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【祝19万PV】転生式異世界武器物語 〜剣闘士に転生して武器に詳しくなるメソッド〜[月水金17:30更新・第二部完結保証]  作者: 尾白景
裁判と戦争編

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28話 ウェスパシア訓練所へ

 鉛色の空から叩きつけられる長雨が、帝都の石畳を黒く染め上げていく。

 ぬかるんだ通りを、羊毛の雨具パエヌラに身を包んだ偉丈夫が、泥水を跳ね上げながら疾走していた。


 フードの隙間から時折覗く、燃えるような赤髪は雨露を含んで重く湿っている。

 待ち望んでいたアウロ議員の所在をパティアからもたらされた俺は、数日間の休息を経て万全の状態にあった。


 ヘリオンという一級の肉体を十全に操り、悪路などものともせずに突き進む。目指すはウェスパシア訓練所。


 かつて幾度となく剣を交えた連中の巣穴であり、現在はターゲットであるアウロ議員の所有物件だ。

 昨夜、奴が馬車で入場したという確かな情報が入っている。

 反乱軍が帝都に迫り、混乱する市内の喧騒を風のように切り裂いて走っていると、ふと、視界の隅に並走する小さな影が映り込んだ。


(ヘリオンの巡航速度に付いてこられる……犬? いや、猫だな)


 走りながらチラと横目で確認すると、そこにはヘリオン同様に特注サイズの雨具を着込み、四足走行で必死に追いすがってくるケットシー(猫の妖精)、情報屋のフーガがいた。


「ヘッ、ヘッ、ヘッ……はぁ、ふぅ……猫より、速い……人間、ニャんて……ヒィヒィ……!」


 どうやら限界らしい。俺が速度を緩めて立ち止まると、フーガはその場にへたり込み、ピンク色の舌をだらりと出して激しく喘いだ。

 雨に濡れてペシャンコになった体毛、上下する小さな肋骨。


 この世話焼きの情報屋は、何かとヘリオンの面倒を焼いてくれるありがたい味方だが、今の姿はどう見ても「濡れ鼠」ならぬ「濡れ猫」だ。


 動物好きの匠としては、今すぐ抱き上げて乾いたタオルでワシャワシャと拭き、喉をさすってゴロゴロと言わせたい衝動に駆られる。

 以前、実家で飼っていたミニチュアダックスの「きなこ」も、散歩で雨に濡れるとこんな風に情けない顔をしていたものだ。


(おっと、いけない。彼は誇り高い妖精族だ。そんな扱いをしたら機嫌を損ねるかもしれない)


 俺は無意識に伸びそうになる手を、鋼の意志で太ももに押し付けた。


「やぁ、ヘリオンさん。探しましたよ……ゼェゼェ」


 数秒で呼吸を整え、つい先ほどまでの必死な姿を無かったことにして、フーガは取り澄ました顔で雨具の襟を正した。


「やぁ、フーガ。この長雨の中、わざわざ俺を追いかけてきたってことは……何か情報を持ってきてくれたのかい?」


「えぇ、えぇ。ホットニャ取っておきがニャン個もね」


 目を細めてニヤリと笑うフーガに、俺も口角を上げる。


「いつも助かるよ、フーガ」

 感謝の言葉を伝えると、彼の長い尻尾がピンと立ち、プルプルッと小刻みに震えた。


 ……あぁ、やっぱり撫で回したい。


「ヘリオンの旦那が向かっているウェスパシア訓練所ですがね。どうも反乱軍の連中が入り込んで扇動したみたいで、暴動が起きてニャスよ。行かねぇ方がいいと思いニャスがね」


「暴動……反乱軍が入り込んだのか?」


 クアレスの話では、帝都防衛指揮はコルネリウス将軍が執り、現場指揮はコルグロ百人隊長が走り回っている。

 二人とも防衛戦のエキスパートであり、人格も優れているとクアレスが受け合っていた。

 そう簡単に防衛網が破られるとは思えないのだが……


(力押しではなく、内部からの扇動か。スパルタクスの知謀が勝ったという事だろうか……)


 だとしたら、悠長に構えている暇はない。


「忠告感謝する。だが、俺には行かねばならない理由があるんだ」

「おや、ヘリオンさんは武器を携帯していないので?」


 走り出そうとした俺を見て、フーガが怪訝そうに髭を揺らした。俺の装備は、腰に下げた荒縄と、畳んだ麻袋のみ。

 事情通のフーガも、まさか高名な剣闘士が、これから「ひとさらい」に向かうとは思いもしなかったらしい。大袈裟に首を傾げて「ニャニャッ?」とくぐもった声を漏らしている。


「この前、暴徒に襲われた時に……うっかり一般人を殺してしまいそうになってね。街なかで刃傷沙汰は起こしたくないと思って、武器の類は置いてきたんだ。間が悪かったな」


 そう、あれは先日パティアと共に暴徒に囲まれた時のことだ。


 命の危険など微塵も感じなかったが、しつこく絡んでくる暴徒への対処があまりに面倒で、俺の中のヘリオン(肉体)と匠(精神)が同時に危険な思考に染まった。


『いっそ皆殺しにしてしまおうか』

『魔法で全員吹きとばせば解決だな』


 などと、短絡的に「排除」を選択しかけたのだ。

 その場を、剣も魔法も使わずに機転だけで切り抜けたクアレスを見て、俺は己の未熟さを痛感した。


 かつて対魔獣戦を共にした闘士カサンドラからの「考える事が苦手な原始人め」という痛烈な批評が、今さらながら胸に刺さる。


 だからこその「丸腰」なのだが……まさか暴動のど真ん中に飛び込むことになるとは思いもしなかった。


「ま、まぁ……旦那ほどの御仁ニャら、それくらい豪気というか呑気な生き方もあるかもしれませんニャ……ニャハハ」


 今度はフーガに、不用心な奴だと呆れられてしまったらしい。俺は苦笑しつつ、雨に煙るウェスパシア訓練所の方角を睨み据えた。


「大丈夫だ。袋詰めにするだけなら、素手の方が都合がいい」

【お知らせ】

2月13日(金)から2月22(日)までの10日間、17時30分に毎日投稿します。

スケジュール

13金曜:武器物語28話

14土曜:うちの姉ちゃん〜バレンタイン編

15日曜:うちの姉ちゃん〜ローマのプリン編

16月曜:武器物語29話

17火曜:うちの姉ちゃん〜雪玉編

18水曜:武器物語30話

19木曜:うちの姉ちゃん〜『蜻蛉切』編

20金曜:武器物語31話

21土曜:うちの姉ちゃん〜猫の日前日譚

22日曜:武器物語・特別短編


ぜひ、お付き合いのほど、よろしくお願いいたします。


気に入って頂けましたら評価★★★★★ブクマをお願いいたします。ランキングと作者のモチベーションが上昇いたします。


よろしくお願いいたします。

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