春の味覚!
「生活課ですか? あの、すみません、ちょっと変な子がいて……その、草を生で食べてる?吸ってる?んです……」
そんな電話が入ったのは、春の陽気が街を包み始めた午後。
書類整理の手を止め、晴臣はすぐに現場へ向かった。
「変な子……? 怪異か?」
晴臣が問題の公園に到着し、辺りを見回すと緑の芝生の中にそれはいた。
「……あー」
現場で見たのは、芝生に四つん這いになり、まるで掃除機のような吸引力で野草をむさぼるミイナの姿だった。
「ズゾゾ……モグモグ……ズゾ……」
「何やってんの……」
振り返ったミイナは口の端に草をつけながら、のんびり微笑んだ。
「……あ、はるおみ……ミイナ、お昼ごはん中……」
「草では?」
ミイナはさらにニコニコしながら、小さな花がついた雑草を摘んでぱくり。
「だってね、春になると、草が甘くて美味しいって……鬼ババが言ってた」
「鬼ババってカミエさん?ていうかそういうのは野草だから普通調理前提なんだよ、せめて天ぷらとか」
「えー……でも、お外で食べると、おいしいよ?」
ミイナはベンチに座りなおし、草でできた即席のサラダ(?)をモシャモシャと口に運びながら、嬉しそうに言う。
「お肉も好きだし、お菓子も好きだけど……お野菜も大好き……」
「三食バランスよく、じゃないんだよ……三食生草でいこうとしてんじゃん」
晴臣は深くため息をつきつつ、ミイナの口からはみ出たクローバーをティッシュでぬぐってやる。
「……とりあえずこれとこれと、それからそれの草を集めてくれ。そしたら帰ったら料理するから食べなよ」
「うん。はるおみがくれるなら……どんなごはんでもいいよ……」
「おいその言い方やめろ」
その夜、晴臣が自宅で待っているとミイナが袋いっぱいの野草を集めてやってきた。
「はるおみ……これ、お土産……」
「……ん? なんだこれ、葉っぱ?」
さらにミイナが差し出したのは、丁寧にティッシュにくるまれた何かの草。
「今日、一番おいしかった草……はるおみにも食べてほしくて……」
「トリカブトって、殺す気?」
「おいしーかもー」
晴臣は台所に立ち、さっきミイナがむしってきた野草の中から食用可能なものを選り分けていた。
よく洗い、泥を落とし、灰汁を抜く。天ぷら粉を用意し、油を熱する。
「……どこが生活課の仕事だよ、これ」
ミイナはちゃぶ台の前に正座して、じっと揚げ物の音を聞いていた。
瞳がきらきらと光り、鼻がヒクヒク動いている。
「……はるおみ、いいにおいしてる……」
「食べてもいいけど、揚げたては熱いから気をつけ……」
「いただきます!」
ズバァァッ!!
ミイナが風を切って、揚げたてのフキノトウ天ぷらに箸を突き刺す。
「……ッあっつい! けど、おいしーい!」
バリバリバリッ!!
「もう一個……もう一個……っ」
「……早いな!? 待て、今盛りつけて……!」
天ぷら、味噌汁、胡麻和え、佃煮……と順次出していくも、調理→完食→調理→完食の無限ループが続く。
晴臣はついに口を開いた。
「……これ、間に合わないんだけど」
ミイナは幸せそうにお茶を啜りながら笑う。
「ふふ……はるおみが作る草、ごちそう……ミイナ、草、だいすき……」
「今その言葉に救われていいのかどうかわからんのだよな……」
それで、坊ちゃんの手料理をバクバク食べたと?
…はぁい
それで?
…出動かかってぇ、来ました。
で?
…お腹いっぱいで相手に吐いちゃった。
びっくりしたわ。青汁まみれになったの、なんでそんなに食べたのよ?
…だって鬼ババ
は?
…カミエが草の美味しい季節って、喜んでたから
…




