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10:白と黒

「これで終わり……っ!?」

だが、ヒーローはウィズを見て、目を剥いた。


「なぜ……なぜ、生きている!」


 俺の極打は、鋼鉄をも砕く一撃だ。いくら防御系の能力を持っていたとしても、直撃すれば肉体を打ち砕くはずだ。それに無傷。どういうことだ!


「お前はなんだ?」

彼の目の前。灰の煙が晴れるとウィズは確かに立っていた。体や衣服に焦げ跡一つない彼女は、目を閉じたまま口元をわずかに歪ませた。


「お疲れ様、ヒーロー。私に触れることさえできないのに、なぜ死んだと思い込めるの?」


「っ! なんなんだよ、お前」

男は拳を強く握りしめる。自らのプライドと常識が崩壊するのを感じ、怒りに任せてさらにウィズへと能力を叩き込んだ。


「極打、極打、極打ァッ!」

渾身の打撃を連続して放つ。その度に轟音と共にウィズの目の前で炎の波動が炸裂する。しかし、ウィズの周囲一センチの空間は、まるで絶対的な防御壁のように、炎のエネルギーを透過させずただ弾き返した。


 能力と極打だぞ? 流石に倒せたはず--。


「なぜだぁ! なぜだぁ! なぜ効かない!?」


ウィズは微動だにしない。彼女の足元のコンクリートだけが、炎の熱で焦げ、砕けていく。


 能力だぞ。なぜ効かない!? 防御の能力か? だが、こんなにも完璧に攻撃を遮断するなんて……!


「効かない? 言ったでしょ? あなたは攻撃は絶対に私に届かない」


「そんなはずは、そんなはずが!」


 --っなんだ!? 


その瞬間、男の背筋に氷のような冷気が走った。


「おい」

男のすぐ後ろ、そこにはゼルが立っていた。


 気配に気づかなかった。この女に手こずったせいだ。大丈夫、今からでもここから離れれば。


ゼルのローブはわずかに焦げているが、その目は路地裏の闇よりも深く、そして冷たい鬼のような怒りを湛えていた。


「殺す。お前は俺の大事なものに触れようとした。死ね」

ゼルの声は驚くほど冷静だったが、その一言一言に冷酷な殺意が込められていた。


「く、くそっ……極速!」

 

 逃さない!


ゼルは右手の指先を、静かに男の側頭部に触れさせた。


――シャリン。


鎖が鳴る音は、刹那の沈黙の中に響いた。男の肉体は轟音を立てることもなく、痛みを感じる暇もなく灰と化した。


「ぁぁ……」

彼は瞬く間に灰の結晶と変貌し音もなく地面に崩れ落ちた。


ゼルは、地面に崩れた灰を一瞥することなく、周囲に残されたヒーローたちへと、ゆっくりと顔を向けた。

「次はお前たちだ」


残されたヒーローや警官たちは、ただ恐怖に凍り付いていた。ゼルは静かに、そしてゆっくりと彼らに近づいていく。その歩みはまるで死神の行進だった。


「ひ、ひぃ……」


――シャリン。一瞬でヒーローの体は灰と化した。静かにそして確実に、残りのヒーローや警官たちは、灰の彫像と化して全滅した。


ゼルは、静寂の灰の路地で、ウィズに向き直った。

「ハハハっ、ウィズ。行くぞ!」


「ええゼル! 今の最高だったわ! 鳥肌立っちゃった!」

ウィズは再び楽しそうな笑顔に戻った。しかしその瞬間だった。ゼルの眼前に広がる瓦礫の道の先に、何者かが現れた。彼女はピンク色の髪をショートカットにした女性。白い制服を纏い、感情の読み取れない美人な顔立ち。彼女は静かに、そして威圧感をもってゼルとウィズの逃走経路のど真ん中に立ち塞がった。


「初めまして、灰の怪物。そしてその連れ」

彼女は、能力者の頂点であるプロヒーローの制服を着ながら、その目はゼルが持つ法則そのものを測っているようだった。


「私はラリ。任務遂行のため来た女。じゃあ早速だけど、死んでね?」

ゼルは鎖を鳴らし、ラリを睨みつけた。


「ウィズ構えろ! まだ邪魔者がいたみたいだ」

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