表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【祝19万PV】転生式異世界武器物語 〜剣闘士に転生して武器に詳しくなるメソッド〜[月水金17:30更新・第二部完結保証]  作者: 尾白景
裁判と戦争編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

143/165

32話 アイギュプト

「カサンドラや、そなたが望まぬ戦など放っておけ。さあさ、我とセネト(死後の世界を通過する世界最古のボードゲーム)でもして遊び給う。さあさあ」


「こらバース! 巫女のウェヌスを通して伝えろといつも言ってるだろ」


 宙にポワンと浮かび、好き放題にじゃれついてくる生と死を司る太古の竜バースに、塩味の効いた態度を返すのはブルトゥス訓練所の女魔獣闘士カサンドラだ。


「だいたい、今帝都は魔獣に襲われているんだぞ。こちとら、その準備で忙しいってのに!」


「言うておるではないか、そなたの憂いに比ぶれば凡百の魂では天秤が釣り合わぬと」


 ピスピスと鼻を鳴らして不平を漏らすバース。

 一見するとその辺の兎とあまり変わらないように見えるが、彼女はとても偉い古の竜なのである。



「クラウディ公と時の巫女メルクリウスから連名で魔獣討伐の協力依頼が届いている。こいつはただ事じゃあない。魔獣討伐なら私だって構いやしないさ。それなのに、あんたは危ないからって文句を言うのかい?」


「カサンドラ、そなたの魂はまだまだ危うい。完治を待たねば魂が霧散してしまうやもしれぬ」


「じゃあ、いつになったらいいのさ」


「そうさな……百年くらいか」


「バカが! お前らの時間感覚に付き合ってられるか! 行くぞ!」


「やれやれ、きかん子ほど愛しいというのは真よな……なればこそ、その魂は気高く美しいか」



 クロネリア帝国南方、地上海を挟んだ対岸に位置するナフル大河を中心に栄えた砂漠の大国アイギュプト。

 彼女はアイギュプト人であり『ハピル』と呼ばれる古から続く傭兵団の出身である。

(ハピルは旧約聖書出エジプト記にその名を確認する事ができる)


 プトレマイオス王朝最後の女王クレオパトラ七世が倒れ、帝国属州アイギュプトと国が名を変えたその日、勇猛を馳せたカサンドラは結婚を誓いあった恋人と共に、剣闘奴隷としてクロネリア帝国へ送られる事になった。


 民衆はエキゾチックなアイギュプトの文化に憧れ、カサンドラの美貌と桁違いの強さに瞬く間に魅了された。


 ある時、彼女を愛妾として迎えようとした貴族が彼女の恋人を消すために剣闘試合を催したのだが……

 なんと、その対戦相手はカサンドラであり、彼女自身の手で、恋人を殺すまで試合を続けさせたのである。


 その所業に、卓越した忍耐の(アレテー)を見出した生と死の竜バースは彼女を英雄と定め、混沌の竜ケイオスを鎮めるために奮闘するリヴィアス議員とゴズウェルに引き合わせ、ブルトゥス訓練所に引き取られて現在へと至る。


 その日以来、カサンドラは人を傷つける事が出来なくなってしまったのだが、バースにとってそれは些事であり、そんな彼女の魂をひどく慈しんでいる。



 カサンドラは足早に武器庫の奥へと歩み、丁寧に油布で巻いてある鎌のような形状の曲刀を手に取った。


「ほう……ケペシュを使うか」


「今度の相手は狼の化け物なんだとさ……古の(ファラオ)はケペシュを使ってライオンを打ち倒した。これ以上に相性のいい武器もないだろ」


「ケペシュは大神や我への供物を捧げる儀式によく使われていたからの。我も感慨深いというものよ」


(このバカ兎に生贄とは……人参で十分だろうに)

 などと頭に軽口を思い浮かべるカサンドラ。


「そなた……今、無礼な事を考えていたであろ」

 心を読んだかのようにプープーと鳴きながら抗議をするバースであった。


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 ドンッ!

 ドンドン!


「ここがブルトゥス訓練所と聞いてやってきたんだ。優秀な剣闘士を探している」


 ドンドン!


「話だけでも聞いてくれないか、お願いだ」


「………」


 長雨にけぶるブルトゥス訓練所の門を叩き、雨音に負けぬよう声を張り上げる男。

 彼の後ろには荷馬車が一台と護衛の騎馬が数騎、雨に打たれながら静かに控えている。


(こいつは奴隷商人を装っているが態度や雰囲気は軍人のそれだ。荷馬車と数騎の護衛しか見当たらないが……林の中にもそこそこいるな……)


「衛兵長、こいつら何者ですか?」


 剣闘士の訓練所というものは奴隷の脱走を防ぐために門も塀も堅牢な造りで、ちょっとした砦の様相を呈している。

 外から見えにくい位置から覗き穴で訪問者を品定めするのは、衛兵長のブレンヌスである。


 彼は元々ウェスパシアの剣闘士であったが、ヘリオンに敗北したために失業。

 その高い指揮能力を買われ、衛兵長としてブルトゥス訓練所に再就職を果たしていた。


「おそらくは……反乱軍てやつだろうな」


「うへぇ、じゃあ旦那様が訓練所を閉鎖したのって正解だったんですね。凄えな」


「あぁ、俺もそう思うよ」


(俺やロマレースをあっさり引きとった度量に加えて、反乱軍の来訪を予期する先見性……ダモンの旦那は本当に大した御仁だよ)



「旦那様とザビア訓練士長のご指示だ。当訓練所は半年間完全に閉鎖。旦那様と若旦那は不在につき、貴族だろうとお会いにはならない。いいな!」


「へいっ!」


「衛兵長、連中が入り込んできたらどうします?」

「訓練所の留守を守るのが俺達の仕事だ。ふんじばって、その辺に転がしとけ」


「へいっ!」


「チッ、まだ門を叩いてやがる。あいつらしつこいですね」


「無視しろ、反応するなよ」


「へいっ!」


「――俺がちょっと出ていって怒鳴りつけてきましょうか?」


「だから、無視しろって言ってるだろうが!」


「へいっ!すいやせん」


 ブルトゥス訓練所は上位闘士も輩出した格式の高い訓練所である。

 剣奴への待遇も穏当で教育もそれなりに行き届いているのだが……


「まぁ、命令を守ろうとするだけ、まだまともってもんだわな」


 衛兵長ブレンヌスは教育の難しさに悩み、ため息をつく。



「おっ! あれは!」


「今度はなんだ、無視しろ無視」


「いやいや、違いますって! カサンドラの姉御ですよ」


 部下の興奮した声音を聞いて後ろを振り返ると、なるほどそこには、所内最高賞金額を誇る女魔獣闘士カサンドラと彼女が大切にしているペット、白虎のティグレーヌが鍛冶工房へと向かうのが見てとれた。


「試合も無いのに鍛冶工房とは……武器でも作るのか?」


「いやぁ、俺、カサンドラ姉御のファンなんですよ。あの何者も恐れないクールな雰囲気、最高っすよね!」


「お前うるさいぞ! 塀の周りでも見回ってこい」


「へいっ! すいやせん」


 興行師ダモンの英断によって、ブルトゥス訓練所は反乱軍による帝都騒乱計画の難を逃れる事に成功。一時の安寧を得たのである。

毎週、月・水・金の週3回17時30分投稿。

次回は2月25日(水曜)です。


気に入って頂けましたら評価★★★★★ブクマをお願いいたします。ランキングと作者のモチベーションが上昇いたします。


よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ