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15話 火力特化ファルカタ

これまで立ち入りを許されなかった別棟で、綺麗な風呂(バルネウム)に浸かり、用意された卸したてのチュニックを着込む。

清潔な服なんて何日ぶりだろうか。

背筋がシャンとして気持ちがいい。


「馬子にも衣装という奴だな!似合っとるぞ!」

ガハハと上機嫌に笑うのは牢番頭ゴズウェル。


先日のリヴィアス議員の話通り、奴隷剣闘士で5戦目までたどりつく者はかなり少ないようだ。


ゴズウェルいわく「大抵は貴族が推す売り出し中の闘士の生贄か、猛獣戦でライオンの餌になっちまう」らしい。


目をかけてきた部下の晴れ舞台といった心持ちで、さっきから「男前だ!」だの「背筋を伸ばせ」だの果てには「大きくなって…」などとのたまう始末。


とにかく、お前は親戚のおじさんかと言いたくなるほど絡んできた。



さて、気を取り直して試合の準備だ。

金属製の小手とすね当てをつける。

新品でこそないが、多少見栄えのする物が用意されていた。幾分かは頑丈そうである。


盾はだいぶ勝手がわかってきた中型の円形盾(パルマ)

裏側にはもちろん短剣(プギオ)を刺しておく。

この二つはデフォルトの装備でいいだろう。


今回はさらに防御力をあげる為、以前作ってもらったチェインフレイルの柄を外した鎖と鉄球を左腕に巻きつける。

これなら斬撃を防げるし、外せば分銅鎖として武器にもなる。

これは他の剣闘士が網でやっているのを見て試そうと考えた次第だ。


問題は武器。

グラディウスは剣闘士にとって最も一般的な剣だが、前回のアンクラウス戦の大事な局面で見事に外してしまった。

これは、体担当のヘリオンにあまり馴染みがない武器だったのではと推測している。


そこで今回は剣闘士の剣、二番人気『ファルカタ』これに目をつけた。


ファルカタ、別名『グラディウス・ヒスパニエンシス』は幅広の刀身を持った曲刀だ。

日本刀とは反りが逆で、相手側に向かって反っている。なかなかの違和感。


俺の姉ちゃんは剣道をやっていて(姉ちゃんは知識偏重で腕前はからきしだったが)得意げに説明してくれたのだが、剣には『物打ち』と呼ばれる部位がある。


これは剣で切りつけた時に一番よく切れる部位で、剣道の竹刀がわかりやすい。

竹刀には『中結』と言って、先端から30センチほどの場所に紐が結んである。

先端から中結までの間が『物打ち』ここで打たないと一本にならない。

それだけ物打ちでの攻撃が有効という事だろう。


ちなみに、このファルカタという剣。

物打ちと思われる箇所が木の葉状に膨らんでいる。形状的に重心も先端寄り。

威力が高い代わりに振り回されそうだ。

扱いやすさより火力!実用性重視の尖ったコンセプトは個人的にかなり好み。

うまく扱えるといいのだが…さぁ、勝負だ。



時は夕刻、夕日が闘技場を赤々と染め上げている。

午前の前座、野獣戦を終え、観客のテンションは最高潮を迎える。

闘技場の端々には高さ3メートルほどの位置に松明が灯され、粗野な雰囲気を演出する。


さらに闘技場の中心付近には、3メートルほどの石柱が三本、三角を描くように据え付けられている。石柱にはいくつものフックが埋め込まれており、獣や受刑者を柱に縛り付けられるようになっていた。


そしていつもの通り、審判が一人と闘士の死亡確認をする判定人が冥府の河の渡守、カロンの仮面をつけている。

その傍らには気絶した闘士を起こすため、気つけの水瓶が設置されていた。


「皆様、大変お待たせしました!本日のメインイベントの開始です!」

うおぉぉぉ!

歓声が闘技場全体を震わせる。

この熱気、今まで体験した前座戦とは比べ物にならない!……き、緊張してきた!


「本日の挑戦者はなんと奴隷闘士になり5戦目!勝利の暁には栄誉あるクロネリア市民への登録が成されます!」


「vivat!(万歳!)」「vivat!(万歳!)」

観客が一斉に万歳三唱する。



「彼の勇名をご存知の方もいらっしゃるでしょう!巨人、そして英雄殺し、変幻自在の武器使い!ヘリオーン!入場です!」

俺から入場というのは初めて…呑まれるな!やってやれ!


柵が上がり、西日に照らされながら闘技場の中央へと進む。

歓声に応えて手を振り返す。

カルギス戦で理解したはずだ、観客を味方につけろ!


「さて、闘士ヘリオンが市民となれる夢のチケットを賭けたこの一戦、その希望を無惨に打ち砕くのはこちら!


並の剣闘ファンでも目を背けたくなる残忍性!性格とは裏腹に美しく妖艶な姿は、男達を魅了し血の池に沈め続けてきました『血塗れのライカ』入場です!」


対面の柵が上がり、血塗れのライカがこちらに向かって歩いてくる。


「ライカー!」

「八つ裂きにしろ!」オオォォォ!


観覧席が震えている。おいおいおい、俺の登場時の倍は盛り上がってるぞ…


ライカは浅黒い肌、そして小柄だ。顔を隠した金属製の兜、胸当ても金属製。それに合わせた小手とすね当て。

全て細かな意匠を凝らした高級品だとわかる。


盾は無し。右手には俺と同サイズのファルカタ。左手には『シーカ』と呼ばれる湾曲した短剣。

二刀闘士という超好戦的なスタイルだ。


ライカが観客に愛想を振りまきながらこちらに歩み寄り、そして兜を脱ぐ…艶のある黒い髪は美しく結い上げられ、小さな顔には、意思の強そうな大きな青い瞳、そして、軟らかそうな唇…え?

お、女?剣闘士に女なんているのかよ!


女と戦うのか?いや、戦えるのか?

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― 新着の感想 ―
Xから伺わせていただきました! 血生臭かったり、泥臭い要素を入れつつも、全体的に軽妙な物語としてまとめている印象があり、1話1話サクッと読み切れる良いネット小説として成立していると思います。 物語は…
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