15.城塞都市イナーカ
残念ながらと言えば良いのか、有り難いことにと言えば良いのか。俺の予想は外れ、町に到着するまでの短い間に、二度も盗賊と相対することになってしまった。
ここまで町に近づけば、当然ながら人通りは多くなるし、人目だって避けられない。それでも暴力でもって人を脅し、金品を奪おうというのだから、もうどうしようもなく不埒な犯罪者どもだ。
もちろん俺たちは、そんな盗賊どもに反省を促したり、改心を迫ったりはしない。そんな面倒で無駄なことはせず、警告して従わなければ始末する、ただそれだけだ。
そう、色々心の中で理由をつけてはいるが、俺の目にはもう、盗賊はただの金貨の塊にしか見えないのだ!
「主様、さっきの盗賊はかなり儲かったわね。」
「盗賊は怖いけど、お金いっぱい。」
そうなのだ。町の近くで活動している盗賊だったからなのか、あまり食料などは持っておらず、その代わりにお金をたくさん持っていたのだ。
すでに食料、特に肉類は大量に余っている状態なので、お金が多く手に入ったのはとても嬉しかった。もっと出てきて欲しいぐらいなのだが、もう町の門はすぐそこだ。今回の盗賊祭はこれで打ち止めだろう。
「ここがイナーカの町か。立派な城壁だね。」
「協会支部がある。この辺りの中心……。」
「行列ができているわね、あそこに並ぶのかしら。主様、少し聞いてみましょうか。」
道中、この近辺があまりに発展していない様子を目にしていたので、町と言ったって、どうせ村に毛が生えたぐらいの物だと思っていたのだが、まったくそんなことはなかった。
ここは辺境ということもあり、妖獣や盗賊に襲われることもあるのだろう。町は立派な石造りの城壁に囲まれており、周りには広い堀まで巡らせているようだ。町と言うよりは、もう城塞都市と呼んだ方が良いような風貌だ。
城門の前には短い行列ができており、最後尾の人に聞いてみると、入門証を持っていない人はこの行列に並ぶ必要があるようだ。もちろん俺たちはそんなものは持ち合わせていないので、その後ろに並ばせてもらうことにする。
「入るには税金を払わないといけないみたいだね。」
「町にもよるけど、一度払うと入門証が貰えて、一ヶ月間ほどは出入り自由になるのが普通ね。宿に泊るのにも入門証は必要だから、ずっと滞在するなら一ヶ月ごとに更新する必要があるわ。」
「一ヶ月ごとに町から出て、ここに並ぶことになるの?」
「そういえばそうね、どうなのかしら。私はそんなに別の町に滞在したことがないから分からないけど。」
「協会で払える。多分。」
「ああ、そういえばそんな話を聞いたことがある気がするわ。その時にはまた、聞いてみればいいわね。あれ? 主様、どうしたの?」
「お、おう……。」
さすがは元騎士見習、ちょっとだけ活発になった姿を見て、騎士やエラい人の付き人になって、いろいろと雑用をさせられていた過去がちょっと想像できてしまったよ。
短い行列はさくさくと進んでいき、すぐに俺たちの順番になった。
衛兵さんたちは気さくな人たちばかりだったが、探索者協会で登録するために来たことを告げると、ちょっと難しい顔をされる。最近、探索者志望の人が急増していて、それがかなり治安を悪化させているので、受け入れが厳しくなっているんだそうだ。
「うわあ、そうなんですか? そういえばこの町を目指してくる時に、かなり盗賊が多いなって感じでしたけど。」
「時期が悪かったな。そんな別嬪さんの奴隷を二人も連れているんだ、そんな金持ちが盗賊なんてしないだろうけどな! ご領主様の命令だから、形だけでも整えないと駄目なんだわ。」
盗賊が多すぎると思っていたけど、やっぱり治安が悪化していたようだ。
「やっぱり戦争が原因なんですかね?」
「ああ、多分な。焼け出された難民やら、戦争が終わって仕事が無くなった傭兵やらが雪崩込んできているからな。まったく迷惑な話だぜ。」
俺たちは別室に案内され、そこで名前と年齢を書いて三人分の税金を払うと、簡単に入門証を手に入れることができた。いろいろ根掘り葉掘り聞かれるのかと思ってたんだけど、本当に形だけだったよ。
見た目が子供同然の俺が、真新しい鎧を身に着けて、美少女奴隷を二人も引き連れているのだ。どこかの偉い人のボンボンか何かにしか見えなかったに違いない。
この世界では奴隷は物扱いなんだけど、ちゃんと二人の分も税金を払って入門証を貰っている。たとえば宿屋なんか、奴隷は物だからタダ、なんてことになったら、やってられないからね。そういうところはしっかり人間扱いなのだ。
入門証を貰った後、案内してくれた衛兵さんにちょっと包んで渡そうとしたら、ピシャリと断られた。
「いや、すまんな、そういうの最近うるさくてなぁ。もしもよかったら、町で見かけた時に声を掛けてくれ。一緒に飲もうや。」
「ごめんなさい、気が付かなくて。もしも宜しければ、今度またお供させてください!」
弱い物には強気に出るが、強い者にはとことん弱い俺だ。担当してくれた衛兵さんにしっかり九十度のお辞儀をしてお見送りをし、ようやくイナーカの町の住人の一人になったのだった。
はぁはぁ……九十度はあかん……。バランスが悪すぎて、そのまま前のめりに倒れるかと思ったよ。
町の中に入ってみると、そこはどこか欧州の古い街並みを思わせるような、そんな風景が広がっていた。欧州といえば建物は石造りだという感覚だったけれど、この町には木造のものも結構多い、というか大半が木造のような感じだ。
道行く人々の中には、俺たちと同じように革鎧を着て剣を持った人がかなり多いように見える。中には革じゃなくて金属の鎧を着た人もいるな。辺境だし、探索者協会の支部があるぐらいだから、探索者の数も多いのだろう。
親切な衛兵さんに教えられた通りに町の中を歩いていくと、たくさん立ち並んでいる屋台から良い匂いが漂ってきた。お昼時でもあるし、どの屋台もかなりの賑わいを見せている。
「主様、屋台、屋台!」
「すごく良い匂い! ねえ、すっごく良い匂いよ?」
ああ、わかった、わかった。そんなにキラキラ目を輝かせなくてもわかってるって。
俺はひときわ良い匂いを漂わせている屋台に行くと、串焼きというのか、焼き鳥のように何かの肉を串を刺してタレをかけて焼いたものと、ネギマのように肉の間に何かの野菜を挟んであるのとを、それぞれ二本づつ注文してみた。
「すごく賑わってるね。まるでお祭りみたいだ。」
「はははは、毎度あり! 兄ちゃん、もしかして、この町は初めてかい?」
「うん、さっき着いたばかりだよ。」
「イナーカはこの辺りでは一番の町だからな。城壁もしっかりしてるし、人がたくさん集まってくるのさ。ほい、串焼きお待ち!」
串をたくさん持つのは大変なので、俺は出来たての串焼きを手持ちの器を出して受け取る。眺めていると、この辺りでは自前の器を出すのが流儀のようだった。
俺は他の屋台も巡って、串焼き以外にも、とうもろこしのような物を焼いた物や、ピザのようなパンに焼き肉を挟んだ物などを、それぞれ三人分買っては器に入れていく。
二人の所に戻ろうとして、賑わう屋台の人ごみの中を、チョロチョロと走り回っている子供の姿が少し気になった。
(あれって、やっぱりスリかな?)
《多分そうですね~。どうしましょうか~?》
〈あれも盗賊の一種だけど、何も持っていないだろうし、狩っても儲からないわね。〉
どうやら俺たちは舐められやすいようだし、多分あの子供も俺たちを狙ってくるだろうな。盗賊はとっとと狩るに限るけど、さすがにアレを積極的に狩る気にはなれない。
(障壁みたいなもので、俺たち三人に手を出してきたら気絶させるって出来る?)
《簡単ですよ~。》
〈人ごみ用ね。それじゃあ、混んでる時はいつもそうしておくわね。〉
(おお、お願い!)
すられるのは困るけど、狩っても別に儲かるわけでもないし、適当に無力化できればそれで良いだろう。
どこか空いてる場所を見つけて、そこでゆっくりしながら三人で食べよう、そう思っていた俺だったが、ホムラとマヤの食欲はそれを許してくれなかった。
「うわ~、美味しそうね! さっそく頂きましょう!」
「! !! !!!!」
いつの間にか俺が器を持って歩く係、二人は横から手を伸ばしてそれを食べる係、と完全に分業体制が敷かれ、かなりたくさん買い込んだ食べ物は、どんどん二人の胃袋の中に消えていく。
「ねえ、マヤ。このパンに挟んだ奴がとっても美味しいわよ?」
「串焼きが至高。」
いったいその体のどこに消えていくんだろう。毎晩開催しているステーキ祭でもそうだけど、いくら食べても二人のお腹がぽっこりすることはなく、細い腰回りがずっと維持されているのだ。
本当に見ていて気持ちよくなるくらい、ほれぼれするような食べっぷりだ。器に山盛りだった食べ物は見る見るうちに減っていき、もうほどんど残ってない。
あれ? いや、ちょっと待って! 俺の分は残して!
時すでに遅し。イナーカの町の初屋台での戦利品の数々は、俺の口に入ることなく二人のお腹の中に収まったのだった。
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