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【祝19万PV】転生式異世界武器物語 〜剣闘士に転生して武器に詳しくなるメソッド〜[月水金17:30更新・第二部完結保証]  作者: 尾白景
裁判と戦争編

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30話 帝都潜入

 クロネリア帝国が支配する地上海地域において、雨とは本来、恵みであると同時に稀有な現象である。

 夏は乾燥し、冬は温暖。年間を通じて雨傘の出番など数えるほどしかないこの地で、連日降り続く冷たい雨は、人々の心から余裕を奪うに十分だった。


 現在の季節は初夏。

 本来であれば眩しい陽光が石畳を白く焦がす時期である。

 だが、天空を司る竜サンダーの悲嘆は止むことを知らず、季節外れの豪雨となって帝都を打ち据えていた。

 一般市民は外出を控え、警備に当たる兵士たちもまた、慣れぬ湿気と冷えに身を縮こまらせていた。

 多くの帝国民が動きを鈍らせる中、反乱を企てる者達にとって、この悪天候は天啓に他ならなかった。


 長雨から解放された匠がウェスパシア訓練所へと向かう少し前。舞台は時間を遡り、帝都の喉元である南門へと移る。


 クロネリア市セルウィウス城壁南側『カペーナ門』。そこは『街道の女王』と称されるアッピア街道の起点であり、南クロネリア支配の象徴たる場所だ。

 道幅八メートル、全長五百八十キロ。馬車がすれ違うに十分な広さを持ち、隙間なく敷き詰められた石畳は、帝国の絶大な権力と土木技術の結晶である。


 その威厳ある街道を、泥水を跳ね上げながら猛スピードで駆けてくる一台の荷馬車があった。


「門を開けてくれぇッ! 賊だ! 賊に追われているんだ!」


 鬼気迫る御者の絶叫。

 雨の帳を透かして見れば、荷馬車の背後には数騎の武装集団が迫っている。剣を抜き、殺気立って追いすがる姿は、間違いなく強盗の類に見えた。


 だが、ここは天下の帝都への入り口。

 如何なる事情があろうと、確認なしで通すわけにはいかない。門番たちは職務に忠実に長槍ハスタを構え、雨音に負けじと叫び返す。


「ならん! まずは通行証を見せよ! 止まれ、止まらんと撃つぞ!」


「これを! ポンペイ市の名門、ユリウス家からの通行証だ!」


 フードを目深にかぶった御者が、懐から一枚の粘土板を取り出して高々と掲げる。

 だが、この土砂降りである。視界は最悪で、文字など読めるはずもない。

 暴走気味の荷馬車を止めるべく、門番たちが殺到し、進路を塞ごうと密集する。

 南門の中で最も往来の激しいカペーナ門は、日中は常に開かれている。彼らの意識は「門を閉じる」ことではなく「馬車を止める」ことに集中していた。

 ――それが、致命的な隙となった。


「おい! いい加減に止まらんと……ぐっ!?」


「がっ……!?」


 突如、バシュッという鈍く低い風切り音が連続して響いた。

 次の瞬間、長槍を構えていた二人の門番が、喉から短い矢を生やして崩れ落ちる。


「ガストラフェテス(腹弓)だと……!?」


 矢が飛んできたのは、荷馬車の荷台、そして彼らを追っていたはずの騎馬からだった。

 強盗を装っていた騎兵たちは、馬上で器用にクロスボウを構え、正確無比な射撃で門番たちを次々と射抜いていく。


 間隙を縫って門を突破した荷馬車は、悠然と速度を落とした。

 荷台の幌が捲られ、そこからも数名の射手が現れ、カペーナ門を死守しようとした残りの門番の背中を無慈悲に撃ち抜く。


 悲鳴を上げる間もない、一瞬の制圧劇であった。


「スパルタクス将軍、潜入成功ですな」


 御者台で手綱を握っていた男――反乱軍の首魁スパルタクスは、フードを外してニヤリと笑った。


 十数騎の騎馬と共にクロネリア市内へと滑り込んだ一団は、周囲を警戒しつつ、市民に紛れる速度で進み始める。


「帝国の連中は飛び道具を甘くみているからね。オエノマウスが用意してくれたガストラフェテスが見事にハマったよ」


 スパルタクスは、自身の腹部に当てていた奇妙な形状の弓を軽く叩いた。


『ガストラフェテス』。パルテナス地方に伝わるこのクロスボウは、台尻をガストラに押し当て、体重をかけて弦を引くことで装填する強力な射撃兵器だ。

 歯車や挺子てこといった複雑な機構を必要とせず、構造が単純で嵩張らない。隠密行動にはうってつけの代物だった。


 帝国軍の戦闘教義ドクトリンにおいて、弓や投石は「貧者の武器」と蔑まれている。

 重装歩兵による密集陣形こそが至高であり、遠距離攻撃はあくまで補助。その慢心が、彼らの防衛網に穴を開けたのだ。


「こうも鮮やかに成功してしまっては、本隊のクリクススの奴がまた増長してしまうな」


 最近では意見の対立が目立つ猛牛のような戦友の顔を思い出し、スパルタクスは苦笑を浮かべる。

 副官の男もまた、肩をすくめて同意した。


「確かに。『クロネリア帝国、恐れるに足らず』と、豪快に笑い飛ばすでしょうな」


 軽口を叩き合った後、スパルタクスは将軍の顔へと戻り、鋭い眼光で帝都の街並みを見据えた。


「よし! 陽動を行う本隊のクリクスス将軍に応援を送らねばならぬ。我々はこれよりウェスパシア訓練所とブルトゥス訓練所へ向かい、燻っている同胞たちを解放するぞ! 皆の者、続け!」


「はっ!」


 雨に濡れた石畳を、革命の火種が静かに、しかし確実に広がっていく。

【お知らせ】

2月13日(金)から2月22(日)までの10日間、17時30分に毎日投稿しています。

スケジュール

13金曜:武器物語28話

14土曜:うちの姉ちゃん〜バレンタイン編

15日曜:うちの姉ちゃん〜ローマのプリン編

16月曜:武器物語29話

17火曜:うちの姉ちゃん〜雪玉編

18水曜:武器物語30話

19木曜:うちの姉ちゃん〜『蜻蛉切』編

20金曜:武器物語31話

21土曜:うちの姉ちゃん〜猫の日前日譚

22日曜:武器物語・特別短編


特に22日の『特別短編』は、劇場版エピソード0という趣きの作品で、武器物語をより深く楽しめる趣向を凝らしています。

ぜひ、お付き合いのほど、よろしくお願いいたします。



気に入って頂けましたら評価★★★★★ブクマをお願いいたします。ランキングと作者のモチベーションが上昇いたします。


よろしくお願いいたします。

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