プロローグ
「っ――!!」
あまりの激痛に声が出ない。生暖かく湿った腹部を抑えつつ、よろける。
(私が何したっていうの!もう、ほんとついてない)
思わず悪態を付いてしまうのも無理はない。突然男に腹を刺されたのだから。
(くっ、まだ第二王子を攻略しきれていないのに!)
走馬灯にうつるのは家族、友人、クラスメイト…そして最近ぞっこんな乙女ゲーの攻略対象たち…
(第二王子で最後だったのに…)
何故か男運だけついていない高2の女子が最期に思ったのはそんなことだった。
「はっ…!」
目が覚めると私はベッドの上にいた。
「あれ?私…あぁ、そうだ。ラナと一緒に魔法を…」
口からスルリと出てきた言葉。そう私はさっきラナと……あれ、えと…わたし、私は
「ミイレ・ディアリヒト?」
自分の名前のはずなのに何故か疑問形になる。しばらく思考の海を漂い納得する。
「ああ、そうか私…」
……死んだんだ。
あまりに突飛な話でもこれは現実。確かに私は日本で高校生だった記憶がある。そして今の私はミイレ・ディアリヒト。12歳の少女だ。先程まではラナと一緒に魔法の練習をしていたのだけど途中で気を失ってしまったようだ。
「ミイレ!」
バンと扉が開き部屋に入ってきたのは一人の女性。茶色の髪にアメジストの瞳を持つ美人だ。
「気がついた?もう、急に倒れるから心配したのよ」
「ごめんなさい」
えへっ…と首をこてんと傾げながら言う。
「でも、良かったわ。私は夕飯の準備をしてくるわね」
「手伝わなくていい?」
「ええ。もう少し寝ていなさい」
コクリと頷くと、ラナは部屋を出ていった。
「ふう〜…」
私は詰めていた息を吐き出す。
「…信じられない」
スルリと寝台から降り鏡の前に立つ。そこに映っていたのは銀の髪にアクアマリンの瞳を持つ美少女だ。
「……」
鏡の中の私が苦笑する。この容姿、名前…間違いない
ここは乙女ゲーム『親愛なる光のキミへ』の世界だ。
通称ヒカキミ。平民で王立学園に首席で編入してきた少女。そのせいか貴族の多い学園で浮いてしまう彼女。そこで偶然に仲良くなっていく攻略対象たちはもちろんやんごとない身分の人たち。容姿端麗、成績優秀の文句が付けられないやつばかり。もちろん悪役令嬢も登場する。しかしこの世界の悪役令嬢は陰湿ではなくライバルの様な存在だ。それもそのはず実は悪役令嬢と主人公は双子の姉妹だったのだ。とある事情で離れていた姉妹が強大な力を持って悪を退治し物語は終わる。
「いつ思い返してもどんでん返しだらけな作品だったわね」
呑気な感想が口を出る。一番はそこではない。問題は私がその主人公に転生してしまっている点だ。
「あれ?でもそこまで問題でもない?というより私昔から妹が欲しかったのよね!」
これはなんということだ。今まで切に願っていた念願の姉妹が手に入る。割といい状況なのでは?家族に会えないのはショックではある。だけどこの世界でミイレとして生きてきた記憶もある。
きっと大丈夫だろう。
「この世界乙女ゲーの割にバトル要素が強いのよね…うん!決めた!誰かに守ってもらうんじゃなくて守れるぐらい強くなる!妹の騎士になるぞー!」
ここから私の第二の人生スタートだ!