01話 クラウディの憂鬱 [挿絵]
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「そうか…地獄の門がついに開いてしまったか」
クロネリア帝国皇帝アウグスの叔父にして、法と軍事における最高指揮権『インペリウム』を持つ執政官のクラウディ公は、時と空間を司る竜レガシーの巫女メルクリウスの報告に頭を抱えていた。
「コピルの剣闘士蜂起が拡大し、barancaの崩壊を招いてしまったようですね」
静謐な雰囲気を纏い、白銀の髪を結い上げたレガシーの巫女メルクリウスは悲しげな眼差しを向ける。
「そなたの勇者、ホラティウスは動けぬか?」
「先のケイオス様を鎮める闘いの傷が癒えておりません」
「政争はともかく、闇を祓うための手が足らぬ。ではカサンドラの力は借りられぬか?」
メルクリウスは困ったように眉を下げて首を振った。
「バース様の巫女ウェヌスに神託が下されまして…彼女の心の傷は海よりも深く、遠出は許さぬと」
「バース様は命を司るだけあって情が深いな……」
遠出は許さぬとは……子供ではないのだぞ?
貴重な勇者といえど、帝国の安寧とは比べようもない。まして心の傷などという理由で目の前の戦力を使えない事にクラウディは苛立ちを覚えた。
しかし、どれほど納得のいかない話だろうと竜の機嫌を損なってはならない。
彼らはこのクロネリア帝国を物理的に滅ぼせるだけの力を持っているのだから。
幾万の兵を動かすインペリウムの権も、超常の存在の前では無価値。
クラウディはあまりの価値観の違いに目眩を覚える。
「アルティウムが去った今、地獄の門にはゴズウェルを向かわせるほかにないか。奴には苦労をかけるな」
「はい。ではせめて、私がゴズウェル様を門までお送りいたしましょう。瞬きの内に」
「頼む」
メルクリウスが去った後、疲れた顔でクラウディは独りごちる。
「コピルの反乱が大きくなってしまったか。アウグスをなだめ、シディウスを牽制しなくては。
軍も動くだろう…ならば、あの男を帝都の守りにつけるよう手配せねばな」
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「坊主の依頼は相変わらず面白いな!さっそく取り掛かってやる。アルゲ、準備を!」
「へい親方!」
ヘリオンはティミドゥスを連れて、ブルトゥス訓練所にある鍛冶工房のドワーフ、キュクロ鍛冶師長の元を訪れていた。
オドリーを身を挺して守ってくれた礼と、五連戦での手伝いの礼を兼ねて、ティミドゥス用の武器を作ってもらう事にしたのだ。
ティミドゥスはブルトゥス訓練所の剣奴だ。
席次三位のヘリオンに師事し、長槍使いとして腕を上げ、共に魔獣戦を戦い抜いた仲間である。
「俺なんかに専用の武器を…こんなに嬉しい事は始めてだ」
喜びに身震いするティミドゥスの様子を見て、匠まで嬉しくなってしまう。
まだ十代のティミドゥスは若者らしい直情さを持ち素直だ。
二十代半ばにして現代日本のブラック企業で擦り切れた匠には、その素直さが眩しく映った。
今回、匠がキュクロに依頼したのは日本の戦国武将が使っていた『大身槍』である。
匠が右も左もわからないままこの世界に転生し、奴隷剣闘士として初めての試合で使ったのが長槍であった。
その時は急造で槍の柄をただ長くしただけだったが、懐事情が改善された今、姉に熱く語られた天下三名槍の一つ『蜻蛉切』を模した槍を作ってみたくなったのである。
「大身槍は頑丈で鋭いが、重心が極端になる」
「俺なんかに扱えるでしょうか?」
「ティミドゥスなら、きっと使いこなせるさ」
鍛冶工房から管理棟への帰途、ティミドゥスとの会話を楽しんでいた匠の脇にある藪がカサリと揺れ、ミャオウと猫の鳴き声が聞こえてくる。
立ち止まり、辺りを伺うヘリオンにティミドゥスは気を使った。
「俺はザビア訓練士長に訓練をつけてもらってきますね。」
「あぁ、先に行っていてくれ」
ティミドゥスが足早に去っていくと、それを見計らうように藪から一匹の大きな猫が姿を見せた。
情報屋をしている、ケットシー(猫の妖精)のフーガだ。
「訓練所の中に入ってくるなんて珍しいじゃないか、フーガ」
「ニャに、ヘリオンさんにお知らせしニャいといけニャい事がありまして」
ヘリオンと同郷らしいフーガは、なにかと世話を焼いてくれる。
少しお節介ではあるが動物好きな匠はフーガを邪険にできなかった。
つい頭を撫でたくなる衝動を堪えて、彼の話に耳を傾ける。
「ここから200キロも南に、コピルという町がありましてニャ、そこで大規模な剣闘士達による反乱が起きたようニャんです」
「剣闘士達の反乱…」
剣奴とも呼ばれる剣闘士はその多くが奴隷である。
友人のティミドゥスも剣奴であり、ヘリオンも元は剣奴だ。
ヘリオンの所属するブルトゥス訓練所は、興行師ダモンとその息子トリトスの人柄によって、剣奴にたいしてかなり人道的な配慮がなされてはいるが、それでも全ての奴隷が人並みに遇されているわけではない。
戦い方を教え込まれ、武器を与えられながらも服従を強いられる剣闘士達。
彼らによる反乱はクロネリア帝国の悩みのタネであり、必然であった。
「剣闘士の反乱はそこまで珍しいものでもニャいのですが、今回はかニャりまずい」
匠も剣闘士である以上は他人事でもないのだが、興行師のダモンとトリトスを始め、かなり良好な関係を築いている。
故に、反乱を企てる者に共感する事はできなかった。
迷惑だなぁ、自分の周りでは起きてほしくないなぁ。という程度の感想だったのだが…
「弁舌が立ち、強い指導者がいますニャ」
「そんなに優秀なやつがいるのか」
「ええ、軍勢はすでに数万に膨れあがっています。確か、その指導者の名前は…」
小首を傾げるフーガの仕草が話の内容に比して愛らしい。
「そうそう、スパルタクス!」
「スパルタクス…」
名前を聞いて瞠目した匠に、フーガは疑問を呈した。
「おや、お知り合いで?」
「…いや、そんな遠くの町の剣闘士を俺は知らないよ」
「でしたか。なにはともあれ、きな臭くなってきニャした。どうか、お気をつけて」
フーガが消え去った後もヘリオンは衝撃のあまり立ち尽くしていた。
スパルタクス……彼の事を匠は知っている。
『転生式異世界武器物語』第二部は毎週、月・水・金の週3回17時30分投稿になります。
次回投稿は12月15日(月曜)です。
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