気持ち新たに
ぼーっとして重だるい頭を無理やり起こす。
すぐに異変に気が付いた。
「私の部屋だ……」
セレスタさんのお屋敷の借りている部屋じゃなくて、日本の私の部屋。
「……なんで」
窓から空を見る。
案の定、七色に輝く不気味な空が広がっている。
これは、サフィーアの宝石魔法レゾナンス・アクアマリンで私自身の心の中にいるんだ。
いつもなら、ちゃんと使うと予め教えてくれるのに……。
動かすのも嫌になるほどの倦怠感を引きずりベッドから降り、姿見の前に立つ。
いつも通り全裸なのはもういいとして、
「……ひび、随分と酷くなってる。このまま広がると、私どうなっちゃうんだろう?」
左の胸から広がっている体のひびは、もう左目の少し下くらいまで広がっていた。
少し怖くなる。
「サフィーア? おーいサフィーア?」
いつもだったらすぐ傍にいるはずのサフィーアがいない。
心細くて、サフィーアの名前を呼ぶ。
「瑪瑙よ! 一階じゃー!」
サフィーアの声が階下から聞こえてくる。
珍しいなと思いながら、部屋を出て階段を降り、声のするリビングへ。
階段を下りている途中、裸のままだったことを思い出したけど、私とサフィーア、それとサフィーアが呼んだ人以外心の中には存在しないので、まあいいやと気にしないことにした。
ドアを開ける。
「どうしたの? リビングにいるなんて珍し……い……、え?」
ソファーの上、サフィーアの向かいに居心地が悪そうに、裸体を手で隠しながら座っている幼馴染がいた。
「瑪瑙! 会いたかったっ!!」
そう言って立ち上がるけど、顔を真っ赤にしてまた座る。
「……真珠」
幼馴染の名前を呼ぶが、何を話していいかわからなくて、立ち尽くしてしまう。
「お前さんが旅を辞めると言ったからのう。約束を違えるのじゃ、幼馴染にちゃんと言わんとのう?」
「――っ!」
サフィーアの声は何処か白々しく冷たかった。
そんなサフィーアの態度に、少しイラっとしてしまった。
「ねえ瑪瑙。瑪瑙の体のひび? 模様? それどうしたの?」
「えっと、これは……その……」
どう答えて良いものか、上手く言葉が浮かんでこない。
「瑪瑙よ、そんなところに突っ立っておらんで、とりあえず座って話したらどうなのじゃ? どうせ明日はゆっくりできる。じっくりと話すといいのじゃ」
「……うん」
サフィーアに促されて、私は真珠の向かい、サフィーアの隣に座る。
「なんかその子、ちっさいのに凄い貫禄というか、堂々としているというか、雰囲気が凄く大人っぽいね」
私が言いにくそうにしていたのに気づいたのだろう、真珠は話題を変えてくれた。
「サフィーアって名前なんだけど、真珠はこの子、何歳に見える?」
「え? 十歳? 九歳? それくらいだよね?」
「ふふふっ、見た目はそう見えるよね」
「え、違うの?」
「二百十歳なんだって」
「にひゃ?! え、マジで?」
「マジマジ。ちなみに人間じゃなくて、宝石族っていう種族なんだって。五百年くらい寿命があるらしいよ?」
「私をからかってるわけじゃないよね?」
「だからマジだって! 信じてよ! ほら、サフィーアの胸元に大きな青い宝石みたいなのがあるでしょ?」
「あるある! ずっと気になってた」
「それが宝石族の証だよ」
「ん? 妾のこれの話をしておるのか? 綺麗じゃろう?」
私の言葉はわかるサフィーアが話の内容に気付いたようで、ソファーから立ち上がり、髪をふぁさっと後ろに流し、腰に手を置いて胸を張る。
……全裸なんだけど、実に堂々としていらっしゃる。
流石御年二百歳超えのお嬢様。
「何て言ってるの?」
「綺麗じゃろう? って言ってる」
「……じゃろう? もしかしてその子のじゃろり?」
「のじゃろりって何?」
「なになにじゃとか、儂とか、見た目がロリっ子の癖に口調が年寄りみたいな喋り方をするキャラの事!」
真珠の眼が何だかキラキラしてる気がする。
キャラって。
漫画やアニメじゃないんだから。
そう言えば、真珠そう言うの大好きだったっけ……。
「サフィーアは自分の事、妾って言ってるよ。年寄りと言うより、女王様っぽいかな?」
「おお! まじかー! くそー! 喋りたいなー!! ヘイ! サフィーア! マイネームイズ真珠!」
「ぷっ! あははははは! 英語! しかもへったくそ!」
「うっさいなー! 他に外国語知らんもん!」
「サフィーアサフィーア」
「何じゃ?」
「私の名前は真珠です、だって」
「おお、これはこれはご丁寧に。妾はサフィーア。水を司る、蒼に煌めくサファイアを宿す宝石族じゃ」
右手を小さな胸に置き、左手を腰に、堂々と挨拶をするサフィーア。
私もポーズを真似して同じ言葉を話す。
「瑪瑙じゃ貫録不足だね」
へっと鼻で笑われた。
「通訳してあげないよ?」
「申し訳ありませんでした!」
間髪入れずに頭を下げて謝罪する真珠。
「ふふふっ!」
「あはははっ!」
変わらない幼馴染と、他愛もない会話。
それはとてもとても楽しくて、楽しくて……。
「ふふ。ふっ……う、ううっ、ぐすっ、――っ」
いつの間にか涙が溢れ、笑い声は嗚咽に変わっていた。
「……瑪瑙。よしよし」
真珠は私の隣に座り、頭を撫でてくれた。
「何か悩み事、あるんでしょう? 瑪瑙はすぐ顔に出ちゃうから、一発でわかっちゃうよ」
必死に涙を、嗚咽を止めようとするけど、流れる涙は止まらず、漏れ出る嗚咽も治まらない。
「私っ、私――っ!」
もう、戻ることを諦めるよ。
そんなこと、言えなかった。
言えるわけがなかった。
会いたい。
会いたかった。
心の中ではなく、元の世界で。
お父さんに、お母さんに。
真珠にも。
でも、生半可な覚悟で今いる世界を旅することなんてできない。
ちょっとしたミスで、大怪我どころか死んでしまう可能性だってあるんだ。
それは、何度も言われて知っていたはずの事だったのに、私はちゃんと理解していなかった。
今日、みんなが傷ついて倒れていく姿を見て、ようやく理解できた。
帰りたいという気持ちと、また旅をすると言う危険に踏み出さなければならない恐怖に、私の心はぐちゃぐちゃになってしまった。
「落ち着いて瑪瑙。ゆっくりでいいから話しなよ? ね?」
「どう……し……ていいか、わ……かんないのっ」
嗚咽をもらしながら、必死に話そうとする。
ひとしきり泣いて泣き疲れて、その間真珠は何も言わず、ずっと背中をさすってくれていた。
そして少し落ち着いたころに、今日起こったことを話した。
「……そうだったの。瑪瑙のいる世界ってそんなに危ない世界だったんだね……」
最後の方はまた、ぐずぐずと泣きながら話してしまった。
「帰りたいってずっと思ってる。でも、私のその我儘のせいで、みんなを危険にさらしてるって思うと、どうしていいか……」
「……ごめんね瑪瑙。私は瑪瑙の辛さをちゃんとはわかってあげられない。想像しかできない」
「……うん」
そう話す真珠の顔は、酷く悔しそうだった。
「でもね瑪瑙。瑪瑙が決めなくちゃダメなんだよ。それはわかる?」
「……」
「元の世界に戻るために旅を続けるも、旅を辞めて異世界で生きるも、全部瑪瑙が決めないとダメなんだよ」
わかっている。
そんなこと、嫌と言う程わかっている。
「じゃっじゃあ! 私が旅を諦めても、真珠は許してくれるの……?」
「それが瑪瑙が選んだ選択なら……」
「……そっか」
「……――ないじゃない」
俯いて何かを呟く真珠。
「何? なんて言ったの?」
「許せるわけないじゃないっ!!!!」
「――っ!」
真珠はがばっと顔を上げ、私の肩を掴み叫んだ。
「私がどれだけ待ってると思ってるのっ?! おばさんもおじさんもだよっ! それなのに! 約束したのにっ!! 私達を見捨てるっていうの?! ふざけないでよっ!!!!」
真珠の顔は、涙で濡れていた。
「頑張ってよ! 諦めないでよ。約束したじゃん……」
真珠の声はどんどん勢いを無くしていき、最後は嗚咽に変わった。
「うっく。すー、はー。……ごめん、勝手なことばっかり言った。瑪瑙の方が苦しい思いをしてるはずなのに……」
肩から手を離し、涙を拭い、大きく深呼吸をする真珠。
「ううん。ありがとう、そんなに想ってくれて」
「想わないわけないじゃん。ずっと、ずーっと一緒にいたんだから」
「そうだね」
「でも、選ぶのは瑪瑙だよ」
「……うん」
「ゆっくり考えなよ」
私はゆっくりと首を横に振る。
最初から決まってるんだ。
それは何も変わってない。
私は、元の世界に戻るんだ。
改めて、強く心に誓う。
ずっと黙って聞いているサフィーアの顔を見る。
そして、リステル、ルーリ、ハルル、コルトさん、シルヴァさん、カルハさんの顔を思い浮かべる。
みんなの優しい笑顔を思い出すと、心が大きく揺らぎそうになる。
それでも、
「真珠、私は旅を続けるよ。いつになるかなんてわからない。見つからないかもしれない。それでもいつか、私は日本に帰るんだ。だから改めて約束するね」
真珠の眼を見てはっきりと宣言する。
「うん。約束だよ? 瑪瑙」
そして、おでこを合わせ目を閉じた。
私の背中に、サフィーアの温かい手が優しく触れたのだった。
その後、私達はいろんな話をした。
真珠たちは希望していた通りの高校に通う事ができたらしい。
真珠も翡翠も琥珀も柘榴も、一緒の高校。
そこには本当は私も含まれてるはずだったんだけど……。
真珠はブラスバンド部に入部したらしい。
パートはフルート。
ただ、軽音部の人に目を付けられたらしく、未だに勧誘を受けているとか。
ギターも好きで弾くことが出来る真珠は、助っ人ぐらいだったらしてあげてもいいかなって思ってるんだって。
翡翠は担任の先生の勧めもあって、ボランティア部に入部したらしい。
大人しく成績がいい翡翠らしいと言えば翡翠らしい。
何度か保育園にボランティアでいき、部員の中で唯一保育士さんから名前を覚えられるほど、頼りにされているんだとか。
児童からの人気が凄すぎてお呼び出しがかかるほどだと、真珠は笑って話していた。
琥珀は、
「部活なんてメンドー」
と、相変わらずの面倒臭がりっぷりで、帰宅部。
そのくせ、ゲームはメチャクチャ小まめにやっている。
最近流行りの五人対五人のFPSゲームにどっぷりらしい。
真珠も一緒に遊んでるんだって。
柘榴は美術部に入ったそうだ。
元々可愛いイラストを描いていたから、中学も美術部だった。
真珠と二人で、よくノートにラクガキをしていたのを覚えている。
私に、絵の参考資料にしたいからって言って、ヌードモデルをさせようとしたことは、忘れてないからね。
「みんなずっと寂しがってるよ」
「私の事は話したの?」
「ううん。流石にこんなこと、話せないって」
「だよねー」
「柘榴は喜びそうだけど」
「確かに。まだ漫画描いてるのかなー?」
「どうだろ? お絵描きなんもわからーん! ってよく言ってるよ」
「あはははは! 言ってた言ってた!」
「……」
「どした?」
「やっぱり、みんなに会いたいよ」
「だね。私もまた五人で遊びたい」
「はあ。みんなに謝らなくちゃ」
「私?」
真珠は首を傾げて自分を指さす。
「違う違う。こっちの世界の友達」
そう言って、私はサフィーアの頭を撫でる。
ずーっと無言で話を聞いてくれていたサフィーアの顔が、みるみる蕩けてふにゃふにゃになる。
「腹は決まったようじゃな?」
「ありがとうサフィーア。それと、ごめんね」
ぎゅっとサフィーアを抱きしめる。
「かまわんよ。まあ流石に今回の事で、嫌われる覚悟はしておったがのう」
「そんなことしないよ?」
「そうかのう? 最初はむっとしておったように見えたがのう?」
じとーっと半目で私を見るサフィーア。
「……うっ、バレてる」
「はっはっは! お前さんの顔を見ればすぐわかるのじゃ」
「最初だけ! 最初だけだからね?! ちゃんと私の為にしてくれたんだってわかってるから!」
「そこまでは疑っておらんぞ」
わたわたと必死に弁解する私に、フッと優しい笑みを浮かべて頷くサフィーア。
「……うん!」
「あのっ!」
私とサフィーアが話していると、真珠が急に声を上げた。
「どうしたの? 真珠」
「サフィーア! 瑪瑙を、瑪瑙をよろしくお願いします!」
そう言って深々と頭を下げる。
「……真珠。えっとね? サフィーア」
私がサフィーアに通訳しようとすると、
「大丈夫じゃ、シンジュの言葉はちゃんと伝わっておる!」
サフィーアは私の言葉を遮り、真珠に向かって手を伸ばす。
「任されたのじゃ!」
どうやらその言葉は真珠にも伝わったようで、真珠は笑顔でサフィーアの手を握り、二人は固く握手を交わしたのだった。
「瑪瑙! また背中にメッセージ書く?」
「書きたいけど、痛いんじゃないの?」
「あー痛かった。沁みるし。しかもしばらく残るからさ、バレないようにするのも結構大変だった。あとおじさんの前で半裸にならないとだめだし……」
「……じゃあやめとく」
「だーめ! おじさんもおばさんも絶対待ってるんだから、ちゃんと書いてちょーだい」
「わかった」
そう言って背中を向ける真珠。
サフィーアもその意味は分かったみたいで、前と同じように私の指先に魔法をかける。
「心に刻み、言の葉を伝え届けよ。其は呪詛にあらず。其は祝言なり。スカー・グランディディエライト」
指先が明るい青に輝き、ガラスに傷をつけるように、真珠の肌に文字を刻む。
「うぎぎぎぎ」
「ごめんね真珠。我慢してね」
「なんのこれしきー!」
申し訳ないと思いつつも続ける。
できるだけ簡潔に。
「……ん。終わったよ」
「あいよ。託された」
またゆっくりと真珠の体が透けていく。
「あーやっぱりこれで目が覚めるのか」
胸がきゅっと痛くなる。
「瑪瑙、できれば今度はもっと早くに会いたい」
「わかった。サフィーアにお願いしとく。でも、あんまり頻繁には無理だからね? サフィーアの負担が凄く大きいの」
「そうなんだ、それじゃあ仕方ないか。でも、できるだけ……」
「うん。わかってる」
「瑪瑙、またね!」
「またね! 真珠!」
そう言って、真珠は笑顔で消えてしまった。
眼を開く。
暖かい人肌の温もりと少しの重量感を胸に感じる。
上半身裸のサフィーアが、同じく上半身裸の私に首に手を回し、胸を合わせるように覆いかぶさっている。
「ありがとうサフィーア」
私はそのまま抱きしめ、頭を撫でる。
「では、もう少し抱きしめてもらうとするかのう?」
「……うん、いいよ。体はどう? しんどくない?」
「うーむ、やはりかなり魔力を消耗するのう。何度か普通にレゾナンス・アクアマリンを使ったが、やはり比べ物にならんほど消耗しておる」
世界が違うからなのか、それとも、無理やり引きずり込んでいるからなのか、あるいはその両方か、他に理由があるのかはわからないけれど、サフィーアにかなりの負担になるのは間違いないみたいだ。
「んー? サフィーア何してるのー?」
むにゃむにゃとハルルが起き上がり、こちらを見る。
良く見たら、ベッドが二つ隙間なく並べられていて、リステルもルーリもそこで寝ていた。
「ハルルもー」
そう言って、もぞもぞとサフィーアを半分押しのけ、私の上に乗ってくる。
「ぐえー」
流石に二人は重く、蛙が潰れたような声をあげてしまう。
すりすりと、気持ちよさそうに私の胸に頬ずりするハルル。
「瑪瑙お姉ちゃん元気になった?」
「うん。サフィーアのおかげでね」
「ん、良かった。サフィーアいい子いい子」
サフィーアも気持ちよさそうに、ハルルの手を受け入れている。
「瑪瑙お姉ちゃん、旅は止めさせないからね?」
「……え? どうして?」
「あのお姉ちゃんと約束したでしょ? ちゃんと守らないとダメ。瑪瑙お姉ちゃんが嫌って言っても、ハルルが引きずってでも連れて行くから」
少し寂しそうに言うハルル。
きっと本音は違うんだろう。
「ありがとう、ハルル。私、やっぱり旅は止めない。ちゃんと元の世界に戻れるまで、旅を続けるよ」
「……ん」
グスっと、ハルルから鼻をすする音が聞こえた。
また胸がきゅっと苦しくなる。
それを誤魔化すように、ハルルもサフィーアもまとめて強く抱きしめる。
「そっか」
そんな私達の様子をリステルとルーリは体を起こし、眺めていた。
「瑪瑙はそれでいいんだよ。ね? ルーリ」
「そうね。諦めてなんか欲しくはないわ。もし旅を辞めるようなことがあったとしても、この世界中を探して、納得して辞めるのなら許してあげるわ」
「二人とも、厳しい事を言うのね?」
「当たり前じゃない。大好きなあなたに、何かを諦めてなんて欲しくないわ」
「そうそう。瑪瑙には心の底から笑っていて欲しいもん」
「ありがとう、ルーリ、リステル」
優しい言葉をかけてくれる二人も、やっぱり少し寂しそうだった。
旅の結果がどうなるかなんて、わからない。
どれだけ一緒にいられるかも、わからない。
だから精一杯、この優しくて大好きなみんなに何かを残せるようにしよう。
思い出、プレゼント、今はそんなことくらいしか思いつかないけれど。
いつか私がいなくなっても、
「あの旅は大変だったけど、楽しかった!」
そう言って貰えるように。
たぶん、この先も大変なことがいっぱい待っているんだろう。
「今度弱音を吐いたら、ひっぱたいてもらおう」
「え、嫌だけど?」
「そこはまかせてって言う所じゃない?」
部屋に笑い声が溢れる。
大丈夫。
みんなとなら、きっと大丈夫。
ぐきゅるるる~。
「ハルルお腹すいた?」
「ん! すいた!」
「じゃあ朝食作りに行こっか!」
『おー!』
ハルルのお腹の音を合図に、パジャマを着替え、身支度を整える。
「サフィーア動けそう?」
「うむ。それなりに体は重いが、動けんわけではないのじゃ」
「サフィーアはハルルがおんぶしてあげる」
「いや、そこまでせんでも大丈夫じゃよハルル」
「やっ! おんぶが嫌なら抱っこしてあげる」
「うおっ?!」
そう言って、ハルルはひょいっとサフィーアを軽々とお姫様抱っこしている。
「これハルルよ。急に抱きかかえられるとびっくりするではないか」
右手を首に回し、左手でハルルの頭をぺちっと叩く。
「ハルル力持ちだから安心していいよ?」
「ハルル、そうじゃないんだよ。サフィーアはきっと照れて恥ずかしいんだよ。ね? サフィーア?」
「なっ?!」
ほんのり赤かったサフィーアの顔が、一気に赤くなる。
「ふふー」
それを見たハルルはどこか満足げな表情をしている。
「瑪瑙よ、そう言う事を言うのじゃったら、妾にも考えがあるぞ?」
「え、何?」
顔は真っ赤なまま、ジトッとした目で私を見るサフィーア。
「幼馴染は前からよく聞いておったしつい先ほど会ったが、ヒスイにコハクにザクロとは誰じゃ? お前さんの事じゃから、男ではあるまい?」
「……は? 誰それ?」
「瑪瑙ぅ?」
今度はリステルとルーリがじとーっとした目で私を見てくる。
「友達! 真珠だけが友達なわけないじゃない! 五人でよく遊んでたの!」
私は逃げるように厨房へ早歩きで向かう。
「待てー!」
リステル達も、走らず早歩き。
途中コルトさん達とも合流し、
「朝から元気ですねー」
「じゃれてもいいが、もうちょっと静かにできんのか……」
「あらあらー」
と、少し呆れられてしまった。
どうやら私は、落ち込むことなんて許されていないようだ。
そのことを、心から嬉しく思った。
お父さんお母さん、元気?
私は元気だよ。
ちょっと大変なことが続いたりしたけど、みんなに助けられながら、元の世界に戻る方法を探す旅を続けています。
まだ時間はかかりそうだけど、頑張るから元気で待っててね。
瑪瑙より。




