表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

79/108

第79話 『それは無駄なこと⁉』

 もう、オーガはすぐそこだった。

 巨体には狭いだろう穴を無理に通ってでも、オーガはここに来るつもりのようだった。


 顔をあげて、アルマは言った。

「わたしが先に入って、中からひっぱります。痛いかもしれないけどどうか堪えてください」


「分かりました……お願いします」

 根負けして、長老はうなずいた。

「――ですが、もし無理なその時は、どうか私をお見捨てになってくださいね」

 長老の言葉に、アルマは答えなかった。


 答えるかわりに、灯りにしていた木剣を、ちいさな穴へと放りこむ。

 光がなくなって、地下の広間はほとんどなにも見えなくなった。


 アルマは、ちいさな穴から届くわずかな灯りを頼りに長老を寝かせると、先に足から入ってゆき、長老を引き入れようとした


 しかし、それは思っていたよりもずっと大変だった。

 せまい穴の中で這うような姿勢ではとても力が入らなかったし、でこぼこした岩のあちこちに長老の身体が引っかかり、思うように引き込めなかった。


 長老もどうにか身体をうごかして、わずかばかりは進むのだが、そうしている間にも、いつオーガが中へ入って来るかしれなかった。

 焦るアルマの手は、汗で湿り、滑る。


 どうにか腰まで長老を引き込めた時、ガリガリッと強く引っ搔くような音が聞こえた。


 ハァハァという呼吸音が、広間に入ってくる気配がする。

 ぺったんぺったんという足音が幾度か聞こえ、すぐ近くで止まった。


 その瞬間、雑草でも引き抜くかのように無造作に、しかしすごい力で、長老の身体がアルマごと、ずるっと半分引っぱられた。


 なんとか足を岩に引っかけて、持っていかれるのを止めたアルマだったが、長老の身体はなおも強い力で引かれている。

 手に力をこめ、掛けた足をふんばって、真っ赤になりながら抵抗しても、汗で濡れた手は滑り、すこしずつ長老が離れていく。


 しずかに首を振って、長老は、最後に微笑んだ。



 ついに手が離れ――長老は一瞬で闇の向こうへ消える。

 一言も声をあげなかった長老は、口を結んで微笑む顔をアルマの目に焼きつけて消えた。


 長老が吸い込まれた穴を呆然と見つめながら、アルマはこれから起こることを想像して体を震わせた。

 全身が悪寒で粟立ち、冷たい汗が止まらなかった。息がうまく吸い込めずに、喉からひゅうっと音がする。


 向こう側からはしばらく何の音もしなかったが、そのうち、ぺったんぺったんという音とともに、ザリザリザリとなにかを引きずる音が聞こえて、また静かになった。

 

 目に涙を浮かべながら、アルマは指を握りしめた。いま飛び出せば、待っているのは死だけだった。


 生きたい――

 その当然の欲求が、アルマの身体をすくませる。


――いま出ていけば、長老さんの犠牲が無駄になる。タッシェだって守らなくちゃいけない……。

 そんな、都合のいい言い訳が頭に浮かんだ。


――しかたないのよ……。もともとアールヴは、いなくなるものだったんだから……。

 自分を納得させようとして、最後に見た長老の顔が、脳裏に現れ、消える。


――行ったって無駄……。アイツに勝てるわけがないし……。この穴にいれば、アイツは手を出せない。ここにいれば、きっと……諦める。


 ボキッと折れる音がして、『……ぅぁ!』と堪えきれなかった悲鳴が聞こえた。


――ダメ……。わたしにはできる事がない。我慢するの……! それしかないの!


 またパキッという音がして、小さくうめく声がする。

 悲痛に顔を歪ませながら、アルマは何度も我慢しろと自分に言い聞かせつづけ――


 そして結局、我慢……できなかった。



「ううっ……ああああぁぁぁぁぁあっ‼︎」

 アルマは叫ぶ。

 全身にまとわりつく恐怖を振りはらおうと、必死に腹から絞り出す。


 震えつづける手で木剣をにぎりしめ、転げるようにアルマは穴から飛び出した。

★☆★☆★ お知らせ ★☆★☆★


拙作をお読みいただき、ありがとうございます!!


いいね応援、感想レビュー、ブックマーク、★評価などをいただけると、大変励みになります。


ぜひ応援、よろしくお願いします!!


感情に任せて飛び出るアルマ。

どうなる次回、

第80話 『絶望の中で⁉』

で、お会いしましょう!


☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on9ckf8dz7357elseqlve8bl6x8rlt_19mf_m8_bo_8lcy.png
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ