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29 陰なる大賢者、再び(7)


「はぁ……」


 俺が重い息を吐き出すと、ゼーネが顔を青くした。


「ごめんなさい、フリート。私、余計なことを言ったわ。腹が立って、つい……」


「仕方ないわよ。旅に出てすぐの頃はあたしたちもしょっちゅうブチギレていたもの。ユークは人を不快にさせる天才なのよ」


 マイヤがそっと肩に手を置く。

 セイナはというと、白昼夢から覚めたようにキョロキョロしている。


「あの、今わたくし、何かとてつもないことを口走ってしまいませんでしたか?」


 不安な顔で訊いてくるので、俺たちはジト目で首を横に振っておいた。

 あれは、衝撃的すぎたので見なかったことにしたほうがいいだろう。


「ユーク殿下を追いましょう。お一人では危険です」


「まあ、待て」


 と、俺はセイナを止める。


「ユークにかけた強化魔法はもうしばらくもつだろう。探知魔法で場所もつぶさにわかる」


 勢いで飛び出していったが、どこかに行くあてがあるわけでもない。

 ほったらかしでも、腹が空いたら町役場に戻ってくるだろう。


「今のうちに作戦会議をしよう。どうせ戻ってこいと言っても聞かん坊だろうからな」


「作戦ねえ。はあ。あいつが王子じゃなければ放っておくんだけどねぇ……」


「ユーク殿下のご機嫌次第ではこのまま旅が終わってしまうかもしれませんね。ボク帰るもん、などとおっしゃられないといいのですが」


「本当にごめんなさい。私が考えなしだったわ」


 どっと空気が重くなる。

 俺はおもむろに革かばんの口を開けて金銀財宝を掻き込んだ。

 ジャラジャラと音がして関心が集まる。

 暗い気分ではロクなアイデアは出ない。


「いずれにせよ、お宝をこのままにはできないだろ?」


 ニッと笑って言うと、3人も少し笑顔になった。


「でも、フリート。そんなバッグじゃ入りきらないんじゃない?」


「ご存じないのですか、ゼーネ様。フリート様のおかばんは魔法のかばんなのですよ」


「空間魔法だったかしら? 馬鹿みたいに物が入っちゃうのよね」


「そういえば、大鍋とか寝袋とかどこからともなく出てきていたわね……」


 その通り、この革かばんは俺が旅立ちに際して用意した手製の魔道具だ。

 中はこの宝物庫と同じくらいに広い。


「じゃんじゃん詰め込んでくれ」


 砂金の一粒まで仕舞い込む頃には考えもまとまっていた。

 俺は3人を集めて言う。


「ユークには少し痛い目を見せたほうがいいと思うんだ」


「賛成! あたし、鼻を狙うわ! マイヤのキック、痛快だったもの!」


「じゃあ、蹴るコツ教えるわね!」


「治癒魔法なら任せてください! いくらでも治せますので!」


「あー。そ、そうね……」


 セイナの言には、さすがのマイヤもドン引きだった。

 俺も苦笑しながら言う。


「まずは、各自の特技を再確認しよう」


『弓聖』マイヤは、至宝の弓による変幻自在の属性攻撃が最大の売りだ。

 火矢や氷矢、雷の矢を正確無比に放つことができる。


『聖女』セイナは、聖女の魔法を得意とする。

 治癒魔法に結界魔法、光魔法など魔を払うことに特化しているが、使い方によっては逆の効果ももたらせる。

 治癒魔法で拷問したり、光を操って闇を作り出したり、裏の顔が怖いタイプだ。


 そして、ゼーネは重さを消す魔法を扱える。

 俺と毎日特訓をしているから各種魔法も目覚ましい上達を見せている。


 最後に『大賢者』の俺は、魔法を手広く修めている。

 大抵のことはできるだろう。

 これらを踏まえて俺に妙案がある。


「よし、耳を貸せ」


 俺はごにょごにょと作戦概要を伝えた。

 3人の少女たちは、にたぁ、と悪い笑みを浮かべた。


「ぷくくっ、いい作戦だわ! 顔に仮面でもつければバッチシね!」


「声もフリート様の変声魔法で変えれば、きっと誰だかわかりませんよ!」


「よく思いつくわね、こんなアイデア」


 半分あきれながらも感心するゼーネに俺は悪童っぽい笑顔を向けた。


「大賢者だからな」


 これがうまくいけば、ユークも多少は真人間に近づくはずだ。


「さっそく準備開始だ」


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