向き合う時!
夜が明け始める街の中――
晴臣と真琴は並んで歩いていた。
朝焼けの気配が街を少しずつ染めていくなか、ふたりの間にはどこか照れ臭く、言葉にしづらい空気が漂っている。
晴臣は何かを決意するように小さく息を呑み、横を歩く真琴に向き直る。
「……“タネ”のこと、今度こそちゃんと教えてほしい」
その言葉に真琴は少しだけ目を見開いたが、すぐにふっと口元を緩めた。
「うん、いいよ」
拍子抜けするほどあっさりと、彼女は答える。
そして、歩みを止めることなく話し始めた。
「ユメの“タネ”はね、文字通りの“種”なの。まだ芽吹いていない、でもいつかどこかで、確実に“何か”として生まれてくる。……ただ、それだけの存在」
言葉を選ぶようにしながらも、真琴の口調は淡々としていた。
「副作用、というか……付随して起きる現象として、あの緑の光があるの。あれはね、コントロールできないの。ユメ自身にも、誰にも」
晴臣は黙って頷き、真琴の言葉を逃すまいと耳を傾ける。
「しかも、あの光は生きているもの、死んでいるもの……生と死の境にあるすべてに影響する。触れれば、壊れる。命であっても、魂であっても、例外なく」
そこまで話すと、真琴はすっと晴臣の前に回り込んだ。
立ち止まり、顔を上げ、覗き込むように晴臣を見つめる。
「……ねえ、もう気づいてるよね?」
首を少し傾け、瞳にわずかな光を宿して。
その瞳は何かを問いかけるように、何かを試すように、まっすぐに彼を射抜いていた。
真琴の問いかけに、晴臣は一瞬、息を呑んでその場に硬直した。
制御不能なはずの緑の光――
それを自分は、たしかにさっき“意志”で呼び出した。
しかも、あれほど破壊的だと説明された光をまとってなお、自分の体には何の異常もなかった。
指先を見つめる。あのとき、確かに光は自分の内から湧いた。
破壊のはずが、どこか護るような感覚さえあった。
混乱と疑問が心を占めていく中、晴臣はおそるおそる口を開いた。
「…なぜ俺は無事だったんだ?」
真琴は少しだけ目を伏せた。まるで、その答えが彼を傷つけるかもしれないと躊躇うように。
「……正直に言うと、わたしにもわからないの」
声は静かだった。けれど、曖昧さの裏には確かな誠実さが滲んでいる。
「“タネ”に意思があるのかどうかも……その“意思”が、誰かと繋がったり、宿主を選んだりするのかも……全部、まだ不明なの」
真琴は口元に手を添え、少し苦しげに言葉を続けた。
「でも――ただの偶然とは思えないよ。君があの光を制御できたことも、君が無事だったことも」
彼女の瞳が、再び晴臣を真っ直ぐに見つめる。
「もしかしたら、“タネが芽吹く前に”選ばれてしまったのかもしれない」
風が吹き、朝焼けの光がふたりの影を長く引き伸ばした。
その先にある運命の形を、まだ誰も知らないまま――




