貴賓室にて
メノウ達が跳ね兎と戯れていたその頃、フルールにある冒険者ギルドにある貴賓室では、現状の報告と、今後の事を話し合うために、討滅依頼に関わっている人物が集まっていた。
冒険者ギルドのギルドマスターであるガレーナと、サブマスターであるセレン。
警備隊隊長のサルファーと部下二名。
フルールの領主であるアルセニックと、その介添人として二人。
ガレーナとセレンは、本当はここにメノウ達も同席して欲しいと思っていたのだが、とある理由により、メノウ達が再び草原へと向かった後に、会議を開くことにした。
「皆様、この度は私共の急なお呼びたてにも関わらず、お忙しい中こうしてお集まりいただき、誠にありがとうございます」
ガレーナとセレンが恭しくお辞儀をする。
「私の街が危機に陥っているんだ。協力を惜しむつもりはない」
アルセニックは微笑んで、二人に着席を促す。
「それで、だ。今日こうして私達が集められた理由を聞かせてもらおうか?」
「畏まりました。それではこちらをご覧ください」
そう言ってセレンに目配せをするガレーナ。
セレンは一つ頷き、とあるものをテーブルにそっと三つ並べ、説明を始める。
「こちらは赤い狼、殺戮狼と、東部で良く発見される魔物、軍隊蜂の女王蜂、そして女王蜂配下の軍隊蜂の魔石でございます」
それぞれに手を向け、どれがどの魔石なのかを話す。
「ふむ。現れる度にフルールの街を襲い、大きな被害を出すと言われている赤い狼の魔物。既に倒されたと報告は受けていた。それにしても、この様に大きな魔石とはな。確か、魔石が大きくなる程魔物は強くなると言われていたな? 風竜の魔石とは比べ物にはならないが、それでも、これはかなりの大きさではないか。赤い狼の魔物も、さぞ強かったのでは?」
アルセニックがまじまじと魔石を見つめ問いかける。
「恐らくは。詳細に話を聞いたわけではありませんが、狼種の魔物の群れが津波のように押し寄せてきたと、メノウさんが話しておりました」
「津波……か。私は津波と言う物を見たことは無いが、話には聞く。街を軽く飲み込んでしまう事もあるそうだ。だとすると、草原を飲み込んだように見えてしまう程の群れだったという事は、想像に難くないな」
「はい。査定として提出された狼種の魔物の数はかなりの量でしたが、それでもほんの極一部だそうです」
「……。冒険者が自分たちの功績を大きく見せるために、大げさに話すという事は珍しくないだろう? 事実は彼女たちしか知らないんだ」
アルセニックとセレンとの会話に、サルファーが割って入る。
サルファーの言葉には、どこか苛立ちを隠せないでいることを、ガレーナとセレンは気づいた。
「確かに、誇張して話す冒険者は多いです。そう言う冒険者のパーティーでしたら、まだ話半分といった感じで聞き流せたのかもしれませんね。ですが、メノウさんは……と言うか、今討滅依頼を受けている十名は、話を大袈裟に話すような性格の人間はいないんですよサルファー。だから私達も危機感を持って、近郊警備の依頼を冒険者ギルドから出したんです」
セレンがはっきりと、誇張かもしれないというサルファーの言葉を否定すると、サルファーは少し眉をしかめ、唇を噛んだ。
「さて、そろそろ本題に入りたいのですが、構いませんでしょうか?」
ガレーナが話を切り出す。
「この度お集まりいただいた理由なのですが、討滅依頼の完遂を認めて頂きたいと思い、こうしてお呼び立てした次第ですわ」
「馬鹿な! 前にも言ったが、超長期をかけて遂行する依頼だぞ! それを、本に度々出てくる魔物を倒したからと言って、完遂が認められるものか! 第一、殺戮狼が一匹とは限らないじゃないか!」
ガレーナがそう言うや否や、座っている椅子を飛ばしそうな勢いで立ち上がり、強い口調で話すサルファー。
「落ち着きなさい。サルファーの言っていることは間違いでは無いと思うが、それを理解していない二人でもないだろう。どうしてその判断をしたのか、聞かせてくれないかな?」
サルファーを手で制止しつつ、あくまで穏やかに話を聞こうとするアルセニック。
「――っ。失礼しました」
そう言って、大人しく席に座り直すサルファー。
「では、お手元の資料をご覧ください」
席に予め置いてあった羊皮紙を手に取るアルセニックとサルファー。
それを確認するとガレーナは、
「そこに書かれていることは、今回のフルールに起きた危機と、非常に関係が深いと思われることです」
そしてガレーナは、先日メノウ達と冒険者ギルドに訪れた白髪の少女が話した、誰も知らないような軍隊蜂の女王蜂と殺戮狼の関係性について説明をした。
「殺戮狼が上位種ではなく、女王蜂よって強制的に変異させられた魔物? そんな能力が女王蜂にはあるのか?!」
サルファーが驚愕の声を上げる。
「話を聞いたときは、私達もサルファーみたいに驚いたわ」
セレンがサルファーを見て、苦笑しつつも答える。
「ふむ。この資料に載っていることは、東部では周知の事なのかな? 残念ながら、私は魔物の事には詳しく無くてね」
アルセニックは資料を見つつ、ガレーナとセレンに問う。
「いえ、東部出身の職員と冒険者にも話を聞いてみましたが、資料のような能力があるとは聞いたこともないそうです」
セレンが答えると、
「ハッ! だったらその白髪の少女とやらが出まかせを言っただけじゃないのか? 子供の戯言を真に受けるとは、何を考えているんだか!」
それを鼻で笑うサルファー。
「まぁ確かに今の話だけを聞けば、子供の戯言を真に受けてると思われても仕方ないわね。でもねサルファー? そんな事もわからない程、私達は馬鹿では無いことぐらい、幼馴染のあなたならわかるでしょう?」
「……確かにそうだが、だとすれば、何か確証があったという事なのか?」
セレンが穏やかな笑みを消し、サルファーを睨みつけると、彼女は少し動揺した態度を見せる。
「まず白髪の少女が、自らが発見したことでは無いと言い切ったこと。嘘を言っているという割には、魔石が歪な形をしていることを、魔石を採り出す以前にはっきりと言っていたこと。そして、女王蜂が殺戮狼につけたという傷があると言うことを指摘し、自ら魔石を採りだして、話した内容の証明をして見せました」
「殺戮狼につけられた傷は私も確認いたしましたので、その少女が嘘を言っている可能性はとても低いですわ」
セレンの発言にガレーナが続く。
「そして、東部でも軍隊蜂の生態については、詳しくわかっていないと言うのが実状だそうですわ。良く出現する赤い体色の魔物についても、恐らく上位種だろうという程度の認識でしかなく、何故魔石が歪な形になっているのかなど、気にも留めていないそうですわ」
ガレーナが説明すると、
「誰か魔物の生態の調査をする者はいないのか? その少女が発見したことでは無いと言うのならば、発見した人間がいるという事だろう? 何故肝心の東部出身の者が知らず、その少女がそのことを知っているのだろうか」
「残念ながら、その少女は何も答えてくれませんでしたわ」
アルセニックの疑問に、肩を落として話すガレーナ。
「それとは関係ありませんが、フルールに殺戮狼が現れた時の文献を精査して、興味深い事がわかりました」
「興味深い事?」
「はい。私共は文献を見る際に、殺戮狼が現れた直後、殺戮狼がどういった行動を今まで取って来たかという事にしか注目をしていませんでした。殺戮狼の姿や、街を襲ったことばかりに気を取られていたのですが、出現した日から遡って文献を見直してみると、そう離れていない日数の内に、蜂型の魔物の発見報告が入っていたことがわかったんです。これを発見した時は、正直驚きました」
「成程。東部での赤い魔物の出現例と今回のフルールでの殺戮狼の出現。そして、過去にもあった蜂型の魔物の発見報告。どれも偶然にしては出来過ぎているな」
アルセニックが納得したような態度を取ると、
「だっだが! 仮にそれが事実だったとして、軍隊蜂も殺戮狼もまた出現する可能性は残っているはずだ!! 現に東部では、赤い体色の魔物は、複数同時に出現しているんだろうっ?」
サルファーは焦ったように食い下がる。
「それは否定できません。ただ、軍隊蜂を探すにしても、今討滅依頼を受けている十名では、流石に手が足りません。討滅依頼を発令してから、草原に出られる冒険者は限られています。そこで、討滅依頼の完了と共に、軍隊蜂の巣を探す依頼を、常設依頼として出したいと思っています。もちろん発見できない可能性がある旨も掲示しておきます」
「そうすることで、フルール周辺にあるかもしれない軍隊蜂の巣を一気に探そうという事だね?」
「はい。それも重要なのですが、もう一つ、懸念事項がありまして……」
セレンは少しばつが悪そうに話す。
「ん? 何だね?」
「近郊警備に出ている冒険者から不満が出始めているのです。魔物が一切襲撃に来なくなって、暇を持て余すようになり、魔物を倒した報酬も、魔物と戦う事が無いので得られない。こちらとしては、それ相応の報酬は出しているのですが、何分冒険者は血の気が多い人が沢山います。既に何組かのパーティーが、持ち場を離れて、勝手に魔物の捜索を行って、罰則を科すことになりました」
「その話は警備隊でも少し問題になっていたな。機嫌の悪い冒険者に注意をしても、諍いの種にしかならないからな……」
「どの道現状維持を続けるには限界があるという事か」
「そう言う事になります」
「……ふむ、わかった。討滅依頼の完了要請を受けよう。東の草原が開放されれば、街中で燻っている冒険者たちも一斉に動き始めるだろう。そう考えると良い事の方が多い。了解してくれるな? サルファー」
「――っ、はい、わかりました……」
俯いて返事をするサルファー。
傍から見ても見ても、あまり納得がいっていないのは一目瞭然だった。
こうして、一人納得をしていないサルファーを残して、話し合いは終了したのであった。
貴賓室から退室しようとしたサルファーを、ガレーナとセレンが呼び止める。
「サルファー、久しぶりに三人だけで話をしませんか?」
「美味しいお茶とお茶菓子を用意するから、ね?」
「……ああ、わかった。二人は戻っていいぞ」
そう言って、連れて来た部下二人を先に帰らせる。
そのまま貴賓室で、お茶をする三人。
「こうして三人だけで話をすると言うのは、久しぶりですわね」
ガレーナが言うと、
「そうだな。お互い報告だのなんだのと、割と頻繁に顔は合わせていたんだがな」
そう言ってお茶を飲むサルファー。
先ほどの会議で見せていた苛立ちは消え失せ、落ち込んだようにため息をつく。
「サルファー。あの四人に嫉妬してるんでしょ?」
唐突にセレンが話を切り出す。
「……やっぱり二人にはバレてたか」
「当たり前ですわ。伊達に幼馴染をやっているわけではありませんのよ?」
「初めて会った時から凄い四人だと思っていたんだ。ただ、その程度だったんだよ。風竜なんて、私がどれだけ本気を出したとしても、倒せるような相手じゃない。あの時も、良くやってくれたという思いしか湧いてこなかった」
少し遠い目をして、自嘲気味に笑うサルファー。
「では、どうしてそこまで嫉妬心を剝き出しにするほどになってしまったのです?」
「二人は、あの四人が首都の叙勲式に行って、何をして帰って来たか、知っているか?」
「えっと、確か天覧試合が行われて、そこでリステルさん達が圧勝したという話しは耳にしましたわね」
「相手が三番隊のトップ四人って話は?」
「え?! それホントだったの?! 何かの間違いだと思ってた……」
「どうも事実らしいぞ。私も話を聞いたときは信じられなかったさ」
「誰から話を聞きましたの?」
「ああ、首都に帰省していた部下がいてな。闘技場で直に見たそうだ」
「元々有名だったハルルさんと、守護騎士の弟子ともいえるリステルさんは別として、メノウさんもルーリさんも圧勝する程の力量を持ってたなんて……」
「その四人の中で、一番度肝を抜かれたってのは誰だと思う?」
「順当に考えればリステルさんか、ハルルさんよね?」
「私もそう思いますわ」
「氷の魔法使いのメノウだと言っていた。何でも闘技場の床一面を凍り付かせて、頭上には幾千もの氷の槍を浮かべたそうだ。それを見た三番隊隊長が、降参したんだと」
「そう。メノウさん……ね。確かに、風竜をほぼ単騎で倒したという程の実力を考えると、圧勝もうなずけるのかしら?」
「それを聞いてあなたはメノウさん達に嫉妬しているのかしら?」
「ああ、そうだな。それだけでも十分嫉妬したくなるもんさ。私の憧れだったんだ。三番隊に入隊することが。その三番隊を負かしたことだけでも、羨ましいと思うと同時に、何故自分ではないのかと、自問する日々が続いたよ」
言葉だけを聞いていると、力なく感じるが、その表情を見ると、奥歯を食いしばり、手を思い切り握り込んでいる。
「それだけって、他にもありますの?」
「あるぞ。正直これが一番訳が分からん」
「訳が分からんって、一体何があったの?」
「これはタルフリーンのリンネが、わざわざ手紙で教えてくれたんだ。丁度首都を出てタルフリーンに着いたときに、事件は起こっていたらしいんだ。宝石族を含む少女の誘拐事件がな」
「穏やかではありませんわね……」
「中々手掛かりが見つからないと、困っていた時に、偶然誘拐現場に現れたのが――」
「リステルさん達なのですね?」
「そう言う事だ。誘拐されかかっていた宝石族や少女は保護され、誘拐犯は無事に確保されたらしい」
「運がいいのか悪いのか、判断に困るわね……」
「だがそれだけで終わらなかったんだそうだ。その時既に十名近い少女が誘拐されていたそうなんだが、疾風の如く、それも解決してしまったんだとさ……」
「どういうことですの?」
「何故かはリンネもわからんらしいが、誘拐された少女の監禁場所をすぐに特定して、強襲。あっという間に、誘拐された少女達を助け出して、タルフリーンに舞い戻って来たそうだ」
「あはは……。リステルさん達そんな事件も解決してたんだ……」
「問題はそこじゃないんだよ。いや、確かにそれだけでも大したものなんだがな」
「それ以上に凄い事ってありますの?」
「あるぞ。死人が出ていない事だ」
「味方に死人が出ていないのはいい事なんじゃ?」
「誘拐犯一味にも、死人が出ていない。怪我人はいたらしいが、どれも軽傷だったらしい」
「「え……?!」」
「驚くだろう? この場合、誘拐犯は全員殺されていてもおかしくないのは、二人ともわかるだろう? っと言うか、証人である少女達がいるんだ。拘束するなんて言うリスキーなことをするより、全員を殺してしまったほうが、手っ取り早かっただろうに。罪に問われることも無いんだ」
「理由は何故かわかりませんの?」
「リンネもそこまでは詮索しなかったそうだ。慌てて言われたところに駆けつけたら、土で出来た牢獄が二つ。そこに二十人近くが放り込まれていたそうだ」
「それだけ実力に差があったのか、殺すことをあえて避けたのか……」
「どうだろうな? こればっかりは聞いてみるしかないな」
「それであなたは、嫉妬を募らせたと?」
「……何でそこにいたのが私じゃないのか。いや、いたとしても私だと解決できなかっただろうって言う、両方の感情が湧いてきたんだ。……覚えているか? 風竜を討伐した時に、メノウを襲った冒険者がいたと言う話しを」
「忘れるわけが無いわ。あれは私のミスだもの……」
「そいつの気持ちが少しわかる気がしてな」
「それ、本気で言っていますの? 流石に怒りますわよ?」
「怒りたければ怒ればいいさ。こればっかりは私にも制御が出来ん。ついでに言えば、治安の維持も、私達だけでは手が回らなくなり、冒険者に手を借りることになってしまった。あまつさえ、近郊の警備、特に東門近郊は、冒険者も加わっての合同警備だ。フルールを私達警備隊が守っていたというプライドはズタズタだ……。極めつけには、彼女たちは、あっさりとフルールを襲う元凶と思しき魔物を討伐したという……」
「何故私じゃないんだ! 何故彼女たちなんだ! ひょっこりと現れた少女達が、瞬く間に私では到底成しえない程の栄光を掴んでいく……。それが羨ましくて、悔しくてたまらないんだ……」
「それで、彼女たちにきつく当たっていたのね?」
「……情けないとは思っているんだが、どうしてもな……」
自嘲気味に笑う彼女の目には、薄っすらと涙が浮かんでいた。
「……サルファー」
幼馴染のそんな姿に、言葉を失う二人。
「それにしても、メノウを襲った冒険者の狂いようを見て、私もああはなるまいと、思っていたんだがな。私のやっている事は、そいつと大して変わらんな」
「何を言っていますの? 確かに意固地にはなっていたとは思いますが、理屈として間違ったことを言っていたわけではありませんわ。ましてや、あのパーティーの誰かを手にかけたわけではないのですから、一緒な訳が無いですわ」
「ふんっ。慰めの言葉はいらんよ……」
ガレーナの励ましを鼻で笑い飛ばすサルファー。
「事実を言ったまでですわ。しっかりなさいな、警備隊隊長殿」
「あなたがしっかりしていないと、フルールの治安とか諸々をどうするのよ。冒険者は依頼があるから、その依頼を果たしているだけよ。そこにフルールに対する感情なんて微塵も無いわ。まあ中にはフルールの事を好いてくれている冒険者も中にはいるでしょうけど。それもはたして何人いるんだか……。だからこそ、フルールの為を思って日夜頑張っているあなた達が必要なのよ」
ガレーナとセレンの言葉を聞き、大きなため息を一つつくサルファー。
「は~ぁ。ガレーナ、セレン、ありがとう。少し気持ちの整理もついた。ようやっと、現状を受け入れられそうだ」
先ほどまでの悔しそうな表情は抜け落ち、憑き物が落ちたような笑顔を見せるサルファー。
「ここの所大忙しだったから仕方ないかもしれないけど、これからはもっと時間を見つけて話しましょう? 愚痴ならいくらでも聞いてあげるわよ」
「二人も大概忙しいだろうに。だが、そうだな。時間を作って会いに来るとするよ」
「ええ。いつでも、あなたなら歓迎いたしますわ」
「お茶菓子も沢山用意しておくわ」
「それはいいな!」
そう言って笑い合う三人であった。
「ところで、メノウって何者なんだろうな? 津波を見たことがあると言っていた事を考えると、ハルモニカ王国の人間ではない可能性を思いついたんだが……」
「残念ながらメノウさんについては、私達にもさっぱりわからないわ。ただ、確か魔法にタイダルウェイヴという津波を発生させる魔法があったはずだから、それを見て津波を見たことがあると言ったのかもしれないんだけど。ただ、私もメノウさんは国外の人間だと言う意見には賛成かしら?」
「その魔法って、位級はどれくらいなんだ?」
「えっと水属性のかなり上の位級なのは知ってるんだけど、詳しいことは私もわからないわ。そもそも見たことがないもの」
「まあ何にせよです。話した印象としては、メノウさんは善良な人間であることは間違いないのです」
「ただ、リステルさんとルーリさんは何か知っているっぽいのよね。知られたくない事なのか、それはわからないんだけど。まあ様子を見るに、後ろ暗い事では無さそうなんだけど」
「セレンがそう言うのなら間違いは無いんだろう。昔から人を見る目は確かだったからな」
「私も自信はあったんだけど、大規模調査の時に失敗しちゃったから、ちょっと自信を無くしそうだったのよね……」
「あれはあなたの失敗ではないでしょう。あの時期にいた冒険者で、それなりの実力者だったのですから。依頼を受理した職員も、まさかあんな事になるなんて思ってもいなかったでしょう」
「全員私が選んでいれば、メノウさんは辛い思いをすることは無かったはずよ」
「いや、それはそれで冒険者から不満が出ただろう?」
「それはそうなんだけど……」
「反省はしたんだろう? 次が無いように頑張ればいいじゃないか」
「……さっきまで嫉妬に燃えていた人間の言葉とは思えませんわね?」
「茶化すな茶化すな。折角真面目に話をしたのにさ! それに、二人と話せたおかげで、気分は晴れたさ」
「見たいですわね。表情が柔らかくなりましたわ」
「そんな硬い表情をしてたか?」
「アルセニック様に食って掛かるんじゃないかって、内心ヒヤヒヤしたわよ」
「流石にそんな事はしないぞ……」
「いえ、しっかり楯突こうとしていましたわよ」
「……うわー。何やってんだ私は!」
「アルセニック様はお優しいお方ですから、あの程度であれば問題にはされないでしょう。……次は知りませんが?」
「怖い事言うなよ……」
それからしばらくの間、和やかに世間話をして、サルファーは冒険者ギルドを去って行った。




