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第45話 『アールヴ族⁉』

 ふたりは互いにうなずき 緊張が解けていくのを感じた。


「わかりました。お話をうかがいます」

「ありがとうございます。私の名前はイオキアです」

 と男は帽子をかぶり直し歩いてくる。


 タッシェは、スペスの服を握って成り行きを見守っていたが、近づいてくる男に『イオキア!』と指をさした。


「よかったわね、もう行ってもいいのよ――」

 アルマはそっと背中を押したが、タッシェはスペスの服を離そうとしなかった。


「すいません……なんだか懐いちゃったみたいで」

 アルマが男に頭をさげる。

「ああ、べつに構いませんよ」


 そう言って笑う男の顔は、夏の花のように爽やかで、思わずアルマは見蕩れてしまった。あまりにじっと見すぎて『なにか?』と、おかしな顔をされてしまう。


「いえっ、なんでもありませんっ……」

 急いで目をそらしたアルマは、聞こえないようにスペスに耳打ちする。


(なんかタッシェもそうだけど、ここの人は美形が多いわよね)

(なに? アルマはああいう顔の人が好きなの?)

 なんとなく不満そうに、スペスが訊いた。


(えっ……そ、そういうわけじゃないけど、でもなんかいいわよね。うん!)

 アルマはひとりでうなずく。


「あの……お話をしても?」

 イオキアと名乗った青年が、こそこそと話をするふたりに訊ねた。

「あっ、はい! どうぞ!」

 あわててアルマは答える。


「まずは、いきなり弓を射かけた事を、お詫びいたします」

 とイオキアは丁寧に頭をさげた。

「あちらに控えるのが、我々の隊長なのですが、その……あなた達をゴブリンだと勘違いしたもので――」


「はい?」

 まさかの言葉に、思わず訊き返した。

「……ゴブリンと間違えるのは、さすがにないと思うんですが?」


「まったくもっておっしゃる通りなのですが、あの隊長は、他の種族の顔が区別できないようで。ゴブリンではない、と進言したのですが、聞き入れられず――」

 イオキアはすまなそうに話す。


「いきなり頭を狙おうとしたのを、なんとか説得して威嚇に変えさせたのです」

「あ、頭ぁ――⁉︎」大きな声が出た。

「……えっと、それは本当にありがとうございます?」


「いえ、こちらこそ申し訳ありません」

 イオキアは重ねて頭を下げる。

「まったく年寄りは頭が固くなるものですが、こういうことでは困りますね……」


「あら、年寄りだなんて、いくらなんでも失礼ですよ」

 アルマは愛想笑いを作る。

「そんなに歳もはなれていないでしょう?」


「いえ――」と、真面目な顔でイオキアは首を振った。

「彼女とは五百以上歳が離れていますので」


「……ごひゃく?」

 聞き間違いだろう、と思ったが――

「はい、彼女はもうすぐ〝六百歳〟ですが、私はまだ〝六十八〟なので」

そうイオキアは続けた。


「えーと、冗談……ですよね?」

「いえ……あの、われわれ〝アールヴ〟が長寿なのは、ご存知かと思ったのですが……」


「アールヴ……?」

 何かを思いだす前に、スペスが訊いた。

「アルマ。アールヴって、昔このあたりに住んでたっていうアレ?」

「うそ――」


 三百年前にこの丘に住み、滅んだというアールヴ族。

 それが目の前にいるという。


 アルマはその事実を否定しようとしたが、『銀髪、長寿、耳が長い』という特徴は、『勇者の物語』に出てくるアールヴと同じだった。


「じゃあ……、やっぱりここは三百年前なの⁉」

「わからないけど、可能性はずっと高くなったみたいだね」

 スペスは、じゃれつくタッシェを肩に担ぎ上げながら、落ち着いた声で言った。


「わたしは今、勇者様と同じ世界にいるの……?」

 アルマはつぶやきながら一人で考えこむ。


「なにか、事情がおありのようですね」

 ふたりの様子にイオキアは何かを察したようだった。


「そもそもあなた方は、なぜこの場所まで来たのですか? ここはアールヴの土地で、近くに人族は住んでいません。まれに、獲物を追って猟師が入りこむことはありますが、この丘の上まで迷い込むことはまずありえません」


「わたし達にもよくわからなくて……信じてもらえるか、分からないんですけど」


 そう断ってからアルマは、どうやら三百年後から来たらしい事。

 ゴブリンに襲われて逃げたこと。

 帰るために、もう一度この場所を調べに来たこと。

 タッシェを助けたことなどを話した。

 疑われるんじゃないかと内心ドキドキしていたが、イオキアは、さっきよりも真剣に聞いていた。


「そうでしたか。タッシェを助けていただき、ありがとうございます――」

 アルマの話を聞き終わったイオキアは言った。

「それで、つまりあなた方は〝神の使い〟なのですか?」


「は?」と、アルマは間の抜けた声を出した。

 話がまったくつながっていなかった。何が〝つまり〟なのかも、分からなかった。


「〝神〟ってなんなの?」

 そう訊くスペスの肩の上では、タッシェが笑顔を見せていた。


「あ、えーと、神っていうのはね……」アルマは記憶をたぐる。

「いくつかのおとぎ話に出てくるんだけど――すごくすごく昔に、動物も植物も人族も、この世界のすべてを創った人だったかな? とにかく、そんなのだったと思う」


「ふーん、今はいないの?」

「今っていうか、昔からいないわよ、そんなの。子供だって信じない作り話なんだから」

「そうなのかぁ――」

 ちょっと残念そうな顔をしたスペスが訊いた。


「じゃあなんで、ボクらが神の使いなの?」

「それは、わたしにもわかんない」

 アルマは首を振って、イオキアを見た。


「どうやら、違ったようですね」

 イオキアが困ったように笑った。

「……ですが、神というのは本当にいるそうですよ。我々のあいだでは、昔からそう伝わっています」


「へえ、それは興味深い――」

 スペスが反応する。

「イオキアさんだったよね、神には会ったことあるの?」


「私はありませんし、集落にいるだれも、会ったことはありません」

「てことは、ここ何百年とかは、だれも見てないの?」

「何百どころか、万の単位でも神を見た者はいないそうですよ」

「それで本当に〝いる〟って言えるの?」


 スペスが訊いた。

 疑うというよりも、純粋に気になるだけのようだった。


「神には会えていませんが、神の使いは、我々のまえに現れています。とはいえ、それも少ないことなので私は会ったことがありませんけどね」


「それ……本当なんですか?」アルマが訊ねる。「そんな話は、初めて聞きました」


「それはそうでしょう」イオキアは落ち着きはらって答えた。「人族は、すでにはるか昔に神との関係を断っています。信じられないというのも無理はありません」

「なるほど」とスペスがうなずく。


「――でも、それでわかったよ。なんでボクらのことを勘違いしたのか」

「どういうこと? わたしには、なにもわからないんだけど?」

「ここが、どういう場所かって事さ」


「ここ?」

 アルマはすこし考えて、思い浮かんだままを言った。

「遺跡?」


「そう、〝|《転移》ができるかもしれない〟遺跡だ」

「あっ!」

 とアルマは言った。


「つまりここに、その神の使いが現れるんですか?」

「その通りです」イオキアは言った。


「実は、先ほどからあなた方が遺跡とおっしゃっているここは、遺跡ではありません。われわれの〝神殿〟なのです」

★☆★☆★ お知らせ ★☆★☆★


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☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


神に神殿。アールヴ族とは一体?


それでは次回、

第46話 『行ってもいいの、集落へ⁉』

で、お会いしましょう!


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