商店街デート!
「ねぇねぇ、お兄ちゃん、見て見て! このクマさんの鍋つかみ、超かわいくない? あっちのニンジン型タオルもいいな~! あ、あとであの金魚の飾り見に行こ!」
ハクア――そう名乗った金髪の美少年は、コートの裾をひらひらさせながら、商店街の通りを楽しそうに駆けていく。
晴臣の手をがっちりと握ったまま、あっちへこっちへと引きずり回すその姿は、まるで親に甘える弟のようで――
「……遊ぶって、こういう意味だったのか」
晴臣はぼやいた。
買い物というより、見るだけ見るだけ、で既に一時間。手は冷えるし、荷物もない。
けれど不思議なことに、商店街の人々はみな彼を見てにこやかに声をかける。
「今日はお友達連れかい、晴臣くん」
「そっちの子、かわいらしい顔してるね~!」
「お兄ちゃんとおそろいのマフラーにしな~」
おばちゃんたちがハクアに手を振れば、彼は無邪気に笑顔を返す。
まるで長年この街に住んでいたかのような馴染みっぷりに、晴臣は首をひねった。
(人懐っこさと、あの顔……そりゃ好かれるか。実際、芸能スカウトにでも見つかったら秒で連れてかれるだろうな)
ちら、と隣を歩くハクアを視線で追った――その時だった。
「……ふふっ。お兄ちゃん、今えっちな目で見た~」
「は?」
「ほら、その視線! うわー、ボクまだ15歳だよ? だめだよー、そういうの!」
ハクアは両手で顔を隠すようにしながらも、指の隙間からこっそり覗き見て、イタズラっぽく笑う。
「……してない。お前があちこちで人気すぎて、何者かって改めて見てただけだ」
「え~、ほんと~? じゃあもっとじっくり見ていいよ? ほら、こんな顔~」
晴臣のすぐ前でハクアがくるっと振り向き、顔を上げて微笑んだ。
その笑顔は、ただの無邪気なのか、あるいは底知れない悪戯心か――見分けがつかない。
晴臣はため息をつきながら、ぽんとハクアの頭を軽く叩いた。
「調子に乗らない。次の店行くぞ、もう鍋つかみは見飽きた」
「やった~! じゃあ次は文房具屋! ボク、シール大好きなんだよね~」
再び手を引かれながら、晴臣は少しだけ笑った。
誰だか分からない“何か”との、予想外の休日。
……まあ、たまには悪くないかもしれない。
* * *
文房具屋の奥、シールやカラーペンが並ぶ棚の前――。
「お兄ちゃんお兄ちゃん、見て! このクマのシール、超かわいいよ! 貼るのもったいないね~!」
ハクアは満面の笑みで、両手いっぱいにシールを抱えてはしゃいでいた。
晴臣はその後ろで「本当に貼る気あるのか?」と苦笑しつつ見守っていた。
――その時。
「……あれ、ハルくん?」
店内に、少し高めの通る声が響いた。
振り向くと、ドアをくぐって入ってきたのは、姫野ルイだった。
ふわりとしたショールに身を包み、冬の冷気を引きずったままの姿で、彼は柔らかな微笑を
……浮かべかけて、ピタリと止まる。
視線の先には、ハクア。
そして彼が握る、晴臣の手。
その瞬間、ルイの顔が強張った。
「……ちょっ、ちょっと失礼!」
ぱたぱたと素早く近づいてくると、晴臣の腕からハクアの手をぐいっと引き剥がす。
「わっ」とハクアが驚くより早く、ルイは彼の肩を掴み、店の外へとずんずん引きずっていった。
「ちょ、姫野?」
「ハルくん、ちょっと待ってて!」
店の自動ドアが開き、冷たい風が二人を連れ去っていく。
数秒後。
文房具屋の前、並ぶ自販機の脇で、ルイの声が怒鳴りに近いテンションで飛び出した。
「なんであんたがここにいんのよ!」
「わぁ、久しぶり~、元気してた? ルイお姉ちゃん」
「お姉……ッ、ふざけないで!あんたいつもの “ヒゲ”は!?それにハルくんに触んな!!」
「あー……ヒゲねぇ……最近ちょっと反抗期でさぁ」
「自分のなのに反抗期って何!?ていうか、なんでハルくんに擦り寄ってんのよ!? なに? 寄生? ストーキング? それにその体、一体“誰の体使ってんのよ”!?」
「ん~ん~、ちょっと遊びたくなっちゃっただけだよ?お兄ちゃんかっこいいし」
「あんたねぇ……!!」
吐く息が白くなる冬の空気の中で、ルイの怒声とハクアの飄々とした返事が飛び交っていた。
店の中からぼんやりそれを見守る晴臣は、頬をかいてつぶやいた。
「……あの子、思った以上にヤバいのかもしれない」




