ダブルデート!
汐見市商店街、昼下がり。
ミイナがまるで徘徊する動物のように晴臣の袖を引っぱり、その横では真琴と姫野が、沈黙のまま目を細めて火花を散らしている。
アイスの包み紙を口から抜きながら、ミイナは晴臣に預けているポシェットから取り出した飴玉を口に放り込んだ。
「……あまいくて美味しい……しあわせ……」
「ほら、これもあるわよ?うちの新作のグミ」
「わぁい……ルイちゃん、すき……」
「はいはい、どうせハルくんの次くらいに好きでしょ?」
「シオマートの試食コーナーと同じくらいすき~……」
「食べ物と同列かよ…」
姫野ルイは歩きながら、ミイナにお菓子を次々と手渡していた。
まるで動物園のコアラと飼育員の関係のようだった。
「……甘やかしてばっかりだね」
すぐ後ろから追いついてきた真琴が、姫野に声をかける。
「いいのよ。ミイナはね、お菓子をあげると黙るの。あたしの平穏のために必要経費」
「ひどいルイちゃん……でもグミはおいしい……」
「なっ、わ、悪気はないってば!」
涙を拭うフリをするミイナを慰めようとあたふたする姫野を尻目に、晴臣は商店街のおじさんやおばさんに引っ張られてミイナに渡す用の食べ物をどんどんと持たされている。
その様子をくすくすと笑いながら、日傘をくるくると回してのんびりと眺める真琴。その目線はどこか別の場所へ向いているようだった。
* * *
海沿いのベンチ。
日差しに焼けたコンクリの手すりにもたれ、アイスコーヒーのストローをゆっくり噛む男がひとり。
橘幸太郎、対怪異組織所属の監視員。
「ずいぶんとまぁ楽しそうで」
ニコニコとミイナがご飯やアイスを食べ、姫野が餌付けし、晴臣は苦笑する。
そんな様子を眺めつつ、後ろを歩く日傘の女を幸太郎は凝視する。
「いや、誰だあれ。記録にない女が混じってる……」
黒髪のウルフカットに細い首、色白の肌に黒い瞳。ふわりと風になびくシャツ、なにやら無邪気な笑み。
「……くそっ、こちら暑い中1人寂しく仕事だってのに暢気に女引き連れてダブルデート」
幸太郎はすこしだけ額に汗を浮かべる。
そして晴臣を呪いつつも、ため息をつく。
「……ま、男を巡って神格が異星種族と争ってるから、案外後ろの女が一番の脅威って話もあるかもな」
そう言って報告書を書いていたパソコンを閉じて、呑み終えたアイスコーヒーの容器をすぐ近くのゴミ箱に捨て行った幸太郎。
そのパソコンに指を添わせて撫でる、日傘をさしたウルフカットの女には気付かなかった。




