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救国のIMMORTALITY  作者: チビ大熊猫
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5節.再び彼の地へ


「真剣って、正気ですか!?」

「ああ」

 ロッザのもう片方の剣を受け取り、向かい合わされるマルコ。

 こんな機会は滅多にない。憧れの戦士が目の前にいる。ましてや若輩の自分をみてくれるなど。

 剣を見つめる。彼と一緒に戦場を駆け抜けてきた“一振り”。少しだけ、重く感じる。それは先程まで木剣を振っていたからというだけではないだろう。

「ふーっ」

 大きく息を整える。

「寸止め、ですよね?」

 ロッザは構えた剣を肩に担ぐように当てる。

「アホか。俺はそりゃそうだが、お前が寸止めしてどうする。思い切り斬りかかってこい」

 実力差があるとはいえ、いただけない言葉にマルコは剣を構え決意を固める。

「どうなっても知りませんよ」

「さてさて」

 二人の睨み合いが続く。先に動いたのはマルコの方だった。

「はああああ!」

 動かないままのロッザ。マルコはロッザの眼前で剣を止める。反撃の様子は無かった。

「……?」

「寸止めすんなって言った筈だ。斬るつもりのない剣なんて、相手には一生届かねえぞ」

 言葉に形容しがたい歴戦の凄みが空気を伝ってマルコを震え上がらせる。

(震えてる……? ち、違うっ。俺には今まで努力したっていう裏付けがある。これは……武者震いだっ)

 マルコは再び全力でロッザに向かっていく。何度も強く剣を打ち付ける。その全てをロッザが受け止める。

「はああっ! ぜあああああっ!!!」

 マルコの勢いは止まることを知らず、余力など微塵も考えていないような猛攻が続く。対してロッザは防戦一方であった。

(嘘だろ……? オイ。こいつ……“まるで才能が無え”。零点だ。……打ち込みは普通、スピードも速くねえ。狙ってる箇所はバレバレだし大雑把。何より挙動が大きく隙だらけだ。努力は確実にしている。だがここまで弱いとは思わなかったな……)

 マルコの息が上がり攻撃の手が緩まる。真剣でこれほど激しく”人”を攻撃したことのない者にとって、体力の消費は尋常ではない。

 ロッザの剣がマルコの喉元に突きつけられる。生唾を飲み込む音が聞こえた。

「! ま、参りました……」

 納剣したロッザが、膝に手をつき身をかがめたマルコに手を差し伸べる。

「ぜーっ、ぜーっ。ど……うでしたか?」

 ロッザは刹那の間、脳を高速で回転させる。

(こ、こういうとき何て声をかけたらいいんだ……!?)

 マルコから剣を受け取り納める。休憩ももう終わろうかという時間、彼は精一杯の言葉を投げかけた。

「ま、まあ伸び代はあるな……!」

「な……」

 それが芳しくない評価であることはすぐに理解出来た。誰が見ても分かるほどにマルコは肩を落として新兵達の元へ戻っていった。

(不味い、あれはしくじったくさいな……)

 珍しく頭を使ったロッザはいち早くすっきりさせる為、自室へ戻り仮眠を取ることを選択した。


(全く敵わなかった…。あれがカタストロフ騎士団の副団長。勝てるなんて少しも思ってなかったが、まさか真剣のあんなふざけた条件で息一つ乱す事が出来ないとは……)

 自分の努力の程は自分が一番よく知っている。戦場や戦い方に関する書物を読み漁った。肉体の鍛錬は欠かさず、剣術の反復練習も終日行ったりもした。カタストロフ騎士団と言えば、国の皆の憧れ。そんな団の一員を志すのだ、生半可な状態ではいけない。

 三つの養成所や道場、教室に通った。どこも、苦しい日々を乗り越え、“卒業した”。あれは何だったのか。まさかあれは認められた末すえの結果ではなく、諦められていたのか? 見捨てられていたのか?

 どうしようもない自分の実力を思い知り、落胆するマルコ。

 こうして入団試験最終審査は終わることとなった。


 日没。タンクスは新団員の書類を整理していた。

「やはり若い。戦場に出た経験は……もちろんのこと皆無か」

 団長とは常に問題を抱え、団を運営しなければならない。

(八人とは言えどカタストロフ騎士団に入るからにはそれなりの戦力になってもらわなければ困る。過酷な道が待っているだろう。それに、今回のウォンドオ和平の再交渉。あの芯のない王ならば、前回のように事が上手く運べば仕損じることは無いと思うが、もし、全く違う態度を取って来たら……。何とか穏便に……)

 机上のグラスに入った上等な酒はすっかりぬるくなってしまっていた。

 扉を叩く音が聞こえる。そこには、すでに開かれた扉を叩くロッザの姿があった。

「……ノックをしてくれ」

「したさ、何度も。返事が無かったんでな」

 自分とした事が。意図せず疲れが体に出ていることに辟易するタンクス。

「済まない」

 ロッザはずかずかと歩き机の上に腰掛ける。置かれた酒の瓶を見るや否や、口をつけずに胃に流し込む。

「ぷはっ、うんま。……何? 心配事か?」

 相変わらずの呑気そうな相方。つい先日、手練れの刺客と相対したとは思えない様相だ。

「これだけイレギュラーな事が続けばな」

 明日出発だというのに休む気配はない。ノックの音に気づかず、進んでいないグラスを見るに、彼が周りが見えていない状況に陥っているのは一目瞭然だった。団長がこれでは翌日の出立に影響を及ぼしかねない。

「ようやく一息つけると思ったら、すぐに駆り出されるんだもんなあ。()になるな」

 浮かない様子のタンクス。それを見て、痺れを切らす。

「はぁ。お前はいつも優等生を貫き過ぎなんだよっ。いいか? 俺達は“駒”。んでもってお前はその“指し手”。俺ら下っ端をこき使う、そうすりゃ勝手に事は上手く運んでるよ。いつもそうだろ? 今回はそれが長引いただけだ」

 本心から放たれる言葉。彼なりの激励ということはタンクスが一番分かっていた。

(楽観的というか前向きというか)

「……お前はいつも鎧を着ているな」

「おうよ。いつでも臨戦態勢、どこでも戦いに駆けつけるぜ」

 ロッザが私服になることは少ない。四六時中働いてるようなものだ。ある意味、一番の働き者は彼かもしれない。

「明日から頼む」

「おう」

 そう言ってお互いの手の甲を軽く合わせた。


 ベントメイル出立当日。

 和平遠征の為、カタストロフ騎士団の約六割がウォンドオへ向かう。残りの四割と国に常駐する衛兵は彼らが居ない間、守備に努める。

 危険も承知の遠征。出立間際まで新兵を連れて行く気はなかったタンクスだったが、強い希望により、十人が共に付いてくることとなった。

 もし剣を交える事態になった場合、出来る限り後方に置き、最優先で守り抜く。それがタンクスがロッザ達幹部に出した命令だった。

「今回は危険な旅になるかもしれなければ、以前のようにすんなり交渉が終わるかもしれない。事の経緯全てをお前達に話しているわけではない。しかし! あらゆる事態を想定していて欲しい! ひとまずは山を抜け、以前より迅速にウォンドオに着く! 普段なら五日と少しかかるところだが、今回は四日弱で考えている。各々、これが国の為家族の為の大義とも言える仕事であることを努々(ゆめゆめ)忘れるな!!」

 団長の不安を掻き消すかの如く、都を震わせるほどの喊声が響き渡る。

「いよ〜し、出発進行〜!!」

 ロッザは皆を連れて馬の歩を進めた。


 時同じくして、ウォンドオ。

「はっ、はっはっ、王! ウォンドオ王!」

 息を荒立て、急ぎ城の王の元へ駆ける兵の一人。王は食事をしている最中であった。

「こらっ、お前。王はお食事中であるぞっ」

 端の兵が槍を突きつける。

「何事じゃ。……ん? お前は」

「リシアめの次に任を頂いたベディスです!」

 王の顔が興味の色に染まる。

「ほお、進展があったのか。ベントメイルの王はくたばったか?」

 期待に胸を膨らませるウォンドオ王。ベディスの顔色は優れない。

「それが……ベントメイル国王の暗殺には失敗。リシアは今、命はあれど身柄を拘束されている状態のようです。急いでお伝えせねばと、すぐにベントメイルを離れたので以降の詳細は分かりませんが、ベントメイルが再びウォンドオに来るとのことです……! 私が出る際に二日後、そう言っていたので馬をかっ飛ばして来ましたっ。単独行動なのでなんとか二日で到着出来ました……つまり、奴らも今日、国を出た頃でしょう」

 裏腹な返答。ウォンドオ王は額に汗を浮かばせる。

「何と……。奴を! すぐにツアイヒを呼べ!」

 兵の一人が横で応える。

「王。ですからあの者は姿を消したと何度も……」

「! そうであった……。どどど、どうすれば……」

 王の側にいた男がある耳打ちをする。

「ん。そう、だな。奴がいなくなったとて、こちらには“アレ”がある! 間者にも気づかない阿呆どもが、削った戦力で来ようがちっとも恐ろしくないわい! 待っておれベントメイル……! いや、カタストロフ騎士団! 目に物見せてやるぞ……!!」

 数秒前が嘘のように、ウォンドオ王の瞳には自信が満ち溢れていた。


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