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汐見市生活課!  作者: ケン3
間話
79/96

産声!

訓練という名目の戦闘が終わり、肌に残る汗と土の感触が、まだ微かに戦いの余韻を伝えていた。

 

公園の片隅、使われていないベンチの並ぶスペースで、晴臣たち四人――美鈴、義勝、真琴、そして晴臣自身――は、自然と輪になるように腰を下ろしていた。

 

「……あの緑色のやつ」

最初に口を開いたのは美鈴だった。肩で息をしながらも、鋭い視線は晴臣の右拳に注がれている。

「あれ、何?」

 

「自分でも、正直よくは…」

 

晴臣は拳を開いたり閉じたりしながら、ゆっくりと言葉を選ぶように口を開いた。

 

「たぶん……いや、間違いなく、“夢の街”から戻ってきたあたり、ユメと会ってから……なんとなく、出るようになった。意識したわけじゃない」

 

 

隣で聞いていた真琴が、腕を組んだまま、何度か頷く。

 

「霊的な残滓でもない。生物的反応とも思えないし……」

「物理的エネルギーとも違う。あれに触れようとした瞬間、私の“核”が焼かれるような錯覚があった」

 

美鈴が真剣な面持ちで交わす会話に、晴臣は苦笑を浮かべる。

 

「お手上げ?」

 

「うん、お手上げ」

 

「お手上げだな」

 

二人が同時に肩をすくめる中、ふと晴臣の視線が真琴へと向いた。

 

静かに輪の一角に座る彼女は、何も言わずに俯いていた。が――

 

(……ん?)

 

晴臣の目が思わず吸い寄せられる。

 

真琴の顔が……笑っていた。

いや、それは笑みというにはあまりにも歪で――口角が、耳の近くまで吊り上がっていた。

 

(……は?)

 

ごく自然に、そして奇妙に、不安と寒気が背を走る。

けれど次の瞬間、晴臣が瞬きをすると、そこにあったはずの笑みはきれいに消えていた。

 

いつもの、少し影のある、けれど静かな真琴の顔。

目を伏せ、無言で話を聞く、ただの真琴。

 

「……いや、なんでもない」

 

晴臣は頭を振って立ち上がる。

 

見間違いだろう。疲れてるんだ。

 

だが――ベンチの影で、真琴の口元がわずかに揺れたことに、誰も気づいてはいなかった。

 

それは、心からの喜びのようにも見え、

あるいは、悪魔が魂を喰らう直前に浮かべる歪んだ歓喜のようにも見えた。

 

種子は確かに芽吹いた。

そしてそれを、ただ一人、心の底から歓迎していた者がいた。

 

――真琴の瞳の奥に揺れる、夢と現の狭間にある何かが、微かに瞬いていた。

 

* * *

 

……ふわぁ……

まだ夢のなか。ここはきっと、夢と夢のあいだにあるところ。

 

うん、わたしは……ユメ。

とってもちいさくて、ふわふわしていて……風の音も、星のささやきも……全部、まぶたの裏で歌ってる。

 

ねえ……ハルオミ。

かわいい、かわいいハルオミ。

あなたがこの世界に生まれたとき、わたし……ちゃんと見てたんだよ。

大きな声で泣いて、でも、どこかひどく静かで……とても綺麗だった。

 

この世界はね……

お日さまも月も、優しくないときがある。

風は冷たくて、人の言葉はときどき刃みたいに痛い。

そんな醜い世界でも――あなたが、生きていけるようにって。

 

だから、タネをあげたの。

ちっちゃな、ちっちゃなタネ。

胸の奥、もっと奥、心のいちばん深いところに、そっと、そーっと。

 

そのタネはね……すごいのよ。

目には見えないけど、あなたが笑ったとき、涙をこらえたとき、誰かを守ろうとしたとき――

すこしずつ、芽を出して、伸びて、力になる。

 

うん……ハルオミなら、きっと大丈夫。

ちゃんと使えるよ、このタネ。

だってあなたは……

あなたは、わたしがいちばん大好きな“夢”だから。

 

……がんばってね。

うまく使えるように……

ちゃんと、お水をあげて……

陽を浴びて、風に吹かれて……

きっと、綺麗な力になるから。

 

おやすみ、ハルオミ。

また、夢のなかで会おうね。

わたしはずっと、ここにいるよ。

夢のなかで、あなたを、見てる――……

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