29話 スパルタクスの目的
「なぁ、フーガ。反乱軍が市内に入り込んだと言っていたが数は多いのか? まさか本隊という事はないよな。彼らの目的は……」
問いかける途中で、フーガがまさに猫背でこそこそと近づいて声を落とした。
「それですニャ。ヘリオンの旦那にお知らせしたいのはそれ! これは飛び切り新鮮なネタで少々お高い情報ですが聞きますかニャ?」
「もちろん頼むよ」
フーガへの支払いは情報をもらった翌日、自宅の出窓にセステリウス青銅貨を入れた革袋を置いておく決まりだ。
彼への支払いはオドリーに任せてあるので、明日はいつもの二倍入れるように伝えておこう。
「毎度ありでニャス。ではさっそく……実はケットシーの仲間が猫に変装して、反乱軍首脳部の軍議から持ち帰った情報ニャんですがね……」
そう切り出すと、フーガは大袈裟な身振りを交えつつ、帝都クロネリア市のおかれた状況を丁寧に説明してくれた。
一つ、
反乱軍本隊はクロネリア市から東60キロ程にある
レアティナ平原に陣を敷いており、まさに雲霞の如く見渡す限りに広がっている。
一つ、
鎮圧軍は反乱軍本隊に向けて、矢のような隊列で行進。今日か明日にはレアティナ平原でぶつかる事が予想できる。
一つ、
先行してクロネリア市を襲撃した隊は二つあり、共に少数。
先行した一隊は最北の東門『コリーナ門』を襲撃。
賊は巨大な狼の魔獣で複数の狼を従えており、並の兵では刃が立たずに突破されそうである。
一つ、
クロネリア市を襲撃したもう一つの隊は、アッピア街道の起点となる南の中央門『カペーナ門』を襲撃。
賊は訓練された騎馬兵で、既に侵入を許してしまった。
「―――とまぁ、こんな具合でして」
「フーガ、君の調査能力は本当に凄い……驚いたよ」
敵陣深くから情報を入手した上に、現状把握まできっちりこなすとは……近代の諜報機関も真っ青な実力だ。
彼の方から近づいて来てくれたとはいえ、フーガと良好な関係を築けた事は僥倖としか言いようがない。
(2倍じゃとても釣り合わないな。報酬を3倍に引き上げておこう……)
「ところで、市内に入り込んだ賊の目的は分かっているのかい?」
おそらくはこれが肝だ。
匠の前世の記憶によれば、史実のスパルタクスは当初ローマに向かって北進。
ローマ進撃かアルプスを越えての脱出かは定かではないが途中で撃退され、南へと転進したはずだ。
どちらにしろ間違いないのは、スパルタクスはローマに進撃していないという事実。
ここは竜も魔法も存在するファンタジー世界ではあるが、匠の知る古代ローマ帝国によく似た文化が根付いている。
その上、クラッスス将軍にスパルタクスといった偉人さえ存在しているのだ。
ようやくこの世界に馴染み、地に足のついた生活を営もうとしている匠としては、最終的に全滅する予定の反乱軍もスパルタクスもあまりお近づきになりたい相手ではない。
市内に入り込んだ反乱軍の動きや、歴史から逸脱したスパルタクスの考え方を知る事ができたら、事前に危険を回避できるかもしれない。
そう思って、賊の目的を聞いてみたのだが―――
「入り込んだ賊ですがね、どうやらスパルタクス将軍ご本人らしいニャ」
え?
スパルタクスご本人?
十万からの奴隷を糾合し、戦闘から何からを教育して大軍勢を組織した英雄が、手勢を率いて敵地に潜入て……無双系ゲームじゃないんだから。
呆れを通り越して混乱をきたす匠にさらなる衝撃が襲いかかる。
「そして、スパルタクス将軍の目的というのが……帝都随一の高名な剣闘士である旦那を勧誘する事」
フーガはどこか誇らしげに、重々しい口調で告げたのだった。
「ニャン、だと……」
歴史の流れを変えてしまったというショックか、はたまたフーガの口調が移っただけなのかは分からないが、愛らしい猫語で嘆息を漏らしてしまう匠であった。
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2月13日(金)から2月22(日)までの10日間、17時30分に毎日投稿します。
スケジュール
13金曜:武器物語28話
14土曜:うちの姉ちゃん〜バレンタイン編
15日曜:うちの姉ちゃん〜ローマのプリン編
16月曜:武器物語29話
17火曜:うちの姉ちゃん〜雪玉編
18水曜:武器物語30話
19木曜:うちの姉ちゃん〜『蜻蛉切』編
20金曜:武器物語31話
21土曜:うちの姉ちゃん〜猫の日前日譚
22日曜:武器物語・特別短編
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