28 陰なる大賢者、再び(6)
宝物庫には重い空気が流れている。
ギラギラと光る金貨や宝剣が今は無性に鬱陶しかった。
大きな骨を唯一の拠り所のように抱きしめたユークが、暗い目で俺を見ている。
その視線を見つめ返せないのは、顔向けできない理由が俺にあるからだ。
「なあ、フリート。ボクは今日、なんだか久しぶりに本調子だったんだ。……そうだ。こんなに調子がよかったのは、君を追放して以来だ」
それはまあ、そうだろう。
なんせ俺が支援していたのだから。
ユークは馬鹿だ。
でも、さすがに半年も一緒に旅をしていたら気づかないわけがない。
ユーク自身、考えないようにしていたのだろう。
でも、ふとした拍子に違和感を覚えたはずだ。
ついさっきだって、そうだ。
盛大に空振りしたのに、どういうわけか風が吹いてスケルトン・ドラゴンが倒れた。
いくらなんでも、おかしいと気づくだろう。
俺も少しばかり精彩を欠いてしまった。
久しぶりだったからだろう。
「みんな知っていたんだな?」
ユークがマイヤとセイナを睨んだ。
「示し合わせてボクを笑っていたんだな! 陰でボクを笑っていたんだ! そうなんだろ!」
甲高い怒声が狭い空間に反響し、絶妙にイライラさせてくる。
こういうとき、真っ先にキレるのがマイヤである。
「あー、もう! ギャーギャーうるさいわねぇ!」
マイヤが次に何を言うか、俺にはなんとなくわかった。
止めたほうがいい。
頭の中で警鐘が鳴る。
でも、俺自身もううんざりしていたらしい。
結局、待った、の一言が口を突いて出ることはなかった。
「そもそも、あんたさぁ、本物の勇者じゃないでしょ? なんで、あたしたちがあんたみたいな偽勇者の面倒を見てやらないといけないのよ!」
ユークが本物の勇者ではない。
それは、俺たち三人にとって周知の事実だった。
そして、それを指摘しないという暗黙の了解ができていた。
指摘したところで益がないからだ。
ユークがへそを曲げてしまったら旅がそこで終わってしまう。
マイヤはそれを真正面から叫んでいた。
単細胞め、と思う反面、よく言ったと思う自分もいる。
「ボクが……偽勇者?」
ユークの顔から表情が消えた。
魂が抜けたように棒立ちで、瞳が細かく揺れている。
マイヤの勢いは止まらない。
「だってそうじゃない! あんたの聖剣さぁ、いつになったら目覚めるわけ? ずっと眠ったままじゃない!」
それは、ユークを偽者とする最大の根拠だった。
魔術師の俺には、聖剣に込められた膨大な力が見て取れる。
しかし、ユークはその一端すら引き出せていない。
頑丈な鉄塊として振り回しているだけだ。
ユークは勇者に選ばれた。
しかし、選んだのは国王だ。
国史に名を刻んだ歴代勇者と違って「聖剣に選ばれし勇者」ではないのだ。
ユークは自分に向けられた疑惑の目から逃れるようにセイナを見た。
「ねえ、あいつら変だ。ボクを偽者ってゆってるんだ」
「ちっ、うるせえなァ。汚ねえ骨近づけんなよクソが」
「……ぇ?」
セイナの口からすごいものが出たのでユークが凍り付いた。
落ちた骨がガゴンと音を立てる宝物庫に、さらに冷ややかな声が連なる。
「お前、普通に偽者だろうがァ」
誰あろう聖女様の汚言葉だ。
ほかの誰に言われるよりキツイ。
俺も足の裏に変な汗が出てしまった。
積もり積もった黒いものが今になって突沸のように噴き出したのだろう。
程度の差はあるが、俺とマイヤも似たようなものだ。
ユークは俺たちの顔を順々に見た。
そして、自分の味方が一人もいないことに気づくと、
「わあああああああああ」
と、逃げ出したのだった。
無論、それを追う者は誰もいなかった。




