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汐見市生活課!  作者: ケン3
本編
5/96

街の情報屋!

 商店街の一角。

 年季の入ったアーケードの下、やけに妖しい紫の暖簾が揺れる。

 暖簾に書かれている文字は「千里眼 澪」と達筆なのか呪術なのかよくわからないタッチで描かれていた。

 

 その奥にあるのが、情報屋・澪の拠点――“占い屋”だ。

 一回100円。

 驚くほど良心的だが、実際のところは占いというより「情報屋」に近い。

 

「こんにちは、澪さん。今日は“もきゅ”案件について相談があって」

 

 暖簾をくぐると、黒いローブを羽織った女性が水晶玉を磨いていた。

 長い前髪から覗く淡々とした瞳は、どこかこの世界の裏側を見ているようだ。

 

「あら海堂さん、ようこそ。……そちらの方も相変わらずですね」

「ああ、今日は煎餅を丸呑みした。五枚目は破砕した。学習した」

「しなくていい学習ですね、それ」

 

 澪は肩をすくめると、晴臣の前に椅子を勧めた。

 

 晴臣が腰を下ろそうとしたそのとき――

 

 むぎゅっ。

 

 背後から、柔らかい感触とともに両腕が回される。

 

「な、真琴くん!?」

「…晴臣くん、君ぃ楽しそうに話してたね」

 

 真琴は後ろから晴臣に抱きついたまま、澪をちらりと見てから――ニヤリと口元を吊り上げた。

 勝ち誇ったような顔。いわゆる「ドヤ顔」である。

 

「今ここにいるのは私だぞ、アピール」

「アピールするな!てか、どけ! 邪魔! 暑苦しい!」

 

 晴臣はそのまま立ち上がり、流れる様に背後の真琴を背負い投げ。

 

 ドゴォッ!

 

 軋む床。軽やかに受け身を取ったかに見えた真琴に、晴臣が十字固めと容赦ない追撃。

 

「あいたたたたた! 何この対応、いつもよりスパルタ!」

 

 組み伏せられた真琴が床をばたばたさせる中、晴臣は何事もなかったかのように顔を澪へ向け直す。

 

「それで、澪さん。“もきゅ”現象、何か心当たりは?」

「ええ。……近くの河川敷で“音に反応する式神様”が暴走してるという話を聞きました。正確には、住民が勝手に“九十九神”と祀っていたものが、言葉のパターンを学習して暴走中だとか」

「なるほど……変なテンプレを覚えたAIみたいなやつか」

「そうですね。“もきゅ”って語尾にデータ汚染されて、それを周囲に感染させてるようです。生き物でも神でもなく……まあ、あれは概念寄りの存在ですけど」

「了解。現場を押さえれば対処できるな。ありがとう、澪さん」

 

 床に押さえ込まれていた真琴が、じたばたしながら抗議する。

 

「腕がー! もうちょい優しくしてもよくない!?」

「いや、無理。君が優しくない行動したからだし」

 

 そんな二人を見ながら、澪はすっかり慣れた様子で涼しい顔をしていた。

 

 しかし、占い屋の外を通りかかった親子連れは違った。

 

「……ママ、あれ、プロレス……?」

「見ちゃダメ。ああいうのは“市職員の業務”だから……」

 

 母親は子の目をそっと覆いながら、早足で去っていった。

 

「……今日も平和ね、この街」

 

 そんな澪の一言が、汐見市の異常な日常を静かに締めくくった。

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