狂気の村
「村の破壊だ」
ハストさんは確かに村の破壊とそう言った。
たったその一言が衝撃すぎて、私の思考はフリーズしそうになる。
何とか気を落ち着かせようと、周りを見渡す。
ルーリとサフィーアも私と同じだったようで、ぎょっとした顔をしていたが、残りの五人は平然とした顔をしていた。
リステルと視線が合う。
……何よその、「あっ?!」みたいなびっくりした顔は……。
そんな表情をしたリステルは、ハストさんに向き直り、
「ハスト隊長、流石に言葉が足りないんじゃない? 騎士団が村を襲うのかって顔をしている子がいるんだけど」
リステルがそう話すと、ハストさんに向けた視線を私に向ける。
リステルの視線移動に釣られて私を見たハストさんが、大きなため息をついた。
「そんなことするわけねーだろ。……あ、いや、絶対にないかと言われりゃそんな事はねーんだが……。嬢ちゃんらに頼むにあたって、村を襲うような事、頼めるわけねーだろ」
「それは当然なんだが、村を破壊してほしいって言うのも大概だぞ? 事情を説明しろ」
シルヴァさんが冷ややかな声をあげる。
「もちろん説明はさせてもらうぜ」
そもそも、王国騎士団二番隊がティンバロの街にやって来たのは、盗賊団の討伐という勅令が出たから。
ティンバロから東に行くと山の麓を行く街道がいくつもあり、静青の頃が始まる少し前から、その周辺で盗賊による被害が増えだしたという。
事態を重く見たティンバロの領主の要請があり、正式に二番隊を派遣することが決定。
一月ほど前に多数を討伐し、何人かを尋問して拠点となっている場所を聞きだすことに成功した。
ここまでは非常に順調だったそうだ。
ただ、問題はそこからだった。
「拠点の場所を聞いた時から嫌な予感はしてたんだけどよ……」
聞き出した場所を偵察すると、なんとそこには大きな村があった。
その村の周囲は木枠で囲われ、木造のしっかりとした家も多数存在した。
元々盗賊の拠点と目された村がある場所は、周りを山に囲まれて孤立していた場所で、それなりに広い土地があることは知られていたのだが、あまりに辺鄙な所にあるので誰も寄りつくことが無く、魔物も相当数いると考えられ、長い間見向きもされず、放置されていた。
いつ住み着いたのか?
獣や魔物の被害はどうしているのか?
色々疑問は尽きないものの最大の問題点は、そこに住む住民の処遇をどうするかだった。
「結論から言うと、俺達はその村の殲滅を選んだ。ありゃまともな人間が住んでる村じゃなかったぜ……」
ハルモニカ王国とその周辺国では奴隷と、それに準ずるように人をあつかう事を厳しく禁止している。
違反したものは、最悪極刑もあり得るのだとか。
その村は、それに反しているどころか、攫ってきた男も女も関係なく滅茶苦茶にしていた。
肉体労働に酷使されていた者はまだましで、犯される者、いたぶられる者、そして……食われる者がいたという。
私はその話を聞いた瞬間激しい嫌悪感と共に、朝食べたものが胃から込み上げてきそうになって、咄嗟に口を両手で抑えた。
「大丈夫?」
隣に座っていたリステルが、私の背中をさすってくれた。
「悪ぃな。もうちょっとぼかすべきだったな」
慌てて出されていた紅茶を飲み、深呼吸する。
「……すみません、話の続きをしてください」
その村の住民は残らず討伐され、攫われてきた人たちで、生きていて、まだ壊れていない数人を救助。
生きているが、もうどうにもならない人も沢山いて、そんな人たちはもう楽になっただろうと、ハストさんは言った。
「でだ。それで任務完了ってなれば良かったんだが、生憎とまだ問題は続いてんだ」
今もなお、拠点となっていた村は存在している。
勿論、もう人は残っておらず、無人の村なのだが。
この村をどうするか?
村として再利用するという手もあるが、討伐された人間がやって来た所業を考えると、誰も住みたがらないだろう。
結局、領主である人物が、自分のあずかり知らぬところで勝手に作られた村であることを不服とし、更に、盗賊が拠点としていた狂気に満ちた村の再利用など言語道断と、村の破壊を奏上。
「で、俺らがそれを命じられたってわけ。村の破壊って言うのは、無人の建物の破壊ってこったな」
重々しい空気を誤魔化すように、軽い口調で話すハストさん。
「村の破壊……解体と言ってくれた方が誤解も無くわかりやすかったのう? それはそうと、お前さん達はそう言う任務は初めてなのかのう?」
「いえ、多くはありませんが、珍しいという程でもない任務でして。ただ、今回は色々と問題が重なってしまいまして……」
ハストさんの隣に座っている人が、サフィーアの質問に答える。
「まず一つは、時間をかけられねーんだ。人間が住みやすい建物っつーのは、獣や魔物にとっても住み心地はいいんだ。で、もうかなり寒いだろ? ほっとくと無人の村ってのは、魔物で溢れちまうんだよ。村には勿論人間の食い物と畑がある。人間の食う物の味を覚えた魔物は、人間の食い物を求めてさらに凶暴になるんだ。んでもって、食い物が少なくなる静青の頃だろ? そうなった魔物は、必死に人間を探して襲うんだ」
「村の解体の任務を与えられた場合、我々二番隊の他に、大工や魔法を使える冒険者を幾人か同行させます。今回は同行人の手配が出来なかったのです。今年は雪がかなり降ると予想されていまして、家の修繕に大工は駆り出されて忙しいらしく、魔法を使える冒険者は、街道警備の方が儲かると、こちらには来ていただけませんでした」
「依頼料を引きあげたりはできないのかしらー?」
「俺達の出せる報酬はそんなに多くねーんだ。一応言っとくが別に安くはしてねーぞ? それでも、街道警備の方が儲かんだよ。魔物の死体も手に入るからな」
「二番隊に、魔法使いっていらっしゃらないんですか?」
話しがさっきとはかなり違う方に進んだせいか、少し気分が楽になってきたので質問をする。
「当然います。ですが、二番隊を寒さから守るのに、魔力をほぼ使用してしまいます。標高が高いせいでかなり寒く、ウォームスキンの仕様が必須なのです。隊長も魔法を使えるのですが土属性だけでして、しかも戦闘以外は苦手なので……」
「本当は壊した建材の撤去もしてーんだが、まー人手が足りんわな。でだ……」
ハストさんは言葉を切ると、私の方を向きじっと見て来た。
「ぶっちゃけると、メノウの嬢ちゃんだけでも借りられればって思ってな」
突然名前を呼ばれ、ビクっと体が強張った。
「……どうして私なんですか?」
「天覧試合の時に、闘技場を覆い尽くした氷の魔法。嬢ちゃんあれ手加減してただろ? あの規模の魔法を手加減して使えんなら、村の破壊ぐらい一瞬で出来ると思ってよ」
ニヤリと笑うハストさん。
言われている事は間違いじゃないし、私が使えると思ったその考えは正しい。
私の場合、破壊した後の撤去も必要なくなるだろうし。
「いやいやいや。瑪瑙が男の人が苦手って知ってるんでしょ? なんで貸してもらえるって思ってんの?」
リステルが不機嫌さを隠さず、低い声で言う。
「……お、おう。だからアンタらみんなに頼んでんだよ。みんないれば嬢ちゃんも安心して手伝えるだろ?」
リステルの雰囲気に気圧されたのか、ハストさんが動揺しながら答える。
「少し良いか?」
それまでずっと腕を組んで黙っていたシルヴァさんが、ハストさんに声をかける。
「何だ?」
「空いている部屋を貸してほしい。そこで少し相談させてくれ」
「別にかまわねーが」
私達はギルドのお姉さんに案内されて別室へ。
「シルヴァどうして? 断ればいいでしょ。何でこんな変な話に手を貸さなきゃいけないの?」
開口一番、リステルがシルヴァさんに食って掛かる。
「確かに断っても良かったんだがな。メリットがないわけでもないんだ」
「メリットって……」
「落ち着いてリステル! どうしたの? さっきからずっと機嫌悪いよ?」
シルヴァさんに詰め寄るリステルの手を掴み、落ち着かせようとする。
「瑪瑙……。ほっほら、瑪瑙も気持ち悪いよね? あんな変な村に行きたくないよね?」
「えっ?! うっうん。流石にちょっと気持ち悪いと思ったけど。もう誰もいないんでしょ?」
リステルは何故か必死に同意を求めてくるので、少し驚いて言葉に詰まってしまった。
「お嬢様、その辺にしておきませんか? 流石に見ていて少し痛々しいですよ」
「うっ……」
コルトさんにそう言われて、しゅんとするリステル。
「瑪瑙のことでムキになる事はよくある事だけど、リステルどうしたの?」
「瑪瑙にあんまり人の狂気に触れて欲しくないの。もちろんルーリとサフィーアにも。私達はもうそれなりに触れてきちゃったからさ。やっぱり気分の良い物じゃないから……」
「でももう討伐は済んで、誰も住んでいないんだよ?」
「んーそういう狂気っていうのは残るんだよ。残滓っていうのかなー。その空気とか雰囲気とか。まあたぶん物もいろいろ残ってるだろうしね」
「……もの?」
「あーいや、うん、何でもない何でもない。聞かなかった事にして?」
「もうリステルはー」
たははと笑うリステルの手を取ってぎゅっと握る。
「いつも心配してくれてありがとう」
「……うん」
握った手に、ルーリとサフィーアの手が重なり、二人も嬉しそうにリステルに笑顔を向ける。
「こほん。いい雰囲気の所悪いんだが、私は引き受けても良いと思っている。私はどちらかと言うとリステル様とは逆だ。少しくらいは狂気に触れておいた方が良いだろう」
「お嬢様は少し過保護すぎますね。気持ちはわからないでもないのですが、もっときついものを目にしてしまった時に狼狽えているようでは、自分の身を守る事すらできません」
「シルヴァとコルトの言いたいことはわかるけどー……」
不服そうにリステルは頬を膨らませている。
「受けてもいい理由がもう一つあるのよー」
「そうなの?」
「ええ。メノウちゃんに魔法の練習をさせたいのよねー、シルヴァちゃん?」
「練習……ですか?」
「そうだ。今更と思うかもしれないが、私達が訓練をつけていた時に考えてた以上に、メノウの魔法は強力だ。練習すると言っても、位級の高い魔法はむやみやたらに放つことは中々できない。気にせず魔法が放てる場所っていうのもそうそうないんだ。ぶっつけ本番で魔法を行使するより、何度か練習できていれば、加減もしやすい」
「と、言うわけでー。こちらから出す条件を飲んでもらえれば手を貸すってことよー」
「こちらから出す条件?」
コルトさん、シルヴァさん、カルハさん以外が首を傾げて聞き返した。
「手を貸してやってもいい」
二番隊がいる応接室に戻りシルヴァさんがそう言うと、おおーっという小さな歓声が上がった。
「ただし、こちらが出す条件を飲んでくれたらだがな」
「お、おうおう! かまわないぜ! なんだって飲んでやるよ!」
ハストさんが嬉しそうにこぶしを握り締めて立ち上がる。
その姿を見た守護騎士さん三人はとっても悪ーい顔をしている。
「地形が変わってもかまわんのならな」
「……へ?」
ハストさんの間抜けな声を合図に、それまで嬉しそうな空気に包まれていた二番隊の皆さんの表情が、凍り付いたものに変わってしまうのであった……。
あれから七日が過ぎ、私達は目的の場所へと馬車に揺られている。
何でもすると言ってしまった手前、ハストさんは慌てて領主に事情を説明。
ハストさんは、
「そんな事、許可貰えるわけねーだろ……」
なんてぼやいていたのに、領主さんはあっさりとと言うか、喜んで許可を出したという。
ついでに、
「もう誰も住めないような地形にしてくれてもかまわん!」
と、かなり過激な事も言っていた模様。
ちなみに口約束ではなく、ちゃんと正式な書状が作られている辺り、領主さんの頭痛の種だったのかなと、私達は苦笑していた。
領主さんの力の入れようは、私達が乗っている馬車にも表れている。
元々馬車を二台、二番隊の人が調達してくれる話だったのだけれど、領主さんが私達のためにと、ティンバロの街の刻印が施された馬車を貸してくれたのだ。
御者をしてくれている二番隊の人が、荒い操縦が出来ないと、口を引きつらせていた。
目的の場所へは、馬車で三日、徒歩で一日という結構な距離があるらしい。
道中に起こる様々なトラブルは、二番隊が全部引き受けてくれると言う事なので、私達はのんびりと馬車にゆられている。
「……やっぱり馬車は馬車でしんどいね……」
「……そうね。お尻痛いし……」
「情けないのう。これでも随分楽な方じゃぞ? この馬車はかなり良い馬車じゃからのう。妾がタルフリーンで使っておった馬車より乗り心地は良い方じゃ」
「この調子じゃ乗合馬車だともっとしんどいかもね」
「うへー、勘弁してほしいなー」
馬車に揺られて三日。
歩くとはまた違う辛さに襲われ、夜を迎えた。
「さて。ここで野営をしたら、朝からは歩きだ。狭い山道を行くから、しっかり休んどけよ?」
ハストさんが明日の予定を話しにやってきた。
本当は私も参加して話を聞いておいた方が良いのだけど、私一人だけかなり早くお夕飯の準備にかかる。
オリーブオイルをたっぷり入れた深めのフライパンに、芽をとってスライスしたニンニクをこれでもかと言う程入れ、火にかける。
ゆっくりとかき混ぜていると油の温度が徐々に上がっていき、入れたニンニクから少しずつ泡が出始め、やがてじゅわじゅわと音を立て始める。
「おー。ニンニクの良いにおい」
「食欲湧くでしょー?」
「んっ!」
ハルルがにおいに釣られてやって来たのか、横に座って私の顔をじっと見つめてくる。
「瑪瑙お姉ちゃん、ご機嫌斜め」
「それは当然! うっふっふっふっふ。ハストさんに目にもの見せてやるんだから……」
少し振り返り、昨日の夜のこと。
いつも通りテントの設営はみんなに任せて、私とカルハさんでお夕飯の準備をしているとハストさんがやって来た。
「へえ、メノウの嬢ちゃん料理も出来んだな? 結構美味そうだな、俺にも食わせてくれよ」
美味しそうと言われて悪い気はしないので、まあ少しくらい別に良いかなと頷いた。
『いただきまーす!』
見張りは二番隊の人がやってくれるので、私達はみんなそろって夕食を食べる。
何故かハストさんも一緒に食べているんだけど……。
今日のお夕飯は、具だくさんのクリームシチューと、青野菜と茸の野菜炒めにいつもの黒パン。
「んー! 美味しいっ!」
「おかわりあるからいっぱい食べてねー」
「はーい!」
「ハストさん、お味はどうですか?」
「お、おう、美味えぞ」
何だか歯切れがわるく、どこか不満げに見えた。
「お口に合いませんでしたか?」
人によって好みはあるし、私の料理が万人に好まれるというわけじゃないだろうから、ハストさんの表情をみて少ししょぼんとしてしまった。
「いや、美味えのは美味えんだぜ? でもな、やっぱ所詮女の料理だなって思ってよ」
「……は?」
ハストさんの予想外の言葉に、私だけじゃなく、全員の食べる手が止まった。
「やっぱこう、豪快に腹にガツンとくる料理じゃないとな! いや、メノウの嬢ちゃんの料理も悪くはねえんだぜ? でもよー、俺らの仕事って体力勝負だろ? あ、シチューもう一杯もらえるか?」
「ありませんよ?」
「いや、そこの鍋にまだ――」
「ありません」
「いや――」
「ありません! 文句があるんなら二番隊の人と食事してきたらいいじゃないですかっ!」
流石に私だって腹が立つよ?!
何よ!
勝手なことばっかり!
寒いから温まれる料理にして、栄養のことまで考えてるのに。
口に合わない、美味しくないって言うならまだしも、所詮女の料理って何?!
あったまきちゃう!!
怒ったのは私だけじゃなく、当然みんなもご立腹。
ザッパー!
ハストさんに大量の水がかけられた。
「ぶへーっ?! 冷てぇ!!」
「おい小僧。黙って聞いておったら好き勝手言いおって。所詮小僧の子供舌では、瑪瑙の料理の味がわからんのじゃろう? 嘆かわしい。小僧に瑪瑙の料理はもったいない」
サフィーアが再び手元に大きな水球を作りつつ、低く威圧感たっぷりにハストさんに言い放つ。
「わ、悪かったって! 別にマズいって言ってるわけじゃねーんだよ! ただもっと力のつくようなのを食って見たくてガボーッ!!」
言い終わる前に、サフィーアの水球が顔面に直撃。
騒ぎに気付いた二番隊の人達に、ハストさんは引きづられていった。
塩まいとけ塩ー!!!
勿体ないからまかないけどっ!!!
副隊長さんに何があったかを聞かれて、言われたことを全部話す。
「……申し訳ない。普段の隊長はそんな失礼なことを言う人ではないはずなんです」
「……えー?」
私達は副隊長さんの説明に、ジト目で返す。
「隊長は、珍しくはしゃいでいるように見えました。何故かはわかりませんが、そのせいでしょう。私の方からきつく注意をしておきますで、どうかご容赦を……」
「はあ……、わかりました」
翌朝、出発する少し前になって、私達の所にハストさんがしょぼんとした顔でやってきた。
「何か御用ですか?」
ぶすーっとした態度を隠さずいう。
「いや、その……。昨日はすまなかった! 素直に褒めるのが無性に恥ずかしくなってな! 酷い事を言った! 許してくれっ!!」
勢いよく頭を下げるハストさん。
「はあ、わかりました。でも、怒ってるのは私だけじゃないんで、みんなに謝ってきてくださいね」
「わかってる。副隊長にもこってりしぼられた」
そう言って他の仲間の所へ行こうとしたハストさんが、くるりと踵を返した。
「嬢ちゃん、良かったらなんだが、今晩また夕食を食わしてもらっても良いか?」
……。
ええ~、なんかやだ。
「できればこうガツンと来るものが食ってみてーんだ」
ははーん。
さてはこの人、反省してないね?
あれはあれで本音だったってことか。
「いいですよ?」
私はニッコリ笑顔で答える。
お口だけニッコリ。
ふっふっふっふっふ。
目にもの見せてやる……。
とまあ、こんなことがあった。
ムカつくでしょ?
フライパンをもう一つ取り出し、そこにきつね色になったニンニクチップを掬い上げ取り出す。
私が作っていたのはガーリックオイル。
ニンニクの香りと旨味がたっぷり詰まった油。
これを使って炒め物をすると、また違ったおいしさの炒め物が出来るのだ。
もう一つフライパンを取り出し――……。
……うっ洗い物が無駄に増える。
これもハストさんのせいだ。
そう言うことにしておこう。
新しいフライパンに、作ったガーリックオイルをたっぷりいれ、そこにバターを大きめのかけらをぽとり。
出来立てのオイルの余熱でバターを溶かしている内に、鳥の半身を取り出して、下ごしらえ。
残っている血合い部分と小さな軟骨部分を綺麗に取り除き、筋切りをする。
全体の厚みを均一にして、フォークで突き刺し穴を適度に開け、塩胡椒をしてローズマリーと一緒にもみ込む。
そうこうしていると、寒さで油の温度が程々に下がる。
皮目を下にして、常温のガーリックオイル&バターでじっくりと焼いていく。
火を調節して弱火から、徐々に温度を上げていく。
皮目がパリッとしたらひっくり返して、反対側も軽く火を通す。
焼いた鶏肉をお皿に取り出し、焼いた後のフライパンに赤ワインビネガー、ハチミツ、すりおろしたにんにくを加えて混ぜ合わせ、特製ソースを作る。
お皿にとっておいたお肉に、作ったソースと、取り分けておいたガーリックチップをたーっぷり、たーーーーーっぷり乗せて……、いや流石に乗せ過ぎ。
お腹緩くなっちゃったり、具合悪くなっても可哀そうだから手加減しよう……。
完成! にんにくたっぷりチキンソテー!
ガツンとパワーが欲しいあなたに!
……はあ、何やってんだろ私。
何だかんだでお夕飯の時間。
「いただきまーっす!」
ハストさんも一緒のお夕飯。
「くはーっうめー!!! これこれ!! 嬢ちゃんやればできんじゃねーか!!! ニンニクの匂いが口いっぱいで爆発したみてーだ!」
「お気に召していただけましたか?」
「あー! 腹にも溜まるし、ガツンと来る!」
貪るようにかぶりつき、夢中で食べるハストさん。
私達はお上品に、フォークとナイフで頂きます。
あ、ちなみになんだけど……。
私達が食べているチキンソテーは、ニンニク控えめです!
です!!
ふんす。
「メノウちゃんに焼き方を教えてもらったけどー、焼き方ひとつでこんなに皮がパリパリでジューシーに焼けるのねー。私びっくりしちゃったわー」
「ニンニクの香りも食欲をそそるね! 鳥って焼くとパサっとするのがちょっとなーって思ったことはあるんだけど、流石は瑪瑙!」
今回は、さっぱりしたオニオンスープと青野菜のサラダといつものパンと言う献立。
みんなが美味しそうに食べてくれるのをみて満足していると、ツンツンと控えめにハルルから突かれた。
「瑪瑙お姉ちゃん。ハルルあっちも食べてみたい……」
「え”っ」
あっちと言うのは、ハストさんように作ったニンニクたっぷりの方。
一応ハストさんのおかわり分として、何枚か焼いておいたのだけど……。
え、食べたいの……?
「あ、私も食べてみたい!」
「私も気になるわー」
私も私もと、みんなが口をそろえて言う。
こうなることは予想してなかったぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!
「と、とりあえず、一口だけ食べてみてください」
ニンニクたっぷりの方を切り分けてみんなに配る。
「うわっすっご……。口の中がニンニクでいっぱいになったみたい」
「おー」
「これはまた豪快じゃのう。これが小僧の言っておった男の料理というのかのう?」
「強烈だな。でも、これはこれで悪くない」
さて、そろそろネタ晴らしをしよう。
これ以上みんな食べちゃわないうちに、残りをハストさんに渡しちゃって……。
「おー! 食っていいのか! 遠慮なく貰うぜっ!!」
何も知らないハストさんを笑顔で見る。
「……あ、瑪瑙が悪い顔してる」
「目が笑ってないわ……」
「瑪瑙お姉ちゃん料理してる時からずっと怖かった」
「ハストさんハストさん!」
「おう? 何だよメノウの嬢ちゃん」
「明日からしばらく近寄らないでくださいね?」
「……は? なんで?」
「それだけニンニク食べたら、しばらくの間ニンニク臭くなるんですよ。口臭も体臭も!」
私は満面の笑みで言う。
今度はお目目もニッコリ素敵な笑顔。
「……おまっ――!!!」
「二日ぐらいかなー?」
信じられないものを見たと言うように、目を見開いて口をパクパクしているハストさん。
「後、それも残さないで食べてくださいね?」
笑顔をスッと消し、真顔で止めを刺す。
ハストさんがしょぼんとして帰っていた後、
「瑪瑙ーっ! 私も臭くなるのー?!」
「ちょっと食べただけだから大丈夫だって! 後、ちゃんと匂い対策も用意してるからっ! ね? 安心して?」
みんなに泣きつかれました。
てへっ!
翌朝!
隊長めっちゃくせー。
うわマジだ!
口開けんなよ隊長!
はっはっはっはホントだくっせー!!!!
「くっそう。ションベンまでニンニクの匂いがするじゃねーか……」
二番隊の皆さんからも、散々な言われようだったとか。




