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11話 ロマン武器チェインフレイル

「ヴィーク人、ヴィーク族…ウィーク?ヴィク?ううむ、本当にわからん」

先の戦いで俺の体を乗っ取ったヘリオン。


いや、この体はヘリオンなのだからヘリオンが動かすのは当然の権利で、乗っ取ったのはむしろ俺。


でも今は俺の物…でいいんだよな?

まさか勝手に間借りしているだけなのか?

契約書とかないだろうし。

なんだか不動産トラブルに巻き込まれたような心境である。その道の弁護士に相談したいところだ。


ヘリオンは試合の最中に突如、意識を取り戻すと体の主導権を握って戦い始めた。

俺は試合終了までの間、まるで夢を見ているかのように薄靄(うすもや)がかかった視界と思考で、ぼけっと一部始終を眺めているだけだった。


数少ないヘリオンの言葉『ヴィークの民』そしてヘリオンの身体的な強さ。

ここから何かわからないかと考えて姉ちゃんの歴史豆知識を頭の中で検索していたが、ヒット0件である。


異世界独自の名称なら打つ手無しだ。

クロネリア帝国という名称も、この世界以外では聞いた事が無い。

ちなみに当のヘリオンさんだが、心の中で呼びかけても声を出してみても一切、応答なし。



「待たせたな!三連勝の褒美持ってきたぞ!」


意気揚々と牢番頭のゴズウェルが食事を持ってきた。といっても相変わらずのビール一杯にパンと水ではあったが。


「それとな、頼まれていた『こいつ』もだ!」

腰からジャラジャラと『こいつ』を取り出して見せてくれる。

二戦目で手に入れたチップを丸ごと渡して、作ってもらっていた武器が完成したらしい。


30センチほどの短い柄、そこには1.3メートル程度の太く頑丈な鎖が伸びている。

先端には手の平大の鉄球。

そう『チェインフレイル』である!


姉ちゃんからは実用性の無いファンタジー武器と断じられたが、忍者学校が題材の某アニメでは『微塵』と呼ばれる3つの分銅鎖がくっついた武器が登場しているし、宇宙世紀の巨大ロボットだって似た武器を使っている。

ゲームに至っては言わずもがなだ。

これほど活躍している武器が全く役に立たないという事はないだろう。


このロマン武器は自分へのご褒美みたいな物。

ちょっとした息抜きと楽しみである。

人殺しの武器で楽しむな!と怒る人もいるかもしれないが、ちょっと考えてみてほしい。


殺し合いをしなくてはいけない。

という事実に向き合ってばかりいては間違いなく正気を保てないだろう。

環境を変える努力はしつつ、現状においてもなにか楽しみや変化を見出さないと人は生きていけないのだ。


さぁ、こいつで、奴隷階級から抜け出すぞ!



「鮮やかなる軽業師メノン!目にも止まらぬ神業を皆に披露します!いざ!」


対面の柵が開かれ、メノンが歓声に応えている。

紹介の声と口調に聞き覚えがない。

どうやら前回までの興行師は職を追われたようだ。


「次々と武器を変える剣闘のエンターテイナー、ヘリオン!本日は何を見せてくれるのか!私も楽しみです。いざ!」


即興のセリフなんだろうけどノリノリの様子。

よく言うわ、と思いつつも「驚かせてやる!見てろよ!」と心の中で返答する。

眼前の柵が上がり、俺は闘技場へと歩を進めた。


軽業師メノン。長身、痩せぎす。鷲鼻に鋭い目つき。

殺し屋とかスナイパーのような雰囲気を持つその男は軽業師の別名通り、かなりの軽装だ。


円形の(パルマ)にグラディウス一振り。

鎧はチュニックのみ。

小手とすね当ては少し大きめだが、兜はなし。


対して俺の装備だが、こちらも円形の(パルマ)

盾の裏には短剣(プギオ)を挿してある。

メイン武器は初お披露目のチェインフレイルだ。


鎧もメノンとほぼ一緒。小手とすね当てはこちらのほうがボロい。

俺自身は防御のために兜が欲しいのだが、奴隷剣闘士の身分だとレンタルできないとの事。

この世界では自前が基本らしいから、いずれは用意したいと思っている。



「変幻自在のヘリオン!今度の武器は、なんと鎖だー!」

俺がチェインフレイルを縦に振り回し始めると食い気味で解説が入った。

「アハハ、農夫の次は奴隷か!」

「アンクラウスが泣いてるぞー」


相変わらず俺への声援は野次と冗談ばかり。

これまでの試合内容をよく知っている事を考えると、もしかしたら愛情の裏返しみたいなものでファンなのかもしれない。


メノンはニコリともせず、侮蔑の表情を浮かべている。

行くぞ!鎖は中距離戦が主体になるはずだ。

ビュンビュン回して、上から振り下ろす!


ドッ!


飛び出した鉄球がメノンの手前の地面をえぐる。

フレイルでも感じたが遠心力は偉大だ。

威力自体は申し分ないのだがまだ距離感が掴めない。

おっと、すぐに引き戻さないと隙だらけだ。

その刹那、メノンはニヤリと笑い、体制を低くして一瞬で距離を詰めてくる。


「シャッ!」

左上段からの一撃!

おぉっ!ま、待てっ!鎖はまだ返ってきてないっ!


鎖での防御は早々に諦めて上体を右に捻り盾で防御!二打、三打と受けて、今度は下段!


剣と違ってフニャフニャで右手を無くしたようにさえ感じる。反撃に使えないのがかなり辛い。


右太ももを浅く切られた!

これは…仕切り直さないとまずいっ。



次の攻撃に合わせて盾を使って押し返す。

そのまま盾を振り抜いて右足で蹴りだす!


吹っ飛ばす事ができたら最良だったが、メノンは余裕でかわした上に位置は俺の右側!


鎖を振り戻して奴の背中に鉄球を!なんて上手くいくわけもなかったが、ひとまず鎖は戻ってきた。

うっかり自分に鉄球が当たりそうになってヒヤッとしてしまう。


今度は頭上で鎖を横回転に回して牽制。

そこからメノンの体に向けて放つ!


直撃!…しない。


今度はすぐに引き戻すが、次の動作までのインターバルの長さが問題だ。

剣とは比べ物にならないほど遅い。


だ、誰かこいつの正しい使い方を教えてくれ…

姉ちゃんの「ほら、言わんこっちゃない」という言葉が脳裏に響く。

そんな事を考えていた刹那。


ドシュッ!


え?左の肩の肉が…えぐられた?!

メノンはまだ剣の間合いではなかったはず…噴出する鮮血が俺の顔を、そして俺の思考を赤く染め上げた。

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