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【祝10万PV】転生式異世界武器物語 〜剣闘士に転生して武器に詳しくなるメソッド〜[月水金17:30更新・第二部完結保証]  作者: 尾白景
裁判と戦争編

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05話 防衛の才人コルネリウス将軍

 クロネリア帝国における統治機関、元老院の議会は連日紛糾していた。


 帝都クロネリアの南方200キロにある町コピルで発生した剣闘士訓練所の反乱は当初、剣闘士80名ほどの蜂起であったが『スパルタクス』と名乗る指導者の巧みな弁舌により、奴隷階級を糾合。

 北へ進路を取りながら瞬く間にその数は膨れ上がり、数万規模の暴徒と化した。


 貴族、富裕層向けの避暑地襲撃の知らせを受け、元老院は独断で鎮圧軍を急造。

 三千名の鎮圧軍を向かわせたが、暴徒と侮った寄せ集めの隊は壊滅。


 元老院は慌てて追加の兵三千名を派兵したが反乱軍はそれを、帝都とコピルの中程にそびえるヴェスピオ山にて迎撃。


 鎮圧軍は再度、壊滅させられてしまう。


 この時になってようやく元老院は、反乱軍がただの暴徒ではなく軍隊として組織化されている事に気付かされた。

 だが時すでに遅く、元老院は皇帝にも軍部にも相談せず、六千もの兵を独断で無為に失ってしまった。


 失態の追求を恐れた元老院は、責任を反乱軍蜂起の監督責任に見定めて、小闘技場管理者リヴィアス議員と下位闘士管理者アウロ議員を糾弾。

 召喚されたアウロ議員の口から、

「偶然にもリヴィアス議員がコピルの訓練所で謀反の手引きをしているのを目撃した」

 という驚きの証言を得て、議会はリヴィアス議員の即時拘束に動いた。


 反乱の責任をリヴィアス議員に押し付ける事でまとまった元老院は、現実に迫る数万規模の反乱軍の鎮圧を軍部に依頼。

 三度目となる鎮圧軍編成について、帝都守護を任とする将軍を議会に召喚したのであった―――



「将軍閣下! 先ほどからも述べているが、あなたに鎮圧軍第三陣の指揮をお願いしたいと言っている!」


 ひな壇状に半円を描く議員席、そこに列席するのはクロネリアの(まつりごと)を差配する80名から成る元老院議員。

 彼等は壇上で怒気も露わに将軍を諭そうとする議員の言に深い頷きで応えた。


「ですからね、私も再三伝えているんだが……武器と馬をしまいなさいと―――」


 壇上で一身に注目を集めるのは、いかにも面倒くさそうな態度を取る四十がらみの痩身の男。

 儀礼用の軽装鎧を纏い、両肩には帝国軍兵の証である赤いマントを帯びている。


 勇壮な衣装は、気だるげな雰囲気を醸すこの男には少々不釣り合いに感じるが、彼こそ“防衛の才人”と謳われ、戦地においては守り神の如く畏敬を集める将軍コルネリウスその人である。


「将軍閣下ともあろうお方が臆して武器をしまえと仰っしゃる!」


 畳みかける議員に、心底めんどくせえなぁという視線を向けてコルネリウスは反駁した。


「連中は兵士ではなく素人だ。武器と馬を与えなければ暴徒以上にはならない」

「で、では、貴殿は鎮圧軍を送る事に反対されるのか!」


「まぁ……中途半端な数で向かうのは、槍と馬を連中に与えるようなもの。でしょうなぁ」

「ぐっ……貴様!」

 ククッと苦笑するコルネリウスに血の気が引くほど怒り狂う議員。


 壇上の議員が言葉を無くしたと見て、ひな壇から別の議員がくちばしを挟む。


「将軍は代案をお持ちなのでしょうな! 文句をつけるだけなら童でもできましょう」


 問われたコルネリウスは首を軽く回し、無精髭を撫でつける。

 不遜な態度に議員達は眉を寄せて抗議を示すが、一向に気にした様子もなくコルネリウスは口を開いた。



「ではお答えしましょう。議員、反乱軍の数はいかほどで?」

「報告では五万はくだらないとか」

「では帝国軍兵士の総動員数。いや、帝都に駐留している兵士が何名かご存知ですか?」

「し、知らぬ!」


「帝国軍の総動員数は約三十万です。六千人を一個軍団として、帝都の戦力は十個軍団ほどになるでしょう」

「それでは奴らと同数程度しか兵を揃えられないというのか?」


「考え方が逆です。帝都ほど栄えた地でも六万以上の駐留は簡単ではないという事」


「何が言いたい?」

 将軍の意図を計りかねた議員は訝しげな顔を向けたが、コルネリウスもまた馬鹿を見るような目で返し、さらに深いため息まで漏らした。


「軍事行動の要諦は、兵の数と武器と馬、そして兵站にあります。武器と馬を与えなければ暴徒は兵になれません。

 数万に膨れ上がった群衆など、食事を与えなければ散り散りになるしかないでしょう」


「た、確かに……」

 理路整然としたコルネリウスの説明に議員達は一同に押し黙るしかなかった。


 つい納得させられてしまったが、進路上の都市防衛強化と暴徒の自然解散などという堅実で地味な作戦は、元老院にとって都合が悪い。

 なにせ六千人の兵を既に失っているのだ。

 堂々たる数万の軍勢を市民に誇示し、弔い合戦だと叫んでくれなくては―――



「将軍のご見識はさすがですな。ですが戦争の要諦には士気という物もあるでしょう?」


「―――まぁ、それもありますね」

「そうでしょう! ここはやはり、帝国民を安心させる為、士気高揚の為にも将軍を先頭に六万の軍勢を率い、出兵してもらいたいものだ!」


 おぉ! そうだ! その通り!


 湧き上がる議員達の歓声と裏腹に、コルネリウス将軍は氷のように冷めた視線で一同を一別する。


「武器を持たない者ほど、机上と口では軍人よりもよほどに蛮勇を振るえるもの、か……」


 六万の軍勢を鎮圧軍にしたら帝都から兵が一兵足りともいなくなってしまうだろうに……


 誰の耳にも入らないほどの小声で、ボソリと愚痴を漏らすと、コルネリウスはニヤリと笑みを作る。


「私は陛下より帝都守護の任を与えられていますのでね。鎮圧軍が出兵し、帝都に残される数少ない兵と共に命を賭して帝都をお守りいたす所存!」


 ドンと胸を叩き、将軍としての矜持を示したコルネリウスは()()()()()()()()、と最低限の礼をササッと済ませ、清々した表情で退室してしまった。


「しょ、将軍?」


「あのように宣言されては鎮圧軍の指揮を任せられぬではないか!」

 騒然とする議員達の困惑を背に、コルネリウス将軍は大きなあくびをかみ殺して元老院を後にした。

毎週、月・水・金の週3回17時30分投稿。

次回は12月24日(水曜)です。


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よろしくお願いいたします。

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