26 陰なる大賢者、再び(4)
通路を進むと、行く手に土饅頭のようなものが現れた。
かぶっていた土埃を滝のようにこぼしながら、それは、むくりと起き上がった。
骸骨の魔物――スケルトンの登場だ。
魔物の中では最下級の位置づけなので、誰も関心を寄せない。
武器も持っていないし、鎧も身につけていない。
これなら、買い物帰りの主婦が大根で殴るだけでも倒せるだろう。
警戒しているのはユークだけだった。
聖剣を構えたまま、だらだらと汗を流している。
「ユークも成長しているんだな。警戒することを覚えたみたいだ」
俺は素直に感心した。
まったく無用な警戒だが、しないよりはマシだ。
「トラウマになってるだけでしょ? ゴブリンに腕をへし折られて、アリから逃げて、山賊に捕まって、誰かさんには顔を蹴っ飛ばされるし、さんざんだったもの」
マイヤが苦笑し、ゼーネは若干青ざめる。
王子が顔面を蹴飛ばされたのは王国史上初のことだろう。
「いつまで睨み合いを続ける気だ?」
「う、うるさい……!」
ユークは一向に斬りかかろうとしない。
結局、たっぷり1分ほど使って踏ん切りがついたようだった。
「うおおおお!」
と、咆哮一閃、聖剣が振るわれる。
哀れスケルトンは残骸のように散らばった。
はあはあ、とユークは肩で息をしている。
「どうだ! ボクの聖剣を舐めるな!」
大根でも事足りるだろうに、ユークは鬼の首でも取ったようだった。
ダンジョンの奥に入るにつれて、多少は骨のある魔物が現れるようになった。
4本の腕を持つ多腕スケルトン。
3体の亡骸が合わさった多頭スケルトン。
文字通り、骨がある奴らだ。
「すごいぞ! 今日のボクは最高だ! 力がみなぎってくるようだ!」
ユークは順調に骨の魔物たちを駆逐していった。
「あれって、フリートが強化魔法をかけているのよね?」
ゼーネがハッとした様子で俺の肩を叩いた。
「よくわかったな。バレないように魔法の痕跡は消すようにしているんだが」
「ずっとあなたをそばにいるもの。わかるわよ」
意味深な言い回しで再びマイヤとセイナが険を帯びる。
なんとも肩の凝るダンジョン攻略だ。
攻略自体は順調に進み、長い廊下の先に分厚い扉が立ち塞がった。
「やったー! 宝物殿だー!」
単純思考のユークは飛び跳ねているが、ほかの面々は一様に表情が硬くなる。
「フリート様、この先って」
「ああ、迷宮主がいるな」
「わたくしたちで討伐できそうですか?」
セイナは勇者パーティーらしからぬ物言いをした。
度重なる失態ですっかり自信を喪失しているのだ。
「探知魔法の反応によると、雑魚だな。並の冒険者でも準備を怠らなければ苦戦はしないだろう」
俺は扉の罠をこっそり解除した。
地鳴りのような音を立てて扉が左右に開かれる。
その奥は広い石室になっていて、中央には巨大な骨が散らばっている。
頭蓋骨の寒々しい眼窩に空虚な光が灯った。
大岩がぶつかるような音を響かせ、骨が繋がっていく。
俺が倒していいなら組み上がる前に木っ端微塵にできるのだが、ユークの手前、そうもいかない。
花を受け取るのは、いつだって一番偉い人の役割なのだ。
高い天井いっぱいに骨の体がそびえ立つ。
「スケルトン・ドラゴンだ」
見たまんまを口にすると、情けない悲鳴とともにユークが俺の背後に逃げ込んだ。
俺が元通りのバラバラに戻してもいいのだが、後でユークは文句を言うだろう。
俺は不可視の魔法でスケルトン・ドラゴンの前脚を吹き飛ばした。
「おっ? 勝手に倒れたぞ。あいつ、見かけより弱そうだな」
雑魚と見るや、ユークが水を得た魚になる。
「ボクに続け!」
無策で突っ込むので、当然のごとく尻尾による強烈な薙ぎ払いの的になる。
俺はユークの体を強化魔法で鋼鉄並みの頑強さにした。
質量差でぶっ飛ばされこそしたが、ユークは無傷で立ち上がった。
「ふん! ボクにそんな攻撃が効くと思うな!」
地力だとミンチ確定だが、強化の限りを尽くしたユークは普通に強い。
稲妻のごとくスケルトン・ドラゴンに突っ込むと、聖剣を振り抜いた。
突風が駆け抜ける。
これは、聖剣の剣圧によって生み出されたものとかではなく、普通に俺の風魔法だ。
ユークが派手に空振りしたので、とっさにフォローした形だ。
骨の体がバラバラに砕け散る。
残骸と化したスケルトン・ドラゴンの前でユークが雄叫びを上げた。
満足したようだ。
これで、当面おとなしくしてくれるだろう。




