかったので、ちょっと安心だ。
規則の話が終わると、次は探索者の制度の話に移っていく。
「いいか? この講習会を修了したら、お前たちは探索者見習ということになる。そこから探索者として、しっかり実績を積んでいけば、初級、中級、上級と、階級が上がっていく。
上級の上には特級とか超級とかいうのもあるけどな、そんなものは極一部の限られたヤツだけの物だ。夢見るのは自由だが、しっかり地に足つけて働け。」
階級が上がったら何か良い事があるのかと、誰かが質問の声を上げた。うん、俺もそれは気になる。
「良い質問だ。階級が上がると、偉そうに出来る。まあ、おいしい依頼を受けられるようになるとか、そう言うのもあるにはあるがな。」
偉そうに出来るって、このオッサン正気かよ。俺はそう思ったのだが、周囲を見回すと、それ聞いてみんなヤル気が漲っているようだ。隣に座っているハヤトとサキも目をキラキラ輝かせている。
階級によって受けられる依頼に制限があるって話の方が、どう考えても重要だと思うんだけど、どうやら俺の意見はここでは少数派らしい。
イカついオッサンは、そんな俺の方をジロっと見てから話を続ける。
「どうやら気に入らんヤツもいるようだが、これは本当の話だ。探索者の身分証は階級によって違っていてな、見習は木製、初級は銅、中級は銀、上級は金だ。階級が上がれば、身分証も偉そうになっていくってわけだな。
それと、もし他人の身分証を拾ったら、捨てたりパクったりせずに、協会に届けろよ? いくらかの報奨金も出るからな。」
制度の話が終われば、次はお金の話だ。
「報酬は奴隷も含めて参加者全員で公平に頭割り、それが探索者の流儀であり掟だ。いいか、『公平に』だぞ? 誰かが活躍したから沢山取る、誰かは働きが悪かったから半額、そういうことをし始めたら殺し合いになるからな。
実際、昔はそういうことが多くてな。あまりに殺し合いが繰り返されるんで、こういう流儀に落ち着いたわけだ。金は揉め事の元だからな、しっかり守れよ?
まあ固定グループを組む場合だと、グループ共有財産を作る手もあるけどな。全員が同額を出し合って、食費とか、拠点の家賃とか、そういうのは、そこから出す。そういうやり方だな。」
分配の話とは異なるが、協会にお金を預けることができる、と言う話もあった。貴重品は魔法の袋に入れて持ち歩くのが普通だが、そうではなく協会に預けておけば、いくらか手数料はかかるけれど、袋ごと落として泣くことは無くなる。
この制度を活用して、報酬の何割かを貯金していくというのも、探索者の間では普通に行われているらしい。
「よし、今日の座学はこれで終わりだが、理解しているか確認するために試験をする。問題は全部で十問、三つの中から選んで、正しいと思うものに丸をつけろ。間違えた奴は午後の実技の後に補習だからな、心して回答しろよ?」
うげ! 試験なんてあるのか。真面目に聞いていたつもりだが、細かいところまでは覚えているかどうかわからないぞ。周りの奴らからもブーブーと文句の声が聞こえてくるし、俺と似たり寄ったりなんだろう。
ここはもう、諦めて頑張るしかない。しかし配られた試験問題を見て、俺の目は点になった。
問一:目の前にめちゃくちゃウザい奴がいる。どうする?
イ:殺してから、どうするか考える
ロ:死なない程度にシバく
ハ:無視して放っておく
問二:報酬の分配方法は?
イ:俺がほとんどを取る
ロ:公平に、強い奴がほとんどを取る
ハ:働きが悪かったヤツも含めて、頭割りにする
問三:……
…………。
なんだよ、この問題は。こんなの、間違う奴がいるのか?
俺は迷わず、問一はハ、問二もハに丸をつけた。
〈主様の行動を見る限りでは、問一はロのはずですね。〉
《イの線もありますが~、一応警告だけはしているみたいなので、ロの方が近いですね~》
失敬な。俺はまだ死なない程度にシバいたことはないぞ? ちゃんと仕留めているはずだ。
ハヤトとサキの二人も、試験についての答え合わせをしているようだ。
「試験がこんなに難しいとは……。」
「あら、そうでもなかったわよ?」
「問一も問二も、イかロのどっちかだと思ったんだけど、結局わからなかったから、どっちもロにしといたよ。」
「私も同じ、どちらもロにしたわ。」
「問二のハは無いだろ? 確か公平に分配するって話だったぞ?」
「そうよね、あり得ないわよ。」
二人の会話を聞いていると、何だか自分がとんでもなく間違っていた気がしてきたぞ。
「よし、みんな出来たな? それじゃあ答え合わせだ。問一はロとハが正解、問二はハが正解だ。間違った奴は補習だからな、忘れるなよ!
問一の場合、ウザい奴は無視しても構わんが、時にはシバかないと舐められることになるから気をつけろ。問二は引っ掛け問題だな。働きの悪い奴にも報酬は渡してやれ。」
この解説を聞いて、かなりの人数が不満の声を上げる。
「ウザいヤツをブチのめして殺した後は、死体をどうするかとか、いろいろ考えなきゃならんだろ? それとも考えずに放置すればいいのか?」
「阿呆! 盗賊じゃないなら、最初から殺すな。殺さないように、大怪我はさせないように、手加減して痛めつけろ!」
「グループ組むだけ組んで働かずにいたら、それで報酬タダ取りできるってことじゃないか! そりゃおかしいぜ!」
「阿呆か。そんなクソ野郎は最初からグループに誘うな。間違って誘ってしまうこともあるだろうが、そん時は次の仕事には二度と誘うな。」
まさか問一、正解が二つあったとはね。
でもまあ、そんなことより、抗議に同調しているヤツが半数以上いるってことは、それだけ間違ったヤツらがいるってことだ。ウザい奴はまず殺すとか、ここは修羅の国かよ。
さらに恐ろしいことには、全問正解して補講を免れたのは、俺たち三人だけという現実だった。
さすがは異世界、あなどれん。
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