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今ごろになって異世界に転生した話  作者: 大沙かんな
#1-4 探索者になってみよう

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16.探索者協会

 衛兵さんに教えてもらった通り、探索者協会の建物はすぐに見つかった。


「聞いていた通り、かなり立派な建物ですよね。」

「うん、大きいね。」


 出張所ではなく支部ということもあって、探索者協会は背の高い、立派な石造りの大きな建物だ。周囲の建物と比べても、一回りか二回りぐらい大きい。


 しっかりした木の扉を開けてさっそく中に入ってみる。中の様子は外とは違って、結構ごちゃごちゃとした印象で、正面には受付が並んでおり、右手の方には掲示板のような物がある。ここに連絡事項などが張り出されるのだろう。


 左奥の方には酒場のような物があって、たぶん探索者だろう、鎧で身を固めた人々がたむろしているようだ。昼間から酒を飲んでいるようだが、仕事にあぶれたのか、それとも休暇なのか、どちらにしてもあまり上品とは言えない雰囲気だ。


「あの、こんにちは。探索者の新規登録がしたいのですけど、どうすればいいですか?」

「おや、新人さんかい、新規登録なら二階だよ。ここは納品とかだね。」


 建物中央付近にある受付にいた、かなり年配のお姉さんに聞いてみると、見た目と異なってかなり親切で、二階の受付にいくように教えられた。



 言われた通りに階段を上って二階に行くと、そこには一階と同じような間取りで、中央に受付が並んでいて、右手には掲示板なども置かれている。


 左側は一階と違って酒場では無いけれど、小さな机やいすが置かれており、簡単な打ち合わせや休憩ができるようになっていた。おそらくここならお金を払わずに長居できるのだろう。一階よりもさらに人が多く、混雑している感じだ。


 そんな休憩所から、なんだかジロジロ見られているような気がするが、特にこちらに絡んでくるようなヤツはいない。こういう場所では新人は古参に喧嘩を売られるのが相場だと思っていたけれど、案外そうでもないようだ。


 今はあまり忙しくない時間帯なのだろう、受付の窓口は二つだけ開かれていて、片方には若くてきれいなお姉さん、もう片方には岩石のような顔をしたイカついオッサンが座っている。


 俺たちは当然、迷うことなく若いお姉さんの受付に向かう。


「おっ、新人か? こっちに来な!」


 イカツイオッサンに大声に遮られてしまったが、聞こえないふりをしてそのままお姉さんの受付の前に行く。


「聞こえないのか? お前ら新人だろ? いいからこっちに来い!」

「えええ~、嫌ですけど?」

「ちゃんと聞こえてるじゃないか! 新人はこっちだ馬鹿!」


 助けを求めるようにお姉さんの方を見たけれど、肩をすくめて苦笑するばかりで、どうやら助けては貰えないようだ。


 仕方がない、今日の所は諦めて、また明日出直すことにし……


「おい、なんで帰るんだよ!」

「いや、今から実家のばあさんの葬式なので。」

「葬式はまた今度にしとけ!」


 なん……だと? 俺の必殺技、ばあさんの葬式が通用しないとは。このオッサン、何者なんだ。



 ホムラとマヤもかなり嫌そうな顔をしていたが、俺たちは諦めてオッサンの受付に向かった。


 俺たちはイカついオッサンに町の入門証を見せ、探索者の申請書に名前を書いて、既定の登録料を支払う。


「お前らどうせ、妖獣狩りの経験なんかないだろ? こっちにも名前を書いとけ。」


 見ると、それは初心者講習会の申込書だ。


「えっと、無料で講習に参加できるんですか?」

「タダのわけないだろ、有償に決まってる。料金は前払いだ、ちゃんと払えよ?」

「えええ~、嫌ですけど?」

「ごちゃごちゃ言ってないでとっとと払え。それともお前ら、妖獣狩りをしっかりやった経験があるのか?」


 妖獣と言えば、あの森の中で出会った大口の怪物や、巨大カマキリのことだな。確かに出会ったことはあるが、あれでは戦ったとは言えないだろうし、倒してもいない。


 盗賊なら何人か倒しているが、自分で倒したのは最初の何人かだけで、あとはグロリアとシルビアにお任せだった。夜中に襲ってきた野獣や妖獣も、倒したのは二人の精霊だ。俺たちではない。


「ん~、盗賊は何人か殺りましたけど、妖獣は無いですね。」

「私も。普通の獣とは何度か戦った経験はあるけど、妖獣はないわ。」

「戦うの……恐いです。」

「ほら見ろ、お前らみたいなのが外に出ては、すぐに死体になって帰って来るんだ。悪いことは言わんから、ちゃんと講習を受けとけ。」


 俺たちは諦めて、オッサンに従うことに決めた。


 講習会の参加費用は結構な値段で、三人分ともなるとかなり痛い出費になったが、それでも安全を買うのだと思えば(あきら)めもつく。


 精霊の二人がいれば、たぶん初心者講習なんかは必要ないだろう。でもそれだと、ずっと頼りきりになってしまうし、確かに色々不都合が起きそうだ。


「講習は明日の朝から、この建物の三階だ。サボらずにちゃんと出席しろよ? 講習が終わらないと、探索者登録は終わらないからな?」


 受付が終わってトボトボと帰る姿に、遠くから俺たちを見守っていた多くの目が、なんだか可哀そうな物を見るような感じに変わっていた。



 オッサンの説明によれば講習は十日間、このあたりの地理や妖獣の知識を学ぶ座学と、訓練所での武技の実習になるそうだ。つまりこれから十日間、この町に滞在することになる。


「まずは宿屋を探すことにしようか。」

「そうね、さすがに町中で野宿は(つら)い物があるわ。」

「紹介されたところでもいいけど、あのオッサンの紹介だからなぁ。ちょっと見当がつかないよね。」

「見るだけならタダ。」

「それもそうね、まずは行ってみて、あまり良くなさそうなら他を探さない?」


 オッサンが紹介してくれた宿は、探すまでもなく、すぐに見つかった。


「えっと、筋肉ダルマ亭、おっと、ここだ。」

「協会のすぐ近くね。」

「便利。」


 建物はさほど新しくはないが、古くてボロボロということはなく、屋号に似合わず小綺麗(こぎれい)な感じで、かなり好印象だ。協会に近いので便利というのもある。


「悪くないかもね。中に入って聞いてみましょうよ。」

「賛成。」


 軽く挨拶して宿屋の扉をくぐってみると、その受付には、これまたイカつい顔をしたオッサンが座っていた。


「うわっ! びっくりした。」

「双子?」

「いや、良く見ると、顔は似てないぞ。似ているのは体格と雰囲気だけだな。」

「おいおい、なんだ? いきなり失礼な客だな。」

「うわっ! (しゃべ)った!」

「ほんとに失礼な客だな!」


 ホムラ、そいつは人間だ。(しゃべ)る可能性だってあるぞ。


「いや、申し訳ない。探索者協会の受付のオッサンに似ていたものだから、びっくりして、つい。」

「ああ、アレか。ということは、お前ら新人か? あいにく四人部屋が一つしか空いてないが、どうするね?」

「そ……、それでお願いします。」



 オッサンの圧力のせいなのか、なんなのか。なぜか俺は断ることができなくて、言われるがままに十日分の料金を払って、気が付い時にはこの宿のお世話になることになっていた。


 そして俺たちは受付のオッサンの案内で、二階の奥にある四人部屋に入ることになった。


「夕食が要らない時は、できれば前日までに言ってくれ。仕入れとか仕込みとががあるからな。あと、魔法ランプやお湯の使い方はわかるか?」


 俺にはわからなかったが、ホムラが頷いていたので後で聞くことにしよう。


 確かに新しい建物ではないけれど、掃除はきれいに行き届いているし、シーツなども清潔に見える。他の宿を見ていないので値段はよくわからないけど、ホムラが頷いているので悪くないのだと思う。


 問題と言えば、受付のオッサンがイカついことぐらいだろうか。あと、しいて言うなら筋肉ダルマ亭という屋号が、受付のオッサンに似合いすぎていることぐらいだ。


 ベッドに座ってみると、ふかふかというほどではないが、充分にクッションが効いていて、寝心地のよさそうな感じだ。うん、やっぱりそんなに悪くないね。



〈やっと主様がやる気になったわね。〉

《このまま終わるつもりなのかと思ってました~。》

(え? やる気って何が?)

〈私の口からは、ちょっと、ねえ?〉

《そうですよ~、そんな破廉恥なこと、口に出すのは恥ずかしいですよ~。》


 この二人はいったい何を言っているんだろう?


 俺にはわからない文化の違いだろうか。もしかしたらホムラやマヤなら何かわかるかも知れない。


 そう思って二人の方を見ると、完全に死んだ目をしていた。


 何だ? この短時間のうちに、いったい何があったんだ!



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