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番外編 エディオスSide


「殿下、合格おめでとうございます」

すっと視線を上げると執事が一つの封筒を持っていた。

「まだ、気が早いよ」

「いえ、殿下なら大丈夫です」

執事の真面目な顔に思わず苦笑する。この堅物は滅多にこの顔を崩さない。しかも僕を褒める言葉しか吐かない。前にそのことについて言及したら、褒めるところしかないと言われた。

 僕は完璧に見えるよう常に心がけているし、今回も不合格の可能性など万一にも考えていないのは事実だ。しかしこの執事にそんなことを言われても嬉しくはない。僕を褒めて機嫌を取っているように見せかけ、その腹の中では次の計算を立てている。こちらのこともある程度把握したうえで褒め言葉(戯言)を言う。見透かされているようで腹が立って仕方がない。

「どうかしましたか?殿下」

僕はもう一度執事を見据える。筆頭公爵家の当主の実弟である彼は僕と十しか変わらない。身分があるから僕の専属執事をしているのではなく実績も伴っている。文句なんて一つもない。けれどいつかは一発何かスパイスの効いたものをお見舞いしてやろうと思っている。

「いや、何でもないよ」

すっと封筒を手に取り、封を風魔法で切る。出てきた合格証を見て気づいた。

「……」

「何かお探しですか?」

執事の挑発するかのような言葉にハッとして振り向く。

「シェリウス!お前何かしたのか!!」

「どんな言いがかりですか、殿下?もしや自分は首席合格(・・・・)で間違いないだろうとでも思ってました?」

「!!」

執事―シェリウスの言葉に図星を指されて赤くなる。

そう、どうせ首席合格だろうと思っていたが合格証のどこにもそんなことは書かれていなかった。

 自分の行動に対する羞恥に顔を手で覆う。

「どうしました?」

「………」

「大丈夫です。殿下の日頃の成績なら自分が首席だろうと考えるのは当然です」

「……お前面白がっているだろう」

「ええ、それはもちろん。自信満々な顔していましたので」

「くっ!!忘れろ…」

「いつもの王子様スマイルが崩れていますよ」

いいじゃないか。もうお前にはバレているのだし。

 顔を背けているとシェリウスが耳元で囁いた。

「誰が首席か気になりません?」

「……どうせお前のとこのルイスかレイラだろう」

この国に4つしかない公爵家で同い年である二人の名前を出す。ルイスはヴィゼリュート公爵家の長男。レイラはフェルネタリ公爵家の次女。二人とも高等教育を受けているはずだ。

「うちのルイスはともかく、レイラ嬢は…」

「…そうだったな」

 シェリウスの言わんとしていることを察して頷く。確かレイラは勉学が苦手だったな。

「じゃあ、誰なんだ?」

「ミイレ・ディアリヒトです」

「……」

まったく耳馴染みのない名前。ミドルネームが無いということは貴族じゃないな。大手の商会とかか?

「母親がディアムーン商会の血筋です。」

合点はいくか…。ある程度裕福で地頭が良かったという話だろう。だが解せない。僕だって王国で最高峰の勉強を受けてきた。ここまで圧倒的に負けたことなんて無かったのに。

 自分の中の矜持(プライド)が久しぶりの刺激に震える。

「……悔しいのですか?」

「……ああ、そうだな…面白い」

にやりと口角を上げる。隣でシェリウスが何か言いたげな顔をしているが関係無い。

 いいじゃないか。これまで学園の、入学は一つの義務だと考えていたが…楽しみが生まれたな。

「ミイレ・ディアリヒト…会える日が楽しみだ」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


今日は学園の入学式。真新しい制服に身を包んだ同級生たちを眺める。生徒数は300人ほど。余程の馬鹿ではない限り貴族は入学を義務付けられる。だからほとんどが顔見知りだ。しかし僕が今探しているのは平民の少女。面識もなければ情報は髪と瞳の色だけ。

 (銀の髪に空色の瞳か…)

 珍しい色だとは思う。この国でもこの髪色を持っているのはフェルネタリ公爵家かフィルベリー侯爵家ぐらいだろう。ましてや平民ならすぐ区別がつく。


 その時視界の端にさらさらと流れる銀糸の輝きを見た。

 ハッとして顔を上げる。

「見つけた…」

きっと彼女がそうだ。直感がそう告げている。彼女が立ち止まった隙に近寄り声をかける。

「ねぇ、君迷子?」

彼女が振り返りこちらを見る。雪花石膏の肌に輝く銀の髪、意志の強そうなアクアマリンの瞳が真っ直ぐにこちらを射抜いていた。思わず動揺してしまう。顔には出していないだろうけど…

 (驚いたな…)

 そう、驚くほどの美形だった。僕も顔は良い方だ、周りの人もそういう人が多いので耐性はある。けれどまさか自分がライバル(興味を持った)相手がここまでの美人だなんて聞いていない。

「いえ?違います」

 彼女の声に引き戻される。

「そう…せっかくだし一緒に行こう?」

彼女が怪訝そうにする。ああ、さっきから何かが違うと思ったら、その瞳だ。そこら辺の令嬢なら頬を染め目を潤ませこちらを見る。うまく取り入ろうとこちらを伺う。けど、彼女は違う。まるで僕などはなから眼中にないみたいに振る舞っている。それが心地よく感じる。

(まるでレイラやリリアンナと居るときみたいだな)

ふと二人のことを思い出し、気づいた。

 (この令嬢…レイラに似ているな)

特にこの瞳。シェリウスは空色と言っていたが、アクアマリンと称したほうが良い。透き通っていて、鮮やかに輝いている。ちょうどレイラの瞳もこうだ。顔つきも心なしか似ている気がするが。そう考えているといつの間にか講堂に着いていた。

 当然のように隣に座りミイレの様子をうかがう。あからさまに嫌がっている気配がする。

 (分かりやすいな…)

 それともわざとなのか、つかみにくい性格をしている。こういうところはレイラとは違うなと思った。




 挨拶も終え、次は教室に向かおうとしたとき彼女が別方向に歩いた。驚いて思わず手を掴む。

 「…どうかされましたか?」

 怪訝な顔をして彼女が問うてきたので、平静を装って言う。

「そっちは教室棟じゃないよ。次は各教室で自己紹介だけど…」

「……」

黙り込んだ彼女の表情を見て悟る。まさかとは思いつつ聞いてみた。

「え、もしかして…」

「すみません。話を聞いておりませんでした」

「ふっ…ふふっ…」

先ほどまで一部の隙も見せなかったのに…何だかギャップで笑えてきた。

「…笑うなら普通に笑ってください」

「あぁ…いや、ちょっと、なんか、意外というか」

 しばらく笑いは止まらなかった。

「さあ、教室棟に参りましょう」

「あぁ、そうだね」

 




自己紹介で注目を集めているミイレは困惑しているようだった。

 「みんな、君が平民だということにびっくりしているみたいだね」

 そっと耳打ちをしてみた。まだ疑問そうなミイレに続ける。

「だってほら、髪の色は珍しいし、気品があるからじゃないかな?」

 自分でそう言って何かが引っかかった。記憶の奥底…ずいぶん昔のことだけど…

「なるほどです」

ミイレの言葉に引っかかっっていた何かはどこかへ霧散してしまった。



その後はミイレを王都で人気の喫茶店へ案内した。たまたま垣間見た実力ははっきり言って驚いた。正直、僕やルナリスでも勝てないと思った。

 (これは…使えるな)

冷静に判断してしまうのは昔からの癖…為政者になるものとして持つべき視点。ふと、ミイレが本当の僕を知ったらどう思うだろうかと、いつもなら気にしないことが頭をよぎった。

 

 

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