お別れのプレゼント!
市役所・生活課。照明の蛍光灯が少しだけチカチカしている。
机に座った晴臣が、書類をめくりながらふとハクアに顔を向ける。
「で、君は結局どこから来たの? 名前はハクアでいいの?」
ハクアはパッと元気よく手を挙げた。
「はぁ〜いっ☆」
「うん、それでどこから来たの?」
「わかんな〜い♪」
「……そう」
苦笑しながら次の質問へと進む。
「何しに汐見市に? 目的は?」
「教えな〜いっ☆」
「……そうか」
晴臣は若干肩を落としながらも、淡々と続ける。
「年齢は?」
「見た目的に15歳かな?でもお酒は飲めるよ!」
「……法の抜け道みたいな発言するのやめてくれるかな」
晴臣はため息混じりにペンを回す。
姫野は腕を組み、カツカツと靴を鳴らして壁際で不機嫌そうに立っている。
晴臣はふとペンを止めて、ぽつりと尋ねた。
「もしかして……君、王様とかだったりする?」
その言葉に、ハクアの動きが一瞬止まる。
そして――にんまりと、花が咲いたような笑顔。
「ふふふっ、そうかもね〜☆」
「え、本当に?」
晴臣が身を乗り出しかけたその瞬間、
「ちょっと!!」
姫野が乱暴に話に割り込んできた。
「ハルくん!このヒゲの言うこと、あんまり間に受けないで!こいつすぐ人に妙なこと吹き込むんだから!」
「ええ〜、でも面白いじゃん? お兄ちゃん、ちょっと鋭いかも〜♪」
ハクアがけらけら笑いながら椅子をクルクル回す。
その笑顔に、姫野はまたしても言いようのない嫌な予感を覚え、頭を押さえた。
「ホント、胃に悪いわこのヒゲ……」
「とりあえず調書だけでも書いとかないとな」
そう言って晴臣が書類を引き寄せ、ペンを走らせ始めると、ハクアは机に突っ伏して退屈そうに唸った。
「ねぇ〜お兄ちゃん〜、まだ〜? 早く遊ぼうよぉ〜」
「遊ぶって、具体的に何を……」
「なんか楽しいことっ!」
「……それが一番あいまいなんだよなぁ」
ぶつぶつ言いながらも手を止めない晴臣をよそに、ハクアはふと何かを思いついたようにぱっと立ち上がった。
「じゃあ、ボクこっちで遊んでるねっ♪」
ひょいと音もなく動いて、課長の机にちょこんと座る。
「ちょ、あんた何勝手に――!」
姫野が声を上げるが、ハクアは無邪気に笑って机を指でなぞるように撫で始めた。
その仕草は妙に静かで、けれど、どこか感慨深げで――。
「ねぇ、この人……元気?」
ハクアの声がふいに低く、曇りを帯びたものに変わった。
手を止めた晴臣が、少しだけ顔を上げる。
「課長のこと? まぁ元気だけど、なんで?」
ハクアはくすりと笑った。
その笑顔は無邪気さの奥に、何か古い記憶を抱いているような――妙に大人びた影を落としていた。
「片方、腕がないのに……よくもまぁ、まだ生きてるなぁって」
「…そういえばあんた」
姫野の言葉を遮るように、晴臣のペンの動きが止まる。
ハクアは机に肘をつき、あどけない笑みを浮かべたまま、
「ううん、なんでもなーい♪ 昔の知り合いにちょっと似てただけっ」
と、軽く首を傾げて笑った。
晴臣はしばし沈黙したまま、ハクアの言葉の真意を測ろうとするが、ハクアはただ子供らしく机にゴロンと寝そべり、何も語らない。
その様子を見ていた姫野が、ついに堪らずに晴臣の袖を引っ張る。
「ねぇ、ハルくんもマジで危ないわ」
「……うん、俺も今、ちょっとそう思ってる」
* * *
「とりあえずは大丈夫そうかな?」
調書を書き終え、ペンを置いた晴臣が立ち上がると、ハクアはぱちぱちと拍手して見せた。
「おつかれさまー! じゃあ今日はこれでおしまいっ♪」
「おしまい? ってどこ行くつもり――」
「ひみつー!」
市役所の玄関をくぐり、三人で外に出る。午後の陽射しがじんわりと照りつける中、ハクアは急に足を止めると、鞄の中をごそごそ探り始めた。
「……ねぇ、お兄ちゃん」
振り向いたハクアは、どこか満足げで、それでいてやっぱり飽きたような――そんなつかみどころのない笑顔を浮かべていた。
「今度も、また遊んでくれる?」
「え、あぁ……まぁ、暇なら?」
「やった♪ じゃあこれ、あげるねっ!」
そう言って、彼はポケットから小さな黄色いハンカチを取り出して、晴臣の手のひらに乗せた。
「……ん? ハンカチ?」
目を瞬かせる晴臣の横で、姫野がそのハンカチを見た瞬間、ぴたりと動きを止める。
口元がぴくりと引きつるように震え、明らかに嫌悪と警戒の混ざった視線をその布切れに注いでいた。
「……なんだよ、これ、別に普通の――」
「ハルくん、そのハンカチ捨てときなさい」
姫野の声は震えていた。怒りとも、恐怖ともつかぬ、何かを絞り出すような声音だった。
「え、なんで? ただのハン――」
晴臣が視線を戻すと、もうそこにハクアの姿はなかった。
「……いないな。帰ったのか? さっきまでいたのに」
呑気に辺りを見回す晴臣に、姫野は深いため息をついて言う。
「ハルくんはほんと無自覚に変なもん引き寄せるよね……まじで、それ焼くか埋めときなさい」
晴臣の手の中で、黄色いハンカチが、風にふわりと揺れた。
その布からは、ほんのかすかにどこか血のような金属臭が漂っていた。
そういえば課長の腕ってどうされたんですか?
腕?あぁ、昔やたらと真っ黄色の怪異に取られたんだよ。それから怪異が苦手になっちまったんだよ。
真っ黄色、ですか?
そう、なんかヒゲの生えたおっさんが雨ガッパ着てる感じの怪異




