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8:ピンク髪の任務

 場所はヘイムダル学院本部の最上階。


「……」

「……」

分厚い防弾ガラスに囲まれた円形の会議室では、極度の緊張感が張り詰めていた。

テーブルを囲むのは、日本国内で最も高い能力値を持つ10人のプロヒーローたち。彼らの能力は社会の安定そのものであり、存在が公にはできないゼルを直接的に討伐する、世界の最後の砦だ。


ジェノスが大きなモニター前に立ち上がる。

「まずこちらを御覧ください」


会議室の中央、ホログラムで映し出されたのは、戦闘で完全に灰と化した路地。そしてその破壊を起こした黒い鎖を巻いた灰の怪物の鮮明な写真だった。


「ゼル。灰の怪物です」


「随分と派手な格好してるのね」

七番英雄隊の隊長、イーリスがそう呟いた。彼女の銀色の髪が光をキラキラと反射させている。


「では彼への今後の対応を決めていきたいと思います」

ジェノスは静かに、しかし威圧感のある声で言った。


「昨日、私は彼の制圧に失敗しました。彼の仲間、ウィズの能力について詳細はまだわかっておりません」


「ははっ、ジェノスさんでも敵わないか〜」

まず口を開いたのは、ブーくんと呼ばれているピンク色の髪と服がチャームポイントの、太った中年男性だった。だが性格が楽天的すぎることに、真剣な空気を壊すことがある。


「敵わないというわけではありません! あの時の途中撤退はしょうがなく--」


「言い訳いいよ、聞きたくない」

鋭く反論したのは、漆黒のスーツを着た細身の男性、ヴァルツだ。能力は重力を操るアンチ・ヴォイド。極度の現実主義者であり、ジェノスとは長年の戦友だ。

「ジェノスお前が奴の力を侮っていたからだろ? だからこんな状況に陥ったんだ」


「お前こそ侮ってるんじゃないか?」


「ははっ、まあまあ、落ち着いてくださいよ、二人とも。まだ我々は奴の強さの底を見ていない。だからどうとも言えないでありませんか?」


「でも、直接攻撃で仕留めようがないでしょ? 触れたら灰で近接戦闘の人はどうやって戦うの?」

イーリスが首をかしげた。


「「「……」」」


「おい」

彼は肘掛けに深々と沈み込み、静かに言った。

「うちの部下を出す」


ジェノスがわずかに身を乗り出した。

「おい、ラリのことか?」


「ああ。まあラリだけで十分だろ」

その目は確信に満ちていた。しかし、ジェノスは険しい顔で反論する。


「お前、何を言っている。直接触れたらそれだけで即死なんだぞ! 部下をそれだけで失うつもりか?」


「失うつもりはない。お前はラリが負けるとでも思っているのか?」


「……」


アルブが割り込んだ。「現状、ラリさんが最も灰の怪物に接近できる可能性を秘めているのも事実ですからね」


「そう言う問題ではない! 奴の能力は、触れた瞬間に原子を破壊するんだ! ラリの能力が発動する間もなく――」

感情的になったジェノスを、ヴァルツが静かに制した。

「ラリは、最高傑作だ。俺の判断に間違いはない」


ヴァルツは言い切ると、立ち上がって会議室を後にした。


「待て! まだ会議は終わっていない!」


「……」

--バタン。


残されたプロヒーローたちは、ヴァルツの独断的な決定に不満を抱きながらも、彼の言葉を覆すことはできなかった。


「なんだいつも勝手に……」


「じゃあ、そういうことでいいのね? 私はそろそろ別の会議があるから、そっちにも参加しないと」


「じゃあ僕も……帰るよ。早く寝たいし……」


「ちょっと待ってくれ、まだ議論は--」


会議の内容は、『ヴァルツの提案を受理し、ラリを招集する』という形で、集結を迎えた。



 同刻。ヘイムダル学院・地下。会議の決定は、間もなくラリの耳にも届くことになった。ラリは、リリアがこもる地下室の実験部屋に、リリアの研究補助として居た。


彼女は、中性的な顔立ちで、どこか影のような薄い存在感を持つ女だ。


「これで今度こそ! ゼロを完全に中和できる! やっぱり多少、メサデルムが必要だったみたいね……」

興奮を抑えきれない様子で、最新の毒薬を試験管の中で揺らめかせている。


「ふふっ」


 え、怖い……

ラリは隣で静かに引いていた。


「あの、リリア研究員。これは、触れたら即死なのでしょうか?」


「ええ、もちろん。ゼルも触れたら即死だからお互い様ね」


「ええ……」

そんなゾッとするような会話をしている最中、扉が開き、黒いサングラスに黒い服のプロヒーローが入ってきた。


「ラリ。任務だ」

ヴァルツは、リリアの研究結果には目もくれず、ラリだけを見ていた。


ラリは首をかしげていた。

「任務? 私がですか? 今、リリア研究員の助手を――」


「お前の能力が必要だ。任務は灰の怪物を討伐すること」


「ゼル!?」

リリアはヴァルツへ振り返った。


そしてヴァルツはラリの肩に手を置いた。

「期待している」


「でも私が、灰の怪物を……?」


「お前ならやれるだろ? あれくらい」


「え?」


「どうなんだ、返事は?」


「わ、わかりました……」

彼女は、恐怖のヴァルツと狂気のリリアを交互に見た。


 な、なんか……やばい!

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