表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
汐見市生活課!  作者: ケン3
間話
65/96

商店街デート!

「ねぇねぇ、お兄ちゃん、見て見て! このクマさんの鍋つかみ、超かわいくない? あっちのニンジン型タオルもいいな~! あ、あとであの金魚の飾り見に行こ!」

 

ハクア――そう名乗った金髪の美少年は、コートの裾をひらひらさせながら、商店街の通りを楽しそうに駆けていく。

晴臣の手をがっちりと握ったまま、あっちへこっちへと引きずり回すその姿は、まるで親に甘える弟のようで――

 

「……遊ぶって、こういう意味だったのか」

 

晴臣はぼやいた。

買い物というより、見るだけ見るだけ、で既に一時間。手は冷えるし、荷物もない。

けれど不思議なことに、商店街の人々はみな彼を見てにこやかに声をかける。

 

「今日はお友達連れかい、晴臣くん」

「そっちの子、かわいらしい顔してるね~!」

「お兄ちゃんとおそろいのマフラーにしな~」

 

おばちゃんたちがハクアに手を振れば、彼は無邪気に笑顔を返す。

まるで長年この街に住んでいたかのような馴染みっぷりに、晴臣は首をひねった。

 

(人懐っこさと、あの顔……そりゃ好かれるか。実際、芸能スカウトにでも見つかったら秒で連れてかれるだろうな)

 

ちら、と隣を歩くハクアを視線で追った――その時だった。

 

「……ふふっ。お兄ちゃん、今えっちな目で見た~」

「は?」

「ほら、その視線! うわー、ボクまだ15歳だよ? だめだよー、そういうの!」

 

ハクアは両手で顔を隠すようにしながらも、指の隙間からこっそり覗き見て、イタズラっぽく笑う。

 

「……してない。お前があちこちで人気すぎて、何者かって改めて見てただけだ」

「え~、ほんと~? じゃあもっとじっくり見ていいよ? ほら、こんな顔~」

 

晴臣のすぐ前でハクアがくるっと振り向き、顔を上げて微笑んだ。

その笑顔は、ただの無邪気なのか、あるいは底知れない悪戯心か――見分けがつかない。

 

晴臣はため息をつきながら、ぽんとハクアの頭を軽く叩いた。

 

「調子に乗らない。次の店行くぞ、もう鍋つかみは見飽きた」

「やった~! じゃあ次は文房具屋! ボク、シール大好きなんだよね~」

 

再び手を引かれながら、晴臣は少しだけ笑った。

誰だか分からない“何か”との、予想外の休日。

……まあ、たまには悪くないかもしれない。

 

* * *

 

文房具屋の奥、シールやカラーペンが並ぶ棚の前――。

 

「お兄ちゃんお兄ちゃん、見て! このクマのシール、超かわいいよ! 貼るのもったいないね~!」

 

ハクアは満面の笑みで、両手いっぱいにシールを抱えてはしゃいでいた。

晴臣はその後ろで「本当に貼る気あるのか?」と苦笑しつつ見守っていた。

 

――その時。

 

「……あれ、ハルくん?」

 

店内に、少し高めの通る声が響いた。

 

振り向くと、ドアをくぐって入ってきたのは、姫野ルイだった。

ふわりとしたショールに身を包み、冬の冷気を引きずったままの姿で、彼は柔らかな微笑を

 

……浮かべかけて、ピタリと止まる。

 

視線の先には、ハクア。

そして彼が握る、晴臣の手。

 

その瞬間、ルイの顔が強張った。

 

「……ちょっ、ちょっと失礼!」

 

ぱたぱたと素早く近づいてくると、晴臣の腕からハクアの手をぐいっと引き剥がす。

「わっ」とハクアが驚くより早く、ルイは彼の肩を掴み、店の外へとずんずん引きずっていった。

 

「ちょ、姫野?」

「ハルくん、ちょっと待ってて!」

 

店の自動ドアが開き、冷たい風が二人を連れ去っていく。

 

数秒後。

文房具屋の前、並ぶ自販機の脇で、ルイの声が怒鳴りに近いテンションで飛び出した。

 

「なんであんたがここにいんのよ!」

「わぁ、久しぶり~、元気してた? ルイお姉ちゃん」

「お姉……ッ、ふざけないで!あんたいつもの “ヒゲ”は!?それにハルくんに触んな!!」

「あー……ヒゲねぇ……最近ちょっと反抗期でさぁ」

「自分のなのに反抗期って何!?ていうか、なんでハルくんに擦り寄ってんのよ!? なに? 寄生? ストーキング? それにその体、一体“誰の体使ってんのよ”!?」

「ん~ん~、ちょっと遊びたくなっちゃっただけだよ?お兄ちゃんかっこいいし」

「あんたねぇ……!!」

 

吐く息が白くなる冬の空気の中で、ルイの怒声とハクアの飄々とした返事が飛び交っていた。

店の中からぼんやりそれを見守る晴臣は、頬をかいてつぶやいた。

 

「……あの子、思った以上にヤバいのかもしれない」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ